Text & Photo by Shizuo “EC” Ishii(石井志津男)
2017年4月にRiddimOnlineに掲載された記事です。
SKA、ルーツ、ダブなどは確固たる地位を確立しているが、ロックステディはレゲエに移行する過渡期の短命な音楽だったからか、一部の熱狂的な人気の高さに比べ認知度が低い。Tommy (Far East)が持ってきたロックステディのアナログ盤を聴きながらMatt Soundsの森俊也とロックステディ談義。
●先ず2人にとってロックステディを代表するアーティストといったら誰ですか?
森俊也(以下、M):やっぱりアルトン・エリスなんですかね。活動の幅は広いですけど。
Tommy Far East(以下、T):僕も完全にアルトンですね。勿論ケン・ブースも “Mr. Rocksteady”という肩書きがあるんですけど、アルトンの方がロックステディなんですよね。あの時代に出したリリースを見ると、確かにケン・ブースも「Moving Away」とか「Puppet On A Atring」とか代表的なロックステディを出してるんですけど、アルトンの代表的なロックステディは、本当にロックステディ。
●なるほど。もう1〜2人挙げるとすると?
M:ロックステディの時代というと、後はコーラスグループかなぁ。
T:僕はリン・テイトかな。あのギターでロックステディのマジックをかけた。ロックステディ・バンドだって言いながら「これロックステディなの?」っていうバンドが今も多いじゃないですか。ファブ・ファイブが日本に来て、“ロックステディ・ナイト”をやっても、バンドの実力はあるけど、レゲエに聞こえたりするじゃないですか。
●たしかにリン・テイトのギターが入っているだけで、ロックステディになる。
T:だからMatt Soundsの凄い所は、個人のキャリアもあるけど、秋廣(真一郎)さんがいるっていうのも、あのバンドがロックステディになってるんですよ。秋廣さんリン・テイト好きだから。
●森さんは以前ロッキング・タイム、ドリームレッツというバンドもやっていて、ロックステディを意識し始めたのはいつ頃ですか?
M:ロッキング・タイム自体は、バリバリのロックステディでもなかったけど、ロックステディを意識したのは、結構遅かったと思いますね。最初はリー・ペリーとキング・タビーを友達に聴かせてもらって、ダブでジャマイカ音楽に本格的に入ったから、最初SKAはビートが違うし、歌モノのルーツとかもよく分からなくてつまらなかったけど、ある日急に全部が面白くなってきた。90年くらいにVPのデッドストックが大量に日本に入って来て、セカンド・プレスのコクソンの古いSKAとかロックステディを聴いた時に音が全然違ってて、ロックステディって何って。アルトンやケン・ブース、再発のスタ・ワンのLP、トレジャー(アイル)のLPとか掘れば掘る程ぼんやりしていくっていう感じ。その年代によってもスタイルも混在しているし、リリース年とかも分からないし当時は情報量も無いし。
T:僕がレコードを買い始めた93〜94年でも本当に情報が無くてディスク・ユニオンとかでもレゲエ・コーナーが無くてワールド・ミュージック。だからジャケットを見て”ROCKSTEADY”とか”SKA”っていう文字で買うっていう。Studio Oneの黒白のレーベルもレゲエかスカか分らない。見た事無いアーティストを聴くときは本気になって聴ききました。
●ではTommyが持って来たレコードを聴きましょう。
T:すぐBBシートンも来るという事で、まず最初にこのザ・ゲイラッズの『SOUL BEAT』(曲をかけながら)ですけど、彼らはこの頃10代ですよね。日本もにこんな10代の3人組が「僕らロックステディ好きです」って出て来たら面白いですけどね(笑)。
M:「考え直せ」って言っちゃう(笑)。
T:日本でも古いのが好きな親世代が息子に聴かせて、SKAとかロックステディを歌ってみようってやつが今後出てくるかもしれないですよ。この間小学生で(オーガスタス)パブロみたいにすっごく上手いメロディカの子がYouTubeに出てましたから。
この『SOUL BEAT』は本当に名盤ですよ。僕がこのジャケットを(SNSに)載っけたらソウル・ブラザーズのベースのブライアン・アトキンソンが「これは何曲か演ってる」って言ってきた。
●でもBBはインタヴューで、「自分達のバンドで全曲ではないけどかなり演った」と言ってました。BB はSOUL BEATという名前でレーベルも始めてしまうんだよね。
T:まだバンドはコンシャス・マインズって名前も付けてなかったと思うんですけど、このアルバムはスペシャルなアルバムだったんじゃないですか。でもこの曲はバリバリソウル・ベンダーズですよね。
M:やっぱこうやって聴くとCoxsoneの音って独特だね。
T:聞いた話ですが、当時コクソンはソウル・ベンダーズ・ツアーで行ったイギリスでもめちゃめちゃレコーディングしているんですよ。「ちょっとこの音オシャレだな」と思うと、ほとんどがイギリスでレコーディングしてますね。Studio OneはWIRL(West Indies Recording Limited)は使っていないですね。この『Soul Vendors On Tour』のこの時ですよね。
M:赤ジャケのアルトンが写ってるやつだ。若いね。
T:この時のアルトンですよ、一緒にケン・ブース、ジャッキー。
T:次は、ホープトン・ルイス 『"Take It Easy" With The "Rock Steady" Beat』、この「Music Got Soul」は、デビュー曲ですね。
M:これは結構音が良いな。ミックスが違って聴こえる。全然ピアノがでかくてピアノでベース・ラインを弾いてたんだな。これで時代は何年?
