Interview by Shizuo Ishii
2015年8月にRiddimOnlineに掲載された記事です。
誰からも好まれるインディーズ・ヒット「ライオンの子」という曲を持ち、コンスタントにアルバムをリリースしてきたSpinna B-ILLが今年の1月にアルバムをリリースしたが、それは5年ぶりのアルバム。そしてSoul Rebel 2015への出演ではHome Grownがバックを努めることも決定している。
●実は、Spinna B-ILLを最初に知ったのはアーロン・フィールドって言うレーベルの向後さんって言ったと思うんだけど、誰かの紹介でここ(OVERHEAT)にVHSテープを持って来て「こういうレゲエ・バンドを出したいんだけど、どう思いますか」みたいな、それで「歌の上手い人がいるんだな」と思ったんだ。ライヴを観たのはそこからずっと後なんですよ。でも、その前には何をやっていたんですか。きっとバンドが最初では無いよね。
Spinna B-ILL(以下、S):僕はあれが人生最初のバンドだったんですけど、それまでは自分でオケを持って行ってポン出しで歌うっていう、自分が作ったトラックがメインで、内容はヒップ・ホップ、R&B的なのが半分以上とか、でも、その中には今もある様な和物の歌謡曲的な要素があったりとか。何かそのうち俺が歌うと「レゲエの人だよね」って言われる様になってきて。
●へえ。
S:「何なんだろう」ってずっと思ってたんですけど、僕的にはレゲエっていうのは、未だにそうなんですけどエッセンスだったので、凄く知識があったわけでもなく。
●僕はビデオを観た時にレゲエというよりは、もっとブルースとかアーロン・ネヴィル的なソウルみたいな何かねちこい感じをその時は感じたんですけどね。
S:そうですね。
●だからこれは前に何かあるんだなと。
S:その前はダンスをやっていたんです。
●へえ、ダンサー?ビー・イル(B-ILL)っていうから、俺はヒップ・ホップかもと思ってた。
S:そうですね、でもヒップ・ホップ、ヒップ・ホップはして無かったんですけど、でも言うたら結構ブレイキング(ダンス)をガッツリやっていたシーズンもあって、それで”Spinna”っていうのは、歌うよりも、本当に回ってたってとこから来ていて。
●ああ、スピンしてた。
S:で、Bボーイネームみたいに元々“ビル”だったんです、唇がデカいから。
●なるほど。
S:この世界、そういうネガティブなとこをポジティブに変えるじゃないですか。だから、そういうBボーイネームみたいな感じで。
●生まれはどこでしたっけ?
S:島根県で、出雲大社があったり世界遺産の石見銀山とか、あとは竹島なんてのもありますね。アーティストでいうとギターウルフ、ちょっと前だとヤクザキック、YKZのヴォーカルのラップをやっていた子とか、田中美佐子、佐野史郎とか、数える程しかいない。
●その島根でそういう黒いものが芽生えたっていうこと?
S:そうですね、やっぱりダンス甲子園とかだったっすね。その前にBSとかの「NBAファインプレー・ショー」みたいなやつでベル・ビヴ・デヴォーとか、ボビー・ブラウンとか、ああいうニュー・ジャック・スウィングの全盛期にハマって、でもその前とかはパンクとかだったんですけど、それからはもう黒人が写ってるジャケを全部買うし借りるし、その勢いでバーっていれ込んじゃってガッツリ聴いてました。そこからちょっと時間が空いて就職で東京に出て来て、公にはしていないんですけど、ネタ的には東京電力ってとこで10年ほど勤めていて、でも辞めたのも、もう10年くらい経つっすけどね。その頃は、ジュリアナとかそういうのもありながら、当時Snowの「Sexy Girl」とか「Informer」とかでブレイキングを始めるやつらがケバい姉ちゃんの中にいたりとかして「お!なんだこれ?」って、俺はスーツを着ながら見てたりして、その後ぐらいからですね。
●その時はまだ歌ってないんですか。
S:その時は歌なんか全然やっていなくて。
●でも、歌が上手いじゃないですか。どこかで自分は歌が上手いって気がつくわけでしょ。子供の時に100m競走で「自分はちょっと足が速いな」とか気がつくじゃない。そういうのは?
