Interview by 有太マン Yutaman , Photo by haLu
2011年12月にRiddimOnlineに掲載された記事です。
●今日は「あの看板はいったい?」ということで、インタビューをお願いさせていただきました。
SHINGO★西成(以下、SHINGO) やっぱりめちゃめちゃクレージーな看板ってこと気づきました?!(笑)。
●そもそもこれは、いったい何なんですか?
SHINGO イェイヨー(笑)。
●場所は?
SHINGO:場所は西成警察署と西成あいりん地区の三角公園の間。昔あの、大手チェーン展開してる居酒屋の笑笑(わらわら)をパクッて、同じ字で「しょうしょう」って名前で店やってた居酒屋が訴えられて、それも全国版のニュースとしてバンバンなってたとこの近く。最近はジャズ・バーもできたけど、はっきり言って裏の方は、これは面白い話として聞いてもらいたいんだけど、オレが「西成一ウマい」と言ってる高架下のホルモン屋の角を曲がったとこの中華屋と、焼鳥屋台の横にそのジャズ・バーができて。オレも噂は聞いてたから、前々日もホルモン食べながら「明後日ジャズバーOPENするねんなぁ」とか言ってて。そしたらその夜、横の焼鳥屋台で口論だけではおさまらずメッタ刺しの殺しが結末。
「ジャズバーにしたら前日に最低のOPENやな!」みたいな…
●それは最近の話?
SHINGO:この半年くらい前の話。ひどい…ジャズ・バーがオープンするっていってるのに、横の店で壁に血が飛び散るくらいのメッタ刺しの殺しですよ。ホンマに笑うことじゃないけど、だいたい西成でジャズ・バーするっていうことが冒険やし、「オーナーは地元LOVEな人やな!ホンマにええことするなぁ!」と思てたのに、その前日にそんな殺しで、横の店はブルーシートで隠されて、イヌのおまわりさんいっぱいおるし。そんな、ワケわからんことあったで!
●さすが西成…と言いますか。
SHINGO:かと思うと、難波屋(*西成の玄関口にある立ち飲み居酒屋)が奥をみんなで改装して。あそこもよくナマライブをやって、インストゥルメンタルでウッド・ベース弾いて、横でジャズのドラムの人が叩いてる真横に便所がある状況…ベース弾いてる脇でションベン…だったのが、便所がリフォームされて移動しててよかった!と思ってたら、昨日もオレは普通に呑みに行っただけやのにいきなり一曲歌わされて。でも、ジャズの綺麗なシンガーの女の人が歌ってて格好良かった。
●難波屋は音楽に力入れているんですね。
SHINGO:入れるというか、入れざるを得ないんとちゃう?みんなの要望というか、アーティストや音楽好きな人「NO MUSIC NO LIFE」な人が集まってるやろうし、その一貫として難波屋が一肌脱いだって感じかな。若いスタッフも増えてきてるし、難波屋は西成では「一番の情報発信基地」で夜22時までの店が24時までオープンしてる日もありで…昔暴動で店も、店の前の道もボコボコにされて、それでも辞めずに営業してる立ち飲み屋なんです。インスタント・ラーメンていねいに作ってもらって、野菜もしっかり入って値段が200円。全然儲からない(笑)。ウーロンハイ、一杯100円やねん。でも3杯300円がセットやから3杯飲まなアカンねん!ベロベロやん!
●そしてその難波屋から西成警察に行く道に、この看板があるわけですね。設営はいつされたんですか?
SHINGO:昨日(*取材は11月17日)ですね。
●何のために?
SHINGO:まあ、オレしかやれへんやろうと思って…誰もやってないし…
●相当大きいですよね。
SHINGO:まあ、東京の看板とかに比べたらめっちゃちっちゃいけど。本来なら新今宮駅というのがあって、そこのマンションの持ち主の人に言うて、3月14日にオレは「がんばろう日本」ていう看板を立てたくて。でもこの看板もそうやけど、実費やんか。事務所に頼んでとかそんなん無理やん。今回のは看板前にパチンコ屋があって、そこの息子と組んで。ありきたりなしょうもない看板出すならみんなの目に付いて元気なるような看板にしょう!「賛否両論くらい覚悟せえや」って。で、本来の目的は、やっぱり西成は日本最大の労働者の街やったのに、その労働者の街が今、生活保護の「福祉の街」になってて。
●皆さんが生活保護漬けになってるという。
SHINGO:その変化を炊出しを火曜日と土曜日に手伝ってて身をもって実感したし…
●来る人が減ってる?
