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キーボードサミット(後編)外池満広, 小西英理, HAKASE-SUN, 森俊也

 
   

Text by Riddim, Photo by “EC” Ishii

2019年11月にRiddimOnlineに掲載されたインタビューです3人から森さんも加わってついにキーボード話は4人で、いよいよ佳境に!!

●それでは英理ちゃんがピアノにこだわってるのは?

小西英理(以下、K):私はHAKASEさんとは逆で、制限があるのが好きなのかなと話を聞きながら思ってました。音色はピアノだし、もちろん鳴らし方とかあるけど、ドからドまで12音、定規で言ったら12センチ、ドとミの幅これくらいやし、ドとソの幅これくらやしみたいな、それを楽しんじゃっているのと、後はピアノの打楽器具合とメロディーもいけるし、下の方もいけるし、さっきの“ブワーン”もやっちゃえるし、その万能具合が大分素晴らしいなと思うんです。音の追求とかは素晴らしいと思うんですけど自分はその耳が無かったので、「どれだけ自分は遊べるんだろう」みたいなのが凄く面白い。

HAKASE-SUN(以下、H):女の人らしい感性だと思います。男はやっぱり暴れたいという衝動が常にあって、外池君もそうだよね。

外池満広(以下、T):そう、人よりでかい音を出したいみたいなのがあって、皆んなに迷惑がられて(笑)。

H:最近はバンドでやる時はなるべく大人しくしているけどさ、チャンスがあったら暴れまくりたい、常に。

T:ブチかましたい、54(歳)にしてダイブみたいなね。そうだ、この際だから英理ちゃんに聞くけど、何でレゲエに来たのかな?英理ちゃんのプレイスタイルを聴いているとラテンっていうのは腑に落ちるんだけど、普通は楽器の演奏を修練してそこに面白みを持ってる人ってレゲエに来ない、レゲエの面白さってそこじゃないから気がつかないんじゃないかな。だから来るケースは、なかなか無いはずだけど、何で英理ちゃんはレゲエに気がついてこっちに来たんだろう。

K:齋藤(轍史)さんと森さんですね。

森俊也(以下、M):俺か?(笑)。

K:森さんは、CULTIVATORのキーボードだったんですけど、ドラムの方が辞められてドラムになって、CULTIVATORの斉藤さんが、「キーボードの枠があるけど、どうかな」って声を掛けてくださって。

T:その時は、既にレゲエを?

K:いやいや、キューバしか。

T:何でそこに入ったの?

K:モントゥーノってラテンのスタイルを弾いていたんですけど、斉藤さんに「スカっぽい」って言われて。

M:スカは大分ラテンが入っているからね。

T:ああ、そうか。そうだね、ジャズだしね。

K:「なんかスカっぽいからいける、おいで」みたいな。好きだったから観に行ってたし、(大和田)バクちゃんもレコードを買っていたし。

T:スカなら分かるけど、いきなりルーツでしょ。

M:CULTIVATORは、どルーツだったね。

K:だからビックリした。だって耳はヒューマンな音だけでずっときてたのに、あんな無機質な中にヒューマン具合を照らし合わせている建築物の塔みたいなすごいアンサンブルにビックリしました。

T:とにかく削り落として、削ぎ落とすものだからね。

K:しかも役割分担をすればするほどかっこいいという。ぐちゃっとさせない、洗練された部分というか、生き様じゃ無いけど無茶苦茶勉強になりました。

T:なるほどね、よく分かりました。普通は「ロックやってました」って人で、しかもキーボードでレゲエに来る人ってまずいない。レゲエが好きで好きで弾いてみたいって来る人は沢山いるけど。