T:レコードを出したのは66年からなんですけど、このアルバムのリリースは67年か68年じゃないですかね。この曲は66年に出てましたね。スレテオで、7インチと違いますよね。
M:最初のロックステディって言われているやつ(「Take It Easy」のこと)。66年か。でもこういうベースは64年くらいからあるよね。
T:そうですね。このノリは。
M:(「Take It Easy」の)尺も適当なんだな。ホーンの音はしないよね。
●これも紛れも無くロックステディの名盤だね。この「Music Got Soul」、グラディ(Gladstone Anderson)のピアノがガンガン入るのが好きだな〜。
T:そうですね。まあ、これもまさにロックステディですよね。Merritoneからです。次はリン・テイト & ザ・ジェッツ『Rock Steady Greatest Hits』。
●これは86年にグラディの家に行った時に彼がプレゼントしてくれたアルバムと同じだ。でも俺のはボロボロですが、リン・テイトが来日した時にサインを貰ったんだ。(聴きながら)ああ〜、グラディ!
T:(「Talking Love」を聴きながら)ジョン・ホルトが生きていたら来日させてこれを歌って欲しかったですけどね。ジョン・ホルトはまだ歌唱力があったからこの曲とか歌えたんですよ。何曲かアーネスト・ラングリンがベースを演ってるんですよ。その頃の日本のロックステディはどうだったんですか? みんなレゲエは知っていたという事ですよね。
●もちろんレゲエはね。1987年にスパイラルホール(青山)でやったGladdy meets Mute Beatが超満員だったから。
M:ロックステディはまだ一般的じゃなかったのかもね。
●SKAはイギリス経由でパンクと同じ感覚だったけどロックステディはどっちかと言えばソフト過ぎたかもしれないね。変な名前だよね、”Rock Steady”って。
T:初めて聴いた時はアメリカの音楽だと思いましたね。(次は)ボビー・エイトキン&ザ・カリブ・ビーツ(『Original And Red Hot 1966/67』)ですね。
この人達もだいぶロックステディに貢献したグループじゃないですか。良いアルバムなんですよ。ジャケはこんな感じなんですけど。
M:誰が買うのっていう(笑)。デザインがいなた過ぎて。
T:僕は20代前半くらいの時が90年代の終わりくらいですね。ロック&シェイクのズーシミさんの所に初めて行った時にこのレコードが山の様に積んであって、「こういうのは30枚でも40枚でも絶対売れるんだ」って言われて。ジャケで抜く事は無かったですけど、その人は良いと思ったタイトルをごり押しする人で、聴かせてもらって「こんなに格好良いんですね」って買ったのを覚えているんです。ボビー(エイトキン)が言ってましたけど「俺はリン・テイトの真似をしたかったんだけど、リン・テイトは全然教えてくれなかった」って(笑)。ボビーはローレル・エイトキンの兄弟で、キューバ人なんですよ。リン・テイトがトリニダード出身で、お互いジャマイカ人じゃないから上手くやろうとしたらしいですけど、教えてくれなかったって。
●はっはっは(笑)。
T:これ、浦(朋恵)ちゃんとか絶対いけると思いますけどね。バンド・メンバーも書いてありますね。
M:でもメンバーって色んなバンドで重なってるよね、やっぱりあんまりいなかったのかな。
T:どこのプロデューサーもエクスクルーシブで契約したらしいんですよ。でも大体が夜になったら他のスタジオに行ってたみたいな。リン・テイトともソウル・ベンダーズともスーパーソニックスともまたちょっと違うけど、この人達はこの人達でバニー・リーと一緒にやって結構有名なオケをやったじゃないですか。だからカリブ・ビーツは凄いですよ、これも93年のコンピレーションですね。
次はパラゴンズ『On The Beach』。これも最高なアルバムですよね。
M:Treasure Isleの音がするなあ。
T:そうですね、完全にトレジャーですね。この「Island In The Sun」って曲は7インチになってないんですよ。元々メントですもんね。ロックステディ・カットが良いですよ、これ。ジャッキー・ジャクソンですね。この間インタヴューが(ネットに)出てましたね、凄い。(「The Tide Is High」を聴きながら)これを聴いたら、ジョン・ホルトもやりたかったですね。
●実は(この頃の曲のイメージと)ルックスの違いで二の足を踏んでたかな(笑)。強い声の人。まったく死ぬなんて思ってなかった。元気にコクソンの悪口言ってたのに。
M:良い曲ばっかりだね。
●これは名盤。自分が結婚した86年に会社の子からプレゼントされた(笑)。
T:その頃の日本のレコード屋の流通ってどうだったんですか?
