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石井志津男のジャマイカ写真展「Tail of Riddim」開催!

 
   

Text by 有太マン

いつか一度お願いしたいと伝えてきた石井”EC”志津男さんインタビューが、ひょんなことで実現した。石井さんの撮ってきた、レゲエの世界のレジェンドたちの写真展「Tail of Riddim」が4/6(土)より、埼玉県蕨市・D.F.ROOMにて開催される。
 Riddim Onlineの更新が止まり、定期的に執筆させていただく機会もなくなっていたが、かねてより石井さんの見てきた風景、培ってきた人間関係、重ねてきた経験をかたちに残させて欲しい。その役割が僕じゃないとしても、誰かが必須でやるべきだということは重ね重ねお伝えしてきた。これは自分以外の、それこそ濃厚な諸先輩がたの口からも聞くことであり、文化の未来のためやらねばならないことという確信はある。
 とはいえ今回、いつも「オレの話なんて」「特別なことなんかないから」と謙虚な姿勢を崩さない石井さんのお話を伺えたのは20分ほど。
 ポイントの一つは、こういった話が特別でないとして、自分を含め、必死に「背伸びして”特別なこと”を探している」人々はどうすれば?ということ。もう一つには、今後改めてお話を聞くことに繋がる、その最初の一歩となることを願いつつ。

●今回の写真展では、どんな写真が見れるのでしょうか?

石井(以下、EC):(オーガスタス)パブロも入ってるしキング・タビーもいるんだけど、オレはカメラマンでもないから、言い訳が必要なわけ。今回、それを書いてもらいたかったんだよね。

●とはいえ、当時のジャマイカで必要な身のこなしみたいなものを阿吽の呼吸で共有できるカメラマンさんて、そこまでいなかったんじゃないでしょうか。だから、おのずと消去法で石井さんが撮らざるをえなかった。

EC:オレは、誰だかわからない人を撮っているわけじゃないからね。
 写真を引っ張り出してみるとさ、かなりの割合でみんな笑ってるんだよ。まあ初対面も一応いるし、パブロやニンジャマンはほとんど笑わないヤツらだけど、でもほとんどが気は許してくれている。

●石井さんはパトワも英語もできないのに。

EC:できない(笑)。でもとりあえず、「あなたの敵じゃないですよ」みたいなことは出てたんだと思うんだ。だから向こうも気を許して、こっちも写真が好きかと言えば、そりゃあ(セバスチャン・)サルガドとかが好きなわけで。

●マグナムの巨匠のお名前が(笑)。

EC:もちろん自分が好きな写真はあっても自分がそういうものを撮れるはずもないし、カメラマンじゃないから目的を持って撮りたいものを撮ってたわけじゃないからね。

●でも、その方々には会いたくて会いに行ってますよね?

EC:うん。それも1回じゃなくて複数回だったりする。カメラは持って行くけど、一人で行く時は失くするといけないから、ホテルに置きっ放しがほとんど。

 とはいえ何十回も行ってると持ち歩いてることもあるし、そういう中でたまたまレコーディングの最中にふと思いついてシャッターを1度だけ押した、そういうものがあるってことだね。
 お茶とかしていて「あ、今日はカメラあった」みたいな中で、一枚撮ってまたすぐしまっちゃうとか。それはやっぱりキングストンだから、カメラを盗られても、忘れても嫌だし。

●怒られたりしたことはない?

EC:一度もない。でも、危ないことはあったかも。「あいつ、怒るかもな」っていう。

 それはマックスフィールドっていうストリートで、バイクに乗ってる若いルードボーイたちがいたんだよね。たまたまクルマを停めて歩いてたら、塀の上に6、7人いて下に高そうなバイクに乗ってるやつが2人いて「絵になるな」と思って「撮っていいか?」って聞いたけど誰もニコリともせず返事もない、でも怒ってるわけじゃなさそうだから、撮った(笑)。
 そうしたら一緒にいたグラディが近くに来て「石井、やめろ」って言われて。それでやめたけど、別に向こうは怒ってなかったはずだよ。

●何人かいたし、ここでカメラを盗らてれも、お前の身に何か起きてもわからないぞって。

EC:その時は「知らない」人たちだからそういうことがあったけど、「撮るのをやめろ」って言われたことはなかったね。基本的には知り合いを撮ってるんだよ。

●ただ当時石井さんは、レゲエという文化のかなり中枢にいたという。

EC:そうでもないけどね、、たしかにまだレジェンド達がたくさん生きていたからね、キング・タビーとかウインストン・ライリーとかスタイル・スコットとか"タビー"ダイアモンドとか撃たれて死んじゃった。本当にかなりの人たちがもう死んじゃったんだよ。
 あとはRiddimっていう雑誌をやっていて、とはいえそのために撮ってたわけでもない。原稿を書いてくれるライターはいるけど、いつも圧倒的に写真がない。それでしょうがないから、記憶を辿って過去に撮ってたのを引っ張り出して、「ここをトリミングすればなんとか」みたいな、それを使ってた。80年代にOVERHEATからレコードやCDを出してた時、ほとんどがマスターテープしか届かなかった。"グラディ"アンダーソンみたいにアー写すら持ってないアーティストもほとんどだったから結局オレの撮った写真の出番だったね。競争がない(笑)。
 最初はネガで撮ってたんだけど、ネガなんかもうどこにもないんだよ、捨てちゃって。プロでもないしあんまり執着がないから、写真を焼くことすらしないで捨てちゃってる。本当に、無茶苦茶なんだよ。
 それで途中から、「ネガってメンドくせえ」ってカラーポジにしたわけ。そうしたら現像だけすれば、最低限何が写ってるかわかるからね。でもたまに、他の雑誌から「写真貸してくれ」とか、昔は貸すと返ってこなかったりするの。返ってきたのもあるけど、無頓着だった。そもそも普通のカメラマンはオリジナルは手元においてデュープを貸したりするんだけど、そんな知恵もないから、貸したまま(笑)。デジタル・カメラはもっとひどい。帰国してハードディスクに取り込んでもハードディスクがぶっ壊れて終了!

