MUSIC

世界いちのレゲエオンリーのフェスティバルSumFest 2019

 
   

Text & Photo by Jun Tochino(Labrish Guest House Kingston)

2019年8月にRiddimOnlineに掲載された記事です。

常夏の島ジャマイカでも、6〜8月は1年の中でも特に暑い。その暑い7月に行われるレゲエオンリーの音楽フェスが サンフェス(Sumfest)。もちろんアツいステージ。

今年もジャマイカにも夏が来た。ジャマイカは常夏の島ですが、6〜8月は1年の中でも特に暑く、その暑い夏に毎年行われるレゲエオンリーの音楽フェスが サンフェス(Sumfest)で、ジャマイカ第2の都市モンティゴ・ベイで毎年7月の第2週に行われます。

数年前まではR&Bやヒップホップの大スターたちを海外から招いてもいたのですが3年前からはマネージメントが変わったことで、海外からの招聘をやめてジャマイカのアーティストだけに絞りレゲエに特化したフェスになりました。フェスは7日間開催、初めの4日間は海外の客を歓迎するウエルカム・パーティやビーチ・パーティのダンス主体のパーティが日替わりで行われます。そして5日目が海外のサウンド・システムを招いたサウンド・クラッシュ、最後の2日間がメイン・イベントで6日目はダンスホール・ナイト、7日目はインターナショナル・ナイトというステージショウです。

Day 5 Sound Clash

私は4日間のダンス・パーティーには参加せず5日目のサウンド・クラッシュから行きました。今年のクラッシュは日本からヤード・ビート、ジャマイカからリッキー・チューパーとピンク・パンサー、カナダチャンピオンのキング・ターボ、イタリアからウォリアーの5サウンドが参戦しクラッシュを行いました。さすが世界のサウンド・クラッシュを勝ち抜いている強者揃いで、1回戦から全サウンドが素晴らしいダブをかけまくり、甲乙付けがたい戦いでした。2回戦でチューパーが脱落、3回戦でキング・ターボが脱落、4回戦で惜しくもヤード・ビートが脱落、そしてチューン・フィ・チューンでパンサーとイタリアのウォリアーの一騎打ちとなりウォリアーが優勝。ウォリアーはイタリア人なのに英語がとても上手く、ストーリーを作りながら曲をかけるスタイルは、イギリスのデヴィッド・ロディガンを思い起こさせるものがありました。私が一番心に残ったダブはキング・ターボのかけたミュージカル・ユースの「Pass The Dutchieで、今まで聴いたことが無いダブが聴けたことでした。

Day 6 Dancehall Night

6日目のダンスホール・ナイトと7日目のインターナショナル・ナイトは、会場が大型の野外コンサート会場のキャサリン・ホールで行われます。今年のダンスホール・ナイトは盛りだくさん、目玉はビーニ・マンとバウンティー・キラーのDJクラシッュ、そして話題の若手女性DJコフィー、さらにクロニクス。

ショウは夜8時くらいから若手でスタートし、11時くらいからはムンガ、スプラガ・ベンツ、エレファント・マンと進んでいきました。スプラガは懐かしの90’sチューンの連続、そしてエレファント・マンは全身金色の戦士のコスチュームで登場。これぞダンスホールといった曲で全てが歌えて踊れるステージングはなかなか楽しめました。その後アサシン(エージェント・サスコ)、そして女性DJクイーンのスパイス。彼女はステージ中央に用意されたスピーカー・ボックスの中からいきなり現れ、ダンサー10人を引き連れて自分も踊り、見事に貫禄のステージング。そしてバイブス・カーテルとの曲「ランピン・ショップ」ではバイブス・カーテルを“自分を一線に引き上げてくれたキング”とビッグアップ。4回も衣装チェンジをしたステージンングは流石DJクイーンでした。

そして次はダンスホール・ナイトの目玉ひとつ、ビーニ・マンVSバウンティー・キラーの歌詞でのDJクラッシュ。この2人とブジュ・バントンは同じ1973年生まれで、90年代にはスリーBと言われていましたから、この3人がサンフェスに出演するのは凄い事件で、特にビーニ・マンとバウンティー・キラーは1993年のスティングでのクラッシュを皮切りに因縁のライバルであり、長い間DJキングの座を争い、ビーフ合戦をしてきたことでも有名です。1995年に、ラジオDJが仲を取り持ち、二人をRJRのスタジオに招き、彼らは休戦となっていますが、その因縁の2人が今回はステージで完全に友好的なクラッシュが行われたのも今回のサンフェスの凄いところ。

スタートはバウンティー・キラーの当時の問題のきっかけ“people dead“の叫び声、そしてビーニへ。90年代のクラッシュ・チューンを掛け合い歌っていく見事な約1時間の圧巻のステージ。いつもなら睨み合いながらのステージが今回はお互い笑いながら楽しんでいる感じ満載のステージでした。この2人が和解、こんな時代が来るなんてと10年前には思いもしませんでした。私にはジャマイカ・レゲエ史に残る事件です。「あなたどっちが良かった?」って聞かれるなら私は絶対キラー派です。

一転して次は若手注目の女性DJコフィー。17年10月にデビューした若干18歳。今年2月のレベル・サルートの時にはまだぎこちなかったステージングもかなり良くなってヒット曲「Raggamuffin」「Rapture」「Burning」「Toast」の4曲を歌って爽やかに去って行きました。

