MUSIC

Adrian Sherwood At The Controls

 
   

Interview by Shizuo”EC”Ishii(石井志津男)Translated by Ichiro Suganuma, Photo by Sho Kikuchi

2015年4月にRiddimOnlineに掲載された記事です。

過去の作品をセレクションしたアルバム『Sherwood At The Controls - Volume 1:1979 - 1984』とPinchとの『Late Night Endless』をリリースしたエイドリアン・シャーウッドが来日。到着したその日にキャッチ。

●もう日本は何度も来てるね。最初に来た時にもお会いしました。

Adrian(以下、A):最初に来日した時は、TRAという雑誌を出していてアートや音楽のコンダクターだったシキタ(式田 純)さんという人が呼んでくれた。ピテカントロプス・エレクトスというクラブやインクスティックとレッドシューズにも行ったね。

●それはもう30年前になりますね。日本は好きですか?

A:本当に好きだよ。日本に最初来てからもう31年も経つよ。たくさんの友達がいるし、俺には日本人とのハーフの子供が2人いてみんなもう大きくなってるしね。友達がいてとても楽しい思い出がある。俺にとってとても幸運なことだ。人生は本当に不思議だ。

●Riddimという雑誌は知ってる?

A:よく知っているよ。とてもいい雑誌だ。

●雑誌Riddimは創刊して30年以上になります。riddimというスペルは以前Sugar Minottの作品にもあるように80年代初めはRydimとも記されてましたが、Riddimを創刊してからriddimというスペルがポピュラーになったと思っています。

A:いいね。そうか、それは君のせいだったんだね!

 

●昨年、エイドリアンとDUB SyndicateをやっていたドラマーのStyle Scottが亡くなりました。僕も80年代の後半から彼らとジャマイカでレコーディングしたり、Roots Radicsとして来日もさせました。2010年にはOVERHEATの30周年記念のイベント「DUB CLASH」をLIQUIDROOMで開催した時に彼を招聘したのが、僕との最後の仕事になってしまいました。

A:そうか、来日させてたんだね。俺は彼を愛してたから、とても残念だ。

●あなたの『Sherwood At The Controls - Volume 1:1979 - 1984』を聴きました。特にAfrican Head Chargeの「In A Trap」や Vivien Goldmanの「Private Armies Dub」がやっぱり好みで、とても懐かしかったね。

A:Vivien Goldmanの音源は、99 Recordsのだ。Ed Bahlmanのレーベルだな。

●NYのグリニッジヴィレッジの99 MacDougal Streetにあったショップとレーベルですよね。キース・レヴィンも参加してる12インチシングルを持っていますよ。92年だったかな?実際に99 Recordsを訪ねていった時に彼から頂いたんです。Liquid Liquid、ESGとかレゲエのThe Congosも出していたとてもユニークなレーベルでした。

A:そう、Ed Bahlmanという男がいたんだ。New Music Seminar (NMS)を設立して始めたのはTommy BoyのTom Silvermanではなくて、実は彼なんだ。

●では『Sherwood At The Controls - Volume 1:1979 - 1984』のことについて聞きますが、今までの数多くの作品の中から収録する楽曲をどうやって選曲したの?

A:実はこのアルバムに関しては俺が直接選曲したわけではないんだ。友達に選曲してもらったんだ。自分で選ぶと同じ曲や自然とレゲエが多くなってしまうからね。だから確信が持てずにちょっと不安だったけど、他の友人たちもこのアルバムの選曲がいいと言ってくれた。今まで俺がやってきた作品の他の一面が見れるからってね。だから今回は彼らに任せたんだ。

●その友達とは?

A:一人は自分の音楽のファンでいてくれる友人で、俺のすべての作品を知っているんだ。俺自身が覚えていないようなのもまでね。もう一人は、レコード会社で働いていて我々と一緒に仕事をしているMatthewで、俺の普段とは違った作品も好きな男だ。それで今回のコンピレーションを作ろうということになったんだ。

●この曲だけは入れたかったという1曲はありましたか?

