現在のクラブミュージックやリミックスの元であるDUBをクリエイトしたのがKing Tubby。
36年前の1987年、生前のキング・タビーを撮影し、翌年にはMute Beatのリミックス『DUB WISE』を制作した。
キング・タビーとリー・ペリーが参加したこのアルバムがデジタル・リマスターされ発売となる。89年にCDのみで限定発売、2002年にはアナログLPとして200枚のみプレスされたが、今回のリマスターで画期的な音質となって限定発売となる。
同時に当時撮影された貴重なタビーの写真がタビー・ファミリーの許可のもと発売される。(写真をクリックして拡大)
タビーが座るのは、伝説のMCIコンソールである。タビーが改造したこの赤いノブのついたコンソールは、彼の死後、売却され現在はシアトルのMoPOP(ミュージアム・オブ・ポップカルチャー)に保存されているという。ここはマイクロソフトをビル・ゲイツと共同創業した故ポール・アレンが設立したミュージアムだ。しかし赤いノブのいくつかはすでに紛失してしまっている。だが写真をよくみていただきたい。Tシャツに使用している写真には赤いノブが完全に揃っているだけでなく、タビーがこの４チャンネルのコンソールに座っている写真はDUBの歴史を語る上でも貴重だ。
[KING TUBBYとの遭遇] Shizuo Ishii
1984年から毎年のようにジャマイカ通いが始まり、4年目だった。
クソ暑いキングストン。エアコンもなければ窓もぶっ壊れて開かないボロ・タクシーに乗り込んで“グラディ”アンダーソンとシーヴュ−ガーデンに住むウェイン・スミスに会いに出かけた。
ウェインは大ヒットした「Under Mi Sleng Teng」の1曲だけでレコーディングの流れを打ち込みトラックへと変えた革命児、ジャマイカ音楽史に残る男だ。この前年にはMen’s BIGIのために「Slick Wi Slick」という曲をレコーディングさせて12インチを制作した。そんなことで来日や次のレコーディングなどの打合せをして帰ろうとすると「ラジカセを修理したいのでちょっとタクシーに乗せてくれ」と言われ、着いた先がウオーターハウスと呼ばれる地域にあるレコーディング・スタジオだった。
どちらかといえばかなり危険なエリア。入り口にたむろするルード・ボーイ達に混じって眼光鋭い巨体の男がすっくと立っていた。レコード・ジャケットで王冠を被っていたあの男、キング・タビーだ。
この男の根城、ファイアーハウス・スタジオに来てしまったのだ。
カリブの強烈な陽射しからやっと部屋の暗さに目がなれると奥の小部屋にミキシング・コンソールが見えた。タビーが改造した赤いフェーダーのMCIコンソールだ。
ここなのかッ！
オレは完全に金縛り状態。
部屋に足を踏み入れることができなかった。
DUBが初めてクリエイトされ、あのオーガスタス・パブロやリー・ペリーたちの名作が産まれた聖地だ。サイエンティスト、キング・ジャミー、フィリップ・スマート、カット・ケミスト、ファットマン、ピーゴ、バルビーたち、その後のレゲエの歴史を背負うエンジニアやプロデューサーがここで日夜、修業をし腕を磨いたファイヤーハウス・スタジオだ。
ためらいを振り切り、キング・タビーに赤いフェーダーのコンソールに座ってもらい狙いすましてシャッターを１度だけ押した。
それが今回のTシャツの写真である。
翌年、この偶然を形にするべくキングストンまでDMX宮崎を連れてMute Beatのリミックスを作りに出かけた。NJにあったワッキーズ・スタジオではリー“スクラッチ”ペリーとブルワッキーが入魂のリミックスを2曲制作、DMX宮崎が3曲担当、これが『DUB WISE』である。今回は30年以上の時を経てようやく極上のデジタル・リマスター盤となった。
今でもキング・タビーに出会えたことを夢かと思う。
だが俺の持っているLPやダブプレート、２ショット写真には間違いなくKing Tubbyのサインがある。
俺たちが会った半年後の1989年2月6日、偉大な男は自宅前で何者かによって射殺された。
48歳になったばかりだった。
そして、俺にTubbyを合わせてくれたWayne Smithも2014年2月、俺にSKYPEで留守電映像を残したまま心臓発作のためTubbyと同じ48歳でジャマイカの自宅で息を引きとった。
ジャケットのアートワークはナンシー関。
■アナログMute Beat『DUB WISE』
http://overheat.shop-pro.jp/?pid=173344666
■King TubbyオフィシャルTシャツ
http://overheat.shop-pro.jp/?mode=cate&cbid=445468&csid=0
■特設サイト（試聴あり）
https://overheat.com/dubwise/