Interview & Photo by Shizuo Ishii
2015年9月にRiddimOnlineに掲載された記事です。
岡山県津山のマブダチ二人、J-REXXXと紅桜が結成したThe タイマンチーズ。今この二人、いい感じでキテいる。名前もユニークで、アルバムもライブも楽しめる。彼らの生い立ち、そしてParty Gun Paulのことも聞いた。J-REXXXは日比谷野音の「ソウルレベル」にも出演する。
●2人の出会いから聞こうかな。最初出会ったのはいくつ?
紅桜(以下、紅):中学校くらいかな。
J-REXXX(以下、J):いや小学校くらいから知ってて、中学校ぐらいで近づいてきて、俺が高1で紅が中3の時に共通の友達が河川敷で事故で死んじゃったんですよ。それでその河川敷にみんなで溜まっとる時期があって、そこで音楽を聴いたりとか色々やっていて結構親交が深まったな。そこからまた高校が一緒で、俺がダブって一緒のクラスになって(笑)。
●じゃあ紅桜君の方が、1つ下なんだ。
紅:下なんですよ。一緒のクラスになったのが全ての発端で、Jは教科書開く前にジャマイカのパトワ語辞典みたいなのをずっと見てヘッドホンを付けて授業を聞く気も無い。そのヘッドホンも配線ちぎれているやつを柔道部のテーピングで修理とかしているんですよ。自転車もママチャリがかっこいいって言われてる時代に、ストレートのライト付きの自転車を漕いで。辰吉丈一郎か何かのファンクラブのTシャツ着て、サングラスかけて自転車を押してるんですけど全然格好良くないんですよ。
J:ハッハッハ(笑)。
紅:それで背中に“おかん見とってや”みたいなの書いとったな。もう俺、笑っちゃって。
J:そうそう、そういうアホな事ばっかしてて。
紅:俺もヒップ・ホップを好きな人達が周りにできて、JもNatty 17 Rockersっていうかっこいい人達がお互いにいて、何も無い所から自分等が始めたんではなくて、先輩たちの影響を受けて自分達の音楽が始まったんですよね。それからJがこっち(東京)に出てきて数年後、(J-REXXXのアルバムの)「MY TOWN」っていう曲で「一曲やろうか」って言ってくれたんですが、その「MY TOWN」が自分が普段反応しないようなオケで、最初は俺「ウ~ン」と思ったけど、「紅、よう乗せんかったら別に違うオケを選べばいいから」みたいに言われて「なんだこいつ、腹立つわ」と思って乗せようと。でも当たり前にラップをしたら面白くないなって感じで「違う事をやろうか」って。自分のジャンルは分からないんですが、人間っていう共通点を歌うとそれが結構マッチして良いかなみたいな感じで。
●高校時代に一緒にやった事は?
紅:ライヴは、1回、2回はあったよな。
J:ライヴハウスがあって一緒になる事もあったし、一緒に岡山に行ってライヴしたりとか、合間に歌わせてもらったりとかですね。
紅:津山は岡山県の県北で県南の岡山市に出るまで1時間弱かかる、ライブハウスしかない町なんですよ。地元津山でライヴしていくうちに段々とブッキングが県内外に増えていって、岡山と東京で別々で活動していく上でどっちかがでっかいイベントに出るとお互い嬉しくなって絶対来てくれているし、でも悔しい思いもお互いしたしJの悔しがってる姿も見てきました。
●悔しいっていうのは?
紅:若い時は無茶苦茶がかっこいいと思ってましたが、それじゃダメだ真面目になろうとお酒もそれなりに我慢したり、年を重ねると自分から無茶な事をしなくしていくんだろうけど、自分の本質をもっと出したいけど出せないっていう本当に悔しい思いもある。当たり前の話なんだけどね。そういう顔つきもJは全部横で見てくれてました。この男は岡山でも広島でも、東京から所構わず駆けつけてくれるし、俺とかへの報酬は絶対惜しまない。だから、俺もようやくアーティストらしい動きをしないとダメなんですけど見ての通りの俺はデタラメじゃけん。
J:お互いの家庭事情も実家も知ってるし、全部筒抜けです(笑)。
紅:基本、俺は1人じゃないとダメな人間で、一緒に制作していてこいつが「女々しい事言うけど、俺とおって苦しくない?無理してないか?」みたいな。わしが無理してる様に見えたか?
J:タイマンチーズのアルバムでずっと3週間くらい一緒に合宿して、毎日起きてから寝るまで一緒で、3週間目の半ばくらいに聞いてみたんですよ。
紅:俺が喋りまくって少年に戻ろうとして元気が衰えない。でもそんな時に時折見せる俺の顔つきが深刻だったり、メールとかLINEがきて、それで表情変わったりとか全部見てるんですよ。
●これを作ったのは、774君の所で?