A:コントロール・フリークという言葉を知ってるだろ? プロデューサーというものは基本的にコントロール・フリークだが、時には誰かに自由に任せるのがいいと思うんだよ。だからこのアルバムに関しては彼らを全面的に信用して任せて制作したんだ。好みの違いがあるからね。もちろん幾つか意見を言うこともあったよ。とてもいいアルバムになったと思う。

●Adrianも大人になったってことですね(笑)。

A:Let Goすることを覚えたってことだね。

●音楽には個人個人の感性によって様々な受け止めかたがあって好みも違うので、クライエントがいると大変だと思いますが?

A:俺が雇われて仕事をする時は、彼らが俺の仕事を望んでいるわけだから、それを提供することだ。自分がレコーディング費用を支払う自分の仕事では、アーティストと共同で作業をする。自分の仕事のためだけであれば自分のやりたいことやる。でもアーティストと一緒に仕事するときは俺の仕事はアーティストを生かすことなんだ。
収録されているいくつかの楽曲はとても手間をかけていたり、逆にそうでなくて少しだけ参加してるのもあるんだ。手間をかけていると曲に感情移入するからね。そういう意味でこのアルバムは俺のソロアルバムといった感情移入はないけれども、俺の若い時代の仕事を映し出している。そのために彼らに任せたんだ。とても誇りに思っている。

●New Age Steppersのころは何歳だったの?

A:20か21歳ぐらいだと思う。

●ではレゲエに興味をもったのはいつ頃ですか? レゲエにはどうやって携わるようになったんですか?

A:最初に聴いたのを覚えているのは6歳ぐらいのときで、Millie Smallの「My Boy Lollipop」だ。60年代にあと何曲か、そして70年代になってポップ・ミュージックやソウル、レゲエやジャズだったり、小さい頃だからそれが何か分かっていたわけではないけどね。何年かたってジャマイカから輸入されるレコードだったり、UKで生産されたレゲエのレコードをどんどん好きになって聴くようになった。少しずつだったけどレゲエ、レゲエ、レゲエといった感じになっていったんだ。

●音楽ビジネス的なことも早い頃からやり始めたんですよね?

A:ジャマイカに年上の友達がいて、ディストリビューション会社を始める話になってレゲエのレコードをジャマイカから仕入れて販売するようになったんだ。イギリスで生産されたレコードも取り扱ってた。車であらゆるところに移動販売しにいったんだよ。それが17歳の頃だ。

●いつ自分で音楽をプロデュースするようになったのですか? 最初にクレジットされた作品は?

A:”プロデュース“という意味をどうやってとらえるかだと思うけど、レコーディング代を支払ってプロデュースした最初の作品は、自分がベースラインを口ずさんで弾いてもらった楽曲で2日間で出来上がった「Dub from Creation」だ。19歳の時だよ。New Age Steppersが1980年だからその2年前だね。

●今年リリースしたSherwood & Pinchの『Late Night Endless』について聞きます。レコーディング作業はどうやって行われたんですか?

A:レコーディング自体はデジタルで行ったんだ。それをミキサーに立ち上げて、更にアナログ機材で仕上げて、もう一度Pro Tools に流し込む。それをまたアナログにといった作業だ。だから新旧の機材を一緒に使用した。

●Pinchさんとライブを実際に行ったと聞きましたが?

A:ライブは、12チャンネル位のアウトプットがあって、ベース、ドラム、スネア、ハイハット、タム、ピアノやサウンドエフェクトなどがある。Pinchがパーカッションのパッドをもっていて、そこに色々なサンプル音がアサインされている。そこに俺もサンプル音が入ったパッドを持って行って、あとノイズマシーンと、2つのディレイと3つのリヴァーブがあるんだ。彼はコンピューターの中でライブの音をプロセスし、俺がそれらをアナログ機材でダブをするんだ。だから2度と同じライブにはならない。毎晩違うんだ。

●どうやってこのプロジェクトは進行したんですか?

