Interview by Yosuke ”CB” Ishii, Photo by Shizuo Ishii
2017年11月にRiddimOnlineに掲載された記事です。
昨年に続いてNeck FaceがWACKO MARIAのコレクションのために来日。
ガソリン缶を使ったオブジェなど今回の新作がデンジャラス。
●子供時代によくお化け屋敷を作っていたと聞きましたが?
Neckface(以下、N) : 僕が育った所はとてもつまらない寂びれた街で何もすることがなかったんだ。だが今では何もすることがなかったという事実に感謝しているんだ。僕は外にも出かけなかったし何もすることがなかった。だから家に籠っていつも絵を描いてた、一日中ね。覚えている記憶だと兄貴が家の中にお化け屋敷を作っていた。だから物心がついた頃のハロウィンは毎年家の中にお化け屋敷があるのが普通のことだったんだ。家を怪しくデコレーションして、僕たちは覆面をして、子供達を怖がらせてさ。兄貴、父、お母さん、叔母さん、従兄弟、もちろん僕もだ、みんなで家の前に覆面して座ったりミイラのように寝ているふりをして、誰かが前を通ろうものなら「ワァーッ!!」ってやってたんだ。だから毎年ハロウィンになると街中の人がウチに見に来るようになったんだよ。ハロウィンの日はみんなが仮装して街に出るだろ?小さい街だからハロウィンの最終地点がウチみたいな流れになってさ。だからハロウィンには毎年やってたんだ。大好きだったから、もちろんタダでね。お化け屋敷で育ったみたいなもんだよ(笑)。
●もう一つ子供時代にネズミを闘わせたエピソードもあるんだよね?
N : そいつは“Fight Rats”のことだ、OK。小さい頃に友達とスケートをしていてちょっと飽きて疲れたからってペットショップに入ったんだ。店内をウロウロしていたら店の奥の方からカリカリって音がしているから音の方に近づいていくと一匹だけ狂った様に殺気立ったネズミがいたんだ。そいつはケージの中にいる他のネズミを噛んでいて”うぉ~、こいつヤベェ!”ってすぐにみんなに知らせて、小銭を集めてそのクレイジーなネズミと他のケージに入っている普通のネズミの2匹を買ったんだ。すぐにそのペットショップの裏の駐車場にまわって小箱を用意して、その2匹を入れたんだ。そうしたら次の瞬間にクレイジーなネズミがもう一匹をガンガンど突きながら噛み殺しちゃって僕らは目を丸くしたんだ。”Oh!Shit!!コイツ頭を喰ってるぜ!!”って大興奮でね。でも僕たちはクソガキだったからそのままペットショップに戻って、店員に「さっき買ったネズミを同じ箱に入れたら共食いをしちゃって1匹死んだからもう要らない。お金返して!って返金してもらったんだよ(笑)。
●ははは、そりゃヤバいね。やっぱりホラー映画とか好きなんですか?
N : そうだね、大好きなんだと思うよ。なぜかというと子供の時に最初に覚えた感情が”恐怖”だからね。初めて熱いストーブを触ってしまった時の感覚を覚えてるから、今は触らないじゃない? ホラー映画にも同じような感情、つまり初めて味わう怖さが毎回あって、その感情は今でも記憶しているしね。だから「エルム街の悪夢」、「ハロウィン」、「13日の金曜日」などのクラシックな古いホラー映画が好きだよ。
●お化けは見た事がある?
N : 僕自身は見たことないよ。心霊体験は沢山聞いてけるけど存在しないとは思ってない。まだ僕には話しかけてきてくれてないね。話しかけられたら教えるよ(笑)。
●スケートとグラフィティーのどちらを先に始めたんですか?
