MUSIC

Tha Blue Herb ILL-BOSSTINO(#2)

 
   

Interview by Shizuo Ishii石井志津男 Photo by Yoshifumi Egami

2013年4月にRiddimOnlineに掲載された記事です。

●今日はBOSSと初めてこんなに話をしたわけだけど、あの3.11があったあの日のBOSSの心境っていうのはどうだったの? ニュースを見ても驚くだけだったと思うけど。ちょっと時間が経ってあの時を振り返えると、俺自身は軽いノイローゼみたいになってたと思う。うまくはいえないけど、ある感覚でいえば多分日本中がノイローゼみたいだったと思うんだ。

B:そうかもしれないですね。

●その時にBOSSはどう対処してたのかな。

B:確かに俺も半ばノイローゼでしたね、ただただ打ちのめされてました。それこそすぐ被災地に行った人達だとか、ハードコアのバンドの人達もすぐに動いた人達は沢山いたけど、俺は違った。で、すぐチャリティーの音楽作ろうって言うような人たちも沢山いたし、もちろん俺のところにもそういう誘いも沢山きたから、ジャンル問わずね。でも俺は正直動けなかった。やっぱり動けなかったなあ。二年前は・・・本当に。言葉ですからね。物資とか募金だったら実際すぐに動いたけれど、言葉ですから、自分よりとてつもない悲しみとか苦しみを背負っている人間に安易に「がんばれよ」って一言すらかけられるかっていう事態ですよ、はっきり言って。

●あの直後に「上を向いて歩こう」をCMで使ってるのを見て、俺はビビったね。今はまだその曲は歌えないって。

B:そうなんですよ、ましてや離れた場所からね、あったかい部屋からね。

●もしかしたら、その街にいるならできたのかも。

B:そこは苦しかったけど、でも本当に言葉を発するというよりかは言葉を書くっていうことだけになんとか時間をかけて、少しずつそこに戻ってきたって感じですね。今週そこへ行くんです。つくづく思うんですけど2年かかったって感じです。直接行って地元の人達と向かい合って、簡単に一言で言えば結局は前向きな言葉を言いに行く訳ですよ。世の中に溢れてる前向きなスローガンと同じ種類の言葉です。ものすごい量の言葉を使うけれど、結果を言っちゃえばそういう事を言いに行く訳ですよ。そういうような前向きな事を言うには、その言葉が有効なのかや言葉の力そのものを信じることにすら、俺はやっぱ2年かかったなと今思う。正直、その時はだめだったね、うん。言葉で生きてきて初めて言葉の無力さを感じてましたね。

●「CAN'T STOP TALKING TOUR」っていう今回の東北ツアーのタイミングはやっぱり今だっていうこと?

B:そうです。僕の方から、あの日から2年後の週末にハコを借りました。「ここしか無い!」って去年の暮れぐらいにそこの三つの箱にオファーをかけたんです。3月11日直後の週末なので絶対埋まってると思ったんですが、三つとも空いてて、じゃあ行くしかねえなって思ったんですけどね。

●僕もあの時は、自分で使えるスタジオと自分がマネジメントしてるアーティストたちがいても、1週間くらい何にもできなかった。本当に無力なんだって思った。日曜日だったかな? アーティストでも何でもないのに、ふっとラブソングくらい作ってもいいんじゃないかって、それでバカだから生まれて初めてマジでリリックを書いて、でもスタンドアップってのは書けなくてラブソング。

B:いいっしょ、石井さんみたいな人が書くべきだよ本当に。

●いやいや、それは純粋にハズミだから。俺のリリックがコンセプトになったかは微妙だけど、みんなにメールをしてコレを基に勝手にアレンジしてくれって送ったら、情けなくもオリジナルはほぼ採用されなかったけど(笑)。でも被災地にとったら、カネはいくらあっても良いんじゃないかと思ってチャリティーをね。

B:本当だよね。

●夜の12時過ぎだったかな、外池(満広)さんに「僕の好きなアーティスト(Gladstone Anderson)のトラックをリメイクしてよ、こんなこと考えてます」って電話したら、「やる!頼んでくれて嬉しい」って喜んでくれた。その人もどこにも逃げずに仕事をしてる人で、あっという間にそのトラックができて、Moomin、H-MAN、PushimたちやYellowmanとかジャマイカの気心の知れた人たちにも声をかけて、LAのRAKAA(Dilated Peoples)にはTwitterで連絡したらすぐに返してきて「ビッグネームの友達にも声かけるぞ」って言ってくれたけど、「いやいやそれは要らないんだよ、近い知り合いだけでやりたいから」って返して、即行で届いたデモはやっぱり「立ち上がれ!」っていうリリックだったから、あのリリシストのRAKAAにまで恐れ多くも直してもらったり、朝起きて、イギリスの友達でBitty Mcleanってシンガーから「♬悲しみの涙が、いつか喜びの涙に変わる時がある」って歌った英語のデモをダウンロードして音が流れた瞬間に、丁度Dragon76君っていうアーティストがジャケットのハートの画像を送ってきて、曲と画像がリンクして朝からまた花粉症になって、、、。
 本当にあの時は何もやることが無くて、ライブも飛ぶし、本当に何もない。八百屋なら野菜を売るってことができたけどあの時に俺の周囲は全部が止まってたんだ。それでBOSSみたいにあの震災の前からあんな曲(Tenderly)を書く人が、その時どうしてたのかと思ったんですよ。

