Review by TAKASHI FUTATSUGI
1. I Am The West / Ice Cube (Lench Mob)
ここ数年はハリウッド・スターとしての印象が強いかもしれないが、ラッパーとしての地力・磁力の強さは来日公演でも改めて見せ付けてくれたCube。フックをJiggoloが担当したリード・シングル「I Rep That West」のPVは、彼ならではの説得力で唸らせてくれたが(ポンチョ姿も似合う!)、"西の復権"を意識した本作もヘヴィ級のウェッサイ・ ワールド、となっている。長年のパートナー(の1人)WCを始め、Jayo Felonyや、息子のOMG、Dough Boy、Maylayら、近い筋に徹したゲストのみをフィーチュアし、ビートには売れっ子のShondrae "Mr. Bangladesh" Crawfordから、長年の盟友Sir Jinxまで、とコチラも濃い!
2. Naked Soul Of Sweet Jones / Pimp C (Rap-A-Lot)
相方=Bun Bの新作も凄い出来だったが、3年前に亡くなったPimp Cのソロも泣ける仕上り!(ピンプ姿のジャケも何とも◎) といっても、実際の内容はUGK作同様に感傷的なものでは決してない。Drake、Bun B参加のシングル曲「What Up」でも、まるでまだ生きてるかの如きラップのパワーを感じたものだが、Lil Wayne、Young Jeezy、Rick Ross、Too $hort、E-40といったオールスター的なゲスト陣、Boi-1DA、Cory Moらプロデューサー陣からの"愛"を感じる1枚。Hタウンの英雄、ここにあり。
3. Am Not A Human Being / Lil Wayne (Cash Money)
11月に出所予定のWeezyの最新作。9/27の誕生日に先行配信された本作は、当初予定されていた『Carter IV』とは別内容でDrake参加の全米No.1ヒット「Right Above It」を始め、シングル・クラスのトラックがズラリと並ぶ彼らしい1枚。ゲストは先のDrakeやNicki Minajら、Young Moneyの連中やCash MoneyのシンガーJay Sean他、身内中心。Kane、Olympics、Streetrunner、Cool & Dre他。"人間業を超えた"というタイトル曲は前作に入る予定だった?ってくらいオールドスクールのロック・トラックでこれはこれでカッコいい!
4. Flockaveli / Waka Flocka Flame (Asylum)
待ってました! ワカ沸かフロカ風呂か!と奇声、 いや喜声を上げるフリークも多いだろう。Gucci ManeやOJ Da Juicemanと1017 Brick Squadを盛り上げてきた若手の星と言えば、この男。タイトルで2Pacを意識した(?)ようやくの正規デビュー作となる本作(先の2人同様アサイラムより)は、彼の名を上げたL-Don制作の「O Let's Do It」から、今年のベスト・プロデューサーの1人=Lex Luger(ワカい!)制作の「Hard In Da Pain」や「Live By The Gun」等、血生臭いハード路線で威力を発揮するやさぐれラップは好き嫌いがワカれるが、筆者はイケてると思う派。
5. Authenticity / The Foreign Exchange (Victor)
オランダ出身、ノース・カロライナ在住のプロデューサー=Nicolayと、Little BrotherのMCとして知られるPhonteのユニットの、グラミーにノミネートされた前作から約2年ぶりの3rd。1stではラップ中心だったPhonteが本格的に"歌"にシフト(といってもゴスペル育ちだが)した前作のソウルフルな路線の延長線上にありながら、よりポスト・ロック、80sニュー・ウェイヴの影響を強めた感のある本作は、徹頭徹尾スタイリッシュでスムースな傑作、となっている。ゲストは仲間のシンガー、YahZarah、Darien Brockington、Zo!等。リラックスしたい時に是非!
6. Atomic Clock / Zion I (Gold Dust / Ultra Vybe)
サンフランシスコを中心に10年以上もマイペースで活動を続けるアンダーグラウンド・デュオの約1年9ヶ月ぶりの7作目。 Grouchと組んだハイフィー作や、Amp Liveのソロ作も評判上々だったが、本作ではそうした最近の要素も散りばめながら、ルーツ・レゲエ/ダブを使ったスロウで重いトラックや(RootsのMartin Luther参加のレゲエ・チューン「Girlz」は特にいい!)、生演奏を交えたトラックに粘っこいフロウが絡む展開が肝となっていて、彼らの時流を超えたスタイルと信念を見せ付けられた。
7.24 Hour Karate School Japan / V.A. Produced by Ski Beatz (R-Rated)
前号紹介済のSki Beatz全曲プロデュース作"24時間空手道場"の『侍/忍者』編。これが凄い事になっている! まるで『ブラック・レイン』な世界観のヤバいPV「24 Bars To Kill」Anarchy、Rino Latina II、漢& Macchoで痺れた人、いや未見の人、日本語ラップ聴かず嫌いも絶対に聴いておくべき作品。元企画のエグゼクティヴ・プロデューサー=Damon Dashに日本編を託されたRyuzo(Co-ProはBombrush!)による間違いない人選がどう活きてるかは聴いてのお楽しみ。『アフロサムライ』で御馴染みの岡崎画伯による30人揃い踏みの絵も圧巻!
