MUSIC

RANKIN TAXI

 
   

Interview by Norie Okabe(岡部徳江)

2015年3月にRiddimOnlineに掲載された記事です。

レゲエにハマって30余年。2014年、自ら運営するサウンドシステムTAXI Hi-Fiの30周年を迎えた“いい音を作るいい男”RANKIN TAXIが、遂に10枚目となるアルバムを完成させた。全国津々浦々のライブ会場でみんなを笑顔にさせているあの名曲「CCPP」も初CD化として収録。鋭い視点とあたたかい心、立ち向かう力、愛する力、その人間性が透けて見える素晴らしい内容。RANKIN TAXIがますます大好きになる全14曲のラフガイドです。

●前作『死ぬまで生きる』が2007年リリースなので、8年ぶりのアルバムですか。

RANKIN TAXI(以下、R):そうなんだよ。還暦アルバムを出すといって2年遅れちゃったね。もう62歳ですから。

●8年となると、その間いろいろあったでしょうね。

R:まぁ、サボってるだけですけどね。お袋が亡くなって、親父が亡くなって、プロダクションを自分で引き受けたりとか。いろいろ勉強になりました。

●2年前に出す予定だったということは、その前から作っていたということですか?

R:アイデアはずっとあったね。でも、追い詰めてくれる人がいないとまとまらないからさ。いつまでも空想にふけっちゃう。俺は、言われないことはやらない。言われたことをしっかりやる。だから3日後にプリプロしようとか、スケジュールを立ててくれる人が必要なんだけど、ここ数年そういう人がいなかったからさ。自分でやることにしました。好きで好きでたまらないからどんどん作っていくってのもありだけど、自分を少しずつ追いつめて作っていくっていう。そのくらいだらしなくてもいいかなと思ってさ。音楽まわりにノイズがあるからおもしろいってのもあるしね。ノイズっていうのは、よけいなことって意味だけど、たとえば親父の見舞いに行くとかさ、生活に追われたりとか、言い訳ができるってことなんだけど。

●そういう中から生まれたのが今回のアルバム。

R:この何年間考えていたことだね。生きるってのは楽しむことと戦うこと。お酒、セックス、音楽。それと政治。両方あってこそのもの。どちらかだけじゃダメなんだ。言ってみれば、「政治」と「性事」。そういうアルバムになってしまいました。

●東日本大震災があった2011年以降の歌は、特に政治ネタが目立ったように感じました。

R:そのときの関心事を歌にしていくというのは前から変わらないことだけどね。内容はあくまでそのときのひらめきなんだけど、特に原発関係は自然と出てきちゃうよね。でも、説教くさいことは似合わないからさ。いくらコーティングしても聞くほうも嫌になっちゃうだろうし、エンターテイメントとして成り立たせたいですね。といって、直接的なメッセージも必要。切り込んでいくようなストレートパンチがないと。

●RANKINさんの曲は、最終的に「楽しくやろうぜ」とか、「みんなで生きていこうぜ」っていうポジティブなところに辿り着くんですよね。

R:やっぱり聞いていて、元気が出るとか、勇気が湧いて来るとか、笑えるとか、そういうポジティブな感情が胸に湧きあがってくることが大事だと思うんだよね。

●リリックを書くときは、そこを意識するんですか?

R:がーっと勢いで書いているときは、そんなこと考えないけど、直すときに意識するよね。見直してみて、つまんねえなって感じたら手を加えていく。風営法のことを歌った「FIRE ROCK」とかも、ああいう歌は3分くらいでまとめるのがいいのかなって。やっぱり7インチに入るサイズだよ、長いとだれちゃう。レゲエ的には30秒とか1分が勝負。そういうふうに考えて作っているつもり。そのへんの短距離的な集約力、ジャンプ力が足りなかったかもしれないな。年だね(笑)

●そんな(笑)。フックがあって聞き応えがある曲ばかりです。

R:そういういやらしい作戦を立てるのはうまいの。それは自分でもわかる(笑)。基本いい人だから、いい歌にするんだけど、運動神経がいいなっていう曲を作りたい。

●「FIRE ROCK」は、そう感じました。

R:もう少し弾みたかったんだけどさ。これは、オリジナルの「REAL ROCK」(リディム)とBPMが一緒なんだけど、ああいうブレイクビーツ風にすると同じBPMでも重たくなるんだな。スタジオワンのほうが弾んで聞こえるんだよ。「FIRE ROCK」は言うならヘヴィロックだね。不思議なもんだな。