N : スケートだよ。スケートがあるから今ここにこうしているんだ。僕はスケーターだから。それ以外は全部ボーナスだよ。例えば家で明日締め切りの絵を描いていたとしても、誰かからスケートの誘いの電話が来たらまずはスケートに行くよ。それで帰ってきてから続きをやる。僕はいつも”ブラシ(筆)を持つ前にデッキを持つ”って言ってるんだ。ペイントはやれる時にペイントをしているんだ。僕はスケーターだ。僕の全てのアティテュードはスケートだ、なぜならスケートには境界線がないから。スケートには誰かにこれをやれとかこれをするなとか指図が存在しない。楽しんでいれば何をやっても良いんだ。モンゴプッシュ(通常とは反対の足でプッシュすること)だろうがなんだろうが楽しんでいれば関係ない。それは僕のアートワークにも共通する。僕のことを絵が描けないとかスタイルが気持ち悪いとか言うけどそんなものは”Fuck you!”だ。これが僕のアートで、楽しんで描いているんだ。これがスケートのアティテュードだよ! 僕は死ぬまでスケートするよ。
●グラフィティにはどのようにのめり込んだのでしょうか?
N : 僕の兄貴たちがグラフィティーをやっていて、僕が5歳の時だけど、地元にマーカーやスプレー缶、レコードなどを売るグラフィティー・ショップがあって、そこの壁には誰が何を描いても良かったんだ。5人兄弟の僕らの面倒をみきれない母は、よくそこに僕らを置いていったんだ。もちろん最初はスプレーで”Fuck you”とかくだらないものを描くところから始まったんだけど、兄貴たちがいたからグラフィティー界のルールみたいなものも早い時期から知ることが出来たんだ。
●今までThrasher誌のカバーを飾ったアーティストはMark Gonzalesとあなたがいると思いますがどのような経緯でカバーを描くことになったんですか?
N : Thrasherの写真ではないアート・カバーは創刊号のKevin Thatcher、その後はRobert Williams、Pushead、Mark Gonzalesが描いて僕が2005年にやった。アートカバーはそれからは出てないね。僕は当時ニューヨークに住んでいたんだけどちょうど地元に帰ってきて、何もやる事がないから母にサンフランシスコまでドライブしてもらったんだ。サンフランシスコの色々なスポットでスケートをしながらあらゆる場所にササ~ッと描いて夜中の12時頃に地元へ戻ったんだ。そうしたらThrasher編集長のJake Phelpsが僕が描いたものをいくつも見つけたんだ。彼は僕がスケーターだということを知っていたから友達を通じてJakeから連絡が来たんだ。「明日Thrasherに来い!」ってね。Thrasherといえば僕が愛している雑誌だから興奮しながらJakeのオフィスに入ったらJakeは脚をテーブルの上に載せて待っていた。「お前スケートするのか?」って聞かれて”する”と答えたら、「アートもやるんだろ?お前左利きだろ?」って言ってきたんだ。”なんで分かるの?”って聞いたんだけどそれには答えなかったね。ただ僕にはすぐJakeが良い意味でクレイジーだって分かって、その後も他愛もない話をしてくるから、僕もクソみたいな話を色々したんだ。男の会話って言うのかな?そうしたらJakeからThrasherのカバーをやってみないか?って提案されて”マジかよ!!”って。
Thrasherは僕のバイブルだからもうこの場で僕を殺してくれても構わないと思ったね。それからJakeにサンフランシスコのCrocker Amazon Skateparkに連れて行かれて、Jakeは僕がスケートをしているのを見てたんだ。
●それはテストだね。
N : その通り! 僕が部屋に籠って絵だけ描いているアーティストじゃなくて本当にスケーターなのかを確認して、「よし、じゃあやろうぜ!」って。家に帰って早速カバー用のドローイングをやっつけてThrasherのオフィスにすぐ戻ったよ。Jakeと一緒に故Fausto Vitello(Thrasher、Juxtapozなどを出版するHigh Speed Productionsの設立者)に出来上がった絵を見せに行ったんだけど、Jakeはクレイジーだから僕とFaustoが向かい合って真剣な会話をしている最中にFaustoの後ろにまわってFaustoの背中で中指を立てたり、蹴りを入れるフリをしたり、、、僕には一世一代のチャンスだったからおいおいJake勘弁しろよって心臓が止まりそうだったよ。
そして、Faustoは僕のアートワークの上にThrasherのロゴを黒で入れて印刷しようって言ってくれて、あのカバーになったんだ。Baker Skateboardsクルーを含む僕の今の友達はみんなあのカバーを見てくれていたからあれは確実に僕のキャリアをさらに上にあげた出来事だったよ。今はFaustoファミリーやJakeとも本当の友達になれたし、凄く大きな扉を開けたんだと思うよ。
●それがあなたの人生のターニングポイントだったと思いますか?
