Text & Photo by Shizuo “EC” Ishii
2017年9月にRiddimOnlineに掲載されたインタビューです。
KODAMA And THE DUB STATION BANDとMatt Soundsはドラムの森俊也とギターの秋廣真一郎が共通する、いわば兄弟バンドのようなものだが、それぞれの佇まいは大いに異なる。それはレゲエと言う音楽の幅広さ、奥深さでもある。「Gladdy Unlimited」で共演するこの2つのバンドから森俊也、キーボードのHAKASE、そしてトランペットのこだま和文の3人に話を聞いた。オモシロい!
●皆さん、たぶん最初は違う音楽から入って今はジャマイカン・ミュージックが中心になっているんだと思いますが、レゲエじゃない最初の音楽は何が印象に残っているんですか。まずは、HAKASEから。
HAKASE(以下、H):僕は高校生の頃がちょうど80年代の前半くらいで、最初はやっぱりビートルズですね。ありきたりですけどストーンズとかそういうものを聴いて、当時ボブ・マーリー後の第二次レゲエ・ブームがあって、シュガー・マイノットとかサード・ワールドとかの時代に、FMで結構レゲエのオンエアがあったんですよ。「サウンド・マーケット」っていう番組でレゲエ・サンスプラッシュの実況放送とか色々と聴いたり、今じゃそんなの有り得ないですけどね。あとは、オーバーヒートが出してたレゲエ・アルバムの日本盤とかね。バニー・ウェイラーとか、その中にはグラディさんの『Caribbean Sunset』も入ってくるんですけど。
●森さんは、どうですか。初めはやはりレゲエじゃないですよね。
森(以下、M):僕もやっぱビートルズかな。僕は5歳くらいの時が多分「Let It Be」だと思うんですけど、それがFMか何かで聴いて凄い刷り込みですね。その後しばらくは普通に歌謡曲が好きで西城秀樹とか好きだったんです。小学生の頃にTVの「ぎんざNOW!」っていう番組で、毎週木曜に洋楽トップ10みたいなのをやっていて、それを見て洋楽を聴く様になりましたね。今考えるとレゲエにハマったのはやっぱりポストパンク後の人達のレゲエの影響が凄くてそこから自然にこう・・・、レゲエを意識したのは80年代の半ば過ぎからですかね。
こだま(以下、K):この3人(とコウチ、秋廣)で一緒に音楽をやっている割には、こういう話を直接はした事が無い。自分達のやる曲にちなんでは話しますけどレゲエの事さえそんなに無いですね。だから今日この場があって何かありがたいというか、ちょっとこそばゆいなと。音楽に接してきた時間は年齢的には僕が一番古くてどこから話したらいいかなと思うけど、子供の頃に通った教会の日曜学校で賛美歌を歌っていて、その後中学でブラスバンドに入るんですよね。その学校が熱心で厳しい練習をさせられました。ポピュラーはほとんど無くて、ブラスバンド用に編曲されたクラシックのかなり上級者編の曲をやらされてたんですよ。それでこの間ふっと自分が最初に買ったレコードを思い出したらヘンデルという人の「水上の音楽」っていうちょっと大きめの10インチみたいなのだった。
M:へえ、クラシックですね。
K:まあ、親からの小遣いで何故かそれが欲しくて、それが多分中学1年だったと思う。つい最近そのヘンデルの「水上の音楽」をもう1回CDで聴きましたよ。
●どうでしたか。
K:まあ、「これが最初に買ったレコードか」っていう感じでしたよ。その後は、ポップスになっていき、ロックとか、日本のグループ・サウンズの全盛期みたいなのにも影響受けてそこからすぐ中学3年で地元のロック・バンドに加わる事でそれからの自分の成り行きが随分変わりましたね。僕がバンドをやりだした頃はジェームス・ブラウンも流行っていれば、ビートルズも流行っているしストーンズも流行っているという時代でそのバンドはそのどの曲でもやるんですよ。
●やはり皆さんレゲエにちょっと気がつくというか、そっちにシフトしたのは、70年代終わりから80年代ですよね。どういうきっかけでしたか。
K:それは知り合いの家で、サード・ワールドのアルバムを夜中に聴かせてもらった時ですね。僕と同じ様にロック全般、ジャズから何から音楽が好きで聴いていた人が、「こんなのがあるよ」って何となくかけてくれたのがサード・ワールドで、それが直接レコードから聴いたレゲエの最初のインパクトでしたね。
●それは70年代ですね?
K:そう。多分ファースト・アルバムだったと思うけど。
H:サードワールドがポップになる前ですよね。『96° In The Shade』とか。あれ、良いですね。
K:そうそうそう、その辺ですよ。
M:それは、良いや。
K:もの凄くインパクトがあって、それは忘れられない衝撃ですよ。リズムとしての音楽というか、まったく違うものだったから。だからそれと同時くらいにだんだんレゲエが、例えばエリック・クラプトンの「I Shot the Sheriff」が街中でかかったりするようになったり、どうやら最初に聴いたサード・ワールド辺りのあれがどうも元になっているんじゃないかって思ってるんですよ。70年代の中間くらいかな。
H:その時はボブ・マーリーじゃなかったんですね。
K:その後1番決定的だったのが、テレビで放映されたボブ・マーリーの来日コンサートで、それまでははっきりとレゲエと分からなかったものが、この人だったんだと思いましたよ。しかも来日しているわけだから。最近ツイッターで知ったんだけど、ECDはバイトでその時に照明をやっていたそうですね。ECDって凄い環境にいたんだなって。
M:良い話しだと思います。
●ではそのレゲエのどういうところに魅力があるんでしょうか?