●ちゃんと管理もされず、長い年月、様々な状況に晒され、それでも生き延びた貴重な写真たち、、(笑)

EC:貴重かどうかは疑問。今「あぁ、あそこにいたんだな」という意味で貴重なだけで、社会的には全然だよね。

●でも、今これだけレゲエのドキュメンタリー映画みたいなものがかたちになりだして、そのさらに中枢の記録ですよね。

EC:今考えれば「もっと、ちゃんと撮ってればよかったな」という人たちはいるね。カメラを常に持ってればよかったかもしれないけど、カメラって一番邪魔なものなわけ。あんな街で、一人で毎日テープや書類、その日に支払うギャラをポケットに突っ込んでて、カメラマンじゃなければカメラは本当に持っていく最後のモノ。
 たまに持ってて、スタジオでスライ&ロビーがいても、オレのために気合い入れてやってるところを邪魔したくないしね。フラッシュなんかも気をつかうし、何度も会ってるうちにちょっと明るいところでたまたま撮ったとか、そういう写真。行くたびに36枚撮りのフィルムで何かしらは撮ってきたから、何千カットにはなってたんだよね。

●そういう中で、石井さんは大した写真じゃないと仰るかもしれませんが、振り返ってみて「これはさすがにいいんじゃない?」というポイントはありますか。

EC:それはシンプルに「記録だよね」。
 いい写真かどうかは微妙だけど、世界で考えれば30歳のパブロの姿を撮ってる人は色々いるはずだけど「オレも撮ってるんだ」程度だね。彼が死ぬ直前の3ヶ月前にも撮ってるんだけど、その時はもうボロボロだもんね。今回は、その写真も出す。本人はちょっと嫌がるかもしれないなと考えたけど、撮らせてくれてるんだしオレにとっては「そっちの方がリアルだな」って。あいつは45歳の若さで死んじゃった。
 ミュージックワークスってスタジオはセキュリティもしっかりしていて安全だから、カメラを持って行くことが多かった。そこにはレコーディング・ブースが3つあって、オレはロビーみたいなところに一人で座っていたらパブロが片足を引き摺って歩いてきた。
 「なんだよ、具合悪いの?」ってびっくりして一緒に通路を歩いたんだけど、コーナーを曲がったら、そっちにはジャマイカ人がいたんだ。そうしたらちゃんと歩くんだよ。弱いところはオレにだけ見せて、そういうのを見ると、撮りたくなる。そのストーリーは写真には写らないんだけど、でも撮りたくなる。わかるでしょう?(笑)
 それは、オレにはわかりえない彼のプライドなんだろうけど、オレには見せたという貴重な記憶なの。「これが強がってた日のパブロだ」っていう。

●そういったお話は、会場に石井さんがいるタイミングで、直接撮った本人の口から聞けるんでしょうか。

EC:もちろん!ヒマな老人ですから、会場にもなるべくいたいと思っています。それから、カメラマンじゃないから、それぞれ写真に短い文章で説明を添えようと思ってるんだ。オレの写真は説明があってやっと成立するんだよ(笑)。
 販売もします。会場はオレの地元で長くパンクバンドをやってるオーミ君というのが始めたカフェっていうかバーみたいなところなんだけど、無料で貸してくれるっていうから「少しは返せるようにしなきゃ」って。それで写真をスケボーに貼ったり、IKEAの安いフレームに入れたりアーティストごっこしてるんだ。ペラペラのままよりはマシだろうって程度で、あらゆる面から写真展とは言えない。れっきとしたカメラマンには謝らなきゃね。スライ&ロビーの写真なんてカラーコピーにサインを貰ってあったのをもう一度iPhoneで撮ってプリントしてます。この方がミーハーのオレの作品らしいから。

●ミーハーというには、あまりにホンモノ筋な方々が被写体です。

EC:人によっては何度も撮ってるんだ。グレゴリー・アイザックスなんかは、引っ張り出したら結構何回も撮ってたね。スナップだからかなりの確率で相手が笑ってるのが多いんだ。本当は菊池昇さんの写真みたいにグッと構えてくれてる写真だったら格好いいんだけどね。「並べたらダルいかな?」とも思いつつ、「今までの全部が恥みたいなもんだから、それもいいかな」って。今月79歳、まだ恥をかきますってことかな。

オープニング:4月6日(土) 16時から
ゲストDJ : Tommy Far East 他 有志

写真展:Tail of Riddim
撮影:石井志津男
会場:D.F.ROOM わらび市中央1−9−8(駅から3分)
開催日時:2024年4月6日(土)〜28日(日)
通常のオープンタイム:11:30-14:00. 19:00-23:00(クローズ:日、月)