MUSIC

DJ MURO meets Black Jazz

 
   

Text by JAM 、Photo by Yoshifumi Egami

2012年12月にRiddimOnlineに掲載された記事です。

独自のカラーを打ち出すべくアーティスト・レパートリーを丹念に揃えてみても、長い年月を経ればどんなレーベルでも時代の荒波には確実に揉まれることになる。時流もあれば、流行もある。プロフィット&ロス、突き詰めればビジネスだから、企業的な考えで次なる一手を考えなければならない局面だって少なくない。

そんな事情をどうしても抱えるから、その一生を脇目も振らずに純潔で押し通すことのできたレーベルはなおさら愛おしい。
「BLACK JAZZ RECORDS」。

ジャズ・ピアニストのジーン・ラッセルがカリフォルニア州オークランドで71年に旗揚げし、ジーン・ラッセルが逝去する75年までの5年間に濁りも淀みもないジャズ・ファンク作品の神髄を21枚のアルバムを通じて伝えてくれたこのレーベルなどはそんな信念を貫き通した象徴的な存在と言っていい。

そんな「BLACK JAZZ RECORDS」のレーベルとしての強かな心意気を、溢れんばかりのミュージック・マインドで抉り出し、時間軸の中を行き来しながら図太い一編の物語に紡いで、その息吹を現代に蘇らせてくれたのがMUROだ。

2012年に入ってからというもの、今までにも増してミックスCDの傑作を矢継ぎ早にリリースするMUROが、いよいよ出会うことになった「BLACK JAZZ RECORDS」に馳せた思い。その思いのたけを、これも今年渋谷ファイヤー通りにオープンさせた自身のショップ、”DIGOT”で語ってもらった。

「そもそもラップに一区切りつけてから、DJに対する考えがガラリと変わったことが大きかったんですよね。ただでさえ広かった好みの幅が更に広がったんです。それまではどこか突っ張っていなければいけなかったとか、理想とするべきラッパーとしてのMURO像が頭の中で常に音楽的な感性に足枷をはめていたとか、そういうのがあったのかもしれないんですけど、それが綺麗になくなったからか情感の赴くままに音楽を素直に受け入れられるようになったのは本当に大きかったように思います。そういう意味で、今年は色々な意味で原点回帰できてるなと感じますね」

2012年を迎えてからCDの傑作が矢継ぎ早にリリースされている背景には、そんなMUROのマインド面での変化があったということなのだろうか。

「そういう風に思わせてくれた一つの大きなきっかけにはレゲエがあるんですけど、ルーツとかダブとか、『ロッカーズ・リヴェンジ』というミックスCDを作った時に聞き直したダブのプロダクションで一気に開けたんです。キング・ダビーだったり、リー・ペリーだったり、何でそれまできちんと聞いてこなかったんだろうと痛いくらいに思って。それとワールドカップの時にMISIAとの仕事でアフリカに行けることになったんですが、この時に浴びた音楽体験の数々も感性の幅を広げてくれましたね。それまでは全てアメリカが基本で、そのフィルターを通して音楽と接していたんですが、その接し方がガラリと変わったんです。そうした体験に次ぐ体験が現在の自分に影響を及ぼしたのは間違いないでしょう」

こういうきっかけを通じて、とっくのとうにKINGだったKINGが更なる自己完成を目指して悟り直してしまっている、ということなのだ。となれば、BLACK JAZZに対峙した現在のMUROがカタログを目前にしてまずどんなミックスCDのイメージを抱いたのかは尋ねてみねばなるまい。

「最近美術館によく足を運ぶようになったんですが、その発端となったのは定期的な文化交流の一員としてイスラエルの地を踏んだ時にスカ・フレイムスの大川さんに現地の美術館(テルアビブ・ミュージーアム・オブ・アート)に連れていってもらったことなんです。そこで展示作品の見方を教授してもらったんですが、見るべき作品には順序があったりとか、先に描きたかった世界があったんだろうけど途中で終わっている未完成の作品には奥深いところに示唆があるのだとか、それがミックスCDを作る時に気にすべき点と実に似ているなと感じたんですよね。今回のBLACK JAZZは、特にそのような思いを抱きながら制作に取り掛かることになりました」

きっとこの話は普通に考えるなら、ミックスされる曲の前後はどんな曲であるべきなのか、曲はどういうタイミングでどうミックスされるのが最良なのか、といったことに繋がっていく話のようにも思えるが、MUROが本当に言いたかったことは1曲1曲は単なる「ピース(piece)」ではなく、ミックスという順路で丁寧に展覧し、1曲1曲を鑑賞に値する「作品」としても成立させることを目指したかったということなのだろう。

「BLACK JAZZはBLUE NOTEやPRESTIGEとは違って、サウンドは荒々しいし、泥臭くてスピリチュアル。そんなこのレーベル独特の旨味を消すことなく、初めて聴く人にも身近なものとして感じてもらえる内容にすることにも留意したつもりです。そして、僕をBLACK JAZZに導いてくれたケリー・パターソンのヴォーカル・ナンバーがどのタイミングで響くのが一番心地いいのかにも腐心しましたね。そこは是非感じ入ってほしいポイントです」

マニアックな方向に走っても一つもおかしくないレーベルだし、それに先のMUROの美術館にまつわる言葉を重ね合わせるなら、それこそアカデミックな作品集もイメージしてしまいがちだ。しかし、MUROのこの締め括る言葉からはもう一つ彼が絶対に軽んじない”エンターテインの心”が読み取れると思う。とうにKINGだったKINGは悟り直し更に無敵のKINGへの道を歩み始めている。
今作はそれを具に教えてくれる名盤ともなった。(JAM)

DJ MURO OFFICIAL WEB
http://www.muro.tv

Digot Web sight
http://www.digot.jp