Interview by CHAQURA、通訳:八幡光司 Photo by “EC”
2012年12月にRiddimOnlineに掲載された記事です。
8月、9月、10月はジャマイカとイギリスの素晴らしいレゲエ・シンガーの来日ラッシュだった。若手のクリストファー・マーティン、ビティ・マクリーン、ベテランのリロイ・シブルスとフレディー・マクレガー、そしてロメイン・ヴァーゴ。その中でも若いロメインのレゲエ・シンガーとしてのスタンスにはレゲエ界の将来を期待させるものがあった。Mighty CrownのSami-Tが、「Ragga China」プレゼンツとして横浜ベイホールで開催したコンサートの翌週、ロメインの待つ横浜のMighty CrownオフィスをシンガーChaquraが訪れた。
CHAQURA (以下、C):僕は初めてミニアルバムを6月に出したシンガーなので色々と聞きたいんですが、ロメインさんは2枚目のアルバムですね。前作のファースト・アルバム『ROMAIN VIRGO』から今回の『THE SYSTEM』に至るまでに、色んなことがあったと思うんですが、その中でも特に自分を変えたような出来事があったら是非聞きたいのですが?
ROMAIN VIRGO(以下 R):最初のアルバムは自分にとってはそれまでに録りためたシングル曲のコンピレーションに近くて、アレを出してからの2年間で一番大きく変わったのはアルバムを作るという考え方だね。だから気持ちの部分でも視野を広げて色んな物事を見るようになって、その中で自分なりに色々違うトピックスで曲を作るようになった。視野が広がったということと、音楽に対する取り組み方というのが、より真剣になってきたというのがある。見たり感じたことを曲に表していく上で、前よりも選んでいるトピックスの幅を広げたことだと思う。そうして作った曲を『THE SYSTEM』という一つのアルバムにまとめたんだ。前作はアルバムというよりは、それまでの曲をまとめたコンピにすぎないから、今回の方がアルバムを作っているという実感があったよ。でも前作があったからこそ、今度は逆に作り方をそういう風にできるようになったというのが、一番違う点だと思う。
C:アルバムを聴かせて頂いて、メロディだったり歌唱法が独特でオリジナルだと感じたのですが、歌うきっかけとなったアーティストや、ずっと好きなアーティストがいたら教えてもらえますか?
R:べレス・ハモンド、デニス・ブラウン、アルトン・エリス、ボブ・マーリー、ルシアーノ、サンチェス、ブジュ・バントン、シズラなどそういった人達を聴いてきたよ。もちろんパーシー・スレッジ、オーティス・レディング、マーヴィン・ゲイのような古いソウルも聴いて育っているし、自分はその人達に影響されたのは間違いないけれど、それに追随したというのではなく、よく聴いていたのがそれというだけだよ。それよりも大切にしているのはオリジナリティで、自分の見たこと、感じたことを自分の音楽にいかに入れるかということが大事で、自分の音楽を作る時は、自分の個性を大事にしている。だからオリジナリティがあるというのなら、自分の個性が音楽に出ているからだと思う。
EC(以下E):「THE SYSTEM」のPVの中に、遺影みたいな写真が出てくるんだけど、アントニー・ブラウン?って書いてある写真がでてきてたけど、あれは何か意味があるのかな?何かそう言う事件があったとか?
R:えーっと、どれのことだろう?ああ、あれはジャマイカで周りの人に言われた通りに演じただけのPVだから、リアルな物ではないんだ(笑)。アントニー・ブラウンもいないんだよ(笑)アントニー・ブラウンっていうのは、ジャマイカではよくある名前で、それ以外に特に意味はないと思う。
E:名前まで出ていたから何か意味があるのかと思って、それにインスパイアされたりしたのかなと思ったりしたんだけど(笑)。
R:あれは言われた通り演じただけなんだ(笑)あの写真の男性も本当の名前はアントニー・ブラウンじゃないと思う(笑)
E:じゃあ、それはそれでなかったことに(笑)
C:ステージ上で、お客さんを相手に歌っている時に、何か心がけていることってありますか?
