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森田貴宏

 
   

Text by Shizuo Ishii   Photo by Ken Goto, Yuichi Ohara

2014年1月にRiddimOnlineに掲載された記事です。

 FESNを主宰するスケーターの森田貴宏が昨年12月、LAで行われたISFF 2013(インターナショナル・スケートボーディング・フィルム・フェスティバル)に招待されて帰って来た。さっそくRiddim Onlineのオフィスまできてもらって話を聞いた。
  森田貴宏と知り合ったのは15年くらい前だ。既にクオリティの高いスケート・ビデオをリリースしていたので、Panasonic(当時の松下電器)のRiddimVoxというラジカセの広告に彼を起用しようという打ち合わせだった。それがきっかけで新しいDVDやサントラができるとサンプルを持って突然現れた。それはたいてい夕方の暗くなった時間だったから、きっと大好きなスケートが一段落したころだったのだろう。スケーターでありながら、FESN(ファー・イースト・スケート・ネットワーク)の名前でスケート・ビデオを出し、LIBE BRAND UNIVS.と言うブランドもやっている。今回のLAで行われたISFF(インターナショナル・スケートボーディング・フィルム・フェスティバル)へダン・ウルフらに混じっての招待は、今までの映像作品が評価されてのものだろう。ちなみにオフィシャル・セレクションのウイナーにはRiddim Onlineでも紹介したタイ・エヴァンスやスパイク・ジョンズ達の作った「Pretty Sweet」が選出されている。

 

●最初に、なぜスケート・ビデオを作って発売しようって思ったわけ?

 森田貴宏(以下M): それは当時の僕らには無かったからですよ。Thrasherの「スポンサーvミー」っていうビデオを見た時に、「これだ!」って自分でも作りたくなったんですよね。93年からスケートを撮り始めて、二度カメラの盗難にあって(笑)、ようやく最初のビデオ「FESN」を発売したのが95年ですね。

●その時のカメラは?

M:SONYのVX1です。

●もうそんなに良いカメラで撮ってたんだ。

M:良いカメラで撮れば「カメラが悪いからね」とか言われないだろうと思ってました。あの頃たしか24万くらいするカメラを使いこなせないのに無理して買って、そうすれば自分でも逃げ出さないだろうなと。ドキュメンタリー・フィルマーだと思ってやってる頃は、カメラ2台と三脚2本とテープとライトのバッテリーをそれぞれ10個くらい、それにフィッシュアイ、広角レンズをそれぞれバッグに入れてプッシュしていました。フル装備だと20キロ近くあって、それを背負いながら、撮影するスケーター達のスピードに合わせて自分も走らなけりゃならなかったから、そりゃ当時は過酷な修行の日々でした(笑)。だけどこれでホントにスケートがうまくなりましたね。それ以降の2008年から僕はスケーターを「撮る」側から、スケーターとしてもう一度「滑る」側になりたいって正直に思ったんです。

●えっ、それはどうして撮るのを止めたの?

M:「オーバーグラウンド」(DVD)を作ることで、僕が会いたいと思っていた世界中のヤバいスケーターたちには相当数会ったんです。
正直ほとんどの人に会えたと言っても過言じゃない程。それから日本に帰ってきて思ったのが、仲のいい友達のスケートなら撮りたいですけど、興味の無いスケーターにカメラを向けるのは僕自身出来ないって思ったんです。やれば嘘になるって。そうなって考えた時に、僕自身、純粋にスケートというものの中で興味があるモノが、もはや自分のスケートしかなかったんです。だから今、僕は滑る側なんです。今は僕自身スポンサーとかの縛りも特に無いから誰に文句を言われる筋合いもないですしね。それに僕がスケートすることで実際僕に対して直接文句言ってくるのは僕のお嫁さんぐらいなもんですから(笑)。今はそんな俺のスケートを必要だと思ってくれるカンパニーが日本にも海外にもいてくれて、さらには俺のシグネチャーモデルを随時作りたいと言って来てくれる状況になった。そうなった今、もう俺のスケートを止めるものは何もないですよ。

● そんな時期に行ってきたフィルム・フェスティバルってどういうものだっけ?

M : GoProっていう小型カメラとISFFっていうスケート・フィルム・フェスが組んだ「ISFF+GoPro Filmmaker Challenge 2013」っていうのがあったんです。

●今回は、そもそもどういうきっかけで招待されたの?

M:それはたぶん2008年に作った「オーバーグラウンド」っていうビデオをイタリアのスケーター達がYouTubeにアップしたいって僕の許可でアップしてたんで、それをものすごい人数の人たちが見てくれたんだと思いますけど、選ばれた理由は特に書いてなかったですね。僕の紹介のところには「アンダーグラウンド

●カルト・スケート・ムービーの制作者」って書いてあったぐらいで。(笑)

●映画祭はどこでやったんだっけ?