B:みんなそうだったと思うよ、音楽やってる人は特にね。音楽って本当に余剰品というか、世の中でいうとまず衣食住があってその後のものじゃないですか。

●音楽が無くても死なないからね、生死のとこじゃないから。

B:衣食住、そして音楽っていうふうな感じで、普段は何気にねNo Music No Lifeみたいなフィーリングで生きてるし、もちろんそこのテンションで音楽を広めてはいるんだけど、でも実際本当に衣食住もあるかどうかわからないような状況になった時に、三つの頭越しに音楽で何かをできるなんていう、、、俺的には最初はそんな気持ちにはなれないっていうのが正直なとこだったね、本当にね。まず衣食住を確保する為に何をすればいいのか。よし、米を送るかって動いたのが一番最初ですね。結構ホームページにも「BOSS頼むよ」みたいなメールが沢山来たんですよ。「俺今真っ暗な街にいるよ」だとか、「俺の知り合いが死んじゃってさ」とか、「なんとか声出してくれよ」みたいな感じのメールがきた時は、、、苦しかったっすね俺。その人たちが受けてる苦しみに比べれば全然大した事は無いんだけど、本当になかなか言葉にならない苦しみでしたね。でも沈黙するっていうこともすごい勇気のいる事だってのもそういう日々の中に学んで、次に出した『TOTAL』ってアルバムに直接つながっていくんだけど、、、「言葉で生きてるから言葉出してくれよ」って言われたんだけど、言葉で生きてるから簡単な言葉は言えねえんだよっていうフィーリングも俺には正直あって、だから簡単に「頑張れよ」は言えるけど、その場しのぎじゃなくて、本質的に起こったことをどう納得させて、本当に頑張ろうって気持ちになってもらうにはどういう言い方がいいのかとか、どうやって最後の前向きさに結びつければいいのかを、俺はTwitterとかやらないんで、Twitterみたいにタイムラインでどんどん流れていってしまうようないわゆる会話中での言葉とは、俺の音楽で扱ってる言葉は違うっていうふうに思ってるからそのアルバム1枚、曲1曲でどうかって考えたら、ただの「頑張れよ」じゃ話にならないんだよなってことになる。やっぱりどうやって本気で、本気でですよ、今の状況をひっくり返すか、そのための言葉を揃えるにはすげえ時間がかかるからあえてその時は沈黙してましたね。いつか必ずその時は来るって、ひたすらノートに言葉を書いてました。

●アルバム『TOTAL』のラップの仕方が前のアルバムと全然違うじゃないですか?歌い方が。ものすごく強くなってた、それはもう意図して?

B:絶対そうだと思います。やっぱそこまで声を出すのを我慢してましたからね。『TOTAL』を録音したのが去年の頭ぐらいっすわ。だからもう約1年、そこまでずっと声出すのを我慢してましたからね。だからやっぱそこは多分すごい力入ってましたね。

●前のアルバムは語ってるけど、『TOTAL』は叫んでるんだよね。

B:うん、そうですね。まさに。アルバムが出来たのがちょうど去年の3.11なんだよね。今から一年前です。「もうやることないね」って言って「遂にできた」って言って「あれ今日3.11だよ」みたいな話になって、まじかよ、、、みたいな。

(そこにちょうどFESNの森田貴宏が現れて)
森田:アルバムの最後のチェックの日だよね、俺はいなかったけど、みんな映像で全部残ってるよ。

●そうか! やばいんだね。

B:なんか昨日もライブで言ったけど、暦上はただの3月11日じゃないですか、はっきり言って。でもやっぱりそういうことが起きると昨日のライブだって3月10日っていうのはただの3月10日なのに、やっぱああいうことが起きたってみんなが認識してるっていうか、全員の共通経験な訳じゃないですかあれって俺たち同世代の1945年の8月15日みたいなもんですよ。ニューヨーカーの9月11日みたいな。同じ時代を生きてる全員の共通経験、誰でも知ってる経験というか、そういうのがあるとただの3月10日でも、前の日とか、今日のただの3月11日も、2年後だとか、本当に象徴的っていうか、365日って本来は全部誰かの誕生日、誰かの命日、なんとかの何年後とかそういう日じゃないですか。全部そうなんだけど、本当に全員が共通して経験したものっていうのは実はそんなにないから、だから3.11の日にちの前後ってみんな色々考えるじゃないですか、生と死を。みんな忙しい中でも、そういう季節になっちゃたんですよね、これからの日本でね。だから多分石井さんのお父さんとかお母さんとかだったら、8月15とか、要するに夏っすわ、その辺りで絶対それを思い出すっていうか今でもそうだと思うし、俺たちの世代には3月、春っていうのはそういう時になったんだよね。12月8日は日本には開戦だけどジョン・レノンが好きな時代を生きてたやつらには12月8日(NYの自宅ダコタ・ハウス前で射殺)ってのは、やっぱ大事なあれだしみたいな、そういうなんていうかね、大きな季節になっちゃったんだよな、だからこれからずっとそうだと思う。

●このツアーはどのくらい廻るんですか?

