CULTURE

ランキン・タクシーとピーター・バラカン

Text by Hjime Oishi (大石始) Photo by cherry chill will(sole)

2015年10月にRiddimOnlineに掲載された記事です。

ランキン・タクシーとピーター・バラカン。長年の音楽愛に支えられた発言と活動により、多くのミュージック・ラヴァーから熱烈な信頼を得ている両者は、80年代からシンパシーを寄せ合う関係でもあった。今年4月に出た最新作『RUFF GUIDE TO...RANKIN TAXI』のアナログ盤でのリリースを控えているランキン・タクシー。そして、アナログ盤だけをかけるラジオ番組『アナログ特区』(FMヨコハマ)のパーソナリティーを務めるピーター・バラカン。そんな2人によるスペシャル対談をお届けしよう。

●お2人が初めてお会いしたのはいつ頃なんですか。

ランキン・タクシー(以下R):覚えてないなあ……。

ピーター・バラカン(以下P):僕がCSのテレビ番組を持ってたときに出てもらったこともあるし、ラジオのゲストに呼んでくれたこともあるよね。FM802の番組(『Natty Jamaica』)だった。

R:それも2000年ごろだったと思うな。

P:だから、案外後なんですよ。でも、ランキンさんの一番最初のアルバム(89年の『火事だあ』)を鷲巣(功/当時のランキンのマネージャー兼プロデューサー。現・首都圏河内音頭推進協議会議長)さんから渡された段階でブッ飛んだんです。特に“誰にも見えない、匂いもない”。僕が日本に来たのは74年で、その前の時代のことは知らないけど、社会的な意識を反映したああいう音楽をやる人は日本にいなかったと思う。

●じゃあ、まずはランキンさんの楽曲が持つ政治的メッセージの部分で……。

P:(質問を遮って)僕にとっての『政治』というのは誰にも分からないことを踏ん反りかえって難しい言葉で話すこと。僕が言ってるのはみんなの日常生活に深く関わることで、そういうことについて話すのは当たり前だと思ってるんですよ。チェルノブイリの原発事故が起きたのは86年で、あの曲(“誰にも見えない、匂いもない”)が出たのはその3年後だよね?

R:そうですね、はい。

P:あの当時、原発事故に関する情報はメディアにもほとんど出てこなかった。そういうときにあの曲を聴いて、『こんなことをやってる人がいるんだ!』と思ってビックリした。しかもね、ユーモアがあって笑いながら真剣に聴かせてくれた。こういう表現は西洋にもあまりないですよ。

R:私はフランク・ザッパの影響だと思ってますけどね。リリックが全部分かるわけじゃないけど、彼は皮肉や笑いを入れるじゃない?レゲエにもそういう皮肉はたくさん入ってるし。

P:そうか……フランク・ザッパは意外だったな。初期のほうが好き?

R:そうですね。『What's the ugliest part of your body~』とかね(フランク・ザッパ率いるマザーズ・オブ・インヴェンションの68年作『We're Only In It For The Money』収録曲、“What's The Ugliest Part Of Your Body?”)。あのあたりを聴いて『格好いいなあ!』と思ってたんです。

P:ランキンさんのアルバムは出るたびに聴かせてもらっていたんです。“信ずる者は…”とか“役人天国”、“ロック・ザ・スクール”も好きでしたね。どの曲もラジオでバンバン流れたらいいんだけど。

R:当時テレビで歌ったこともあるけど、やっぱり(検閲の)チェックは入ってましたね。

●メディアでどう発言していくか、どう歌っていくか。お2人はそういったものとも戦い続けてきたわけですよね。

P:戦うというか、どこか諦めながら続けてきたというか。

R:ブツかってハネ返される、その繰り返しですよね(笑)。

●ただ、実際にお会いしていなかった80~90年代でもお互いへのシンパシーはあった、と。

P:少なくとも僕にはありました。

R:私にもありましたよ、もちろん。

●で、今回はレコードをテーマとした対談ということで、お2人に思い入れのあるレコードを3枚ずつ持ってきていただきました。ランキンさんは非レゲエ、ピーターさんはレゲエのみという縛りで。ランキンさんの一枚目は?