SHINGO:来る人は1日炊き出し1,200人とか…でも、一般の言葉で言うと街に活気がない。福祉で生きていけて、一回手続きしたら毎月お金入ってくるし、自分で働いて「頑張ろう」という気力や、「疲れたから働いた金でみんなで乾杯しようぜ」という明日への活力が減ってきてる。だってこれ、西成でそれがあるってことは、この何年か前の反貧困のデモとかでも一緒やん。そんなん、もともと何十年前からもこの西成には現実としてある。それは、元々西成が経験してることが全国規模になっただけで、オレらなんかビビれへんしすでに当り前のことやと思ってる。反貧困で、国が動いてどこどこの公園で年末年始炊出しやって、ブルーシートでやってまっせとか、そんなん西成なら元々わかってる話やんか。つまり言いたいのは「西成みたら今後の日本がどうなるかわかる」ってこと…
●社会の縮図だということですね。
SHINGO:だってホンマに、西成は日本の皺寄せやから。「しあわせ」と「しわよせ」は一文字違うだけでエラい違いやで!
そのことをオレは実感してるから、あいかわらずアホやけど表現者になったわけやから、「何かしとかなあかん」と…それで地震のこともあったし、この街のこともあった…「いつかやりたい」と思ってたから、ホンマは「頑張ろう日本」をやりたかったけど再確認して何をせなあかんかって言ったら、やっぱり「生きるチカラ」つまり「活気」。「働く」というか、ここの冬のお祭り「越冬闘争」は、言うたら全国の人が出稼ぎに出て西成に辿り着いたりして、博打にはまったり酒や女におぼれたりといろいろあって、さらに仕事がなくなったりして、西成に住むしかないとか、逆に西成が好きで住んだ人とか。テーマが、これは夏もやけど、「安心して働き暮らせる、釜ヶ崎、西成を」ということで、40年以上やってるわけやんか…
●越冬闘争、長いですね。
SHINGO:それがやっぱり、昔からこんだけ労働者の街言うとって福祉の街になってるから、ホンマに1人で暮らしてる人多いし、何か「わかりやすい言葉でみんなに気持ちつたえよう」と…オレも色々家庭の事情もあって1人のことも多かったから、やっぱり「いってらっしゃい」、「おかえり」言うのを誰か言う人がいなかっても「ひとりちゃうで!」「おかえり!」って看板みてそう思ってもらえたらいいんちゃうかなって思って看板にそれを書いた。西成でも大阪でも日本でもいいねんけど、やっぱりオレらのこの特殊な街やからこそ「釜ヶ崎」というのを横側に書いて。あとは、「がんばろう日本」はみんな、「もう『がんばろう』言われんでもわかってる」ってなるから、オレが自分でも励みにしてる「勝たんでええねんで」って意味も含んで「負けない」。「勝とう」思たらめちゃしんどいし、それぞれの価値観で勝った負けたは違うからこそ、自分にも人にも、今の現状にも「負けない」というのがわかりやすいなと思って。あとはもっとインパクト、オレはこんな自分の顔なんか載せるのは嫌やけど、「ここはちょっと、恥ずかしい想いしてでも『バーン』といったらオモロいんちゃうかな」と。
しかも、元府知事の橋下さんが市長選挙するっていうので、「ちょうどええタイミングやな」みたいな。ほな、「出馬しないのに選挙ポスターつくったろかな!」って、それだけのアイディアで…「今日一日負けないで帰ってきたで」って看板に向かって言ってくれたらええんちゃうかな!と思った。やっぱり1番は「いってらっしゃい」と「おかえり」を伝えたい!
●現状には負けそうになる?