H:僕は、初めて(オーガスタス)パブロを聴いた時の怪しい空気感。今となってはなんとなく分かる感じでも高校生の頃とかは「この音楽、何でこんなに怪しいの」って、ちょっと普通のポップ・ミュージックみたいにパキッとこないダブのあの音がくぐもった感じ、ディレイのあの感じが他のジャンルには無かったのでそれで最初にもってかれたのがパブロでしたね。
森:僕もレゲエを意識して本格的に聴く様になったのは、ダブを聴いてだったんですけど、キング・タビーとか『Blackboard Jungle Dub』(The Upsetters)かな。最初に衝撃を受けたのは大学の頃だったと思うんですけど、音楽好きの先輩の家で聴かせてもらって。それまでは、知ってはいたけど渋い大人の音楽って捉えていたんですね。ずっとサイケデリックな音楽が好きで初期のピンク・フロイドとか、当時のいわゆるサイケデリックなロックですね。ドアーズ、ジミ・ヘンとか、今で言えばクラシックなロックのシュワシュワいってるやつが好きだったんですよ。後は、ポストパンクでも最初の頃のキャバレー・ヴォルテールとかそういうのが好きで、そこにダブが入ってきた時に、簡単にそういう所を越えてるなって、そんな感じがしちゃったんですよね。なぜそう思ったかっていうのは、正確には分からないですけど。
H:森さんは、その頃はバンドをやってらっしゃったんですか。
M:うちは田舎だったので、周りは全員ヘビメタでしたね(笑)。自分は、ポップ・グループとかが好きで聴いていて、ヘビメタのバンドでキーボードを弾いてました。そういう時代でしたね。
H:そうですよね、高校生の時はジャパニーズ・メタル全盛期ですよね。
H:森さんは、元々ピアノですよね。貴重な戦力として。
M:はい、そうですね。
M:「どうやらこいつは、鍵盤が弾けるらしい」って(笑)。当時のヘビメタは鍵盤もガッチリ入っていましたからね。
●そういう環境で育って、グラディのピアノはどうなんでしょうか? HAKASEは、前からグラディが好きだって言ってくれていて今回もクアトロの「Gladdy Unlimited」に参加してくれてすごく嬉しいです。
H:今日改めて来る前に聴いてみたんですけど、音の出し方は、ちゃんとしているなと。音の聴かせ方というか、タッチもしっかりしている。でも、学校で習った人ではないんですよね?
●違いますね。叔父さんがオーブレイ・アダムスっていう、ホテルでやってた当時のジャズ・バンドのピアニストで、彼に家で教わったんです。
M:バンド・マスターですね。
●そうです、WIRとかスタジオ・ワンとかジョー・ギブスでも音源が出てます。
H:まあ音楽ファミリーというか、そういう環境でピアノがあったっていう事ですよね。やっぱりちゃんと楽器を教わった人の弾き方というか、叔父さんだから先生じゃないけど。
●手紙を読むと、「機嫌が良いと教えてくれた」みたいなことが書いてありましたね。
H:そうなんですね。譜面を見ながら教わったって感じではなく耳聴きで?
●どうでしょうね。レコーディングに沢山立ち会ったけど、何かメモを書いてるのを1度も見たことが無かった(笑)。グラディ独特のメロディーとタッチがありますよね。グラディっていう風に一発で分かるのっていうのは、どうですか。
H:音の押し引きっていうか、攻めるとこは攻めるけど、引くところというか、緩くなるところは緩くなるっていう押し引きって言うか、そこのアーティキュレーション、音楽用語で言うと音の強弱とか、音の聴かせ方っていうのが、テクニシャンでは無いと思うんですけどやっぱり弾くタイミングというか、あれが日本人には自由すぎて真似できないなっていうのがあります。
M:そうね。あれをやってすぐに良い感じに出来る人はいないよね。あれを真似して(笑)。
H:割とこうビートに対して入り口の1発目がちょっと突っ込むんですよね。その後にちょっとためて弾いたりして、そういうところが大胆。ピアニストとしてはすごく大胆ですね。
●なるほどです。こだま君は実際に一緒にリハをしてライブもやり、レコーディングも1曲して7インチも作りました。僕の無謀な企画だった1987年の「Gladdy meets MUTE BEAT」ですけど。
M:なんていう曲でしたっけ?