R:じゃあ、まずは中学生のときに買ったこれを(65年にロンドン・レコーズから出たローリング・ストーンズの編集盤『Vol.2』。)。日本盤なので、キース・リチャーズが『ケイス・リチャーズ』って書いてありますね(笑)。“Under The Boardwalk”(オリジナルはドリフターズの64年曲)やってるんだよ?

P:僕が生まれて初めて聴いた“Under The Boardwalk”はドリフターズじゃなくてストーンズだったの(笑)。

R:そうなんだ!(笑)“Time Is On My Side”も入ってるね。

P:これは当時買ったの?

R:そうそう、中学生のとき。(リリースが)65年だから、中学校2年のときかな。

●ピーターさんの一枚目はなんでしょうか。

P:ウェイラーズの『Catch A Fire』。僕が初めて聴いたレゲエのレコードですね。その前にデスモンド・デッカーの“007”とか“Israelites”はラジオで聴いてたんですけど、スキンヘッズという恐ろしい存在のため、ジャマイカの音楽に距離を置いている時期があったんですね。そんなとき、レコード店で一緒に働いていたジャマイカ系イギリス人がある日、『お前に聴かせたいレコードがあるんだ』といって出たばかりの『Catch A Fire』を聴かせてくれたんですね。

●どうでした?

P:かけた瞬間にブッ飛んだ。あの重いベースとゆっくりしたリズム!

R:(プロデューサーである)クリス・ブラックウェルの指示で、ギターがオーヴァーダブされてるよね。

P:それもすごく格好よかった。あの音じゃないと、当時レゲエのことをほとんど知らないイギリスのロック・ファンは見向きもしなかったんじゃないかな。

R:『Catch A Fire』はまた凝ったジャケットでしたね。

P:そうそう、ジッポ型の。あれもびっくりした。ただ……何よりもあの音ですよ。人生で初めてあんな音に出くわしたんですから。

●ランキンさんの2枚目は?

R:そんなに語ることのない盤なんですけどね(笑)。バーバラ・リンの『You'll Loose A Good Thing』。この曲、ジャマイカでもカヴァーしてる人、結構多いんです。

●これはいつごろ買ったんですか?

R:分かんない。いつの間にかあったね(笑)。

P:60年代半ばでしょ、このレコード。

R:そうか。じゃあ、80年代に買ったんだと思う。

●このレコードの一番グッとくるところは?

R:他のレコードには感じない『気持ちの強さ』を感じるんですよ。だって、『You'll Loose A Good Thing』だよ。『私を失ったら一番いいものを失っちゃうのよ』って歌ってるんだから(笑)。レゲエは女の子の失恋の歌でもジメジメしてなくて乾いてるじゃない?それと同じものをこの曲から感じるね。そういえば、駄洒落で『バーバーバー、バーバラ・リン』って歌ったこともありましたね(笑)。

●ピーターさんの2枚目は?

P:これも定番中の定番だけど、『The Harder They Come』のサントラ(73年)。映画のサントラとしては今も世界一だと思ってます。『Catch A Fire』の直後ぐらいにイギリスでLPが出たんだけど、当時は1曲も知らなくて。でも、名曲ばっかりで、一瞬にして全曲好きになった。いまだにレゲエというとこれは手放せない。スコッティの“Draw Your Brakes”とかスリッカーズの“Johnny Too Bad”……。

R:メイタルズの“Pressure Drop”も入ってるね。

P:メイタルズだったら“Sweet And Dandy”も好きでねえ……映画も本当に名作。“Sweet And Dandy”のかかるシーンが格好よくってさあ……(しばらく2人で映画『The Harder They Come』に関する思い入れたっぷりの話が続く)」

R:あの映画にはスティール・パルスのデヴィッド・ハインズみたいなドレッドの男が出てくるじゃない。あれを見て『なんだこれ!』って驚いてねえ。

P:僕も含め、当時はみんなラスタのことを知らなかったからね。

●ランキンさんの3枚目は?

