Interview by CB Ishii (石井洋介) Photo by EC
2017年1月にRiddimOnlineに掲載された記事です。
LAの良識派ヒップホップ・グループDilated PeoplesのMC、Rakaa Iriscienceが日本にいるのをinstagramで発見、久しぶりに東京で会うことになった。14年には『Directors Of Photography』を8年ぶりにリリースしているリリシストRakaaへのインタヴュー。
●今回の来日の目的は何ですか?
Rakaa Iriscience(以下、R):Red Bull BC One World Finals Nagoya(ブレイクダンス・バトルのワールド・ファイナルが名古屋で開催された)のHost MCを務めるために来たよ。今は東京に帰ってきて友人と2日間ハングアウトしてるよ。
●そこではRakaaのショウもやったんですか?
R:いや、そこでは司会(MC)だけだよ。World Championshipsは毎年世界の都市を転々としながら行われていて、僕はヨハネスブルグ、モスクワ、パリ、あとはスケジュールの都合で行けなかったりもしたけどアメリカ国内の予選でもホノルルやテキサス、シカゴなどではホストMCを務めたよ。僕のMCに対するB-BOYからの評判が良いから、僕自身もMCを楽しめているし僕のショウがなくてもMCで会場を盛り上げたり一体化させる事はしてきたよ。
●RakaaのMCでコンテストなんて素晴らしいです! 最初はどこからそのオファーが来たのですか?
R:ドイツで働くRed Bullのイベントをコーディネートしている知人からオファーが来たよ。RazelやMasta AceなどもホストMCをやっていたんだけどRed Bullとしてはいつもと違った方法で異なるフレイバーを出したかったんだと思うよ。RazelもMasta AceもホストMCとしての実力は申し分ないけど、これは想像だけど僕がRock Steady Crew (American B-BOYing crew and hip hop group)の出身だからB-BOY達と直接やり取りが出来るし彼らB-BOYのパフォーマーと同じレベルでMCが出来るからじゃないかな。 南アフリカのヨハネスブルグが初めてだったんだけどそこから定期的に声がかかってるよ。普通ならDilated Peoplesとしてのスケジュールもあるからここまではやらないかもね。
●2017年はアムステルダムにも行くんでしたっけ?
R:Red Bull BC Oneはアムステルダムで開催されるんだけど既にRed Bullからブッキングのオファーが来ていて、たぶん行けると思うから今から楽しみだよ。
●年に1回なんですか?
R:世界中でエリアごとに予選があって年に1回「World Finals」が開催されてるよ。それぞれの勝ち残りが「World Finals」に出られるんだと思う。一昨日の名古屋でのバトルはとてもドラマティックだったよ。ファイナルは韓国のHong 10と日本のIsseiの二人のバトルだった。ベテランのHong 10はここまで2度のチャンピオンを達成していてBC One史上初の3度目に手をかけていた。一方のIsseiは日本期待の19歳のホープでジャッジ4人目までがHong 10とIsseiの2対2だった。そして5人目がIsseiをコールしたときIsseiは床に倒れこんで喜び、会場は大きな地鳴りがするほど盛り上がったよ。本当に素晴らしいバトルで美しいエネルギーが生まれた瞬間だった。もう一度見たいよ。
●話しは変わるけどここ(Riddimオフィス)から歩いて3分のところにRed Bull Studios TokyoがあってそこでこのCD(Dubforce)のレコーディングをしました。
R:このDubforceのロゴは誰がデザインしているの?見た事あるね。
●USUGROWだよ。Travis BarkerやTim Armstrong達のバンドTranplantsの「In a Warzone」のアルバムジャケットのアートもUSUGROWがやってるよ。
R:そうか!USUGROWのアートワークは素晴らしいね! 実はTransplantsの2枚目のアルバムの「Haunted Cities」では僕も1曲参加してるんだよ。
●Rakaaはグラフィティーもやっていたんですよね?今もグラフィティーをやってますか?
R:いや、たまにドローイングはしたりするけどもう最後にグラフィティーと呼べるのをやったのは3年くらい前かな。僕の奥さんがアーティストなのでペインティングを手伝ったりする時もあるし、アーティストの仲間も多いからアートショウのキュレーターをしている奴らのグループとも近いんだ。
●柔術にはなぜ興味を持ったんですか?
