Text by Shizuo Ishii(石井志津男)
2014年4月にRiddimOnlineに掲載された記事です。
ビティ・マクリーンと初めて会ったのが90年代の中頃。バーミンガムのUB40のスタジオを借りて、エンジニアのジェリー・パーチメントやベースのアール・ファルコナー達のプロデュースでThriller Uのレコーディングをしていた時に、コーラスで参加してくれたのがビティだった。それからはアルバムを日本で出さないかと電話をくれたり、キングストンのMixing Labスタジオでバッタリ会ったりなんてこともあったが、その後ちょっと疎遠になっていた。
だが2004年、突然『On Bond Street』をレコード店で見つけてどうしても出したいと思って電話したが、その番号は既に使われていなかった。結局Peckings Recordsのクリス経由でビティと久々に話し『On Bond Street』を発売した。その後も、代官山UNITでLive をやったり、MOOMINの曲に2度もプロデュースを頼んだ。スライ&ロビーと来日してCotton Club でやった素晴らしいLiveもチェックした。2年前にはオフィスにも来てくれた。
そうだ、『Ruffn’ Tuff』のサントラには全英チャートで3位になった記念すべきデビュー・シングル曲「It Keeps Rainin'」を使用させてもらったり、311のチャリティー・チューン「This Moment」にも喜んで参加してくれた。こう考えると彼との関係もかなり深い。20年近いつきあいの中で、彼の音楽同様いつもビティの人柄の良さを確認してきた。
では来日直前、ビティにSkypeでインタヴュー。
●この3ヶ月くらいは、ほとんど毎日メールをやり取りしているけど、今日はSkypeだね。
B:だから今日は髪の毛を切ったよ(笑)。
●おー、いいね!! 久しぶり。じゃあ、さっそくインタヴューするね。先ずSilent Riverっていうのはビティのレーベルなの?
Bitty McLean (以下、B):Silent Riverはプロダクションとレーベルの名前なのかな。2006年からスライ&ロビーと一緒に曲を作る様になって彼らのTaxiレーベル、僕のレーベルがSilent Riverって感じだからプロダクションの名前だね。
●それはゲイレッツの曲の「Silent River」から来ているの?
B:あっ、それは違うんだ。その曲ならもちろん知ってるよ。ジュディ・モワットがいたグループだよね。僕の息子の名前が、実はナイル川から取ってナイルっていうんだけど、それでSilent Riverにしたんだよ。
●名盤『On Bond Street』について聞きますが、これは今は存在しないトミー・マクック&スーパーソニックスの演奏にビティが歌っていますが、どのようにしてレコーディングをしましたか?これらのトラックは、マルチ・テープから?それともアナログ盤から?
B:いやいや、マルチ・トラックじゃないよ。ほとんどは7インチのレコードからで、僕は18歳の時からTresure IsleのCDを集めていたし、僕の父は、バーミンガムでサウンド・システムを持っていたから、いくつかは父のコレクションの中から使うことができたんだ。例えばJoya Landisの「Moonlight Lover」、Alton Ellisの「Rocksteady」とかはレコードだよ。レコードとCDからで、テープはないよ。それらをサンプリングして、編集して、ループさせて、リディムをくっつけて、オルガンやホーンをオーバーダブしてフローが出るようにしたんだ。
●それでは、今度のアルバム『Taxi Sessions』と前の『Movin’ On』はスライ&ロビーとの仕事ですが、このきっかけは?