●「Something Special」です。こだま君は、その時のリハの事とか何か覚えていますか。
K:覚えていますよ。
●何か「タイト!、タイトに!」とかGladdyが言ってたよね。
K:そうそうそう。ミュート・ビートが待っているスタジオにグラディが来られて。事前の練習はしてあったんですけどとにかく大変なスケジュールでジャマイカから来日されてやって来たわけですから。例によってオーバーヒートの仕事だからバタバタ。
●はっはっは(笑)。
K:こっちは、バンドとしてやれるだけの事をやっておかないといけないというので、いつでもメロディーを弾いてくれれば、あるいは歌ってくれれば演奏できますっていう状態に10数曲がしてあって、スタジオに入ってこられた時、それまで会ったことのあるジャマイカンの印象とはちょっと違って、まあ随分小柄な方だなと。ハンチングで普通のグレーのスラックスに白いワイシャツ1枚で、それで随分明るい方でみんなと握手したら、すぐにピアノに行くんです。まあまず僕らに「やってみろ」って言って、1曲目に『Caribbean Sunset』の中の曲をやったんですよ。そしたら、すぐに演奏をストップさせて「演奏が遅い、もっとアップでいけ」って言って、そのリズムに対するテンションが違うんですね。皆でレコードを聴いて演奏出来る様にしていたんだけど。
●だからBPMは、合ってたと思うんだよね。
K:そうそう。だから音楽をやる時の気持ちかな。本人も初めて自分のライブに来てリハーサル・スタジオに入るわけですから、本人も普段のジャマイカでの暮らしとは、違う気持ちでおられたと思うんですけど。とにかく演奏が始まったら、「これじゃダメだ」と、「もっとこうアップしていくんだ」っていう、それは単にビートを早めるんじゃ無くて「ぜんぜん沈んでるぞ、お前らは」っていう様な感じでしょうね。「アップ」って言うからビートを上げたと思うんですよ、演奏を早めたら今度は「上げるだけじゃダメだ」っていう。今度は「タイト、タイト」って言うんですよ。「余計な事はするな」って。勿論バンドの演奏はグラディがピアノで入った事で普段とは違う演奏になっていっちゃってるんですよ。僕がその時思ったのは、これはもうグラディのピアノは打楽器なんだなと思いました。その後になるんですけど、もっとじっくりグラディを聴き込んだりして、これは僕が当時本にも書きましたけど、スティール・ドラムの響きとグラディのピアノっていうのは、僕の中ではシンクロするっていうか、ピアノをピアノとして叩いてる感じがあるんですよね。歌う人でもあるから打楽器で歌っている様な、ピアノを弾きながら歌うわけだからピアノ自体にも歌があるっていう事ですよね。だから音楽的にとても魅力的なところにあるんです。強いリズムと、歌う所はもの凄く歌うっていう。「気持ちをアップさせろ」と「だけど、タイトにいけ」っていうその2つですね。それを学びました。
●ロックステディみたいなムーディーな感じのものでも、実は凄くタイトなんだよね。何か只ムーディーになってデロデロになってしまいやすいことが結構多いけど、それは違うね。
K:グラディとの最初のセッションって覚えている限りでは、グラディはピアノでカッティングをしたと思うんですよ。それがもうリズムそのものでカッティングっていうのは、レゲエのワンドロップと同じで、もの凄い重要なものでしょ。
M:ですね。カッティングが中心だと思います。
K:基本中の基本を、まずグラディが見せてくれたわけですよね。すると、タイト・イコール・カッティングって言っても良いと思うんですよ。他の事はやらなくて良いから、そのカッティングをしろと。よく裏打ちを前だの後ろだのって言いますけど、グラディと出会った辺りから、自分としてはレゲエをよく見ていく事になるんですけど。あれはね、カッティングもベースもみんなアタマなんですよ、レゲエというのは。絶対1拍目にあるんですよ。只、そこに手を出すか出さないかであって。僕はベーシストによく言って来た事であり、或はベースから学んだ事なんだけど、レゲエというのはみんながみんな後ろにいってしまうと、レゲエにならないんですよ。例えばドラムはハットをキープするのにもの凄く前にいっているんですよ。それでベースはアタマを弾かなくても、アタマを弾くのと同じくらい1拍目というのを構えてるんですよ。それをどこかでずっと勘違いしている時があって、かなりレイドバックした気持ちの良いノリという事に気持ちが行き過ぎていて、その1拍目というかアタマっていうものに気がついたら結局レゲエはロックだったんです。だから、その後のパンクや、どんなミュージシャンもレゲエにハマっていくわけですよね。僕はこれがレゲエのリズムの強さだと思っているんですよ。
●とても面白い話だ。
K:だから、本当にアタマがあるんですよ、小節のアタマが。だから、ベーシストなんてものすごいテンションが高いから、ものすごいアタマを強調してやってますよ。それの熟成した感じが、スラロビが出してきた一連のミリタント(ビート)とか、そのダンスホール前からダンスホール・リズム以後のアレは、もう1拍目の強さという事でしょうね。だからニュー・ウェーヴのビート系のバンドが、そういうロックをやっていきますけど、そういうのも全部吸収していける大きなものがレゲエにはあるなと思って、レゲエのリズムをやっぱり絶賛するしかない、やはりどんな音楽を聴いてきても。しかもワンドロップっていう3拍目にキックとベースでアクセントが来るっていうのが、音楽の中で、これはもうもの凄い発明だったと思っている。