CULTURE

永く激しいジャマイカ選挙の新しい歴史。

 
   

Text & Phoyo by Jun Tochino

2012年2月にRiddimOnlineに掲載された記事です。

ジャマイカの総選挙は5年に一回行われます。毎回選挙がある度に二大政党JLP(Jamaica Labour Party,ジャマイカ労働党)とPNP(People’s Nathional Party,人民国家党)が政権奪回に壮烈な戦いを繰り広げてきました。それは2つの政党のどちらもがこの国のカリブに位置する微妙な立ち位置からキューバ/ソビエト連邦と対峙するアメリカという構図なくしては語ることができませんでした。PNP(人民国家党)は1938年にノーマン・マンリー(マイケル・マンリーの父)によって結成され民主社会主義政党としてのスタンスを保ち続け、一方JLP(労働党)はアレキサンダー・ブスタマンテによって創設され1962年のジャマイカ独立はJLP政権のもとで成しとげられています。しかし、米ソの冷戦構造の代理戦争ともいえる緊張はこの2政党をめぐる熾烈な選挙選で多くの犠牲者を出してきた歴史があります。特に1978年から1980年の10月30日まで続いた選挙戦では900人近い死者が出たとされています。その中でもレゲエを好きな人たちの間で有名な出来事は、一連の過激になりすぎた政情を平和に戻そうと企画された「ワンラブ・ピース・コンサート」です。1978年、マイケル・マンリー(PLP/人民国家党)、エドワード・シアガ(JLP/労働党)とボブ・マーリィがひとつのステージに上がり、手を取り合いましたが、その後も全てが平穏になった訳ではなく、ジャマイカの選挙は死者が出るという悪評が経つことになったわけです。

その5年周期の選挙予定から行くと2012年に総選挙が予定されていました。が10月に突然JLP(労働党)の党首でありジャマイカの首相になった39才のアンドリュー・ホルネスが2011年12月の1週を超えてから選挙投票日を年末の12月29日に、そして立候補日を12月12日という告知をしました。これにより年末予定されていた多くのイベントがキャンセルや延期になったのは言うまでもなく、ジャマイカの経済に大きな影響を与えましたが、あまりに急な選挙日の告知に国民の驚きは大きなものでした。
このスピード選挙の結果から言うと、5年ぶりにPNPが政権を奪回し、しかも議席数はPNPが42に対しJLPは21という圧勝に終わり、18年ぶりに政権を奪回したJLPがあっさり政権を取られるという結果に終わりました。
今回PNPが圧勝したと思われる原因について私が考えるには
1.JLP(労働党)に変わって以来いろいろな税金が増税され庶民が窮地に立たされた。
2.小規模経営者に対する税金がふえ、いろんな店が倒産した。
3.したがって雇用率が下がり、失業者が増えた
4.警察関係の不祥事が改められ、あらゆる裏金が通用しなくなった。
5.あらゆるダンスやショウを取しまり夜1時以降のダンスやショウには警察がやってきて中止になる
などなどで、PNP(人民国家党)からJLP(労働党)に政権が替わったが国民の期待に沿う結果が出せず庶民の票を確保することができなかったというところにあるようです。

しかし5年に一度行われる選挙のたびに、今までなら毎回両政党の陣地境界線では激しいガン・バトルや無実な人々を襲うドライブ・シューティングがありましたが、今回は全く起こりませんでした。結果的には負けたJLP(労働党)ですが、歴史的にこれほど穏やかな選挙が出来たという点で、ジャマイカ史上最年少首相のアンドリュー・ホールネスとJLP(労働党)にかなりの手腕があるということを世間に認めさせたことは言うまでもありません。
この選挙のスケジュールにより様々なパーティーやショウが自粛されました。なぜならその会場で政治絡みの事故や争いごとが起こることを懸念した為です。ゲットーで行われるストリート・ダンスのほとんどが年末なのに、自粛または12時を超えた時点(普段は朝4時くらいまで行われる)で警察が来て中止させられ、毎年行われるビックダンス、例えば12月の2週目の週末に行われるストーン・ラブのアニバーサリーが中止されたり、年末主催を決めていたシャギーのチャリティー・ダンスは日程を年始に動かしたりしました。しかし12月24日から27日までのクリスマス連休は政府が選挙にとらわれず楽しんでもらいたいというコメントを発表していたので、25日ブラック・リバーのレゲエ・バッシュや26日のスティングは例年通り行われました。
実は、今回の選挙は年末を楽しみにやって来る日本人観光客の皆さんもダンスやショウが無くなりがっかりした人たちもいるとは思いますが、何の事故も無く選挙が無事に終わったということを考えると、本当にジャマイカにとってものすごい進歩であると痛感しました。20年後に先進国の仲間入りを目指しているというジャマイカですが、国自体がもの凄い赤字国家であり国民の大多数が所得税どころか水道代や電気代も払わず生活しています。JLP(労働党)がこの5年間にやった増税や水道・電気などの窃盗禁止(ジャマイカ人にとって当たり前の行為)なのですが、ゲットーの人々にはやはり厳しかったようで、そのへんが今回の選挙にはかなり響いたと思われます。今回政権を奪回したPNP(自由党)ですが、さて5年後は国民の期待に添えることが出来るのでしょうかね・・・

(とちの淳)Sister Chinの名前でジャマイカ・キングストンでゲストハウス 
「ラブリッシュ」を経営。ジャマイカのガイド・ブック「JAMAICA BOOK」を執筆。