B:この2枚を出すずっと前の1995年なんだけど、ジャマイカでレコーディングをしたことがあったんだ。『On Bond Street』がヒットしてからというもの、僕の名前もスライ&ロビーに知られる様になって、しばらく会ってなかったけどまた僕と仕事をしたいと言ってきてくれたんだ。たしか2006年にはPeckingsとも仕事をしなくなってきていて、やらなければならない全ての問題も終わった時だったから、それでスライ&ロビーと仕事をすることにしたんだ。スライがデニス・ブラウンの「Hold On To What You've Got」のリディムを送ってきてくれて、僕が「The Real Thing」のボイシングを入れてって感じでね。
スライ&ロビーは、それからもリディムを送ってきてくれるようになって、一緒に録る様になったってわけさ。2008年には、ジャマイカにも行ってレコーディングをしてそれが収録されたのが2009年に出たアルバム『Movin' On』というわけだ。2010年になって、またジャマイカに行って新しいリディム・トラックでレコーディングをした。だから2009年からスライ&ロビーとずっとレコーディングし続けてきたコレクションを去年の9月にリリースしたって感じだね。それが『Taxi Sessions』になるんだけどね。
●今回でスライ&ロビーとのアルバムは2枚目だね。
B:そうだけど、またアルバムを出す予定でスライ&ロビーと3枚目のアルバム制作にとりかかっているんだ。
●いつもどのようにレコーディングしているのかな?
B:『Movin’ On』のアルバムには80年代のスライ&ロビーのリディム・トラックを混ぜたんだ。「The Real Thing」、「Plead My Cause」、「Let Them Talk」、「Daddy's Home」、「One Of A Kind」などはスライ&ロビーの80年代のクラシックなリディムトラックで、グレゴリー・アイザックスやジュニア・デルガド、デニス・ブラウン等も歌っていたトラック。これらは80年代のラバダブ・ミュージックの観点からみて僕はとても重要だと思っていて、単純に新しいアルバムを作るよりはオールドスクールな80年代のスライ&ロビーのクラシック・リディムを使って、そこに新しい歌をレコーディングするというミックスした物をやろうと思ったんだ。そうは言ってもジャマイカに行った時には、全て新しいリディムで新しい歌をセッションしながら録ってるんだけどね。
●では新しい『Taxi Sessions』について聞きたいんだけど、この中の「In and Out Of Love」という曲はBittyとStepperという二人の名前のクレジットがありますがこのStepperとは誰のことなの?
B: Stepperはフランスのサックス・プレーヤーでTaxi Gangとしてスライ&ロビーとは10年近くツアーをしたり仕事をしていると思うよ。彼は『Stepper Takes The Taxi』というアルバムを出していて、彼も僕と同じ様なコンセプトを持っていて80年代のスライ&ロビーのオリジナル・トラックを使っているんだ。だから「In and Out…」のリディム・トラックにをボイス入れてStepperに送ってこの曲ができたんだよ。
●このアルバムの中でも大好きな1曲だけど「Step Closer」がボーナス曲としてクレジットされてるよね、これはなぜ?
B:それは新しいセッションの曲だからなんだ。80年代のクラシックなリディムではないからさ。ほとんどの『Taxi Sessions』の曲はスタンダードなスライ&ロビーのリディム・トラックで、例えばブラック・ウフルの「Shine Eye Gal」を「Running Over」でボイスしたり、デニス・ブラウンの「Revolution」を「Blessings」でボイスしたりね。だからほとんどのリディム・トラックは80年代のスライ&ロビーのものなんだけど、「Step Closer」は2009年にジャマイカに行った時に、ちょうどスライがスタジオでこのリディムを演奏して、たしかディーン・フレイザーがインストゥルメンタルをやってくれて、僕がスライにそのリディムをくれないか?と言ってボイスを入れたんだ。だから「Step Closer」は新しい曲なんだよね。2011年にUKでは7インチでリリースしていたから、今回の『Taxi Sessions』のアルバムには新しいわけではないから、CDにだけボーナスとして入れてるけどレコードには「Step Closer」は収録されてないんだよ。
●では今回いっしょに来るRicky Mckayとは前回も来日していますが、彼とはバーミンガム時代からの知り合いですか?
B:彼は僕のエージェントでバーミンガムで活動してます。僕のツアーの時はいつも一緒だし、David Rodigan(イギリスを代表するレゲエ・ラジオDJ/サウンド・システム・セレクター)のエージェントもやっていますし、Mighty Crownがヨーロッパをツアーする時もやっていると思う。彼は20年くらいブッキング・エージェントとしてこの世界でビジネスをしている男で、僕のツアー・マネジャーでもある。だからRickyは僕のブッキングなどをしてくれるパーソナルなアシスタントです。
●「Running Over」で共作のクレジットがある F. Mcleanとは誰ですか?ビティのファミリー?