H:無いね。

T:それはレゲエのスウィートポイントに気がつかないと思うんだよね、とういうか興味がそこに無い。

M:やっぱり違う方に興味がいくんじゃ無いの。

T:ある意味キーボードっていう役もだけど、プロデューサータイプじゃないと務まらないのかなっていう気がするよね。

H:音楽を2階から見るっていうか、そういうセンスが無いとね。「とにかく俺のプレイを」ってなると、レゲエよりもっと発揮できる分野はあるじゃないですか。

M:ジャズとかね。

T:そうなんだよ、俺はジャズとレゲエって一番親和性が低いと思っていて、どうにもならないと思っているんだよ、今日は長くなるから割愛するけど。異論もあると思うけどね。

M:そこについては色々あるよ、俺も。

H:レゲエのプレイって、こんな鈍臭いプレイを楽しくずっとやるっていうのは、他のジャンルの人から見たら、とんでも無いことだと思うよ。ただひたすら裏打ちしているとかさ。

T:そこに興味を持ってそれを楽しいと思わないと、良い音になっていかないんだ。楽しい裏には「何で楽しくなるんだろう」って。俺たちはジャマイカ人じゃなくて日本人だから「研究だよね、何が違うんだ」って。だからプレイスタイルから楽器から録音方式まで全部こう調べて調べてレコードを聴いて間違っている所までコピーして、それで1回ジャマイカ人になってから自分に戻ろうかみたいな感じで徹底的にやったよね。

H:そうだね。

T:それでやっぱり分かることがあって。

H:レゲエの昔の音源を聴いてると、間違えているけど「いいのこれ?何で直さないんだ」みたいな。

T:そう、最初は気持ち悪かったよね。

H:日本人だったら絶対に直す所を直してない。ロックステディの曲とか、あの辺の感性っていうのはやっぱり凄いなと思う。日本人のレコーディングだったら絶対に「すみません」って言って直す様な所も絶対直さない。

T:絶対に直さないあれがね、チャーミングに思えるもんね、今はね。

H:そうです。そこが良かったりする。

●やっぱり重症だな、こりゃ(笑)。

T:そういう所に愛を感じるようになって、聴きだした頃からは演奏も変わったかなって思う。好きになって深く愛してその愛の深さで出て来る音というのかな。普通ならコピーするにもコードが2つしか無いし、ベースラインなんて2小節しか無いから2秒もあればできるわけ。だけど2秒のコピーで「これを繰り返していれば良いのね」って弾くベースの人と、レゲエが好きで「どうしたらあの感じになるのか、丸い音、太い音になるのかな」って、そのたった2小節をあれと同じになるまでやる人とは全然サウンドが違うしグルーブも違う。好きにならないとそういう事をしないし、その上キーボードは色々やる事も多いし、楽器も多いから全部のキーボードスタイルについて全部やるのは大変だけど、でもやりがいはあるよね。

H:そこの突っ込んだ研究具合っていうのが、外池君のスタジオの名前、国立(くにたち)音響研究所、正にそれだよね。昔、こだまさんに言われた言葉があって、「レコードは教科書だから、借金してでも買え」って言われた。シンプルな言葉だけど、そういう事だよね。

T:今HAKASEが持ち上げてくれたけど、全員に対してそれを思うね。「こんな人が居たんだ」、「負けた」みたいな。その「負けた」から「負けないぞ」みたいな(笑)。

H:キーボーディスト、鍵盤をやっている人っていうのは音楽的にちゃんとしているっていうか五線譜は読めると思うんですよ。そういう音楽理論とか体系的なとこで勉強せざるを得ない所があるから、そういう人間がレゲエ界にいるって事は大事だなと俺は思うんです。キーボードってちゃんと弾くって所が大事で、ノリだけでは出来ない所があるから勉強しなきゃっていうのがあるんです。そういう人、森さん、外池君、英理ちゃんはじめ俺も、未だに色んなバンドで活躍してるっていうのは大事なんだなと思います。

T:特殊だからね、レゲエのキーボードって。俺もHAKASEくらい弾けたらもっと色んなやりたい事が出来るのにと思うけど、なかなかそう上手くはいかないし、指も動かないしみたいな。

