t-Ace
YUME-NO-ARIKA
Interview by Takashi Futatsugi / Photo by Masashi Sakurai
このジャケからマンガの『AKIRA』を想像する人も? 無理もない。未来のNEO東京に身一つで乗り込んだ、NIKEを履いたその"運命の子"は、 『AKIRA』の"映画版"よろしくプレスコ、つまりリリック、ラップ先行スタイルで、5つの母音を無駄にすることなく、この14篇からなるストーリーを語っているのだから。その夢のARIKAに辿り着くまでの真実とは? ハートでJudgeして欲しい。
●このアルバムに直接的に繋がるような"自分の中での"エポック・メイキングな出来事って?
t-Ace:それはやっぱり、今のスタッフとの出会い、ですね(「I wish」のリリックにも、そのくだりがある。正に"あの坂道のくだりで見えた一筋の光"の話)。話していてビビっとくるものがあったんです。そういうのは初めてだったかも。(探していたのは)"この人だ!"と思って、自分から"次、お願いします!"って。『孤高の華』を出した時は、音源を作る所までは出来ても、流通とか宣伝とかで限界を感じていたんで。あのアルバムに関してはケジメじゃないけど、これを吐き出さないと前に進めない!という思いがあったので、それで良かったんですけど、次は絶対に違うものにしたかったんです。東京や全国で勝負したい思いも強かったんで。
●翼君(t-Aceの本名)にとって、やっぱり東京は遠くて近い目標だった?
t-Ace:そうですね。(地図上では)すぐ隣の都市ではあるんだけど、シーンの歴史とか、やっている人の数や情報量が全然違うし。何だかんだと影響を受けたり憧れてきた部分もあるんで、落としたい! ひっくり返したい!って感情は持ってました。そこは地元の先輩のLunch Time Speaxもそうだったし。そのLunchが水戸にムーヴメントを興す所を見ていたんで、また違う方法で地元をロックしないとこの街を背負って乗り込めないな、と思ってたんですけど、'09年1月の「Reasonable Doubt」(@茨城県民文化センター。実に1,000人以上の集客)で、その手応えを感じて。そのライヴDVDのタイトルに"〜始まりの終わり〜"という言葉を入れたのも、その決意の表れというか。
●その標準は、シーンや、その他色んな機能が集まったキャピタルだけに向けられたというよりも、より多くの人に「伝えたい」という、全国区的な意識に変わってた、と捉えてもいいのかな?
t-Ace:正にそういう事ですね。だから、制作してる時点やその前はメジャーからのリリースを希望していたんです。と言っても、それは別にメジャーのやり方、というか今の売れ線に合わせたもんじゃなくて、今、こういう作品が必要じゃないですかね?と胸張って言える内容だったので。逆にB-Boyやヒップホップが好きな人だけに向けたものじゃないから、より多くの人に届けるのならメジャーの方がいいなと思ってた、それだけの話で。まあ、でも今回はアナログのリリースや、ワン・コイン・シングルや、色んな草の根的な広め方をやってもらってるし、アルバム出して、ライヴやって、どれだけ拡げられるか、という事にスタッフ一丸となって集中してます。決して俺一人の力じゃなくて、プロデューサー、ゲスト・アーティスト、そしてスタッフの人達、みんなの作品だと思ってるので、そこは前作とは大きく違う部分ですよね。やっぱり、今自分がいる環境とか、そこから見えるものを歌ってるだけに、変化、進化は感じ取ってもらえるかな、と。
●例えばトラックに関しては、今回も3曲セルフでやってる訳だけど、色んなトラックメイカーと組む事で見えてきた事ってある?
t-Ace:ヴァリエーションは完全に豊富になりますよね。自分の曲の作り方としては、リリック先行のものも結構あったりして、それが自分のトラックだと確信持ててる、というかイメージを合わせる事ができるんですけど、やっぱりトラックもらってからとなると上がってたリリックに合わなかったり、逆に新鮮な気持ちで取り組めたり、予想しない所で意外にマッチしちゃったりと勉強になる事が何かと多いですね。トラックメイカーでも特にそれを専門にやってる人は、そこにかける時間も全然違う訳で、どっちもやってた俺はトラックのクオリティが追いつかない、というか。 流石だな、と。何もないからトラックも自分で作ってただけで、もう暫くは自分でトラックを作るのは止めようかと思っています。自分は基本、口出ししたい人なんで(笑)、BACHLOGICやI-DeAにも色々とリクエストしたんですけど、必ずそれが倍以上になって返ってきますから(笑)。本当にプロデューサーだな!と思います。
●そんな中でも特に達成感のあった曲となると?
t-Ace:まず、そのBACHLOGIC制作曲「日陰のヒーロー」と、I-DeA制作曲の「伝言」......この2曲は今までやりたくても出来なかったタイプの曲ですね。トラックの表情といい...。あと、やっぱり朝本(浩文)さんとの「雨」も、その過程が神がかり的で。朝本さんが作られたオリジナルのCD(Dr.Echo-logic名義の『Piano×Dub』収録曲「Yawning Cat」)を聴いていて、サンプリングしたいと思ってた時に、じいちゃんが死んで、リリックにその想いを乗せたんですけど、弾き直しで朝本さんに直接やってもらえる事になって。こういう曲は作ろうと思って作れるものじゃないんで、特別な思いがあります。あと、「ミルクティー」はUAの原曲が好きで、最初はサンプリングで考えていたんですけど、まあ色々とあり...結果カヴァーになりました。UAのライヴでもギターを担当されてる方(田村玄一)にアコギを入れてもらったり、かなり贅沢な作りになりましたね。それと最後のタイトル曲もアルバムのテーマを表したものなんで、自分の中でも重要な1曲です。
●今回もアルバムというフォーマットへの拘りの強さが感じられたんだけど、そこは凄く意識する?
t-Ace:はい。例えば、ひとつの強く訴えたい事があったら、それを本...小説みたいなまとめ方で表現するのが好きなんで。第1章〜とか。ただ、今回は頭の2曲とラストの2曲は決め撃ちだったんですけど、それ以外の曲順で悩みましたね。周りに訊いても色んなパターンが出てきて(笑)。その中で、喜怒哀楽のバランスをどういう流れで聴かせるか、という事を考えてこうなりました。あと、アルバムは全14曲収録なんですけど、リリックを用意してたのは実はその2倍以上で。シングルのカップリングに振り分けた曲もあるし...。作品的には勿論自信はあるし、これからライヴでがんがん歌っていきたいんですけど、二木(崇)さんがライナーで書いてくれたみたいに"次に繋げるための1ラウンドであって、それ以上の大袈裟な何かではない"って自分でも本当に思っていて。今までやりたくても出来なかった事が詰まった、充実度はこれまでで文句なしに一番のアルバムなんですけど、現状に満足はできないし、この作品を作って自分に足りないものや次に伝いえたいものが更に見えだしているんで。なので、足踏みする事なく、次に臨む用意をしたいと考えてます。
「Yume-No-Arika」
[Overheat / OVE-0104]
豪華トラックメーカー達と作り上げた強烈なセカンド・アルバム。
「雨」
[Overheat / OHM-0079]
4曲入りシングルCD。すでに完売。
「日陰のヒーロー」
[Overheat / OVE-0103]
Ken-Uをフィーチャーした話題の2曲入りワン・コイン・シングル。
「Over The Day」EP
[Face The Music / FMR-174]
Muro & Suiによる「Over the Day」、Rhettmaticによる「Mr.Pen」、そして「雨」を収録した限定12インチ盤。