R:ジャマイカだろうと、どこであろうといつも自分が心がけているのは、客席には誰もいないと思うこと。とりあえずお客さんは誰も自分の曲を知らないと思うようにしてるんだ。誰もいないと思うと同時に、そこにいるお客さんみんなが自分の曲を初めて聞く曲んだというつもりで、お客さんに気持ちを伝えるために、最大限気持ちを込めて歌う。そしてお客さんからいい反応が返ってくれば、それに対してもっともっと気持ちを込めていくんだ。一つ一つのショウで、自分にはそれしかできないと思うようにしている。
八幡:ステージに出るのがこわいことはない?
R:どんなアーティストでも緊張はすると思う。ただ緊張してしまうと、ベストなステージができないから、緊張しないように自分に言い聞かせてるんだ。お客さんが一人しかいない時も、大勢のお客さんがいる時も、結果的にやれることは決まっているから、そこでの最善を尽くすんだ。当然、今みたいに知られていない無名の頃は、殆どお客さんがいない所でもやるわけだし、知ってもらう為にカヴァー・ソングなんかもやっていたし。注目を集めるためにね。『ライジング・スター』(ジャマイカで人気のテレビ番組、ジャマイカ版『アメリカン・ アイドル』)に出るようになってからは、人に知られるようになって、見に来てくれる人がどんどん増えたんだけど、有名になってもやっていることは一緒のことで、緊張感を「やるぞ!」っていう気持ちに変えていくことによって、緊張を乗り越えていくんだ。恐れっていうのは、どんなアーティストでも、どんな大物でもきっとあると思うんだけど、それに負けないよう、その緊張を逆にいい方向に活用するようにしていくんだ。
C:カヴァー・ソングをやっていた話がでたので、聞きたいのですが、今回はアデルのカヴァーをしているけど、まるでロメイン・ヴァーゴの曲になっていたと思いました。これから先、予定としてはカヴァーも出そうと思ってますか?
R:まだカヴァーについては未定なんだけど、世の中にはものすごくたくさんの素晴らしい曲があると思う。ただ、そのジャンルだけしか聴いていない人は、他のジャンルにもすごくいい曲があることを知らないことが多いから、もっと他にもいい曲があるんだよってことを知らせるために、カヴァーにトライしようとは思ってる。といっても、自分はカヴァー曲ばかりやるアーティストにはなりたくないし、オリジナルの曲をやっていきたいから、ちょっとやるのはいいんだけど、カヴァーに対しての固執はないんだ。でも、今回のアデルの曲もそうだけど、カヴァーをする時は、あまり有名な曲はやらないように気を付けているんだ。それはあまりにも原曲のイメージが強すぎて、それを超えることができないかもしれないし、その曲の人気にあやかっていると思われるのも癪だからね。あまりヒットしていなくて、みんなが知らない曲でもいい曲というのはたくさんあるから、そういう曲をやることによって、その曲の良さを知らせることもできるし、それがカヴァーだったとは思わなかったっていう人もいるくらいで、そういうのを狙っているんだ。まだみんなが知らなくて、その曲を伝えたい、自分も歌いたいって思える、そんないい曲があればやるけど、そんなにカヴァーに対する執着はないよ。
C:これは個人的な質問なんですけど、声をキープするためにやっていることってありますか?
R:僕はまだ大学生なんだけど、大学の中で音楽を学んでいて、2年間そこに通っていて、その中でボーカル・レッスンだったり、そういうことを基本的に学んで、それを今も活用しているんだ。大学ではもっと学ぶこともたくさんあるし、本当は卒業したいんだけど、こういうふうに仕事が入ったり、ツアーがたくさんあったりして、あまり大学には通えてないんだけど…。大学で学んだこと以外では、自分でも、まだまだできてないと思うんだけど、やっぱり体力づくりが歌う上では一番大事だと思う。あとは休むこと、そしてきちんと食事を取ること。なんだか親みたいなことを言っているけど(笑)、僕はそれが一番大事だと思うよ。それと、こうやってショーなんかが続くと厳しいけど、ショーの合間なんかは喋らないようにしてやっているんだ。なるべく喉を休めるように意識をして心がけているよ。ジャマイカ人には難しいけどね(笑)。
E:ところで、ペントハウスのドノバン・ジャーメインがマネージメントということなので、聞きたいんだけど、すごい昔で、ちょうど20年くらい前なんだけど、ブジュがデヴューしてヒット曲が出始めて、最初の大きいステージの時を思い出したんだ。ブジュが出る「ボーダー・クラッシュ」っていう大きいダンスでコニー・パークでやったんだ。そのステージの前の夜にジャーメインの部屋に集まってみんなでミーティングしてたんだよね。たまたま俺もそこにいて、ウェイン・ワンダー、ブジュ、ジャーメインが部屋にいて、ブジュに明日のショーのことを結構ジャーメインが色々と細かく教えていて、それであのブジュもウェイン・ワンダーも立ったまま、メチャクチャ緊張しながら黙って聞いてたんだ。実はこのロメインのインタビューの受け答えも完璧だから、誰かに教わっているのか、それとも自分で考えているのか、学んだのか、どうなのかな?
