MUSIC

ジャマイカ・レゲエの新たな歴史 Buju Banton Long Walk To Freedom

 
   

Text & Photo by Jun Tochino(Labrish)

2019年4月にRiddimOnlineに掲載された記事です。

2018年12月7日夜、予定より1日早くBuju Banton(本名マーク・アンソニー・マイリー)はアメリカでのコカイン取引容疑で逮捕されてから8年6ヶ月の長い刑期を終えて、ジャマイカ・キングストンの空港に降り立った。彼の出所後の1回目のコンサートはトリニダード・トバゴという噂もあり、ジャマイカンはもちろん、世界中のレゲエファンの注目を集めていた。

しかしBujuの帰国から10日後の12月18日に、「復帰後初のコンサートは3月16日、キングストンのナショナルスタジアムで開催」と公式発表された。やはり1回目のコンサートはジャマイカでやってもらわなくては。

発表から約1ヵ月後にチケット発売、それもBujuの公式WEB独占で世界同時発売ということで、発売時間にチケット購入者が殺到しサーバーダウンというハプニング。ジャマイカ時間の深夜2時に復旧したが、たったの1時間でVIP (ドリンクつきUS$200)が完売、他のチケットも10日後には完売。ネット完売後にはスポンサーの携帯/デジセルが最も安い席を売り出したが、こちらも即完して計3万枚のチケットがソールドアウト、当日券は無いという主催者発表がされた。ジャマイカ国内でもチケットを買えないファンが続出、本当に3万枚が売り切れたのか?誰が高いチケットを買ったんだ?などのうわさで、Buju復活コンサートへの期待は高まるばかり。

久々のBujuを見ようと世界各国からキングストンにファンが押しかけ、市内のホテルはもちろんAir B&Bまで宿泊施設が全て満室。

当日のスタジアムは2時開場、8時開演、Buju登場は11時から深夜1時まで2時間のステージの予定だったが、朝10時にはすでに観客が並び始め、開場予定の2時には1秒でも早くという人たちでゲート前は溢れかえり、VIP席でも後ろのほうしか空いていなかった。開演まではストーン・ラブなどの人気サウンドが80〜90年代の曲をかけて場を盛り上げた。

8時キッチリ、ウエイン・マーシャルからショウがスタート、2人目はBujuの息子の新人シンガーJahazeil Myrie、そしてBujuの親友Delly Ranks、Ghost、L.U.S.T.、Cocoa Tea、Etana、Christopher Martin 、Romain Virgo 、Agent Sascoと続き、全員ここまでの持ち時間はなんと10分〜15分ずつの速い展開。バンドチェンジ後のChronixxが約30分のステージ。会場は暖かい感じで盛り上がっていきますが、今日のみんなのお待ちかねはBuju。

そして11時半、IRIE FMの女性ディスクジョッキー、エリス・ケーリーのMCでBujuのバンドSHILOHが登場。「King Of Kings」のコーラスにのって白いスーツに身を包んだBujuがついにステージ右手から登場、1曲目は“神の恵みが豊かでありますように”という荘厳なゴスペルソングからスタート。2曲目が「Not An Easy Road」、この曲で“彼の自由への道“が本当に簡単ではなかったんだなという思いが会場に伝わり、観客の熱気もマックスに……この曲を聴いて私も涙が。

そこから「Close One Yesterday」、「Give I Strength」と続き、途中「Destiny」でマイクの調子が悪くなって、初めから歌いなおすというシーンも。すると会場からは“We love Buju”の大合唱。10年ぶりに聴く声もエナジーも変わっておらず、軽快に「Hills And Valleys」では腰をふって踊りまくり、あの若かった頃のかわいいBujuを髣髴とさせる。スレンテン・リディムではアドリブDJ、その後の90’sセグメントの懐かしい曲で踊りまくり、そして「Champion」。Bujuがラスタになる前のファンにはなんとも言えない素晴らしいセグメント。女性DJステフロン・ドンをよんで二人のかけあいも終わり一息ついたところでギターリスト、グレン・ブラウンをフィーチャーした「Untold Stories」、1小節のみBuju、あとは観客が大合唱というにくい演出。

そこから「Wanna Be Loved」と続き、“最愛のお母さん”と紹介してMarcia Griffithsを呼びこむ演出。さらに次はまさかのBeres Hammondが無言で登場、抱き合うシーンは感動的。しかも「Falling In Love All Over Again」でBujuがBeresのパートを歌い、BeresがDJスタイルでBujuのパートを歌うパフォーマンス。BujuはBeresの「I Feel Good」でフリースタイル、Beresも“今日はBujuの歓迎パーティーだ”と言い、ジャマイカの至宝である二人が同じステージだなんて素晴らしすぎて言葉が出ませんでした。

不仲説がささやかれ絶対に出ないと思われていたWayne Wonderも登場、しかもスタートは「Movie Star」、そして「Forever Young」、これは私の青春真っ只中。これでまた涙が。Wayne WonderがいてこそのBujuの成功と言っても過言ではないほどのペントハウス・レーベルの黄金コンビ。BujuからWayne に「8年6ヶ月27日13時間5分26秒、本当に色々なことがあり大変だったけど誰も恨んでないよ」との言葉の後「Driver A」。この有名トラック(Taxiリディム)の曲はガンジャを配達するディーラーの曲ですが、この曲はジャマイカ人も大好きだから会場大爆発。

ショウも終盤になるとモーガン・ヘリテージのGramps Morganが登場、二人で「Psalms 23」を熱唱。最後は「African Pride」を歌い、「全てのアフリカの人に愛を。そしてWe Love you」のBujuの言葉で2時間のショウが終わり、盛大な花火。

公式発表3万2千人というジャマイカでは記録的なコンサート動員数。ショウの感動だけでなくホテルやチケット販売なども合わせた経済効果は半端なく、こんな事ができるのはBujuだけだと思う。この、間違いなく “レゲエの歴史を作ったコンサート”の現場に立ちあえて良かった。

Bujuはこの後カリブ・ツアーを廻り、夏にはヨーロッパ・ツアーを予定(日本ツアーの予定はまだ無い)、今年のレゲエ・サンフェスにはBujuもBeresもChronixx も出演が発表された。ちなみにBujuと Beresは7月20日、Chonixxは7月19日に出演予定。