"Better Mus Come"
Text by Reiko NAGASE SMITH
『ベタ・マス・コム』は、ジャマイカの乱気流のような1970年代を舞台に、政治とギャングというジャマイカのスキャンダラスな裏社会を描いた、ジャマイカ人によるジャマイカ映画です。主人公は、キングストンのゲットーがすべての世界、というリッキー。政治家と同盟を結び、生活のすべてを政党にゆだねるポリティカル・ガリソン地区に住むリッキー、彼の"職業"は、ポリティカル・アクティビスト。政治と結びついたギャングで、選挙のときには票を集め、政党から流れてきた銃で敵方の"票"を減らすのがミッション。数年前、ガール・フレンドが巻き込まれて死んだ事件に罪を感じ、トラウマとなりながらも、政党に忠誠を捧げるリッキー。彼は5歳の息子を育てるシングル・ファーザーでもあります。魅力的な女の子、ケマーラとパーティで知り合うものの、彼女は敵方の政党を支持するガリソン地区に住んでいた。その地区はつい1、2ブロック先の、リッキーの地区といつも争いの絶えない敵方の陣地でした、という危険な恋の部分も盛り込んで。
歴史的出来事、「グリーン・ベイの大虐殺」のエピソードを軸に、'70年代のファッションを醸しだしながら古臭くなく、2010年5月に起こったDudus事件と交錯してしまいます。
この映画は、LAで映画を勉強したジャマイカ人、ストーム・ソルターのデビュー作で、キングストンのサンディ・パーク地区で主に撮影されています。ストームはジャマイカ国立美術館でもインスタレーション展示した、新鋭アーティストでもある。数年前からラス・カサ、ジェイ・ウィルによるPVが定着していって、さらに新しい世代のフィルム・メーカーたちが、こうして劇場放映を実現していくのは嬉しい限り。トレイラーも各メディア評もものすごく良かったので、期待して見に行ったのだけど。この映画のゲリラ的なキャンペーンにも度肝を抜いた。ストリートで『ベタ・マス・コム』とプラカードを掲げてたので、本当のデモンストレーションかと皆が思ったよ。そのインパクトや、『ベタ・マス・コム』のタイトルから期待するものは、未昇華のままだったです。
ジャマイカで、ジャマイカ中の映画館で公開されたジャマイカ映画というのは、『ベタ・マス・コム』が久しぶりで、キマニ・マーリーとシェリーン・アンダーソン主演のヤード・ラヴ・ストーリー『ワン・ラブ』、モンティゴ・ベイのホテル女性経営者のサクセス・実話ストーリーを映画化した『グロリア』、そして、スプラガ・ベンツの亡くなった息子が出演した『Shatta』などから数年が経っています。
モンティゴ・ベイはもちろん、オチョリオスやネグリル、マンデヴィルなど映画館は島中にあって、映画の人気度にもよるけれど、つねに集客も多く、娯楽として定着していますね。大人の入場料が約600円ほど、立ち見は許されず、ドレスコードまで入り口に表示してあるほどで、安全でクリーンな場所です。放映は国歌斉唱ではじまり、噂の、ジャマイカ人のフィーヴァーぶりを楽しみながら映画を見たければ、クロスロードの老舗映画館カリブへ、または、静かにゆっくり見られるソヴリン・ショッピングセンターの映画館へ、と、キングストンでは映画館のチョイスもできます。
ストーム・ソルターは、次作を制作中。そして、タービュランスらが出演するミュージック・ドキュメンタリー映画の『ライズ・アップ』、ダンス・ムーヴィ『A Dance For Grace』が近日劇場封切! そちらにも期待したい。
だんだんひらけてきたジャマイカ、語られなかったジンクフェンスの向こう側の物語も、少しずつ、語られはじめています。Better Mus Come INDEED!
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