S:いや、でも、カラオケレベルですね。俺の周りのやつは結構歌が上手いやつが多かったかもしれないですけど。でもボーイズIIメンとかああいうコーラスとかハーモニーの黒いのをガッツリ聴く様になって「これだったら俺も出来そうだな」っていうことでダンサー期からシンガー期ってのに入っていくんです。最初はSound Cream Steppersっていうクルーのユキさんって方のダンス・スクールに半年通って、その間、東電の方でも転勤があって、栃木行ったり、長野に行ったりとかしていた時にラッパーの子達とつるんで、フィーチャリング・ダンサーでNice & Smoothの前座をやらせてもらったりなんてのもあった。それでちょっと揉めることもあって良い機会だから歌でもやろうかなって、それでMPCとかMTRを買っていきなり始めちゃったみたいな。MPCにベースのラインを突っ込んで、ベースをゴリゴリゴリゴリって、意味分からないことをずっとやってたりして、それでまた東京に戻って来て、その音源を使って池袋のbedが多かったんですけど、ライヴをやったりとか。そうこうしている内に(アーロンフィールドの)向後さんに出会って色々話しをしながら「Bob Marley & The Wailersみたいなバンドをやろう、あの音楽凄い好きだし」みたいになって、それで会社を辞めて今に至る感じです。
●アーロンフィールドからは確か、4〜5枚出してたよね。
S:そうですね。
●Kenji Jammerとのもあったはずだけど。
S:Kenji Jammerもやったっすね。ロック畑とか、レゲエ畑、後は捻くれたシーズンにやっぱりR&B寄りなものも創ったし。
●で、そこを辞めて。
S:辞めて、それでソロになってまた4枚くらい出したんですかね。最近出たのがカヴァー・アルバムで。
●レベール的にはこのアルバムの前はファイルだよね。その前のレーベルは?
S: Kenji Jammerとやった時は、EMIですね。『Re:program』っていうのもあって、それは仲のいいサーファー仲間の方がやってたラジオ系の事務所というか、スタジオ経営やWINDBLOWっていうイベントもやってるマハナレコーズってとこから出したんですね。
●じゃ、いわゆるメジャーはEMIだけなんだ?そして、今年の1月に出したのがカヴァー・アルバムの『ROMANTIK NOISE』ということだ。それも5年ぶりとか書いてあったんだけど、それはどうして?
S:はい、そこなんですよね。自分でも解明できない。でも僕としては震災があったっていうのが正直ひとつのめっちゃターニングポイントだった。
●まあ、みんなそうだよね。
S:ファイルで出した『Stand Alone』の前が2〜3年空いてたのかな。で、今回が5年ぶりみたいな話しですけど、こう色々な方向性とかも相変わらずフラフラフラフラして、自然な気持ちで新しい言葉を書くとか曲を作るとかって気にならなかったんですよね。
●でも、ライヴには定評があるからずっと沢山やってるんですよね。
S:そうですね、去年ポリープができてカットしたんですよ。
●ああ、それも聞きたかった。ポリープになってどうだった?
S:症状としては、ちょっとガラガラになるんですよ。要するに声帯ってノドの隙間から空気を出してるんですけど、そこにポッコリポリープができる事なんですよ、要するに血豆みたいな。そうするとそこからスーっと空気が出ると、裏声を出すにしてもハーって、息が抜けてるみたいになって。で、ローボイスとかは結構ダミ声みたいになってきちゃって。ブルースとかファンクとかディー・ジェイものとかには凄い最高だと思うんですけど。ずっと「何かおかしい、何かおかしい」って思っていて、それで(マネージャーの)岡田さんの紹介で山王病院に行って、めでたくポリープって診断されて凄く安心したんですよ。それでその日の内に手術日を決めて、ライヴのオファーがあったのを断って、去年の10月のアタマに手術をしました。「喋れない期間が1週間、2ヶ月間はライヴしちゃダメ」って言われたので休養期間を作って、1ヶ月ぐらいして「ちょっとずつ慣らしていきましょう」みたいな中にカヴァー・アルバムのレコーディングとか入ったりして。
岡田:先にレコーディングしてて。
S:そうだ、レコーディングしてたんだ、そうだそうだ。途中でポリープが分かったんです。それで、そのポリープの事を、僕は”ポリ公”って言ってるんですけど(笑)、そのアルバムの中にはそのポリ公テイクが半分くらい入っているんですよ。それがなかなか今聴くとポリ公ちょっと恋しいなって思うくらい自分の中では良く録れたテイクだったりして、厚みとかに関しては、やっぱりグッと出てきたのかなっていう感じです。今は、もうめちゃめちゃクリアというか、凄くハイの抜けが裏声も良くなって。だから出し方とかを今はちょっと教えてもらいながら研究してやっている感じですね。
●痛いとかそういう事は無いんですか。
S:痛みは感じないです。心臓とかと同じで、もの凄い速さで動く部分だから痛みは感じない様にできてるみたいですね。だから喉が痛いっていうのは、声帯じゃなくどこか周りだったり、扁桃腺とかそういうところが痛いっていう事みたいですよ。
●じゃあ、アルバム『ROMANTIK NOISE』の話しに戻るけど、5年ぶりなのに、なぜカヴァーだったの?