H:外池君とはタイプは近いけど、俺はどっちかというとピアノ派だね。音の強弱というか。外池君はオルガン好きで、ファルフィッサのオルガンとかね。

T:好き。やっぱり喧嘩が強いのが好きだよね(笑)。

M:音が伸びるしね、オルガンは。

T:俺、生ピアノだけは家に無いのよ。

K:それもビックリした、88鍵の重鍵も持ってないと聞いて。

T:数えたら鍵盤が32台あるんだけど、ピアノは無いんだ。という事は、ピアノは好きだけど、絶対に好きだったら持っているはずだもんね。欲しいけど「もうやめて」って嫁に言われているし。

H:32台もあるのは凄いね。

M:ビブラフォンだってあるくせに。

T:HAKASEも相当増えてた時があったね。

H:今は好きな楽器はなるべく2つ持つことにしていて、使っているやつとそのスペアでね。例えば YAMAHAのDX100とか2台持っているし、好きな機材は一応2つ持ちたい。
後はハモンド・ジュニア、あれも一応2台持っていて。

T:インタヴューとか載るんだったら写真を日本中の人に見てもらいたいよ、この人、本当変態だよ。

M:俺もDX100を一時期3台持っていたな。

H:DX100とか昔の楽器はアタックが良いよね、レゲエの場合はアタックが命かな。

T:そうね。あとHAKASEは音色のセンスがあるよな。この間Dub us.の時に使っていたKORGのモジュール、あんな音が出るなんて気が付かなかったよ、「よくこの音を引っ張り出したな」と思ってさ。

H:あれも90年代の楽器だけど、アタックが良いからね。2005年を過ぎるともう俺の中では駄目だね。Nord Electroは、まあギリギリセーフみたいな感じ。

T:まあ、音色を煮詰めていこうと思うと荷物が増えちゃうからね。だんだん体が辛くなってきて、機材の積み下ろしと3キロ走るのは同じ汗をかくなと。ちょっとの(音の)差が大きい差になる。効率を考えるとその差は無視して良い範疇に入るのかもしれないけど、でもそこを大切にしたい。良い音を出す珍しい楽器とかは小さなクラブでこそ聞いてほしいっていう気持ちがすごくあって、常に故障トラブルとの背中合わせで怖いけど、ビンテージを使い倒して暴れてみたいって気持ちはあるんだ。俺もHAKASEじゃないけど、バックアップは必ず持っていくし、ファルフィッサもMoogもそうだけど、万が一ね。

H:なるほどね。話がキーボード・マガジンみたいになってきた。

T:今は便利に何でも色々80点くらいまでの物は簡単に手に入るけど、もうこの年齢になったから、その先をいきたいよね。

●次のショーは、Gladdy Unlimitedです。グラディのピアニストとしての魅力みたいなのがあれば。

H:グラディと言えば、ルーツ中のルーツ、本物中の本物。自分も若い頃はあのアルバム『Caribbean Sunset(「It May Sound Silly」の日本盤)』を聴いて非常に影響を受けたし、好きなアーティストなのでコピーしたいんだけど、未だにグラディのプレイスタイルって、何かタイム感が凄くて、この感じって永久に分からないんだろうなっていう感じ。

K:そうですね。分からない気がする。

H:そういう所があるんです。グラディらしい事を逆にやろうとすると陳腐になるというか、「グラディっぽく弾こう」とか時々色気が出たりして狙って弾くと逆に安っぽくなるというか、だからそのグラディをリスペクトする所はそれじゃないな、ただ真似をして弾くっていう事じゃない。

K:例えばフレーズを真似して弾いていても、自分のポジションじゃなくて、他の人の音を聞いて、自分の音を出しるみたいなのがいっぱいあって、小節を跨いでるんですよね。4/4、4/4ではなくて、指揮者みたいな音楽的というか、だから譜面に起こすのも出来ない世界、タイム感もそうだし。