●この曲では、「俺の逆鱗に触れてるぜ」と怒ってます。

R:“いつも心にFuck Police!”ですね。風営法に関しては、俺は議員会館に行ったりっていう政治的な動きはできてないけど、こういう意見なんだっていう心持を歌で表現しよう、と。“このクソオヤジ! バカヤロウ!”って言いたかったんだよ。そこは昔からずっと変わらない。転がる石は丸くなるっていうけど、あのオヤジたちを見ているととても丸くなれないな。人によるだろうけどさ、ダメだなって思っちゃう。だから、こいつらは俺たちのことをクソオヤジって思ってるんだなってヤツらにちゃんとわからせないと。

●「なんてったってマリファナ」も同じリディムですね。今更な質問ですけど、そもそもRANKINさんがマリファナのことを歌うのは、どんな思いからですか?

R:今の日本社会のすべての仕組みの中に、アメリカという国が潜んでいるわけで。大麻取締法もその1つで、つまり騙されている、操作されているってこと。その構造をひっぺがしていくと、日本政府の言っていたことが全部ひっくり返っちゃう。嘘をつき続けているわけだからさ。それを暴いて見せていって逆鱗に触れるってことが一番いいんだ。毒を塗りこむってことですね。すべてのところにアメリカの黒い影が潜んでいて、奴隷のように従属している官僚や政治家がいるってことをちゃんと言っていかないといけない。どんなアートのジャンルでも、気づいた人がどんどん言うようにしないと。それがバビロンを打ち倒す、自由を勝ち取る道だと思うからね。

●「誇り高く生きるために Pt.1」でも、“大好きで大嫌いなアメリカ”と歌われてますね。

R:6年前にPlatinum(Entertainment)から出したものだね。当時、大学生とか相撲とりが大麻で捕まってさ、“大麻汚染”って言葉があふれていたでしょ。それはないぞ!ってことで歌にしようと思ったんだけど、メジャーから出る作品だから難しい、と。で、いろいろ考えて日米関係を歌うってところに辿り着いた。大麻の歌だとレゲエ的にはわかりやすいと思ったけど、逆によけい危険な歌になったという。

●原発関連だと、(フロリダをベースにしている)South Rakkas Crewのリディム“Clappas”に乗せた「4号機がつぶれたらorz」、E-mura氏とMoofireさんのプロデュースでシンガーRICOさんを迎えた「ボンボオヤジ」があって。どちらもキレのあるダンスホールに鋭いメッセージが切り込まれたパンチのある曲ですね。「愛の賠償責任」もパンチラインが満載。“プロポーズしようとしたその日/原発が爆発したよ”から始まるという。

R:ギターのNodatinを訪ねて沖縄に行ったとき、そこで出会ったシングルマザーに一目惚れしちゃったの(笑)。子どもを連れて関東から引っ越してきていたんだけどね、何をしてあげられるわけじゃないんだけど、歌を作ろう、と。内容はもちろん妄想です。

●“酒代は東電につけといた”という叫びが好きです。

R:ある意味ナンセンスな話。だって酒代で済むような話じゃないんだから。誰かを憎むような歌にはしないほうがいいと思ったの。その気になって怒っちゃうと、暴力に訴えちゃったりして、ゴルゴ13でも送りこむぞ!みたいな気になっちゃう(笑)。結局悪いのは、選挙に行かない奴とか、奴隷になってる奴らなんだけどね。

●Nodatinさんの哀愁あるギターが素晴らしいですね。RAN-TINのアコースティック・ライブでもお馴染みの曲。

R:RAN-TINのときはNodatinのギターだけで歌うわけだけど、それなりに責任が重いよね。声もメッセージも届かせないといけない。これだけ声がはっきりしているのに中身がわかんないじゃ寂しいからさ。ここ数年で、かなり鍛えられたと思います。レコーディングもNodatinが住む熊本に泊り込みで行ったりしてね、今回いろいろな曲で力になってもらいましたね。感謝してます。

●カホンとカスタネットでNodatinさんの息子さんのSeaiくんが参加していますね。

R:このためにカスタネットを買ってあげたんだよ。ラテン系で有名なLPという会社のもの。いい音してるよね。この曲は、アフロ・ペルーというスタイルでさ。ペルーはもともとスペイン系の文化だけど、そこにアフリカ系の血が流れ込んできて生まれたスタイルみたい。カホンはペルーが発祥地。そこにスペインの楽器、カスタネットが入って、手拍子はフラメンコ。あとギターと歌。3拍子だけど、6/8拍子のアフリカ的な捉え方だね。ペルーの下町酒場で歌っているオヤジたちの歌を録音した『La Gran Reunion /Cristal Herido』というコンピレーションがあるんだけど、ヤバいんだ、これが。むちゃくちゃかっこいい。そこからヒントを得て、Nodatinに“こういうのがやりたい”と。パーカッショニストMAHTOにもコンガで入ってもらって、なかなかいい仕上がりになりました。