M:あのBERRICS(ベリックス)です。スティーヴ・ベラとエリック・コストンが共同でやってるスケート・パークです。

●どうだった?

M:映画祭自体はそれほど規模は大きくはなかったですけど、会場だったBERRICSに一番興味があったんです。世界一商業的なスケートボードの情報を発信してる場所にとにかく僕も行ってみたかった。自分もLIBE BRAND UNIVS.っていうウェアブランドをやってますし、FESNのロゴTシャツも世界中のスケーターに着てもらいたいですからね。それら僕のやっていること全てを世界中にアピールできるかもしれない場所「BERRICS」にただ単純に行ってみたかったんです。もちろん、せっかくならフェスティバルに参加したいっていう正直な気持ちもありましたけど、最悪「BERRICS」で滑れればいいやって(笑)、あそこで滑る機会なんて普通はないですから。おかげさまで映画祭の方は準グランプリになることが出来たんですけど、それよりも俺はここに来たんだっていうスケーターとしての確実な傷跡を「世界の一流が集まる場所」にどうやって残すかをずっとワクワクしながら考えていました。

●WEBでチェックした作品『Missing』は日本とか日本人を強く意識した作品になっていたけど、映像制作や表現者に興味を持つきっかけは?

M:二十歳の頃、黒沢明監督の「生きる」って言う映画を見てショックを受けましてね。人生最大のテーマを僕は映画で突き付けられたって思って、真剣に考えさせられました。実際に“生きるとは?”って。それはお金持ちになってただただ豊かな生活をすればいいのかとか、仮に莫大な富を得たとしても、自分以外の誰も信じられずに精神的に孤独に生きたって僕は意味が無いんじゃないかって思ったりしました。だけどそうやって僕も僕以外の周りの皆も確実に「生きる」目標を探してることに気付いたんです。人は人生を経験していくうちに必ず己の考えも変わっていくし、時代とともに世間の流れも変わっていきます。ですが決して変わらないものが人それぞれの心だと思うんです。弱い心は誰にでもあって、それは必ずしも善悪だけでは解決出来ない問題なんです。だからそうやっていくと、ただただシンプルに皆が助け合うとかっていうことが、社会生活で必要なものだってことに気付くんです。

●今も今後も、森田君を突き動かしている基本的な考えってなんだろう?

M:過去から未来に時間が過ぎていく中、同じ過ちを繰り返していては本当に時間の無駄じゃないですか?まだまだ大げさなことは言えないけど、僕は過去、現在、未来っていう点と点を線で繋げることをやりたいって思うんです。温故知新。新しいものを作るには、まず過去を研究して未来に繋げていく。
だから、今回の映画祭に提出した作品も日本スケート界の育ての親である「デビルマンニシオカ」氏と氏の友人ら全員に捧げようと、僕がそれこそ僕の多くの仲間の力を借りてみんなで作ったものなんです。最悪、賞に選ばれなかったとしても、作る理由がある。後輩として偉大な先輩達に捧げるささやかながらも精一杯の感謝の印を僕はたまたま与えられたこの世界の大舞台で表したかった。
ここで言い尽くせないほどの数々の歴史的セッションの上に今の日本のスケート・カルチャーは存在しているわけですからね。僕らはただその先っちょに乗っかってるだけです。だから、僕の作品といっても僕一人が評価されるものではないし、それこそ日本スケート界全体が世界でトップになるポテンシャルを持ってることを、仲間達みんなで世界に証明出来たんだと思ってるんです。

●話が尽きないからここで録音ストップ。最後に、どうしてスケートなの?

M:それは「自由」だからです。ルールが無いからです。マナーやモラルはあるけど、ルールは無いからです。
人としてというマナーやモラルこそ、僕はスケーターにとって最も大切なものだと思います。スケーターはおしゃれでいたいんです。ってことはスケーターはこの世の中で一番優しい人であれって思うんです。

この日の森田貴宏との会話はこの後4~5時間は続いた。彼が現れるときは、あ~だこ〜だとほぼこんな調子で、その話は彼の作品同様にとてもネチコイのだ。そしてその彼の夢や希望は、いつも俺のような老人のスケーター志望者(まだ死亡じゃないぜ)にはとても救いになる。

「ISFF+GoPro Filmmaker Challenge 2013
http://intlskateboardfilmfestival.com/isff-gopro-challenge/

FESN Web
http://fareastskatenetwork.com/new/