S:新しい曲も何チューンかは出来てたんですけど、フル・アルバムには、まだ数が足りないっていうのもあり、あとは分かりやすさみたいなところとか、レゲエ的なカヴァーのフィールだったりとか、そういったことからです。
●かなり幅広いセレクションでしたね。
S:基本、想い出がある部分で曲をバーっと挙げて、で、岡田さんからも客観的に色々アイディアを貰って、それで合うもの合わないもの「これやったら違うよね」とか、過去にやってる人がいるとか、そういうのも出来るだけ避けて。それで選んでいって、意外なところも歌ってみようって。
●薬師丸ひろ子とかあったね。
S:そうですね、「Woman”Wの悲劇”より」ですね、男性が。
●本当に違う世界で、こういうのは良かったんじゃないですか。
S:あとカヴァーを録るにあたって、例えばバンドでリメイクするとオリジナルに近くなったりとかするけど、アコースティックだと裸になる感じがあるじゃないですか。レンジ、歌い方、表現、ダイナミクス、色々含めて男気というか、アレンジとか、要するに聴いて欲しいのは自分の声だったりパフォーマンスじゃないですか。そこがもうゴリっと出てくるので、逆にスカスカな分めっちゃ遊べるみたいな。やっぱりオリジナルに勝つことは出来ないと思うんですけど、負けないぞくらいの勢いで創って、迫力のある感じだったりとか、逆にオリジナルにない感じだったりとか、ソフトにハードに色々あるので。
●あのアレンジとか良かったよね、もんた&ブラザーズの「ダンシング・オールナイト」。
S:そうですね、あれは唯一リズム・ボックスを走らせて、昔の木枠のコカココッコカココッみたいなやつなんですけど、そこに生音を重ねていくっていうのをやったんですよね。勿論それもMIDIとか付いてないので、シーケンス無しでリアルタイムで聴こえるものを「ちょっと早くしようよ」とか言って、ダイヤルをちょっと回すとすぐ変わっちゃうとか、そんな感じで生音で、みんなでヘッドホンしながら、ほぼ1発どり。
●あのいい感じのギタリストは誰?
S:小林洋太です。
●洋太なの?あのボトルネックみたいな曲も。アルバムをダウンロードして聴いたからクレジットが無くて。
S:そうですね。ギターリストは彼しか使っていないです。洋太も大人になりました最近、って評判です。レゲエ界のギター・プリンスって勝手に言ってますね。神戸でいうとJamdungみたいな、超ダンスホールレゲエの箱でもアコースティックでやって欲しいみたいな依頼もあったりして。そういう時は「Harder They Come」とかは絶対やるし。「レゲエは1曲入れよう」っていう気になってあの「Harder They Come」だったんですけど。
●でもやっぱり「あるがまま」っていうオリジナルが良かったね。
S:そうですね。でもそれはレゲエの現場では歌わないほうが良いっていう事になってるんですけど(笑)。素っ裸でアコースティックでジャーンとかやっても、そういうダンスに来ている子達はやっぱりみんな盛り上がりたいと思うので。
●そうなのかな?
S:例えばアレンジメントだったり、リズムものを一緒に出してあげれば、例えばイントロにナイヤビンギのタンタンみたなのが入ってるとかだったら、入りやすいのかなとも思うんですけど、ちょっといきなりアコギでジャーンって弾き語りみたいな、それはやっぱりなかなかレゲエの現場は難しいなっていう感触ですね、今のところ。でもやっちゃうんですけどね(笑)。人の目を顧みずってやつですよ。
●では、まあ出したばかりでもあるんだけど、やっぱり次っていうか、皆がオリジナルが欲しいんだと思うんだよね。その辺はどうなんですか。
S:そうですね、まあレゲエ寄りなものをやってみようかなって思ってますけど。
●俺のレコード棚はほぼレゲエだけど(笑)、実は本当に普通のR&Bとかクリス・ブラウンとかリル・ウエインとかジャスティン・ティンバレークとか、ごく普通のそういうのもスゴく好きです。Spinna B-ILLはこれだけ歌がうまいんだから、レゲエとかっていうよりはジャンルを超越してヴォーカル・アルバムを出して欲しいです。
S:なるほど。僕の中でレゲエ好きは、音楽を何でも聞いていいものを評価する印象があります。レゲエは今自分の中で最も熱いジャンルだし、お世話になってるので何かレスしたいってところが強いんですが、何を歌うにしても自分らしさは失わずにいたいです。
●そして、9月26に日比谷野音で開催される「ソウル・レベル」に出演してくれてありがとう。
S:エントリーできて光栄です。HOME Gのゴリゴリのサウンドに乗る僕の歌をコアなレゲエファンに楽しんでほしい。RESPECT!!!!
インタヴューのあとBillboard Live Tokyoでやるショーン・ポールを見に行くことが分り、何となく尻切れとんぼのインタヴューになってしまったので、後日メールで「どの曲がポリープ中のレコーディングですか?」と問い合わせてみた。以下がその答え。皆さん、まだの人はチェックして!
03. ダンシング・オールナイト
05. 青空
06. THE HARDER THEY COME
07. HARD TO HANDLE
08. サヨナラCOLOR
09. 風に吹かれて