A:最初は単純にお互いがプレイするリズムトラックを一緒に作ろうと始まったんだ。当初はアルバムを作る予定じゃなかった。彼も自分もDJプレイをするから、そのために新しい素材を作ろうというアイデアだったんだ。その後何日か経ってから、これをアルバムとしてリリースしようと思ったんだ。

●どのぐらいの期間で制作したんですか?

A:約2年かけて完成した。次はもっと早くできるよ。

●ビートはどうやって作ったんですか?

A:どちらかというとPinchのほうが多くビートを作った。その上に俺が幾つかのネタ(リーペリー、プリンス・ファーライ、ビム・シャーマンなどのサンプリングやシャウト)を加えたりといった感じだった。一緒に新しいリズムも作って、今回の東京公演ではそれもプレイする予定なんだ。

●あなたの役割は、ダブクリエーター、プロデューサー、またはミュージシャンなど、ご自身ではどう考えていますか?

A:俺はミュージシャンではない。そういう意味ではダブクリエーターかプロデューサーといったことになる。素晴らしいミュージシャンたちと仕事をするから、俺もよく聴こえるのさ。そして彼らを更によく聴こえるように俺がするんだ。お互いにだね。

●例えば、Mad ProfessorやScientistたち、他にもDUBクリエーターが多数います。あなたと何か違う点があれば教えてください。

A:彼らはそれぞれ皆素晴らしいと思う。彼らにそれぞれの音があって、彼らもそれぞれの技術で人々を満足させるんだ。皆それぞれ違う。当然俺の音っていうのもあるしね。

●あなたの音とは?

A:それがOn-U Soundさ。

●DUBとはなんですか?リヴァーブやディレイなど、色々あると思いますが。

A:ダブの作品は俺が好きで使用しているリヴァーブやディレイやフェイズなどのエフェクトを使用しなくても作れる。基本的には、リディムを分解して構造をミニマライズ=最小化することなんだ。だからディレイの残響だけが残って、他に何も鳴ってない時があったりするんだ。

●アナログのアウトボードの機材を使用されていると思いますが、コンピューターのプラグイン等は使いますか?

A:アナログ機材をもちろん使うけど全てではないよ。一緒にやっている若いエンジニアはコンピューターのプラグインを使うし、それを自分の卓に立ち上げて、アナログミックスするんだ。だから幾つかプラグインは使っているね。それはそれで良かったりするからね。

●今回の来日中に、女性3人がメンバーのノイズ音楽のバンド、にせんねんもんだいとRed Bullスタジオでレコーディングすると聞いてますが?

A:そうなんだ、明日と明後日だ。いいレコーディング・エンジニアがいるから、僕がすることは彼らがハッピーでいるように話しかけたりコーヒーを飲んだり、いい雰囲気を作ることだ。そしてマイクを立てて皆がいい感じでレコーディングできるように努めることだ。2日間録音する。それをイギリスに持ち帰ってミキシングで実験する予定だ。

●どういう流れで彼女らとレコーディングをすることになったんですか?

A:興味を惹かれるバンドなんだ。イギリスにいる友人の何人かがこのバンドを知っていて、彼女らのファンなんだ。それで話しが来て、いいと思ったんだ。レゲエではないからフィールドが違うしね。それに作品をリリースしようとしていて自然にいい話だと思ったんだ。彼女らは強烈だし好きだ。更にレコードを完成させるのに、2日間でレコーディングして2日間で僕がミックスする。それで完成だ。Pinchとのアルバムの制作に2年間かかったのと違うしね。

