(U KNOW)What the deal is
という訳で、9月は何の変化もないアメリカになってしまったNYからのレポート。
●今月のジャム
何度かこのコラムでも取り上げて来たイヴェント、「ロック・ザ・ベル」が今年もNYでも開催された。8月28日、ガヴァナーズ・アイランドという、ニューヨーカーも普段は行かない島において、2ステージ構成のヴァラエティに富んだ"リアル・ヒップホップ"なメンツが集まった。ヘッドライナーはスヌープ・ドッグ、ウータン・クラン、ア・トライブ・コールド・クエスト、ラキム、KRS1、スリック・リック、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのトム・モレロ率いるストリート・スウィーパー・ソシアル・クラブ、DJマグス、9thワンダーなどの顔ぶれだった。そして、様々な下馬評や奇行説が飛び交っていたミス・ローリン・ヒルが特別出演した。
今回は、私も気合いを入れて昼から参加し、炎天下の中、2つのステージを行き来したが、そこまでの道のりも凄く、まず特別に用意されたフェリーにマンハッタンから乗り、20分弱の船の旅の後、島に上陸。その時点で行列に疲れた。並んでいる間にスリック・リックを聞き、見事に見逃し、セカンド・ステージへ。イル・ビルをフィーチャーしたDJマグスを観て、ラキムの兄貴が居るメイン・ステージ行く。前回、復帰作直後のステージより遥かにこなれたステージマナーや、余裕に満ちたパフォーマンスに感激。アンコールで『Paid In Full』のジャケットでも着ているダッパー・ダンのグッチのトラックスーツに着替え、ファンを喜ばせる。そして、BDPの曲のみと宣伝されていたKRS1のパフォーマンスは半分ぐらい講釈で、曲は中途半端だったが、そういう人もこの時勢に必要と痛感。セカンド・ステージで司会も務めるスーパー・ナチュラルも乱入し、かつてのヒップホップのショウを思わせるハチャメチャぶり。再び、武装するヒップホップはヒップホップではないと解き、若いオーディエンスが殆どの会場を去る。セカンド・ステージは、実際しょぼい感じだったが、それでもこのツアーに参加したかったと見えるトム・モレロが、あまりレイジと変わらないサウンド----つまりそれが一番やりたい事と見受けた----をやっている。トム以外オール白人バンドだが、黒人のラッパーをフィ−チャーし、それを目当てにしている客も居た様だ。そして、メイン・ステージに帰るが、夕暮れになるまで何の動きもなく、DJプレイが続く。
急逝したグールーへのトリビュートもあり、もういい加減にして欲しいジェイ・マスター・ジェイのトリビュートなど聞き飽きた選曲を乗り越え、陽が落ちかけて来たところにローリン・ヒルのバンドがステージに登場、DJの曲にあわせてプレイを始め、ドラム・ビートが倍増し、かなり気持ちのいい状態へ持って行ってくれた。突如、夕焼けに野鳥が飛び交い始めた頃、ミス・ローリン・ヒルが登場。意外にも「Lost One」でセットを始め、会場を完全にマッシュ・アップした。そして、ファースト・ソロからの曲をアレンジした流れで、まるで成熟したソウル・シンガーの様に、現代ではやや長尺な感じで進めたが、個人的には好感が持てた。「Zion」ではどこまでが本人の子供か分からないが6人の子供達をステージに上げて紹介、もう14歳のザイオン君を筆頭に小さな乳児までが登場。そして一言、「みんなわたしが長いヴァケーションを取っていたというけど、ご覧の通り、働いていたのよ」と粋な台詞。誰もが予測していなかったフージーズのナンバーまで披露。大円団の頃、駆けつけたアリシア・キーズ、メリー・J.ブライジ、ジョン・レジェンド、スイス・ビーツ、クリス・ロックなどを次々にステージに呼び紹介、ジェイZまでが登場し、はっきり言ってついて来れてなかったオーディエンスもこれで納得。このライヴがどれだけ注目されていたか、確認出来たからだ。しかし、母親のパワーは凄い。あれだけゴシップが飛び交い、「もうローリンは駄目だ」と誰もが思っていた時、そのプレッシャーを承知の上でハードなNYのオーディエンスと、このギャラリーのメンツを前にして堂々たるパフォーマンスに、比喩でなく、俺は涙した? そして、わざと夕暮れを待った粋な演出や、野鳥が急に集まって来るという彼女のオーラだか何だか知れないものに、やっぱり「スターはこうなのね」と感服。
トライブのひ弱なパフォーマンスの時にビール休憩をとって、ウータンに望む。完璧にみんな仲が悪いらしいのに集まれるのも凄いが、それを意識した代表曲ばかりの選曲は、「一体どうなんだろう?」と疑問を持った。スヌープをちょっと観て帰ろうと思ったが、もう12時近くで諦める。帰り道に意外と客が多い事で驚いたが、「イースト・コーストは、スヌープへの愛がない」と多くの奴らが冗談を飛ばし、失笑。帰りのフェリーは貨物船みたいな作りで、「全くこのおもてなしの精神は?」とアメリカを感じ、帰路へ。もうフェスは沢山?
沼田 充司
DJ/プロデューサー。レーベル、ブダフェスト主宰。07年『Moca Only vs Numata』をリリース。ニューヨーク在住。(Photo by Tiger)