R:父がモハメド・アリとシュガー・レイ・レナードの試合をよく見ていたから小さい時からボクシング、テコンドー、拳法、マーシャルアーツなどに興味を持ったんだよね。ある時人を投げ飛ばしたりして遊ぶのが好きな友達がいきなり柔術を始めたって言い出したんだ。初めてUFCという大会が開催されたすぐ後にその彼が柔術のフリークラスに誘ってくれたのがきっかけだね。柔術の好きなところは基本的には全力を尽くすけど制御しながらやる攻防の技法なんだ。ボクシングやマーシャルアーツ等は本当に蹴ったり殴ったりが中心で、柔術だってもちろん相手を痛めつけるんだけど、痛めてもちょっとアクシデントって感じなんだ。僕はもう歳だからヴァイオレンスな事は好きではないし、柔術の方が僕の性格にも合ってるかな。
●そこにはあなたの音楽と共通する事はあるのでしょうか?
R:もちろんだね。相手との距離感、離れすぎてもダメだし近すぎてもダメだよね。距離感、呼吸、ペースをコントロールするから要するに作曲家と同じなんだ。ステージに立った時にそれらはとても重要で、何が起ってもおかしくない状況で、それらに対してきちんと反応しやり通さなくてはいけない。でもこれは人生にも共通するね。柔術は間合いがとても近い状態から始まる。近すぎると捉えられてしまうかもしれない、遠すぎれば触られないかもしれない。規律を守りながらもその中間にいる為には自分がどこに間合いを置くべきかを柔軟に考えていかなくてはいけない。そここそ僕がとても重要視している柔術の哲学だね。
●Rakaaのお父さんは牧師さんですよね?
R:そうだね、だから僕は牧師の息子だよ。僕の母は韓国から戦時中に養子としてやってきて、母を最初に養子として受け入れた人達も牧師。つまり教会の人だった。だから僕は父方の親も母方の親も牧師家系だったわけだ。その2つの家族が一時期同じ教会に所属していたことがあって僕の父と母は知り合ったんだよね。
●神は信じますか?
R:僕は宗教という物に関して全く興味はないけど、僕自身の中で解釈している神や本質はあるよ。バイブルを信じている人の多くは実はバイブルをきちんと読んではいない。牧師が指定したページを開いてそこだけを聞く。だからバイブル全ての背景には触れていない。だから僕にはそういう人達の考え方にはついていけないけど、理解をする様には努めているよ。でももちろん神を信じていて、僕が信じているよりもさらに崇高な力が存在することを信じているよ。
●教会では歌ったりしていましたか?
R:聖歌隊にも入っていたし、証言もしたし、たまには演劇もしたね。イースターやクリスマス等の行事があればなんでもやったよ。牧師の息子だったからドラムがいなくて急遽ドラムをやった時だってあったよ。ただビートを叩いていただけなんだけどね(笑)。
●その経験は今の自分の音楽の助けになりましたか?
R:そうだね、今この世の中で流れているポピュラーな音楽をとてもよく理解して、その良い部分を遡っていくとそれはゴスペルのサウンドであって、そのゴスペルはブルース、ジャズ、ロック等全ての物に分かれていくわけだけど、基本的にはブルースというのは、非宗教的な世界規模のゴスペル・ミュージックみたいなものなんだ。ゴスペルの根本的な部分は色々なところで違った形で耳にする事が出来る。だからそれらの経験は音楽を理解する上で役に立ったと思うよ。
●ヴァイオレンスなリリックもあったりするヒップホップを始めた事に対して両親はどう考えていたのでしょうか?
R:あくまで僕の個人的な解釈なんだけど、教会という組織は多くの場合は大きなビジネスだよね。僕は文字通り教会の人達と育ってきたから、租税回避をするミーティングやいくらお金が入ったという話しさえも耳にしていた。教会に通う人達がバス停でバスを待つ横を牧師さんはリムジンで登場するんだ。僕はそういった側面が好きではなかった。でもそこにいる一部の宗教家たちはとても自分たちに正直で本当に人間にとって何がベストなのかを身を削ってまで働いている。だから僕はヒップホップで宗教に関してネガティブな事は言ったことがない。「クリスチャンなのか?