●明日スタジオに立ち寄っても大丈夫? 実はスタジオまでOVERHEATから徒歩3分、スケートボードだったら1分で行けるんですよ(笑)。

A:状況がどうなってるか分からないけど、午後に挨拶しに立ち寄ってくれよ。週末の代官山UNITでのショウも是非きてくれよ。今回のレコーディングでは彼女たちがミュージシャンで自分はプレイしない。俺の唯一の目的は何か素晴らしいマジックが起こると彼女たち自身が思えるような環境づくりだ。皆が何か特別なことが起こると信じることが重要で、そうやっていい作品ができるんだとLee Perryから教わった。マジックが俺というわけではない。プロデューサーとしての俺は寝てたっていいんだ。彼らがいい気分になっていい作品ができればね。

●実はあなたがプロデューサーで、実際にハイネケン片手に寝ていたのを見たことがあるよ(笑)。覚えてる? 深夜に1人でのジャマイカのアンカー・スタジオに入って行ったらね。

A:Gussie ClarkeのスタジオでJr. DelgadoのアルバムをV2レコードのために録音してた時かな?あれはYabby YouとJah Stitchが喧嘩してたから寝てたんだよ。もちろんそれは冗談で、本当のところはスタジオにいたら、いいことが起こるように環境を整えて、彼らがいい気分でベストを尽くせるようにしてベストな結果を得る。それだけだ。

●自分の作品以外では、最近はどういった音楽を聴きますか?

A:自分の作品しか聴かないよ。ってのは冗談さ。色々と好きだよ。俺は素晴らしい人々と仕事をしてきたからね。今Roots Manuvaと一緒に仕事してる。LSKともだしCongo Nattyだったり、彼の最新のアルバムには俺が携わってる。息子が持ってくる新しいグルーブだってチェックしてるさ。新しいヒップホップだったりテクノだったりね。BurialやMalaとも仕事してるし、もちろん好きだよ。他のプロダクションの音もチェックする。現在はあるテンポの曲が流行っているよ。ダンスに行ってテクノの夜だとずっと128bpmの曲だけなんだ。おかしくなりそうだよ。俺が好きな音楽が必ずしも人気があるわけじゃない。ただ我々の地域からリリースされると人気が出たりするんだ。

●最後にUKの現在のシーンや音楽の将来について少し教えてもらえますか?

A:シーンはいつだっていい感じだよ。俺はどちらかというとライブミュージックが好きだけど、DJベースの音楽が多いかな。いいムーブメントが色々なところで起きているよ。ダブとかレゲエは常に進化するからね。レゲエは古い形態で、ダブステップもどんどん新しくなっていく。何が最新かはわからないけど、みんなベースにはまっているよ。俺はどちらかというと、メロディーが好きだし良いソニックが好きなんだ。若い人はベースが鳴っていると”デンジャラス” だって思うんだろうね。でも俺はメロディーだったり、アティチュードだったり、他の要素に興味があるんだ。もちろん俺もベースが好きだし、人々がベースを好きなのもいいと思う。だけどアティチュードだったりパンクの怒りだったり、そういう風変わりものを俺はどちらかというと聴きたい。ドラムンベースもそうだし、ダブステップだってそうだし、いいムーブメントが起こっているよ。それに帰国してそのまま参加するのは UNOD (United Nations of Dub)だしね。ウェールズで開催されているダブ・サウンド・システムが集まるフェスティバルなんだ。音楽のポケットがイギリスのあらゆるところにあるような感じだ。日本も同様だと思う。ダブステップやジャングルのイベントを日本で開催すれば人が集まるだろ? イギリスも同様さ。

とても自分でも興味深く思っていることがあって、それは1970年以降から現在まで世界で一番流行っているのは、4つ打ちのダンス・ミュージックということなんだ。俺はあまり好きではないけどね。ハウスミュージックを一晩中聴くのは難しい。でもブラジルに行ったって、イギリスだってそうだし、中国や他のどこでもそうだ。4つ打ちの音楽が一番一般的で、そのトップエンドがテクノだと思うんだ。もちろん好きなものもあるけどね。今までがそうだったようにこれからもクールなDJの誰かは、そういったエレクトロニック・ダンス・ミュージックをプレイしていると思うよ。