J:トラックは貰って、津山で全部プリプロもレコーディングもやって、ミックスだけは774君の家ですけど。
紅:それで、やっと自分等らしいグッとした音楽が出来て。何が歌いたいかっていうと、「少年」のことが歌いたいわけじゃないんですよ。何かこうグッと胸がこうなっちまいますよ、みたいな。その“こう”を歌いたいから俺等は。ハッハッハッハッ(笑)。
● “こう”っていうのは?
J:アルバムに対してみんなコンセプトを決めるじゃないですか。そういう型に嵌めていくのを1回やめて、ありのままの昔からの付き合いのまんまで、高校、中学校の時の気分で制作しようって事でアルバムのタイトルは一応『少年』なんですけど(二人の)名前は書いて無いんですよね。
紅:見ての通りヘンテコで。その何かを歌えれば俺はいいかな。その“何”ほど無限なものは無いので、普通に遊びまくってバビロンからも、俺はコイツのおかげで逃げなかったし。
J:ハッハ(笑)。鳥取の海で夜釣りしながら曲作りをしていて、そのまま夜釣りから帰ってきて、紅が乗ってた車が車検切れしていて、警察に止められてバレて。
紅:俺は隠すの嫌や思って「いけんかったら逃げるけど、バビロンから俺は逃げん」とか言い出して(笑)、「オイ」って止められて、「お前の連れじゃないのにオイって言うなお前、連れに言ってこい」みたいに子供っぽく反論しちゃって。そんな事を言えるのも少年じゃないですか。立ち向かうのが少年だなと思っちゃって、あの頃はタバコ持っていたからって「なんだよ」って言ったてたし、人間として逃げないというのはどんな音楽をやるより意味があると思っちゃって。そんなのをJも目の当たりに見ていて、そこで出来た音楽が「BADMAN DRIVER」だったり。
J:初めてですね、アルバムを制作していて捕まってもいいわと思ったのは(笑)。逆にプロモーションになるわって(笑)。
紅: Jも朝、俺に必要なものとか揃えてくれるんですよ、ビタミンC足りてないとか、このJ-REXXXってやつは本当に俺をしっかりさせるやつで、凄いですよ。少年のフリをしてるのかなって思う時もあるんですけど、これ以上の少年は無い。何か娘に会いたくなる感覚っていうか、1番大事なものを遠回しにしている部分みたいな、酒を飲んだ後が大事だったり、大口を叩いた後が大事だったり、雨が降った後が大事だったりするんだろうけど、自分が結婚した後っていうのを考えていなくて。
●結婚してるんだ。
紅:はい、結結婚した後のことを1番最後にしてたなと思って、最近奥さんに「ちょっとは僕も苦労しますね」とか言える様になって謝ったりして。だから“何かこう”そのもどかしさみたいなのがもろに出た作品じゃな。その『The タイマンチーズ』の中に入ってる「Stay Dream」っていう曲とか、奥さんは初めて泣いたし。うるっと泣いていた。
●「MY TOWN」を作る時はREXXXから声をかけて、アルバムを作ろうって言ったのはどっちが。
紅:Jとそういう話しがあったら良いねって遊び半分で言っていて、Jもそれなりに考えてくれていたみたいで、Jから「前向きにちょっとやってみん?」みたいな連絡が来て、「おお、ええよ、やろうや」みたいな感じで、嬉しいし内心胸がドキドキで「MY
TOWN」のあのノリで出来るんなら新しい自分大好きだからってのびのび作った感じ。
紅:最初は、まあミニ(アルバム)にするって言う話だったけどな。
J:曲がどんどんどんどん出来て早いんですよ。曲の内容にしても、物事を包み隠すのは止めよう、表現を変えて濁らせて、それを若い子が聴いて「なんか分からん」っていうよりも、現実に起こっている事をそのまま直接リリックにしようという観点で作ったので表現もストレートだし。
紅:そのストレート感をお互い持っとったから、「ガンジャ、ガンジャ、ガンジャ」ってノリで口ずさんだフレーズがそのまま曲になっちゃったり。ストレートな部分て大事だけど怖いんですよね。俺等が少年の時に怖くなっちゃってたら、いつ怖くなっちゃうのっていう話しで、まあ自分等の権利は自分等で作っていこうよみたいな感じ。
●タイマンチーズっていうのはどういう意味なの?
