Text by Egaitsu Hiroshi
2013年6月にRiddimOnlineに掲載された記事です。
こうプレス・リリースにある映画「アート・オブ・ラップ」は、緩やかにヒップホップ/ラップの歴史を縦に、地域を横軸に「アフリカ・バンバータやRun-D.M.C.など往年のヒップホップスターから、今を時めくエミネム、ドクター・ドレー、スヌープ・ドッグ、カニエ・ウェストといった世界的スーパース ターなど、過去と現在、そして未来を築くトップアーティストたちへ、アイス-Tが直撃インタビュー」していく構成だ。ここでは、本作の字幕監修を手がけたK-DUB SHINEさんに話を聞いた。
初期のラッパーについて
「ラキムのリリックについての言及があるよね。
“I take 7 MC's put 'em in a line
And add 7 more brothers who think they can rhyme
Well, it'll take 7 more before I go for mine
Now that's 21 MC's ate up at the same time”
これはもうマスト。で、7という数字に拘ってるよね。最初の頃のリリックで自分のこと007とか言ってるけど、これは自分の名前のスペルの字数の話でもある(注:William Michael Griffin Jr.)。俺は大ファンなんで、ラキムに関していえば。俺にとっては通信教育の先生みたいな感じだから。他にも、チャック(D、パブリック・エネミー)先生でしょ、KRS-One先生でしょ、それから(アフリカ・)バンバータ校長でしょ。みんな通信教育の先生だよね。(この映画でのKRS-Oneのファットビーツ店内でのフリースタイルを聞いて)目眩がするかと思った。ああいうリリックを聞くと目眩がするので・・・次のリリック聞き逃すぐらい目眩がするから。グランドマスター・カズとかは、僕が聞き始めた頃には、ダメになっていた時期で、でも、ちょっと分析すると、カズはユーモアがあって、彼の影響はビッグ・ダディ・ケーンとかにも及んでるわけ。気の効いたこといいながら、にやついてる感じ?メリー・メルはライオン。クール・モー・ディーは言葉使いとかね、あきらかに大学行ってたっていうのが判る感じ。ボキャブラリー豊富だからね。(画面に出たら)むちむちしてたね、そういえば。『あれ?』と思った。Run-D.M.C.は、俺は大ファンだから。Run-D.M.C.のライブは、失神するぐらい・・・俺も・・・渋谷でオニキスと一緒にやったとき、で、ライヴの最後に全員で客席に飛んできたんだよね、糞びっくりしてね。そしたら、ジャム・マスター・ジェイがスクラッチ始めてさ『ラン、ラン、ラン・・・』・・・」(と、ライヴを口で再現)。
トレッチについて
「エミネムにとっては大きいね。で、あとトレッチが大きいのは、プロジェクト出身っていうのをはっきりさせた、というのはある。それまでのブルックリンとかのラッパーが中産階級だったりして、親がみんな音楽好きで、レコードとか持ってて、とか、そういうのは、Q-ティップとかラキムもそうなんだけどね。で、トレッチが出て来た91年とかギャングスタ・ラップがそろそろね。トレッチは親父の顔知らないし。“Ghetto Bastard”っていう曲あったでしょ。自分たちがニュージャージーの貧しい地域の出身で、ギャングだし、ていうさ、バットみたいの持ち歩いて写真撮る、というか、そういうのはトレッチがヒップホップに与えた大きな影響なんだけど、と、同時に、アート・オブ・ラップという意味では、日本語でいう母音の部分を縮めて発音して、音節を一小節のなかで増やすわけ。文字数を増やす。それにエミネムは多分やられたんだと思う。俺も確かにトレッチ出て来て思ったのは、”OPP”も凄いけど、B面の”Wickedest Man Alive”のラガマフィン・フロウが凄い、と思った」
そしてデナ・デイン
「トレッチとデナ・デインがこの映画で話していることは実は重要で、適当にフリースタイルでやったものを録音したって、そのようにしか聞こえない、と言ったりね。ジェイZみたいのはまた別ということでもあるんだろうけど。デナ・デインは自分はラップのリリックを書くときに、ちゃんとイントロダクション作って、本文作ってって、そのアウトロ、というか結論みたいなものを作って、と言ってるけど、その英語のエッセイというか、コンポジションの書き方に則ってるというのは、昔のラッパーは国語力がしっかりしてないと、いいラップ出来ないんだな、というようなことは思ったよね。その世代の持ち味だな、と」
自身のスタイルについて
「俺のラップのスタイルは、音、トラック聞いてると、東海岸派だと思うんだけど、でも、意外にラップは、淡々とストーリー・テリングみたいの多いし、(自分も)西にいてトゥー・ショートとかアイス・キューブとか聞いていたし、西っぽさも持ってると思う。それこそ、ブッダ・ブランドとかが出て来たときは東海岸って感じだったし、MUROとかも東海岸という感じだったと思う。それよりは、もうちょっとニュートラルに見えてた気はするけど。でも、自分たちは東京オリジナルのヒップホップをやらなきゃ、と思ってた。そうじゃないと始まらないな、と思ってたし。主旨をしっかりして、伝えたいことを伝えるっていうね」
『アート・オブ・ラップ』
7月27日(土)より シネマライズほか全国順次公開
配給:角川書店2012 © The Art Of Rap Films Ltd
『ART of RAP』予告編
http://www.youtube.com/watch?v=oAdx32-mR3o