Interview by Shizuo Ishii (石井志津男)
2014年9月にRiddimOnlineに掲載された記事です。
前編を読んでない方は先ず⇒Devin Flynn (#1)
デヴィン・フリンがダブル・LP『Honeycomb of Chakras』を持って現れた。
そのアバンギャルドなバンドDevin Gary & Rossとは?
Devin Flynn(以下、D):Cola Madnesという作品はあなたがいなかったら存在してないんです。たしかあなたがゲイリーにJIMBOの第2弾が欲しいと電話をしたんですよね?
●そう、80年代の初めのことです。JIMBOの日本版を出版することができて、日本でもかなり話題になったのでその続編を出せないかと連絡したんです。
D:それでゲイリーはあなたがもっと新しいストーリーのものを欲しがっていると思って描き始めたんですが、あなたは既に出版されているJIMBOのストーリー、それも古いやつを欲しかった。でも僕はそれって言葉の違いから生まれた素晴らしい出来事だと思います。
●例によって、ゲイリーの頭の中から爆発したコンセプトから生まれた分厚い原画ファイルが送られて来て、ちょっと途方にくれたんです。JIMBOが知られたからと言っても、日本は世界に誇る漫画大国です。ゲイリーのオリジナルな世界感とセンスを理解できるようなファンがまだ多くはいなかった。ゲイリーが来日した時にCola Madnesのシルクスクリーン・プリントを作って発売したり、日本のコミックモーニング(講談社)という雑誌に20ページくらい掲載したりもして反応をみましたが、あれを丸々1冊を出すほどのことはできませんでした。
それが10年以上経ってマンハッタンの書店で突然ハードカヴァーの本を見つけたんです。しかも序文にはオレのつたない英文で! とっくに忘れていましたが、そう言えば、何か文章を書いて送ってくれって言われていた気もしました。
待って下さい。今日はデヴィンのインタビューなのにほとんどゲイリーの話しになってル気がしますが (笑)。
D:良いんですよ! 僕もゲイリーを愛しているし、好きすぎるからこの話しになっちゃうわけです。彼の生徒みたいなものです(笑)。
●ゲイリーの何が素晴らしいと思いますか?
D:彼はとてもオープンな人。いくつになってもとても頭の柔らかい人だと思う。先程のコラボの話しにしてもそうだけど、彼は新しいアイデアに対して常にオープンでイエスと答えるわけです。他の事で言えば僕とゲイリーには共通することがあるんです。それはあらゆる事に興味を持っている点です。多過ぎなんですけどね、それを全てトライしようとしてますから(笑)。僕はアニメーション、音楽、コミック、ドローイング、ペインティングなどをトライしていますが、全部大好きで全部やらないといけない性格なんです。学生時代には色んな事に手を出しすぎて、いつになっても一つも上手くいく事がなくとても不安でした。「君は手を広げすぎて一つの事に集中出来ないから何も上手くならないよ」と言われていました。でも僕はどれも丁寧に長い時間をかけて学び続けていけば、ようやくどれも上達して行くものだと分かってきました。僕の人生はどのフィールドでも常に上達していってると思います。そこに関してはゲイリーと共通していますよね。ゲイリーをコミックでしか知らない人がいたら、実は彼はペインティングが大好きで、更に音楽はクレイジーなくらい好きな人だと言っておきます。しかも彼の音楽知識は豊富で学者並みです。ゲイリーの多趣味な性格とオープンなマインドこそ彼がやっている全ての事に繋がり、僕はそのことにとても影響を受けています。
●その通り。彼は好きなことをひたすらやっている。そしてそのクオリティがハンパ無く高い。ゲイリーの作品に触れたら、引き返せない(笑)。この僕がそうです。メルローズ(LA)のCity Cafeで見たROZZ-TOXのペインティングや、スティーブ・サミオフのギャラリーで個展を見て既に35年です。
D:僕の中での哲学っていうか…そうだ、これでゲイリーとの話しは最後にしましょう(笑)。 LAで彼に出会う前に”LA WEEKLY”と”LA READER”というローカル情報が掲載された新聞の様なフリーペーパーを読んでいました。Matt Groening, Charles Burns, Linda Barry, そしてゲイリーなどのカートゥーニストがこれらの誌面に出ていたんです。僕が子供の頃は、毎週その新聞をめくるとコミックが掲載されていました。ある時”LA READER”にゲイリーが書いたROZZ- TOXが出ていて10代の時にそれを読んで、そこに書いてある真実、、、というか真面目なことが書いてあると思っていました。
●そのROZZ-TOXというのはコミックですか?