N : そんなことはないね。もちろんあれは忘れられないとても大きな出来事だったけど、あの事があってもなくても自分が好きなスケートとドローイングをしていただろうからね。
●あなたがニューヨークにいた時にKAWSがあなたを見出したって聞いた事があるんだけど?
N : それは正解でも不正解でもないな。僕がニューヨークで活動していた時、少しずつ名前が売れ始めて僕のことを噂する人も多くなっていた。そのころLAにあるNew Image Artギャラリーで初めて個展を開いたんだけど、当時Supremeで仕事をしていた僕の友達のEric Elmsに会ってすぐに仲良くなったんだ。EricはKAWSと仕事をしていた時期もあって、KAWSも僕の名前が売れ始める前からファンだと教えてくれて、紹介してもらったんだ。するとKAWSが僕の大ファンで何か作品を買いたいってっ言ってきてくれて、僕はまだ若いし特にお金が欲しいわけじゃなかったからお互いのアートワークをトレードしたんだ。そんなこともあり仲良くなって、KAWSが僕の作品集を出したいと言ってくれて、それはKAWSにとっても初めて出版する本になったんだけど、一発目に僕でやりたいってオファーをくれたんだ。僕がドローイングしたものをEric がレイアウトして出来たのが「Satan’s Bride!!!」。2004年にKAWS Publishingから出版されたんだ。これも僕のキャリアを押し上げた出来事の一つだね。
●ということは今の話しはThrasherのカバーよりも前の出来事だね?
N : そうだね。
●誰からインスピレーションを受けますか?
N : “ナイト・ストーカー”と呼ばれていたシリアル・キラーのRichard Ramirez(リチャード・ラミレス:1984〜85年に13人を連続殺人)。殺人現場に星形五角形を描いていたりした奴だ。絵本作家のEdward Gorey(エドワード・ゴーリー)、アダムス・ファミリーを描いたCharles Addams(チャールズ・アダムズ)、僕はクレイジーな奴が好きだね。クレイジーな事以外は何もしていない奴らだ。そういう奴に影響されるね。Barで飲んでいてもクレイジーな奴が1人で「ウォー!! △♪X&%#?!」とかクレイジーなことを叫んだりするとそれを書き留めて壁に貼っておくんだ。だからアーティストからも影響を受けるけど、殆どは僕の身近な人達が僕の人生に侵入してくるクレイジーなことからだね。Jake Phelpsなんかはまさにそうだね。アートをするわけでもないけど、そのクレイジーさからエネルギーを得ている。つい先日亡くなってしまったThrasherのフィルマーだったP-Stone(BIG DOG)もだよ。だから今回描いた作品にはP-Stoneがあちこちに描かれている。でももちろん選んでいるよ。リッチな奴だったらそいつらはエイリアンだ。貧乏でもリアルな奴なら僕とは上手くいくんだ。
●音楽は何を聴いていますか?