R:これはマーティン・ルーサー・キングの演説集ですね(『…Free At Last』)。抑制の利いた太い声なんですよ、惚れ惚れする声。『I have a dream』『Free at last』『We as a people will get to the promised land』っていう有名なフレーズが入ってる。『約束の地』っていうのはレゲエでもよく使われる表現だね。

●このレコードはスピーチしか入ってないんですね。

R:そうそう、スピーチのみ。

P:しかもゴーディだから、モータウンのレーベルから出てるんだね。

●これはいつごろ買ったんですか。

R:借りたんです、鷲巣に(笑)。こうやって書いておくと、返さざるを得なくなるかと思って(笑)。

●今はYoutubeでもこのスピーチを聴けますけど、こうやってジャケットを眺めながら聴いてみると、やっぱり重みが違いますよね。

R:そうだねえ。分かりやすい発音で聴きやすいスピーチなんだよ。日本人でも何度も聴いていれば意味が分かってくる。

P:彼はコミュニケーターですからね。相手に伝わるよう、丁寧に言葉を紡いでいく。

R:だから、ラップといえばラップだよね。繰り返しのフレーズも多いし。

●ピーターさん3枚目のアルバムはなんでしょうか。

P:ミスティック・レヴェレーション・オブ・ラスタファリの『Grounation』(73年)。LPでは3枚組だったものですね。初めて聴いたのは日本に来てから。CDがなかなか出なくてね。このなかで一番好きな曲が“Way Back Home”、クルセイダーズのカヴァーですね。もしも『離れ小島に持っていく10曲を選べ』と言われたら、あの曲は入るかもしれない。それぐらい好きなんです。

R:“Oh Carolina”の流れにある曲もあったりして、案外聴きやすいんだよね。

P:“Mabrat - Passin' Through”っていう曲も入ってるんだけど、それはチコ・ハミルトン・クインテットのカヴァー。そういう風に、この人たちはおもしろいカヴァーをやるんです。

●レコードといえば、ランキンさんは今年4月に出た最新作『RUFF GUIDE TO...RANKIN TAXI』のアナログ盤を出されるんですね。

R:そうそう、着々と進行……してませんけどね(笑)。

●あのジャケットはやっぱりLPで出したいですよね。

R:そうそう。もう趣味の世界というか、ビジネスではないんだけどね。

P:『火事だあ』も当時シングルのボックスセットで出てたでしょ?

R:そうですね。あれは鷲巣のアイデア。次に出した『ワイルドで行くぞ』も4枚組のレコードで出しましたから。しかも私の記事を乗せた特別の新聞で包んで、麻袋に入れて出したんですから。

P:へえ!それはすごいなあ。

●ピーターさんは今、FMヨコハマで『アナログ特区』という番組をやっていらっしゃいますよね。

P:そうなんです。東洋化成がレコードの番組を作るということになって、今年の4月からFMヨコハマで『アナログ特区』という番組を日曜深夜に始めたんですよ。アナログ盤しかかけないという番組で、古いものだけじゃなくて新しいものもかけるようにしてます。

●アナログだけでかけるというのがいいですね。CDやデータじゃ入らないノイズなんかも入ったりして。

R:たまに針トビなんかもしてね、10秒ぐらい気付かないという(笑)。

P:まだそういう事件はないね(笑)。

R:聴いてるほうはあれ、楽しいんですよ。ジャマイカで10分ぐらい針トビっぱなしのときがあった(笑)。ああいうのはアナログならではだから。

R:まあ、そうだよね。ランキンさんにもぜひ一度ゲストに来てもらって、とっておきのレゲエの特集をやりたいですね。