●実はお茶の水のディスク・ユニオンにレゲエが結構あった。
M:あそこめっちゃ持ってた。インポートもあったし、中古だね。LPが多かった。ジャマイカ・オリジナルが見つかるって事はまず無いんだけど、たまに3万円のレコードが900円だったみたいな信じられない値段で限定盤とかあったりして。
T:ああ(笑)。ディスク・ユニオンは、今でもたまにありますね。これは67、68年くらいのリリースでしょうね。68年でもうアーリー・レゲエのリズムをやってた人達はいたらしいんですけどその時は”アーリー・レゲエ”とは言わず、” Rocksteady”って言ってたみたいですね。
M:本当に一瞬の時期、アーリー・レゲエのあのスチャラカした感じ。スカ・ステディみたいな言い方もあるじゃないですか(笑)。
T:ベースが違うアップテンポなロックステディですよね。
M:でも「The Tide Is High」なんかのベースラインはSKAでもあるし一概にそれだけとは言えない。バリバリのロックステディのヘプトーンズの曲でも、遅くてベースラインは●●(51:25)だけど、ドラムはオープン・ハイハットを使って限りなくSKAっぽく叩いてたりとか面白い。
M:(次は)ザ・エチオピアンズのこれ『Engine 54』。凄いヒット・チューンなんですけど。
T:これもオリジナルだけどジャケットが凄い。
M:(「Engine 54」を聴きながら)ははーん、エチオピアンズのムードだね、この感じ。
T:やっぱり彼らは「Train To Skaville」からロックステディですよ。1回だけロンドンでステージを観たんですが、やっぱり始まりはみんな出て来て「Beep beep.. train to Skaville」で凄い盛り上がって「当時凄かったんだろうな」と。
M:かっこいいね。ドラムがかなり落ちていいね。
T:「Train To Skaville」は名トラックですね。
M:Engine 54っていうのは、なんか意味あるのかな?
T:汽車の名前ですね。当時ジャマイカで人気のある汽車だったんですかね。
●そうそう、D-51みたいな。これは鉄ちゃんだったカメラマンの石田昌隆さんなら分かるね。
M:やっぱりTrainネタが多いんですね、エチオピアンズは。
T:「Train To Glory」、「Train To Skaville」、「Engine 54」、このアルバム作る為かもしれないですよね(笑)。あれだけの小さい島に簡単に言うと2〜3年でソウル・ブラザーズ、スーパーソニックス、リン・テイト & ザ・ジェッツ、カリブ・ビーツという4つの大きなバンドがロックステディをやった時代があったんですよ。あとこれが『Judge Dread Featuring Prince Buster Jamaica's Pride』。だからバスターズ・オール・スターズもビバリーズ・オールスターズもありますが、あれはリン・テイトと同じが多いです。
M:これはUKジャケですね。
T:はい、バスターもギターはリン・テイトでドラムがドラムベーゴ。スタジオはFederalかWIRLですね。SKAの時代はほぼFederalですね。
M:WIRLがDynamic Soundsになるんだっけ?
