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RING RING RING
 
【ポスト・グラフィティの巻】
ラメルジーが死にました。今日は、彼が生前にやってのけたことを考えるために、「ポスト・グラフィティ」をもう一度再構築しよう、という以前書いた論文を元に少し話させてもらいます。
 
「ポスト・グラフィティ」という言葉の起源ですが、1983年にニューヨークのシドニー・ジャ二ス・ギャラリーで「ポスト・グラフィティ」という展覧会が開かれ、そこでフィーチャーされていたのがA1、クラッシュ、フューチュラ2000、レディ・ピンク、リー、ラメルジー、トキシック、ジャン=ミッシェル・バスキア等々で、この時に「ポスト・グラフィティ」という言葉が展覧会のタイトルとして使われました。これらはもう明らかに「グラフィティ」ではない、「ポスト・グラフィティ」である、なぜかと言えば、これらの作品は額をつけて合法的にギャラリーで展示しているものだからだ、という断り書きです。しかし、グラフィティをギャラリーに持ち込もうという企画、もしくは考え方は「ポスト・グラフィティ」展が初めてではありません。実は1970年代半ばに既にそういう動きは幾つかあるんです。では、なぜここで「ポスト・グラフィティ」という展覧会から始めるのか? それはこの言葉が、ギャラリーや美術館といった空間に入れられたグラフィティ、もしくはスプレイ缶アートといった状態をはっきり指めしているからです。
 
グラフィティについて初めて言及した本は、74年に出版された『Watching My Name Go By』という、マーヴィン・カーランスキーとジョン・ナーの本です。テキストをノーマン・メイラーが書いています。割と大きな写真集なんですが、開くとすぐに74年当時にニューヨークの街で目立っていたライターの名前が羅列されているんですね。もちろん全部は網羅されてはいませんが、この中には後にもっと有名になる人も含まれています。このノーマン・メイラーのテキストの中で、彼はCAY 1というグラフィティ・ライターにインタヴューしています。「名前をなぜ書くのか」というメイラーの質問に対して、CAY 1は「名前はグラフィティの信条、信仰である」と答えている。ここでは、グラフィティと書かれた名前----もしくはタグ----との関係が明らかになっていると思います。
 
そして地下鉄に書かれた名前がニューヨーク中を旅をする。
 「ポスト・グラフィティ」という展覧会から浸透していった考え方、つまり「もうグラフィティではない、ポスト・グラフィティなのだ、なぜならギャラリーに額を付けて持ち込んだからだ」という考え方は、ネーム、スプレイ缶によって書かれた名前を見る、視覚的に評価する、ということに強調を置いています。ですが、それは「Watching My Name Go By」の「Go By」の部分、 動いているということを無視している。地下鉄に乗って、地下鉄の車体に書かれた名前が動いていることを無視している。つまり「ムーヴメント」と「名前」の関係が、「ポスト・グラフィティ」という言葉、もしくは「ポスト・グラフィティ」という展覧会では無視されているんですね。
 
こういう地下鉄の車体における「ムーヴメント」と「ネーム」の共犯関係みたいなものは、コンテンポラリーなグラフィティの理解、特に美術の方から見ている人には欠けているもので、それは「ポスト・グラフィティ」という名前が展覧会につけられたのがもともとの起源だと、僕は考えているわけです。ちなみに、シドニー・ジャニス・ギャラリーというのは、大変権威のあるギャラリーです。
 
今回は時系列を基本的には無視して話をしますが、「ポスト・グラフィティ」という言葉が次に大きく浮上するのは、90年代の半ばくらいからです。その結果として、ロッテルダムの建築家が2002年に本を出します。これはZEDZとDELTAというグラフィティ・アーティストが共同でやっているものですが、グラフィティ建築のプランとでもいうようなものなんです。ZEDZとDELTAは3Dグラフィティのヨーロッパのパイオニアでもあります。もちろん彼らは、それが1983年に展覧会のタイトルとして使われたということを知ったうえで再使用しているわけですね。額をつけられたグラフィティに関してなにかを感じ取って彼らはコラボレーションをしていたとしかここでは言いません。
 
ここで話は少し変わるんですが、クリス・バーデンの「プロモ」という作品が、76年にロサンゼルスとニューヨークで放映されます。広告というのはダイレクトに個人が出してはいけない。それでノン・プロフィットの組織を介して、クリス・バーデンが特定の時間帯を買って、4チャンネル、9チャンネル、5チャンネル、11チャンネル、13チャンネルなどを買い取って放映しました。これは皆さんも見たことあるかと思います。ここに、ミケランジェロやダ・ヴィンチという名前が出る。そこに、こういう風に並んで、クリス・バーデンのクレジットが出るわけです。ここでクリス・バーデンは、メディアのアーキテクチュアを使って、グラフィティのアーティストが地下鉄の車体を選んでやったことと同じことをやっているのだとも考えられると思います。ところが「ポスト・グラフィティ」の展覧会の後には、ヴィジュアルな側面だけが強調されるわけです。
 
さて、ラメルジーと日本で少しだけ過ごしたことがあります。彼と一緒に車に同乗していて、確か新宿の辺りだと思いましたが、彼が路上のグラフィティを見て、怒り始めたんですね。それはアロウが正確に書かれていない、ということだったと思います。僕はそれを見ることができなかったのですが。これは重視されるべきことだ、というのは、グラフィティをやっている人には自明なんですが、そうではない人には分かりにくいかもしれない。つまり、見え方が変わってしまうならば、それは名前が変わってしまう、ということを意味しています。そして、名前----ネーム、が何を意味しているかは、繰り返すまでもありませんね? (つづく)
  
荏開津広
(概念売買/翻訳)
これが印刷されているころには、単行本『Embodied Encryptions』出ているか? ラメルジーについてまとまったものは最後になると思います。都内Disc Shop Zeroなどで入手できるはず!

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