SHINGO:「仕事がない」「仕事がない」言うて、これはオレもそうやけど、歳と共に体力も落ちてゆくし、特に西成みたいに今は高齢化が問題になってきてるし、そこの部分にも負けないで、自分を強く持たないと。そうしないと、さらに「福祉の街」になって元気なくなっていくし、若いやつは出ていくし。
●以前の西成には、もっと気概があった?
SHINGO 自分で生活するというか、福祉の生活保護が主流にない頃は、それこそダンボール集めたり、小さい仕事でも自分からとりにいったり、それで出会いも人との繋がりも増える。でも今、やっぱり福祉の場合は毎月の生活費が25日に振込まれて、それを使うだけでホンマに人と会えへん人がさらに増えてるし。それって、国は孤独死とか自殺の問題提示にしてるわりにはどんどんお金だけ渡して解決してるふりをしてる。
それじゃ国力も上がらないし「もったいないな」と思って。しかももらったお金を、ありがたく感謝して「みんなの税金で生活させてもらってる」言うてちゃんと使ってる人もおるけど、やっぱり単純に25日に炊出しがあったら、いつも1200人並んでるとこが、これは現実に400人とかになる。なんでかって言ったら、「お金もらったからええわ」ってその日は来ない。でも1週間後にはまた1200人に戻る。それは全部博打とか、酒でボンボンやってもうたり悪い方に使って、それで金なくして炊出しに並ぶ。正直、世間一般人は「これじゃアカン。そりゃ見捨てるわ」って。関わりたくなくて、街出ていくのも悔しいけど分かる。そやけど、そんな中でもボランティアに来る人もおるし、みんなのために働いてる人がオレの近くにはおるから、その人らの元気も希望もオレは損ないたくないから、刺激の一つとして今回のことはやった。賛否両論あって当然やし、そんなものも想定内やから。
●福祉漬けにされたことで無くしてしまったものとは何でしょう?
SHINGO:生きる力、考える力、かな。最近再確認してるけど、優しい言葉は誰でもかけてくれる。簡単。せやけど、「おっちゃん、そんなことしたらあかんで!」って怒ってもらうってことにめちゃ感謝。やっぱそれって、すごく、親子関係でも兄弟のことでも大事やなと思って。西成のことでオレの何十倍頑張ってる人がいて、おっちゃんに「酒飲んでんなら帰れ!」とか、「出てけ!」とか、キツい言葉言うし、それはやっぱり突き放すというか、考えさすし、反省さす。それで何か自分で、それこそ次の答えとして謝りにいくなり、正すなり、「お前に世話なるか!」って判断するなり、それだけでも人間らしいと思うし。だって「怒る」ってすげえ面倒くさいやんか。「怒る」ってパワーいるやん!誉めたり、優しいことばとかかける方が楽。それをオレは知ったから。
●よく怒りますか?
SHINGO:最低限幼稚園で教えてもらった「挨拶で始まって、挨拶で終わる」とかできないヤツは好きじゃない。
●ステージでも、深々と頭を下げています。
SHINGO:悪いと思ったら「ごめんなさい」と謝るとか、そこをすべきだと思うし、怒るだけじゃなく「喜怒哀楽」、そういうのがなくなったら残念やん。悲しいから、その前に言葉にする。聴くやつによっちゃあナイフみたいな、キツい言葉でイラっとしたり、寂しくなったりもあるかもしらんけど、それも心あたりあるからオレにイラッとするわけであって、そこをビビらんと一応表現してるから。でもオレもパワーなくなったらこんなことでけへん。今それこそ、出会ってる人とか、一緒にやってもらってる人とか、今後パワーくれて、逆にオレのパワーで「SHINGOもやってるんやったら、やったろ!」と思えるいい相互関係ができる人と出会わへんと、オレもやってられへんし。そうでもなければ、そもそもこんな看板いらんし…
●力が減っていくことも考えますか?