そしてダンスホール・ナイト2つ目の目玉アーティスト、クロニクスの登場。彼は本当なら絶対翌日のインターナショナル・ナイトに出演するはずなのですが、今回は翌日のブジュとべレスの為にダンスホール・ナイトに出演。ステージ上でも「自分がダンスホール・ナイトに出ることは何もおかしくないよ。俺の音楽も立派なダンスホールだから」とMC。ゆったりしたヒット曲を次々と歌い上げ、途中アフリカの大スター、ミスター・イージーをステージに上げて一緒に歌ったり、お父さんのクロニクルを呼び込み一緒に歌ったり、とてもアイリーなステージ。「I can
を歌っている時にちょうど朝日が昇ってステージはすごく荘厳な感じでした。

そこからはまた雰囲気が一転、ギャルに大人気ジャマイカのセックス・シンボルのデクスタ・ダップスが登場。甘いルックスと声で女性ファンを惹き込み、最後は彼のステージではお馴染みの上着を脱ぎ捨てるセクシーパフォーマンス。その次のガバナは今回ラインナップになかった兄貴分のアイドニアを呼び込みマッシュアップ。そして次にジャー・ビラーニ。この時点でもう朝9時。すでに疲れて帰りはじめる観客もいて、正直私もかなり疲れて帰りたい気がしていたが、この後モンティゴ・ベイ出身のクロニック・ロウ、そして今話題のモンティゴ・ベイのギャング・グループ、シックスのボス、スクアッシュが出るというのでひと目見たいと思い待っていたら、いきなりジャー・ビラーニが終わった所でショウがストップ。ステージ裏で警察と出演アーティストとの喧嘩が起きたとか、、、まあ、ジャマイカあるあるですがせっかく最後の2人を見たくて待っていたのに、とっても残念。

Day 7 International Night

そして最終日のインターナショナル・ナイト。この日はブジュ・バントンとベレス・ハモンドが出演ということで前売りはネットで全て完売。普通席も当日売り切れ、1万5千人で超満員。最初は去年イギリスのXファクターというタレントオーディション番組で優勝したダルトン・ハリス。彼はかなりの美声の持ち主、これまでジャマイカでも沢山のタレントオーディション番組に出演していましたが芽が出ず、昨年Xファクターにチャレンジして優勝。顔もかっこいいしスタイルも良いし歌も上手いからジャマイカ希望の星です。次は女性ラスタ系新星シンガー、ジャー・ナインが凄くコンシャスなラスタリリックで会場を魅了、そして人気実力女性シンガー、エターナはバレエ系のちゃんとしたダンサーを連れてのステージ、歌唱力も高く女性へのメッセージソングが印象的でした。

次にもはや中堅としての評価も高いラスタ・シングジェーのプロト・ジェイ。自らの45分のステージ時間の中でジェシー・ロイヤル、エージェント・サスコ、そして注目の若手女性シンガー、リル・アイケ、更にはクロニクスまで、自分のアーティスト・ファミリーを全員呼び込む素晴らしいステージ。中でもリル・アイケとの「Second Chance」、クロニクスとのコンビ曲「who knows」は素晴らしかった。今後ラスタ系の中心になっていくのは彼かなと期待させられるステージでした。

そしてついにこの日の目玉の一つベレス登場。会場中が彼の歌声に酔いしれる幸せの瞬間。観客は全員大合唱。現在のレゲエ界のキングですねベレスは。ステージを見ていたビーニ・マンが途中で感極まり乱入。とてもすばらしい安定した大人のステージでした。

そこからロメイン・ヴァーゴ、クリストファー・マーティンと若手シンガー2人が続き、観客は少しだけ休憩時間。そして朝5時、待ちに待ったブジュの登場。この日の開場は夕方6時でしたが、VIP席の一番前に陣取った人に聞くと夕方5時に並んで最前列を勝ち取ったらしい。VIP席は決して若い人達ではないけど12時間もブジュを待っていたので出てきた瞬間にすごい歓声と盛り上がり。
ブジュのショーは軽快な90’sダンスホール曲「Mi and Oonu」からスタート。ステージ中を飛び回りその後90’sギャル・チューンが続き、本人もワイニー。そしてそこから新曲の「Country For Sale」、新曲を数曲歌った後に傑作アルバム『Til Shiloh』からの「Untold Stories」へとおなじみのコンシャスチューン。そして最後は「psalm 23」で締めくくるという荘厳なステージは素晴らしいの一言でした。6月に行われた“Long Walk To Freedom”コンサートの時より体もシェープされて10年前の全盛期を思わせるスリムな体型で1時間45分の見事なステージでした。

今年は観客動員記録を塗り替えたという最後の2日間共に1万人を超え、世界一のレゲエの祭典は最高でした。全てのアーティストが良かったのですが、私的に一番印象に残ったのは、やはりビーニ・マンとバウンティー・キラーのユナイト・クラッシュ。自分の20年間のジャマイカ生活とこの2人の喧嘩の歴史が重なるので感無量でした。モンティゴ・ベイの観客には、釈放後のブジュの初モンティゴ・ベイという事もあり、やはりブジュが一番だったんじゃないでしょうか。

最初にも書きましたが、サンフェスは毎年7月の第2週月曜から土曜まで開催され、木曜はサウンド・クラッシュ、金曜がダンスホール・ナイト、土曜日はインターナショナル・ナイトです。来年はさらに期待できるサンフェス、ぜひ一度この時期にジャマイカに来てサンフェスでレゲエを堪能してください。