N : 昔はMercyful Fate, King Diamond, AC/DC, Slayer, Judas Priest, ZZ Topなどメタルだけを聴いていたけど今は何でも聴くね。Hip HopもクソなPopsもラジオから流れてくるものは聴くね。
●あなたの一日のルーティンを教えてください。
N : そうだな、、例えばやらなくてはいけない仕事があったとしよう。フライヤーの仕事で今日が締め切りだとする。朝起きてまず冷蔵庫を開けてビールかテキーラがあるかをチェック。もし両方とも無かったら5ブロック先のリカーストアまでスケートを持って向かう。上り坂なんだ。スケートは頭の上にのせてバランスを取るように店まで歩くんだ。店では3パックのテカテ・ビールかクアーズ・ライト、それとマイクズハード・レモネード。マイクズハードは小さいが焼酎みたいなもんだよ。帰りはスケートに乗ってダウンヒルだ、途中でさっき買ったマイクズハード・レモネードを開けて、僕より先に亡くなった友達の為に酒を地面に少し流して、残りを一気に喉に流し込む。家に着いてからビールを開けて飲み始めるとその頃には手の震えも少し治まってるんだ。そうなればすぐ仕事に取りかかるよ。まず手を洗ってから自分の机もスプレーしてきれいに拭く。もしクリーンな仕事をしたかったら手も作業場も奇麗にしておくべきなんだ。TVでは映画も再生させておく。もう何万回と見てるやつをね。新しい映画だと気になってしまうからね。僕はノイズ(音)が欲しいだけなんだ。そして作業が終わって暗くなる頃にはビールが切れてるからSupremeの近くのKibitz Barか、僕も共同経営者であるBlack Barへプッシュで行くよ。夜遅くまで飲んでる間に浮かんできたアイデアをBarのナプキンにドローイングしていく。ちょっとしたことでも良いんだ、描いたらポケットに入れる。描いてはポケットの繰り返しを酔っぱらって寝るまで続ける。
次の日の朝、意識が朦朧としてる中で、”ヤバい! 俺は何をしてたんだ!?締め切りの仕事は終えてるのか!?”と考えるんだ。するとポケットに沢山のナプキンが入っている。それを一つずつ見ていくんだ。良いものは新しいアイデアとして残しておく。だから普段小さなナプキンに描いたドローイングが実はこういう大きな作品になったりしているんだよ。これが僕の一日だ。
●僕がこの前Black Barに行った時に、壁に日本の麻の葉模様が描いてあるのに気がついたんだけど?
N : 初めはアレが麻だとは知らなかった。初めて来日した時に折り紙を買ってそこから学んだんだよ。
●えっ?そうなの!
N : 初めて日本に来た時に色んな物を沢山買ったんだ。クレイジーな物も買ったし、質の違う紙を何種類も買ったりね。そうしたらその中に柄の入った紙を見つけてこれを描いてみようと思っていつも描いてるよ。だから日本から学んだ事になるね。
●麻の葉模様は古くから着物に使われていて、麻は成長が早くて強いから麻の葉柄は産着にも使われていたんだよ。またこの柄には魔除けの意味もあるみたい。
N : イエス!そうだろそうだろ!! 僕は逆で悪を持ち込む為に使ってるんだ、ははは。でもあの模様は凄く好きだ。なぜなら描いてる時にあの模様は視覚をおかしくさせて少しトリップさせてくれる。凄く簡単に描ける物なんだけどとても複雑な物でもある。
●では今回と前回(昨年)のエキシビションの違いは?
N : 今回は色が少なくてシンプルだね。アパレルはカラフルだけどね。このエキシビションのスペシャルなところはブックを作っていることだね。僕自身の3冊目のブックだよ。このブックに収録されている全ページのオリジナルがそのまま展示されているんだ。今までならブックを作るときはデザイナーがいてコンピューターを使って細かい編集をしたりしていたけれど、このブックは全て僕が作ったページをまとめて1冊にしたんだ。だからとてもスペシャルな1冊だね。あとは花火だね。自分の花火が出発売されるなんてヤバイよ。僕の事をよく知っている人なら花火がどれだけ僕のキャラとマッチしているかが分かるはずだよ。Thrasherのカバーをやった後に死んでもいいなと思ったけど、この花火でもそう思えたね(笑)。