H:だよね。

T:歌っているんだよね。レゲエとかは歌メロを弾くインストってあるじゃないですか、俺よく森ちゃんから、「歌う様にやってよ、歌っていればOKだから」みたいな「歌う」っていうディレクションがよく入るんだけど、正にグラディはそれ、本当に歌っているよね。

H:正にそうだし、割とビートに対してちょっと突っ込む感じというか、ジャストじゃないんですよね。

K:きっと突っ込みたいんだろうなとか。

H:基本突っ込んでるけど、何か凄く間口が広い、そんな感じがするよね。それが何かきっちりした決まりがあるかっていうと、それも無くて。

T:HAKASEは、『Caribbean Sunset』の方だったんだね。俺はハイビスカスのジャケの『Caribbean Breeze』の方。

H:あれも良いね。

T:あの時代にあれが出たって事も良いんだな。ありがとうございます石井さん。あれだったら、万人が好きだって言うと思うよね。

●あれは89年にタフゴング・スタジオでレコーディングしました。いつかアナログにしたい。

H:ドラム&ベースが凄く良いんだよ。

●ドラムは、スティ・クリのクリーヴィなんです。

T:アンセル・コリンズの話がまだ出てないけど、この人こそがレゲエだと思うんですよ。グラディともジャッキー・ミットゥともプレイスタイルが違う。この人達はジャズというか、そういうコンテンポラリーなところがあるけど、アンセルこそレゲエだと思うんだ。理由を言うと、レゲエのひとつの魅力って削ぎ落として削ぎ落として、残ったものは妥協する必要の無い最後に研ぎ澄まされたモノっていうことだと思う。MUTE BEATもそうだけど8小節の簡単だけどよく歌っている印象的なメロディーを作るっていうのがあるじゃないですか。
アンセルのプレイスタイルって本当にそれを煮詰めたものだと思っていて「Double Barrel」もそうだし、「Liquidator」はウインストン・ライトかもしれないけど、8小節のAメロ2回、Bメロ2回、またAメロ2回、Bメロ2回、それだけですよ。ソロも弾かないしインプロもしない、だけどあれだけグルーヴィーで魅力的でソリッドでお洒落でダンサブルで、つまりレゲエそのものじゃないかって思うんですよ。「これだけしか無い要素でなぜこんなにカッコいいんだ」みたいな。例えばイエローマンが同じフロウを2回ずつ言う、キーボードであれと同じですよ。僕らは研究してそうなのかなって思うけど、彼らは生まれつきでこれが出来て、本当にレゲエの魅力を蒸留したひとつの極北の形なのかなって僕は思っている。

H:そんなに際立ったことをするタイプの人じゃないんだよね。

T:だけど(「Double Barrel」は)全英1位でしょ。それこそレゲエの力だと思うんですよ。お前らプログレとかジャズメンにこれが出来るのかっていう話しで。

H:極め付けのシンプル。

T:ホットな感じとしては、ジャッキー(ミットゥ)が一番好きだし、ロマンチックな感じはグラディが一番好きなんだけど、レゲエの美学を貫いているスタイルとしては、アンセル・コリンズとウィンストン・ライトなんですよね。

●アンセルが作曲した「スタラグ」トラックを使ったミックスをYouTubeで検索すると71曲を繋いでいるミックスがあって、それをずーっと聴いていたんだけど、スタラグって飽きない。モンスター・トラックと言われるだけある。

T:オルガンで「ホワー」ってやっているだけだもんね、怪しいよね。どんな人なんだろう。

●アンセルは凄く優しい人です。まだ現役でレコーディングもしてます。

ということで、キーボーディスト3名にMatt Soundsのドラム、森さんも加わった前代未聞のキーボード・サミットともいうべき“キーボード愛”と “レゲエ愛”に偏執、いや溢れる鼎談、最高です。このメンツにエンジニア担当がウッチーこと内田直之である。12月4日が待ち遠しい。