●「イタプアンの娘」は、ブロコ・バハベントと組んだサンバ・ヘギ。ド迫力の太鼓隊にIcchieさんのふくよかなトロンボーンが乗って、たまらなくかっこいい。これはやはり、2011年に出かけたブラジルがきっかけになっているのですか?

R:そうだね。カーニヴァルでサンバのリズムを聞いていたら、これは昔、クリーヴィーが叩いたミリタリー・リズム(軍楽隊のリズム)とほとんど同じじゃないか、と。スティーリーのベースラインにも共通するものがあった。それで何か一緒にやってみたい、と。サルヴァドールにいた写真家の北村欧介さんを通じて、現地でブロコ・バハベントのシマケンさんに会えてね。そのあと日本に帰ってからレコーディングの話を進めた感じです。

●「悲しきパーリータイム」は、“Party time”のリディムがボサノヴァにアレンジされていますね。Techaan氏のフルートが美しくて、今作では異色とも言えるメロウな仕上がり。

R:切なく作ってみました。ふとボサノヴァでやってみたいってひらめいて、Nodatinに相談したら、仕上がりがあまりにも素敵でね。最初は、“ロレツがあやしい”っていう酔っ払いの歌にしようと思ってたんだけど(笑)。やめて恋の歌にしました。これはやっぱり失恋だよな、「テネシーワルツ」だな、と。

●Home Grownと組んだ「ポジティブ100%」は、名曲「よろこびのうた」に通じる世界観でした。いいメッセージ、いい曲。元気になります。

R:チャンネル・ワンで有名な Freddy McKay 「Dance this ya Festival」のリズムをリメイクしたいってHome Grownにお願いしたの。完コピに近い形でお願いします、と。とにかくお客さんを持ち上げる歌として作ったんだよね。「HIGHEST MOUNTAIN」のイメージかな。この曲は、いつもの俺と雰囲気違うんだよ。もともと「忍たま乱太郎」の主題歌を替え歌にして歌ってたところに、そういうお題を持ってきて歌にしたわけだけど、ある意味ジャパレゲをやりたかったんだよね。歌って踊ってつながっているってことです。Home Grownはダブルミーニングだって分ってほしいね。

●前作からの8年が凝縮されたような濃厚な内容でした。

R:この8年のサンプラーだからね。それで『RUFF GUIDE TO...RANKIN TAXI』というタイトルになってるの。曲数多いけど、バリエーションあるし、キャラも立ってるから楽しんでもらえたらいいな、と。ジャケットはね、PUSHIMが点描で描いてくれたんだよ。Nodatinの家でBurning Spearのジャケを見て、「いいなぁ、俺もこういうのやりたいなぁ」って言ってたらPUSHIMに頼んでくれてさ。気持ちよく引き受けてくれて。ありがたいことです。

●RANKINさんはいつもアイデアにあふれていると聞くので、すでに次作の構想が浮かんでいたり?

R:やりたいことはあるよ、たくさん。ひらめきは大事だね。

●今でも聞いて刺激を受ける音楽、ドキドキワクワクする音楽はありますか?

R:古いレゲエだな。何度聞いてもいいね。スタジオ・ワン、トレジャー・アイルとかね。ヘンリー“ジョンジョ”ローズ、ジョー・ギブス、スティ・クリ……全部いい。どれもいいな。すごいなっていつも圧倒されながら、こんな気持ちのいい思いをあと何回できるんだろうって感じているよ。気持ちいいセックスをしたときとか、おいしいものを食べたときと一緒だね。あと何回こういう思いができるか、と。そういう感じ、レゲエに関しては。自分のアルバムは、あと1回出せればいいかなって感じかな。

●そんなこと言わないでください。

R:62歳か。まあでもアイデアが湧いてくればまだまだ作るっていうことだもんな。ダンサブルでいきたいと思うし。

●最後に、今一番言いたいことは?

R:戦争反対、音楽バンザイ、原発いらない、オッパイに乾杯。これに尽きますね、ハイ。