SHINGO:そりゃあ死んでくやつもおったり、西成でも音楽関係でも、あれだけパワーあった人が元気なくなっていくとか、色んなところでそんなん見てたら、オレの今年のテーマは「今や今」と思ってるから。それは「今」だけじゃわからんから。オレは元々根性ないし、引っ込み思案でシャイだった部分多いからそういう人の気持ちもわかるし、あんだけ生まれ育った家庭環境で孤独も感じたからこそ、そこの部分の代弁はできる。逆にお金持ちの気持ちとかははっきり言うてまったくわからんけど。お金や心の貧しさのこととか、次のアルバムではそこはわかりやすく伝えようかなと思う。そこの部分は「まだ言っとる…SHINGO★西成」くらいしつこくていいかなと。オレは別に「西成はこんな街や」と言うて、歌ってる通り観光気分で来て欲しくない。そうじゃなくて、自分の街、仲間と再確認。しいては、アジア、日本って、こんだけ素晴らしい、誇れるところで生まれてきてることを再確認して欲しいと思う。オレは地元のことしか知らないから知ってる地元を歌ってるだけ。さらに出会った人とか訪れた土地のいいところとか歌いたい。
オレなりの言葉やったら「アイディア、センス、タイミング」の三拍子で表現していきたい!オレはそんなスキルもないし、歌も歌えないし、自分の性格もわかってるから。これからも賛同してくれたやつとしっかり組んでやる。そういう一個としての、この看板で。
●これはどれくらいの期間ある予定ですか?
SHINGO:最低1年はあるかな。おっちゃんとかがこの下でクルマに跳ねられたり、信号もないから、事故とかないようにしてほしいと願うだけ。かといって、大阪以外から来てこの周辺に住んでて心斎橋とかに行くのにこの看板の下の道が近道やし、裏にはゲストハウスがあって外国人とかもおるし、色んな人種の流れもできてきて、たくさんの方々にこの道利用してほしい。ちなみに…暴動がおこった中心の道やから。放水車なんかまで出た道やからこそ、オレも思い入れがある道で、この看板が暗闇の何もないところに一個街灯をつけた感じになったらええかなと思って…ビビッてたらでけへんし、もし誰か何か言うてきたら、そのきっかけで話すし、この行動に対して他のミュージシャンがどう思ってるかなんて知らんけど、自己責任で自分でケツ拭くくらいの気持ちじゃないと、こんなことはせえへんから。
●レーベルにも報告はしたんですか?
SHINGO:したけど、事務所が「やろう」ってなったわけでもないし事務所はその他のことしっかりやってくれてるから。もしオレが渋谷で生まれてたら渋谷でやってるだけのこと。
誰もやってないこと形にしただけ。たいしたことじゃない。
●新年の予定は?
SHINGO:1月2日は、ここの隣の、西成の三角公園で19時からライブやりますね。1月9日は飛田新地の高速の下で、新年会がてら、2時間くらいヒップホップとレゲエでライブやろうかなって。予算がしれてるんで、呼びたいやつは山ほどいますけど、オレが企画してるんで予算内で呼べるアーティストだけ。それでも来てくれて飛び入りゲストでマイク持って喋ってくれたやつには「1万1千円」飛田新地15分の支払額を!さらにええ活躍してくれたアーティストには25分までの延長料金を含んだ1万6千円!を渡そうと思ってます。あと3月24日には、それこそ西成区役所と大阪市の団体が主催して「人権の集い」っていうテーマでオレのライブを1時間くらい開催する予定。まだあくまで予定。みんなの協力ないとありえない。
それは今までHIP HOPのアーティストは、まったくやってないとこやし金にもならんし課題ばかりだけど、これはやっぱりオレが「やるべきことやな」と思って。「今や今」って偉そうに言ってるだけじゃなくて大阪フィルハーモニーってクラシックの楽団がいつも練習してる場所で300人前後限定で何かやろうと。色んな人が興味持ってくれたことに、どう応えられるか。格好つけるのは簡単やから。アメリカのブルースと一緒。あんま知らんし、意訳したやつとかを聴いただけやけど、貧しいことを音楽に乗せたら、すごく哀愁があって格好良く聴こえて、明日の糧になるようなことになる音楽。それはジャズもソウルもそうやろうけど、そういう部分を持った音楽ができたらいいなと思ってます。
●楽しみにしています。
SHINGO:おおきにラパッ
(11/17/2011@オーバーヒート)
SHINGO★西成 -OFFICIAL WEB
http://shingonishinari.jp/