紅:アートワークをしてくれている人がaduceさんって言って、OZROSAURUSのMACCHO君とかのファーストのジャケとか、ローライダーの中では凄いアーティストの方で、本当に奇抜なアイディアをくれたり、話しを押し付けないから、心の拠り所で。その人は海の近くに家があって、会いに行った時にいきなり「タイマンチーズだね」って言われて。俺は「何それ?」って聞こえないふりをして聞き流してました。ユニット名は“アンドレ・ザ・ジャイアンツ”でいこうと思ってたんですけど、aduceさんは“タイマンチーズ”ってずっとこう手で字を追ってるわけですよ。多分“タイマンチーズ”ってロゴを描きたかったんでしょうね。「タイマン、、チーズ、、臭いよね、ガキ臭え」って。「Jが入ると更にカビ臭えよ、本当人間臭えよ、2人でやってるからお前タイマン張ろうって言ってるよね、タイマンチーズだな」って。だから最初タイマンチーズって俺等じゃないなって思ったんすよ。多分タイマーズを聴きたかったんですよ、もう1回。あんだけストレートで無茶苦茶する奴等を待ってるんじゃないかなと思って。だから少年の意味でも自己完結で「ああ、そういう事ね」って思って「タイマンチーズ宜しくお願いします」ってなっちゃったんですよね。aduceさんっていう人がいて「イケてんじゃん」って思わせらせられて、自分等もそれくらいあっさりしてようかなみたいな。ふざけられて名前付けられた方が良いよなって。アンドレ・ザ・ジャイアンツだったらもう出来上がっちゃっているし。
J:言葉の中に、“大麻”に“マンチー”に“チーズ”に“怠慢”とか色々入って色んな意味で捉えられるみたいな。
●今回は、このアルバムでどのくらいツアーしているの?
紅:お互い結構色んな所に行っているので、その中で合う時間をお互い見つけて、行き当たりばったり。
J:今、6ヶ所、7ヶ所目くらいで、これから名古屋、大阪、東京、仙台があって、最後のファイナルは岡山があるんですけど、岡山の後にもまた呼ばれたりしていて、広島やら山形やらなんやら、どこからどこまでがツアーなのか分からなくなってきてるっす。でも、一応10月に岡山でファイナルがありますね。
紅:行き当たりばったりって所も結構ヒップ・ホップなところもあったりして(笑)。ヒップ・ホップって俺も何か分からないから。
●元々はラップしてたんだよね。
紅:ラップも勿論大好きですし、ブルースも勿論好きです。他人がしない事が好きで、他人の逆をいったり「飲んじゃだめ」って言われると飲みたくなったりする。
J:あれですよ、一応今年のライブラのUMB、岡山予選は紅が優勝しました。
紅:普通に金欲しさに出て。「あんたどうしようか」って、ボールペンで家計簿をトントントンってしながら言ってるんですよ。「ほーい」とか言いながら普通に部屋着みたいなんで出掛けて行ってライヴでお金貰って来て「それじゃ足りんけん、ちょっと行ってくるわ、優勝して帰って来る」って。何か寝てると申し訳なくなっちゃったりしてですね、まあそういうラップで金を稼げるならラップするし、人間模様を歌いたいなら表情がある詩ばっかり考えちゃうので、Jが凄い刺激剤になってくれて「MY TOWN」とかコイツが言ってくれなかったら絶対やらなかったと思うっすね。俺の選択肢の中ではああいう綺麗な音っていうのが全く無くて、今迄チープでいなたいのが大好きだったんだけど、逆に自分がいなたくならないとダメだみたいに思わせてくれる人間なので。子供を寝かしつけてるとこを見ながら書いていた曲で俺もトントンされたいなとか思いながら(笑)、“昔は大人に憧れたけど今じゃガキに憧れてるよ”って歌ったフレーズだったりするんですよね。
●「MY TOWN」っていうのは誰にでも共通する、どこでも歌えるシチュエーション。最初に聴いて、いいなと思ってYouTubeで見つけて「なんだこいつは凄いな」と。
2人:ハッハッハ(笑)。
●それまで紅桜を知らなくて、こいつちょっと憂歌団も入ってるぞと。
紅:それ、最高の褒め言葉ですよ。だってヒップ・ホップじゃないですもん憂歌団も。歌謡曲の“揺”の揺れるっていう、自分も“揺”の部分でありたくて。だからこうスウィングなんですよね。
●リリックに対しては?