B:「CAN'T STOP TALKING TOUR」って名付けて今週末に東北の宮古、大船渡、石巻を廻って、以降も7月までずっと日本中津々浦々。

●フライヤー拾ったんだけど、東京も3ヵ月間毎月くらい来るね。前よりはライブをやってる感じですか?

B:今は去年の6月からスタートして、『TOTAL』のツアーを1年間で47都道府県全部を廻ろうと思っているんですよ。それを今すごいむきになってやってるんですよ。6月中にそれが全部終わって、まだちょっと行けなかった街が残ってて7月にそれをやって、8、9、10月はライブは休止っす。

●終わったら、次は?

B:まだ未定っす。

森田:そう言えば、羽田の時間て大丈夫?何時?

B:3時、全然大丈夫。

●じゃあちょうど1時間経ったからこのへんで終わる?、、、そうだ!忘れてた、BOSSが出てるAIR JAMの映像を見たんだ。1曲をアカペラですっごかったね〜!
(編集注:2012年に行われ田AIR JAMに出演、「Get Ready」と言う曲で“1億2800万分の722人の先生方よ、、!!”とアカペラでラップした)

B:ひと演説ぶってましたからね。

●いや〜、なかなかに感動的だった! (Mighty Crownの)マスタ・サイモンたちとはそこで知り合ってるわけ?最近1曲やったはずだよね?

B:サイモンとはまさにあの日です。その流れでサイモンが誘ってくれて曲はもう作りました。面白いですよ。絶対いつもだったら俺はもっとワンマンな感じで作っていくんだけど、今回はサイモンに仕切りは任せたっていうか、ちょっと俺っていう素材を使って何かやってほしい、俺の知らない俺が現れるかもみたいな感覚が強くて、ヒップホップとレゲエで畑が違うってのもあるんだけど、レゲエのルールも色々あるだろうし。

●それはレゲエのトラックでやったの?

B:多分あれは、ダブステップっていうのかな、分かんないけどそういうような感じ。サイモンが用意してくれた、、、最近アルバム出したシャドウ・ショーグンの面白そうなトラック作ってる人、グアン・チャイかな?

●今グアン・チャイは北海道に住んでるんだけど。じゃあ、北海道コネクションだね。

B:そうなんですよ、そういう感じで作ったから、詳しくこうしろとか口出す感覚にはならなかったですよね、俺らのやってるのとは全然違うし、だから割と与えられたトラックに挑んでいく、挑戦者的な感じでやって面白かったです。

●ダブステップもいいんだよね、ダブステップが出てきた10年前だと、ちょっとアンダーグラウンド過ぎるかなって思ってたけど、今はすごく面白いですよ。

B:レゲエの連中がやるんだったら俺は絶対ありだと思うんですよ、音楽論の話になってつまんないんだけど、ドラムンベースもそうだったけど、レゲエの連中がやるドラムンベースとかダブステップだったら筋が通ってる。でもそうじゃないとこからいってるやつらっていうのは、俺的にはなかなかちょっとツボが違うんだよなみたいな、やっぱなんかベース聴いてねえんだよな、血統が違う不自然さが聴こえるみたいな感じになっちゃうんですよね、そのグアン・チャイのトラックとかはすげえ自然に入ってきたというか、ダブステップっていうか、これはレゲエだよねみたいな。そういう感覚で面白かったですね、すごい楽しかったです。札幌で録ったんですよ、サイモンもボン(PAPA-B)さんもいて、同じアルバムに入る曲を録ってたんだけど、ボンさんは全てが最高に洗練されてましたね。声が良かったもんなあ。

●それは、Mighty Crownから出るんだよね。チェックします。今日は時間ないのに本当にありがとう。

BOSSに会ったのはこの日が2度目。10年くらい前に、中野のスケートボードショップの前で森田貴宏に紹介されただけだったから、ほとんど初対面といってもいい。3日連ちゃんLiveでメチャクチャ疲れているはずなのに、インタヴューもLiveと同じくキッチリしてサムライだった。マスタ・サイモンとの曲はSHINGO★西成も参加した「My People」と言う曲で『Life Style Records Compilation Vol.5』に入るそうだ。そしてインタヴューはやっぱりオレ話が出てしまい、時間が押したので羽田まで森田君がクルマで送って行ってくれた。森田、ありがとう! BOSSゴメン!

Tha Blue Herb RecordingsのWEBは
http://www.tbhr.co.jp/