"One Island, Two Jamaicas"
Text by Reiko NAGASE SMITH
ストリートで、カントリーで、コミュニティで、ジャマイカ中で聞かれるラジオの視聴者参加トーク・ショー番組。この時間帯にタクシーに乗ると、ほぼ確実にかかってますね。一般視聴者の相談や意見に答えるオーヴァー・リアクションな男のダミ声、朝から全開。この番組がはじまれば、どこでも場がもりあがる、一般ジャマイカ人が大好きな「ミックス・アップ&ブレンダ」ねたで、朝のダンスホール的エンターテイメントです。
UWI(西インド諸島大学)から発信されているラジオ局NewsTalk 93FMの人気番組、この「ラガシャンティ・ライヴ」が先日突然幕を閉じ、論争の的となった。この番組のパーソナリティは、ラガシャンティことキングスレー・スチュワート氏。よその局のパーソナリティで同じく人気の、お上品なロニー・スェイツやモッティー・パーキンスとは異なるカラーのラガシャンティは、一般ピープル・カルチャー道まっしぐら。朝からセックスねた、ベビーマザー・ドラマ、町内パサパサ・ストーリーを語る語る、斬る斬る。お下品でパトワで不真面目、と一部に悪評なこの番組に頭を抱えていた局側だが、この番組こそこの放送局の、一番のドル箱なのだ。歯に衣着せぬ、ヒポクリーツじゃないストレートな物言いで、よその局にはない高聴取率を誇っているこの番組を、手放すわけにもいかず、かといって大学発信の放送局であるため、反対意見の圧力も強い。以前からことあるごとに、ラガシャンティと局側は対立していたのだ。
ジャマイカはひとつの国だけれども、アップタウンとダウンタウン、二つの顔がある。ダンスホールやジャマイカン・カルチャーに見られるネガティヴな部分の露出をよく思わぬ人たちもいる。ダガリン禁止令以来の「カルチャー・クラッシュ」に、人々の意見もさまざま。
ステージ・ショウやイヴェントのMCとしても人気のラガシャンティ。彼の生い立ちはとても興味深い。米国の大学を卒業し、UWI(前述の放送局を運営する西インド諸島大学)の文化人類学現役講師で学位もある。それでいてキングストンの、ウォーター・ハウス、オリンピック・ウェイ、ウォルタン・パーク・ロード、オーガスト・タウンにサウスサイド、ラフでアーバンな地区を転々としながら育ち、牢獄経験も何度かあるというお人柄。アップタウンとダウンタウンをまたにかける生き様だ。
ある日のラガシャンティ、「ミックス・アップ・ブレンダ 身の上相談」より。
----若い女性の声。
「私のお兄ちゃんがミックス・アップされちゃって大変なの。兄ちゃんは最近結婚したばっかりなんだけど、それをやっかんだ元カノに、オベアされてるの」
"オベア"は、ジャマイカに古くから伝わる黒魔術で、人を呪う効果があるとされる。最近さすがに下火にはなっているけど、信じている人もいるようだ。ミックス・アップ・ブレンダ的可笑し話に、オベアはつきもの、憑きもの。
----ラガシャンティのレス。
「ちょっと待って。お兄さんが、元カノにオベアされて、元カノがオベアでもらってきたブツを、言われたように願かけて冷蔵庫に入れて、お兄さんの大切なモノを使えなくしちゃったっていうんだね。Wah? それで、新しい奥さんとお兄さんの仲が、台無しになってるって。マイ・ガール、ほんとにそんなこと信じてるの? それ、ぜったい冗談だよね。オベアされてお兄さんのモノが使えなくなっちゃったなんて。No joke bout mi tings、冗談もいいかげんにしようよ。Mi no deh pon dat。それはね、ガール、ただ単に、まちがった女性とつきあっちゃったってだけだよ。Noooo sah! No dweet again。正しい女性と正しいダガリン。To di worrrrrld。A dat we seh。straight----!!」
こんな調子。煽ってるような話し方だけど、確実にアドヴァイスしてる。ただ朝に騒音をつくってるだけじゃない。
NewsTalk 93FMからは消えるが、ラガシャンティの同番組は、今年10月からよその放送局にうつって、ミックス・アップ&ブレンダが再開されるという。パトワと、ジャマイカン・カルチャーを知るいい機会でもあるよ。Straight----!!
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