とよく聞かれるんだけどジーザスはクリスチャンじゃなかったと僕は思うよ。ジーザスをフォローしている人達がクリスチャンであって、ジーザスはジーザスだったんだ。僕にジーザスみたいになってもらいたいというなら、僕はユダヤ人にならなくてはいけないのか?そこにはロジックがあってたまに腑に落ちないときがある。でも強調したいことはあなたにとってそれが上手くいくならそれがベストだという事。
質問の答えだけど、僕のリリックに対して両親は何も言わない。誰かをディスするようなリリックは書いていないし、人生を楽しんでいる。みんなとハイになったり旅行に出かけたり、ロックのショーへ行ったり、僕は世界の政治的なことや社会的な事も歌うし、それらの全てが僕の音楽に表現されている。僕の両親はヒップホップというものを知っていたし、マイクを握ってステージ上でやるものだから何をやっても良いと分かっていた。ステージに上がってナンセンスでゴミみたいな事を言って相手を傷つけることもできるし、人を勇気づけることも同じ1つのマイクで出来る。僕の両親は早い段階で僕がヒップホップに対して利益やお金や名声の為だけにやってるんじゃないってことが分かったんだと思う。
●ラップを始める影響を与えたものは何ですか?
R:僕は常にコミュニケーション、プロパガンダなどのどういった物が何をもたらすか?という事に興味を持っていて、教会で育ってきた僕は高校時代には人前でスピーチをすることに対して慣れていたんだ。でもそれとは別に最初はグラフィティー・アーティストだったんだ。それからDJをやり始め、そしてラッパーになった。当時の僕の周りの友達はそれらを少しずつかじっているのが普通だった。単純にその全てが好きだったんだよね。僕も当然興味があって個人的によく文章を書いていたし、ポエトリー・ワークショップにも参加していたから、ラップを始めた時に周りがパーティーの事を歌っていても僕はもう少し深く掘り下げたリリックを歌っていた。そんなことで僕は他のイベントにも誘われる様になり今に至るってことだね。だからラッパーになるなんて全く想像もしていなかったんだけどさ。ラップをした後にペインティングしに行ってっていうただ好きな事をやっていただけなんだ。でもある時から僕の気持ちを他人にきちんと伝えたいと思いはじめ、それをさらにクリエイティブな方法でやりたいと思う様になった。そしてこれは僕に与えられたギフトとして、この能力を無駄にせず努力を続けられたことに感謝しているよ。
●いくつかの曲でリリックにスケートボードが登場しますね?オーリーだったりクリスチャン・ホソイだったり。スケートはしていたんですか?
R:もちろんだよ。でも僕はスケートはクルーザーでしか滑れないよ。リリックでも”I could ride skateboards but I could never ollie (スケートには乗れるがオーリーは出来ねぇ)”って歌ってるからね、ハハハ。みんなはオーリーもキックフリップも出来るけどね。でも僕がクルーザーでスケートしていた頃は誰が襲って来るか分からない様な時代だったからスケートを持ってるていどの方が良かったんだよ(笑)。クリスチャン・ホソイ、トニー・ホーク、トニー・マグナッソン、スティーブ・ステッドハム、ゴンズ、ロブ・ロスコップ、ナタス・カウパス、ANIMAL CHINにPOWELL PERALTAのクレイジーな時代に乗ってたからリリックもややオールドスクールなワードが出てくるね。まあ僕のスケートのスキルは実力が元々ないから子供の時と全く変わらない、プッシュだけだね、ハハハ。今の僕は特にスケーター仲間はいないんだけどEvidenceはベニスに住んでいるからスケーターの仲間も多いと思うよ。
●今までDilated Peoplesに解散の危機はありましたか?
R:う~ん、まあそうだね、あまり良くない時期はもちろんあったと思うよ。僕とEvidenceは年齢が4〜5歳離れている。もう大人だからあまり関係ないけど、僕が19歳の時にEvidenceは15歳だったからもう弟みたいなもんだよね。だからEvidenceが大人になるのを待っている時期があったくらいでお互いの間には何も問題が起きた事はないかな。お互いにソロを出したけどソロを出す前に、ソロとしてもグループとしてもやっていけるかをお互い自問自答して答えを出しているから今も解散していないし、僕らファミリーはお互いの成功を祈っている。それにEvidenceは今もソロアルバムを制作中でスタジオに籠っているよ。僕らは元々ソロで活動していたわけだし、グループとして注目されてプレッシャーを抱える様になってからはDilated Peoplesをグループとして考える時とクルーとして考える時とをバランスを見て使い分けるようになったんだ。グループモードの時はステージで3ピースのユニットとして最高のパフォーマンスをして、クルーモードの時は今まさにそうなんだけど、さっきも触れたようにEvidenceのアルバム制作のためにスタジオにも一緒に入り、Evidenceのソロ・ツアーのブッキングを僕がやってるよ。クルーモードのときは各自が好きな事をやって僕はホストMCの仕事をしたり、Babuは色々な都市でDJしたりね。そこにエゴは全くないんだ。それに僕は結婚して今は子供もいるし、本音を言えば家族との時間を大切にしたいから沢山のツアーであまり家を離れることをしたくない。今までに世界中をまわってパーティーを盛り上げて楽しんできたし、本当に大事なギグだけに絞りたいね。
●最近でDilated Peoplesにいて良かったと感じた瞬間はいつですか?