D:マニフェスト(解説)です。ほとんど文字のみで、台詞の様な感じです。毎週新しいチャプターに変わり、たぶん10~20ぐらいのチャプターになっていて各チャプターで意見というか声明みたいなものが書いてあったんです。「ポップカルチャーは最低だ」「俺たちは俺たち自身のポップカルチャーを楽しむ為に本物のアートを厳選し、ポップカルチャーの中に入れなければいけない。だからアーティストはポップカルチャーに関わる責任があり、そのことが良い方向に向かって行く。なぜなら今は最低だからだ」なんてね。僕は10代だったから「YEAH!!! そのの通りだ! 僕もやってやるぜ!!!」と共感してしまったんです。それからしばらく経って、僕がどこかでゲイリーのインタビューを読んだら「あれはジョークさ、僕は単にちょっと不機嫌なだけで書いたんだよ。大した事じゃない」って言っていたけど、僕は「そんな事はないよ!それは本当だよ!」って真剣に受け止めたんだ。だから僕のキャリアはそのマニフェストに影響されてやってるみたいなものだよ。僕のアニメーションはAdult SwimなどのCartoon Networkのチャンネルと仕事をしているんだけど、それは僕のアートをポップカルチャーの中に入れたいからなんだ。僕はファイン・アーティストになりたくてアートスクールに通ってアーティストになる勉強をした。僕のハートは常に良いアイデアをポップ・カルチャーに落とし込むことだった。そうすることで最低にはならなかった(笑)。だからTVでの作品を見ても最低には映らなかったと思う。たぶん同じ様なアイデアを持ってる人で一番成功したのはシンプソンズのMatt Groeningだね。シンプソンズはクオリティの高いポップカルチャーのとても良い例だね。僕は今でもそのことを大事だと思っていて、それをずっと追い求めている。アートの世界にいる僕の友達と比べたら、僕だけはとてもLOWな(民度の低い)ことをやっているかもしれない。 コマーシャルアートの中でも価値は異なるかもしれない。彼らの価値が高くて僕は低いかもしれない。LOW ART (笑)だけど僕はとても誇りを持っていて、僕は僕自身をダメだとは思っていない。そのLOWなアート・フィールドにいながらも、これを高くして行く事に誇りを持っている。ニューヨークはとても厳しいけど、僕は誰よりもアーティスティックなTVをやっていることに幸せを感じています。あのゲイリーのマニフェストに影響されたんだけど、グラフィティをやってきたのでゲイリーとはまた違った道を歩んできました。僕の両親はアーティストで本当に貧乏だったのでアートなんかやるものじゃないと小さい時には思っていました。だけど気づいたら僕はアートが大好きだった。それでグラフィティをやってみて、それは明らかに他のアートとは違いがあったし、どこかパンク精神というか、、グラフィティは違法だしね。でもそこからドローイングを学んだんだ。だから本当はカレッジに行ってアートをなんて思ってもいなかったし、ただただグラフィティやカートゥーンをやりたいだけだった。だからニューヨークで、グラフィティ関連で仕事を見つけた。僕のカートゥーンは少しグラフィティーっぽい。僕のウェブサイトを見てくれるとちょっとそういう部分も感じてくれるかもね。
http://www.yallsostupid.com/devinflynn.php
●いつNYからLAに移ったんですか?それはどうして?
D:最近です。ブルックリンにあるウィリアムズバーグを知ってますか?僕が移住した97年はアーティストが住むには安くてとても良いエリアで、70年代のソーホーみたいな感じでした。ロフトがあって音楽をやっても苦情もこないそんなエリアでした。けれどもここ10年でとても人気が出てしまって、一番人気のスポットになってしまったんです。リゾートみたいにリッチな人たちが引っ越してくるようになって、街が持っていたカルチャーも変わり、そこにいるのが面白くなくなってしまった。こういう事はたまにアメリカでは起きる事なんだけどね。しかも15年住んでいた場所がレストランになるから出て行かなくちゃいけなくなって、ブルックリンで新しい部屋を探すよりも自分が育ったLAに戻ろうと決めたんだよね。
●LAで思い出したけど、2006年にLAに行った時に市内をドライブしていたら偶然ゲイリーのJIMBOの大きなバナーを見つけたんです。そのバナーの裏側はポパイでした。MOCAミュージアムでやってたアメリカン・コミックの大回顧展みたいなやつ。そのまま見に行ったんですが、Robert Crumbの作品からPopeye、Superman、、それこそアメリカン・コミックの歴史が全て展示されてた。
D:Wow!!! ヤバいね! ひょっとしてそのバナーを持ってるの?
●そうそう、誰かがebayに出してて思わず買っちゃった (笑)。ドア1枚よりも大きいよ。
D:羨ましい!! 僕もその展覧会は行きましたが大きな展覧会でしたね? ゲイリーもあのショウに参加出来てとても光栄だったと思います。とても厳選されたエリートのみでしたからね。そのショウのキュレーターは先程出てきたFunny Garbageのジョンなんです。あとゲイリーの”Kaktus Valley”というサボテンの本もジョンだと思います。
●あれ?やっぱりゲイリーの話になってるから、今日はこれで終了!