●WIRLはエドワード・シアガが政界進出で忙しくなり68年にバイロン・リーに譲りDynamic Soundsになるんです。
T:だから60年代後半にFederalで働いていた連中が、ケン・クーリを嫌になってみんなDynamicに移ったらしいんですよ(笑)。
M:ふ〜ん。そしてFederalは(ボブ・マーリィが買って)Tuff Gongになる。(「Nothing Takes The Place Of You」を聴きながら)これは、再発を穴が空くくらい聴きましたね。このギターとかもろリン・テイトですね。昔の録音って総じてドラムが小さいね。ベースとか他の楽器はかなり聴こえるのにドラムはあまり聴こえない。特に全体的にハイ落ちしてる感じでシンバルの音が聴こえない。
T:UK盤にするときに揃えたっていうのもあるかもしれないですね。ジャマイカ盤はもうちょっと尖っていたんですけど元々ちょっと小さいですね。次はアルトン・エリス『Sings Rock And Soul』。(「I'm Just A Guy」を聴きながら)これは、やっぱり名曲ですね。Pull Up!!(笑)。これ(前に来た時)やりましたね。
M:メドレーの後にこれで登場してドッヒャーって。
T:あとは、これじゃないですか「So Much Love」。アルバムにしか入っていない。何でシングルにならなかったんですかね。この「Never Love Again」もいい、アルトンというとこのアルバムはやっぱり名盤ですね。
●本人もこのジャケは大好きだったみたいで自分の部屋に飾ってあったね。
M:一番いい写真なんですかね、サム・クック調(笑)。裏ジャケの写真をこうやって見ると似てますねクリストファー(息子)と。
T:これは(『Soul Vendors On Tour』の「The Whip」を聴きながら)元々エチオピアンズですもんね。
M:Beep beep!(笑)。いいですね。
T:(「Give Me A Little Sign」を聴きながら)いつかMatt Soundsでオウエン・グレイじゃないですか?ロンドンに住んでますね。だいぶ渋いですね。本当はロックステディというよりもうちょっと。
M:後のアーリー・レゲエ。めっちゃリバーブがかかってる。
T:(「Full Range」を聴きながら)「Full Range」、良いタイトルですね。ヘクター・ウイリアムスってジャマイカで会った事ありますね。ドラムですね。
M:ロイド・ブリベットってエレキ・ベースも弾いたのかね。残ってる写真は全部アコースティック。ロイド・ブリベットがソウルベンダーズのメンバーだったっていうのがあまり実感が無いんだよね。
(次は)
M:これがグラッドストーン・アンダーソン, リン・テイト&ザ・ジェッツ『Glad Sounds』68年か。これもMerritone。
●このインスト盤、何でジャケットが2種類(3種)あるんだろうね、謎だよね。
M:こっちには、”LET’S GO NATIVE”と書いてある。
T:中身は一緒なんですけど。エクスポート用と地元用かもしれないですね。
M:しかもこっちは、”Reggae”って書いてあって、こっちは”ROCK STEADY”と書いてある。
●これは一応ローカルでは、グラディのアルバムとして出てるけど、それじゃあ外国で売れないから、わざわざ“Jamaica’s”って書いて外国向けには“Reggae”と書いたのかな。(「Chances」を聴きながら)ストレンジャー・コールの曲、これもいい曲だ。「A.B.C. Rocksteady」「Love Me Forever」なんていうGay Feetとか他のプロダクションでやってる曲をこっちではインストでやっているんだよね。「Ride Me Donkey」、これだってStudio Oneでしょ?
T:スタワンでもやってますけど、いちばん最初はテナーズですね。けど、「Words」もスタワンですし。
M:当時のロックステディ・ヒット・カバーか、面白いな。これはもうアーリーのドラムだよな。
T:ちょうどクランシー・エクルスのダイナマイツやヒッピー・ボーイズと同じ感じですよね。
T:次は『Jamaican Memories』です。これは、ジャッキー・ミットゥ「Sound And Music」。
M:ソウル・ブラザーズだね。俺の知ってるバージョンと違う感じがするけど同じかなあ。これ自分のバンドでもカバーしてます。
T:渋いですよね。当時のBlue Catで出たシングルがここに告知されているんですね。ライセンス・レーベルですね。Treasure IsleもStudio Oneもいっぱい入ってますね。
M:「Deep Down In My Heart」が入ってるんだね。アーネスト&フレディーって?
T:アーネスト・ウィルソンとフレディ・マクレガーですね。
と、ターンテーブルは廻り続ける・・・・・