R:それはこうやってインタビューをしてもらっている今だね! 昨晩渋谷のJBS BARの小林さんが閉店後にシャンペンを開けてくれたときもそう思ったかな、ハハハ。毎日感謝してるよ、当たり前だと思ったことはないからね。反面とてもハードにやってきたという自負もあるしね。アーティストは得点を競う様なスポーツ選手とは違ってとても主観的なもので好き嫌いがハッキリする。例えばChuck DやKRS-Oneが僕を誰だか知ってくれていたりとかクールだと言ってくれたりとか、以前であればレコード・レーベルが僕らに興味を持ってくれて僕らがネクストレベルに行ける可能性があると知らせてくれたり、それで十分満足だった。今は年を重ねるに連れて謙虚な気持ちは忘れずに、いつも感謝しているよ。みんながレコードを聴いて僕の言っている事に対して興味を持ってくれてショウに足を運んでくれて音楽を買ってくれるというその一つ一つに感謝しているよ。
●あなたにとってリアル・ヒップホップとはなんですか?
R:エネルギーを捉えたスナップ・ショットがあって、そのエネルギーが他に連鎖する瞬間かな。これらの全ての事は完ぺきなフレームの中で起っていて、そこにはスナップ・ショットがある。そこで起きているダンスやグラフィティ、クラブで回っているレコード、ラッパーが語っていること、それらをスナップ・ショットに収めて持ち出し、それを栽培して育てる。そのオリジナルのスナップ・ショットに敬意を表す感情がリアル・ヒップホップだと考えている。みんなそれぞれ何を見たか?何を経験したか?が違うけど単純にラップしたからと言ってそれがリアルなラップにはならない。根幹にあるものを理解し効果的な方法で表現し、それが同じエネルギーで反響し各々の経験の色に染まったものが僕にとってのリアル・ヒップホップだね。
●なぜみんなDilated Peoplesが好きなんでしょうか?
R:それは凄く興味深いことなんだけど、ある人達はDilated Peoplesがとてもポリティカルなグループだから好きだって言ってくれたり、葉っぱのことやクラブでのことを歌ったりもするからパーティー向けのグループだと言う人もいる。僕たちはLA出身のグループだけどもう少しユニバーサルな、少しイースト・コーストに近い音楽性もあるからユニークなヴァイブスがあるのかもしれないね。あとは音楽に対しての正直な気持ちを持ってエネルギーと時間をかけて作る底力。そして世界で聞かれている音楽と同じレベルの音作りにフォーカスしていることだと思う。
●今は何を聞いていますか?
R:最近は新しいA Tribe Called Questのアルバムを気に入って聞いているよ。普段はレゲエ、ダブ、ジャズ、ファンク、インスト物と何でも聞いているよ。僕と無関係でも流行っている曲を聴いてなぜヒットしているのか考えたりもするしね。
●これからミュージシャンやアーティストとして頑張ろうとしている人へのアドバイスは何かありますか?
R:音楽ビジネスの世界でとても重要だと思うのは、柔らかい粘土のような君を彼らは彼らがやりたい様な型に入れて作ろうとする。だから自分が何をしたいのかを理解しつつも偏見のない心を持っていないといけない。自分の意見も将来を見通せる力も持ち合わせていないといけない。自分の目指すところがしっかりしていて柔軟であることだね。それとこれから積極的に活動したいと思っている新しいアーティストに1つだけ言いたいのは、一般的にミュージック・ビジネスの世界の良い人達は根本的にパワーを持っていなくて、パワーを持っている人達はあまり良い人達ではない。だから心構えをしておいてネ、ハハハハ。