R:ブジュとウェイン・ワンダーもそうだし、アサシンもそうだけど、自分も含めペントハウスを通過したアーティストは、ドノヴァン・ジャーメインの教えを受けているんだ。『ライジング・スター』っていうコンテスト番組というのは、まあアメリカン・アイドルなんかもそうだけど、誰かのカヴァー曲を歌っての勝ち抜き合戦で、ドノヴァン・ジャーメインが自分にとっての初めてのビッグ・プロデューサーだったんだ。初めてペントハウスに行った時に、ドノヴァン・ジャーメインが『ライジング・スター』のことはもう忘れて、カヴァー・ソングじゃなくて、おまえはオリジナルの曲を作らなきゃダメだからということを言われたんだ。『ライジング・スター』はもう関係ないからって。そこで音楽に対する向き合い方も教えられたし、ショウのやり方も教えられた。こういうインタビューのやり方とかもね。それと同時に音楽に向き合う姿勢というのは、彼に教えてもらったんだ。ハイプな方ではなくて、音楽そのものをやりなさいっていう、基本のところを教えてもらったから、それがすごく大きいと思う。今一緒にいるオマー・ブラウンとか、バイキングスのクルーも、僕の育ったセント・アンのほうでやっているサウンド・システムが母体で、その頃からずっとつながっているんだけど、彼らからもジャーメインと似たような感覚でやっていて、彼らのアドバイスも受けている。自分一人でというよりは、常に上の人や横の人との話し合いの中で教えられてきているんだ。全てが自分一人でできるものではないんだよ。
C:最後に聞きたいのですが、アルバムのリード曲「THE SYSTEM」という曲を聴いた時、全然違う環境にいる自分にも歌詞が当てはまる所がありました。曲を作る上で、大切にしていることってありますか?
R:音楽には二つのタイプがあって、一つは旬な音楽、もうひとつは長く聴き続けられる音楽。「THE SYSTEM」もそうだけれど、後者の方の音楽を作ることを心掛けているよ。僕も若いけれど、アドバイスを求められた時にいつも言ってることがあって、自分が歌うトピックスを広げるときに、自分の周りや地域だけのことではなくて、君が言ってくれたように場所が違っても共感できる内容を掘り下げて歌うことで、その曲は色んな地域に届くし色々な所で長く聴いてもらえると思う。人間の生活で起こることというのは、普遍的なことが多くて、そういったことを捉えることで、それはいつの時代でも結局当てはまるし、どこの場所に行っても当てはまるから、あまり視野を狭くしないで、短命で終わる曲を歌うのではなくて、息の長い曲をしっかり考えて作ることが一番大切なんじゃないかと思う。
C:深いです!僕の『Good Things』の中でも自分なりのシリアスなリリックを歌っているんですが、自分が次の作品を作る時にも、またシリアスな曲を入れて行きたいと思っています。その曲でほんの少しでもこの世の中に何かを訴えられることとか、貢献できたらなと思っています。同じように考えているシンガーが、日本にはたくさんいるので、そういうシンガー達に向けてアドバイスをもらえますか?
R:僕が育ったセント・アンという街は、田舎街でかなり貧しいコミュニティだったんだ。そこにはバイキングスとブラック・スパイダーっていう二つのサウンド・システムがあって、僕の周りにいつも音楽があったことが、貧しい中で自分の支えになっていたんだ。金曜と土曜と日曜はその二つのサウンドがプレイするのを聴いて育った。今の自分があるのは、そのサウンド・システムから流れている音楽によって、助けられたからだし、希望を持つことができたからだと思う。だから今自分が歌っている曲が、どこかのサウンド・システムでかかることによって、僕自身が誰かに希望を与えられるような存在になれるんだったら嬉しいし、僕はそうなりたいという希望を持っているよ。
「THE SYSTEM」Romain Vergo
http://www.youtube.com/watch?v=xzrofTyjVIU