8. Hi-Five / Dabo (EMI)
コンピ風の大作『B.M.W.』、ベスト盤を挟んでの約4年ぶりとなるソロ5作目。今年のクラブ・ヒットの代表曲として誰もが挙げるDJ Watarai制作の「デッパツ進行」と、Bachlogic制作の「I Rep」を搭載した本作は、初の試みとしてその2曲でも"縁の下の裏方"に徹した盟友DJ Hazimeをトータル・プロデューサーとして迎えて、トラック選びの段階から共同制作したもの。意外に初セッションとなるRyo the Skywalkerとの「TEST Mi」や、Kj(Dragon Ash)との「AZS」や、Suiken、K-BombとのChannel 5を、あの頃の宇田川町界隈を想起させる曲など、全曲シングル級、なのにアルバムとしてのトータル性に優れた1枚。
9. I・N・G / Shingo★西成 (昭和レコード)
「I・N・G」よろしく進化し続ける"大阪名物"の2枚目となるフルは、般若の昭和レコードから。最近でもBurn Downのコンピや、Papa Bの新作での怪気炎(?)、またフェスやクラブでレゲエ・ファンからも支持されているその人間味溢れる世界観は、この独演会よろしく"ゲストなし"でまとめきった「無添加でアチアチ」の本作で炸裂している。関西勢で固められたトラックメイカー達(DJ Fuku、DJ AK、Tramp、NAOtheLAIZA他)が用意したトラック群に"歌心"を刺激されたかの如く、ラップし、歌う(主にサビ)その姿は、やはり他では得られぬ「味」だ。長年聴けるだろう傑作。
10. 飛ぶために生まれた男 / 剣桃太郎 (妄Production / Ultra Vybe)
"Spit"という言葉が似合うラッパーと言えば色々いるが、この男の名前を筆頭に挙げるヘッズも多いだろう。そう、Rep妄走族の剣桃太郎。怒れる男の、最も怒ってる3作目である。それくらいこのアルバムは鋭い。ささくれ立ってる、なんてもんじゃない。日本刀の様に完全に尖ってるのだ。そのマッハを超える か、という勢いのツヴァを音でサポートするのは、Inovader、Knock、Zoro、無也、Zipsies、TH Connectionといった面子。彼の中でのヒップホップが反逆者の生きる証である事は、凄まじい熱量を誇るこのアルバムを聴けば解るはず。
11. Total Eclipse / YingYang (YingYang / Ultra Vybe)
「Yanzoo TV」を始め多方面で活躍するIsh-Oneと、Saggaのバイリンガル2MCを中心に、トラックメイカーのFinga Print、DJのWaxxx Rub、エンジニアのYasu 2000の5人で構成される"日本発NY経由の音響文学一個小隊"話題の1stアルバム。あの『Concrete Green』シリーズ初期の常連で正規アルバムが待たれていただけに、その内容も相当コンセプチュアル(時間を追って展開)に。文学性の高さとフロウのかっこよさ、陰と陽のバランスが皆既月食よろしく重なり合ったものとなっている。これはクセになる...。
12. Spy Game / Tetrad The Gang Of Four (File)
緑の5本指=Nippsの快調ぶりは、B.D、Vikin、Sperbとの4MCによる秘密結社(?)Tetradでの活動とガッチリ等号で結ばれる(先の『24時間〜』にも登場)。そしてTetradでの約2年ぶりとなる本作も前回同様、盟友=Ken Sportが全曲プロデュースした強力盤に。どこかスモーキーで確実にスティンキーなビートもさることながら、タイトルよろしく逃げては追う...堂々巡りの面白さで一杯のラップ×4が相当キテる。考えすぎると置いていかれること必至!? いや、その"捻り"を何度も楽しめるのが記録物の良さ、ってもんだ。 最高Death!