紅:詩に対しての拘りがもの凄く強いので、俺は絶対書き直ししない。で、Jは逆に書き直しできる柔らかさを持っている。「何で書き直せれるんだ、どんだけストイックなんだよ」っていう。
●その書き直せないっていうのは、思ってる事だからそれはもう曲がらないみたいな。
紅:そうなんですよね。もう直す必要が無いですよ、出てきてるから。直すくらいなら端から言わない方が良いなと思っていて。Jは変えて一新してくるんですよ。だから風が空気が違うんですよ。お互い刺激して。
J:うん。塚ちゃん(紅桜)からも、リリックは直さないけどフローとかメロディー・ラインとかキーとか、結構そういう部分で勉強させてもらって、お互いにどんどん進化していったっすね。お互い無いものを取り入れて。
紅:そうそう、ここをこう言ったらリリックの事はお互いプロフェッショナルだから言い合わない。「スタジオの電気を全部切ってくれ」とか、裸足でかかとが離れる瞬間の水気の音とかも好きで、これもヘッドホンで聴いちゃうみたいな。詩でそれを伝えようとしているから、目を開けて歌う時と目を閉じて歌う時があるんですけど、目を開けて歌う時っていうのは「なんだよお前」って言ってきたんなら、「いや、どうなの」みたいに顔に表情が出る。やっぱ詩は考えすぎて言いたくねえ部分もあるだろうし、その辺の描写が上手いんだよねJ-REXXXは。
●あと、Party Gun Paulっていうレーベルを教えて下さい。
紅:僕やJ-REXXXも一緒なんですけど、自分らの街の背骨ですよね。自分の大好きなYAS君っていう人がParty Gun Paulっていうお店をやっていて、ボスっていうかパパみたいな人。その人が俺等みたいな田舎の街で全部1棟借りして1階がスタジオ、2階は服屋、2階の奥の部屋はデザイン。そこでヤス君が「名前を何にする?」ってなって、ピットブルのブリーダーをやってたYAS君が血統書を見たら“Party Gun Paul”っていう名前の犬だったんですよ。だからPGP、Party Gun Paul、名字がParty Gunって「流石海を渡って来ただけあるわ」みたいな、そういう母体があって、FATBOXとか色々あるんですけど、そうやって出来ましたね。
●トラックも結構幅広くて、面白いよねとは思ってたけど、今回はこのアルバム4RRIDEの『鉄板』。これでぶっ飛んだ。この人オモシロいです。
紅:おかしいですよ。
J:この人は紅の市営住宅の1棟上の人なんですよ。
紅:俺が女房と喧嘩しちゃうと隣の部屋に聞こえるとかじゃなくて隣りの棟にまで聞こえちゃうんですよ。俺が怒ってる、じゃあ奥さん苦労してるな、じゃあ何が必要だなって思ってくれて、いつの間にか野菜がノブにかかってるんですよ。とにかく優しいんですよ4PRIDEは。
●ああ、いいね。
紅:地元の者からしたら出て行くなよっていう事ですよ。だからそういう苦しみも痛みも全部聞こえてくる様なところにいるので、大好きな人です。
●何人くらいいるんですか、Party Gun Paulには。
紅:もう大所帯になって十何人いるんでしょうね、まあ十人以上はいるんじゃないですかね、どこからどこまでって無くて、街がParty Gun Paulっていう感じでみんなが力ですよ、ローカルの。ここまでイカしてるクルーも無いしな。Jがそこを選んでくれたっていうのもイケてるから、誰よりも赤字打って。赤字ってイケてますよね。
J:pgpは津山で色んな音楽、特にヒップ・ホップをしてる人達の母体というか、レーベルですね。YAS君が動いて、毎年ごんごまつりっていう地元の何万人も集まる花火大会があるんですけど、そこの特設ステージでライヴとかも一番良い時間に毎年やらせてくれて。地元のメンツだけでやってるんですけど、お客さんも凄くてフェス並に300人、400人、500人平気で集まるし。あとは紅のバックDJのKAJIってやつがいるんですけど、それは俺と同級生で、そいつは今回制作の方を大分手伝ってくれて、そいつはけっこう要だったりするんですね。タイマンチーズもPGPも。
紅:津山の小さな町で特設のステージでシステムを出してってなると何百万かかるじゃないですか。その中で大トリさせてもらって公共で完全タブーな曲「ガンジャ、ガンジャ、ガンジャー」ってやらせてくれたり、そんな街は無いので。何か嬉しいんだよな。ライブした後に町のたこ屋のおっちゃんが俺らのライブ観たとか、母ちゃんがハンカチ持って観よったとか、お父さんは逆向いてたとかそういうのを聞くとね、自分等ももっと地元に還元しないとなって。だから、もうちょっと少年で忙しくやらないと(笑)。って感じですか。