Interview by Shizuo Ishii
MUTE BEAT『DUB WISE』がデジタル・リマスター盤となってアナログのみで再発となる。いよいよDMX宮崎インタヴュー最終回。
石井:あらためてこの『DUB WISE』を聴いて、宮崎がやった3曲はやっぱりいいな。
宮崎:でも、あの当時と今やってることは何にもずっと変わんないね。
石井:その話を聞きたい。
宮崎:DUBをやろうが、ロックやろうが、ポップスをやろうが、結局MUTE BEATをやってた頃に音作りのベーシックは完全に出来上がってた。経験を重ねてより細かいところに目がいくようになったとか、周りが見えるようになったとか、そういうのはあるけれど基本的な考え方は何一つ変わってない。何かがあったからここで音づくりが変わったとかもない。だからそれがいいのか悪いのか。
40歳くらいで離婚して、どん底まで一回落ちて戻るまで4年ぐらいかかったかな。そこで、またこの音楽をやるか、違う世界でやるのかって考えたら結局これしかできないんだなってあらためて思った。才能があるかないかは別として、俺は音楽をやるしか脳がなかった。
離婚したのと同じ時期に、着メロがどうとか、歌なんか適当に歌ってもMelodyneでボーカルを全部修正できますとかいう状況があったのね。もうレコーディングに対して夢も希望もないなと思ってたら、PAの話がまたくるようになって、やってるうちにPAをもう一回きちんとやり直そうと思った。PAにしか、ライブにしかリアルはない。そこにしか興奮できなかったのね。朝現場に入って仕込んでリハやって本番で結果を出して夜に終わる。これが自分の中でものすごくフィットしたのね。
そうやってまたミックスをしているけど、結局は20代の頃にやっていた延長だから、俺にはこれしかできないんだなって気づいてそこで踏ん切りがついた。
石井:同じことしかできないとは、どういうこと?
宮崎:それは音の積み上げ方みたいな。家を建てるときには土台を造ってその上に家を建てる。この土台が駄目だと上にいくら豪勢な家を建てても耐えられなくて傾いちゃうっていう考え方。ピラミッドって四角の土台が末広がりになってるけど、俺は音のつくり方があれと同じなんだよね。若い頃はそんなことは考えずにやってたけど、ずっと同じことをやってると気が付くんだ、土台だって。ドラムとベースでしっかり土台をつくっていけば、その上にどんな家を積み上げても壊れないぞみたいな、上にいけばいくほどちっちゃい音でも成立するっていうのが自分の中で出来上がって、それが多分20代の頃からそうなのね。
そのルーツがダンスミュージックにある。高校時代にずっとディスコに通ってて、いわゆるダンスミュージックにずっと触れてきて、レゲエに出会ってジャマイカのサウンドシステムにも触れて、ビートのロー感、ベースのロー感みたいなことが俺の中でその時代に決まったの。どんな音楽だろうとここは大事だと。それが今もずっと続いてて自分で培ってきた自分の感性だから、それはずっと変わらないんだよね。
石井:なるほど。あと、エンジニアを目指す若い人に、エンジニアとしての宮崎の考える重要なことが言えるとしたら。
宮崎:重要なことはまずエンジニアという立場で、ミュージシャンなり演者さんがやりたいことをどうやったら形にできるかっていうことだけを考える。
俺がPAの現場でよく言ってるのは「俺たちは介護の仕事なんだ」って。特にライブPAってステージの中で音が聞こえないとか、何かノリが悪いなってあるじゃない?それで困っている人の所に行って、「困ってることありませんか」って聞いて、それを解決するのが俺たちの仕事。
若い頃には自分のエゴでミックスをするぞっていう時期があってもいいと思う。俺ももちろんそうだったから自分のエゴでやっていたけど、あるときどこかで気が付く。自分のエゴとか、そんなもんどうでもいいと。自分がやる限りは自分の音になるんだから、エゴを出す必要もないし、普通にやりながら周りのことをよく見てより良い環境をつくっていけば演奏のポテンシャルが上がって、いいパフォーマンスができる、お客さんが喜ぶ、その上で音も良いとなれば無敵だって思うようになった。
だから、若い頃はエゴ丸出しでもいいけど、そのうちゆっくり分かってくるし、失敗もいっぱいして人に怒られたり、人を傷付けたりとかしていく中で分かることがたくさんあるから、自分で考えて進んでいけばそのうちに周りも見えてくるから、まず最初はやりたいようにやれだよね。それで良い悪いの結果が絶対に出て、怒られて転んで膝から血を出して、どうすりゃいいんだって考えながらやっていくしかないっていうか、成功の方程式はどこにもない。
あとは人と人とのコミュニケーション。世の中、自分以外の人と関わり合いながらやらないと何もできないことにあらためて気が付く。人とうまくコミュニケーションをとるためには、やっぱり相手の気持ちが分かるとか、これを言うと相手が不快に思うかな?とか士気が下がっちゃうな?それならどういうふうに言えば伝わるかってことを考える。昔はトラブルがあれば思ったことを口に出してばんばん言って「てめえ」ってやってたけど、それを言ったところでこの問題は解決しないなってときには絶対に怒らないこと。ひでえやつだっていう時期がもちろんあったけど、それじゃあ伝わらないし周りが気分悪くなるだけ。
逆に、「あの時あんなことがあったのに怒らなかったね、この人」みたいなことで、なんとか解決に導いていくみたいなことがすごく大事。
若い子に一つだけ言いたいのは、自分が一生懸命やってるのを誰も見てないと思うかもしれないけど、実は周りの大人は見てる。この人がどういうアクションを起こしたかとか、言葉の交わし方とか全部見ているから、周りの人を侮っちゃいけないよっていうのを若者には言っとく。俺がそこに気づいていたら、もうちょっと早く色んなことができたかもしれない。
石井:それでは最後に、宮崎がミックスすることで一番大事にしてることって何?
宮崎:何だろうな。さっきも言ったけど演者さんなり演奏者なり歌手なりが発する音が、例えば丸だったとする。この丸を丸のまま大きくする。いびつな形で大きくするのではなくて、いつも丸のまま伝えていくっていうのが俺のテーマかな。それはレコーディングでもライブでもそうだけど、こねくり回してあれこれやるよりも、出てる素材のままでその旨味を引き出してるつもり。素材もおいしいけど、この塩一振りですごいねみたいな感じを届けるっていうのは昔から変わんないかも。
レコーディングの時はまたちょっと違って、疑似的にそういうふうに聞こえるように工夫するのがレコーディングだから。オーバーEQをしてるんだけど丸に聞こえるような錯覚をつくるみたいなことがレコーディングのやり方だから。いい年になってそういうエゴがなくなったっていうのは強いかな?昔の自分はものすごいエゴの中でやってきたから。
石井:そうなんだ?あはは、今日は忙しいところありがとう!