B:いやいや、それはレゲエ・シンガーFreddie Mckayの本名だよ。Freddie Mcleanっていうんだ。
●そうか、カヴァー曲のアレンジなんだ。ひょっとしたら親戚とか?(笑)
B:分からないね。Freddie Mckayは80年代に亡くなっているから僕には分からないけど可能性はあるかもね?ひょっとしたら従兄弟の叔父さんっだったりしてね(笑)。それを言うなら、僕の母の旧姓はReidだったから、もしかしたらDuke Reidのファミリーと関係があったかもしれないしね、まあ分からないけどね(笑)。
●先日BBCのRodiganの番組にビティが出演したインタヴューをアーカイブで聞きいたよ。
B:グッド! BBCはスタジオが新しくなって、初めてそこに行ったんだけど素晴らしいスタジオでした。Rodiganはレゲエ界でメジャーなラジオ番組を持っている人の1人だよ。未だにRodiganが活躍している事がとても嬉しいね。
●ではビティはイギリスで産まれたんだから、ソウルシンガーになる道を選ぶことだってできたはずだけど、なぜレゲエ・シンガーを選ぶことになったんだい?
B:僕はバーミンガム生まれだけど、両親はジャマイカから来ました。そう言われれば、確かに僕はソウルやR&Bも沢山聞いて育ったけど、正直に言って僕の大好きな音楽がレゲエだからね。僕はレゲエの持つフィーリングが大好きなんだ。だからトミー・マクック、グラディ、ジャッキー・ミットゥーを聞いて育ったんだよ。ジャマイカから届く音楽に、それはそれはとても影響を受けて、僕にはすごく自然に伝わりやすかった。だからレゲエを、ロックステディを選んだんだ。もちろんジャズやソウルも大好きなんだけど、どうしてだろう?たぶんジャマイカはとても小さな島なのにレゲエの影響は世界に拡大していて、ポジティブでその音楽の素晴らしさを表現しているし、彼らの苦悩や逆境から来る音楽は今や世界中で知られていて、あんなに小さな島国からユニバーサルな音楽が生まれているからね。僕はレゲエを愛しているんだ。
●では、いよいよ来日も近くなったね。Home Grownとは以前もプレイしているね。
B:Yes!、2012年に一度プレイしているので今度が2回目だよ。彼らはとてもプロフェッショナルだよ。リハーサルでいえば、まだ曲を覚えながらの段階のバンドもあったりするけど、Home Grownは完璧に覚えてくるのでとても簡単にリハーサルが出来る。古い曲のアレンジもよく知っているし、Home Grownみたいなプロフェッショナルのバンドはアーティストにはとても助かるんだ。Nuff Respect to Home Grown。とても才能のあるミュージシャンが集まっていると思います。
●では期待している今度の来日だけど、どのようなショーになるのかな?
B:それは一言で言ったら“音楽の旅”になるよ。僕が初めてレコーディングをした90年代からすでにそこにはOldとNewのヴァイブが存在していた。スカ、ロックステディ、ラバダブ、ルーツミュージック、そういったジャマイカの色々な時代の特別素晴らしいモノと、今度のアルバムからの新しい曲もみんなに見せることになります。だからジャマイカの全ての時代の音楽を堪能出来る“旅”になるんだ。
●それはスッゴく楽しみだね!何か最後にありますか?
B:僕もまた日本でみんなにお会い出来るのを楽しみにしています。Home Grownとのライブも楽しみだけど、僕はサウンド・システムでのクラブ・ショウも大好きで、そういうライブを何度もやってきているので楽しみにしてください。小さいクラブでみんなの顔が見える位置でやれるのはとても素晴らしいと思っているよ。だからまた日本で色々な経験が出来るのを楽しみです。全てのレゲエ・サポーターにリスペクト。あとECにも、この機会を作ってくれてありがとう!
Bittyの来日情報は
https://www.facebook.com/events/295786257235115/?fref=ts