BUSY SIGNAL
D.O.B.
Interview by Minako Ikeshiro / Photo by Wonder Knack
シングル・ヒットが生命線のダンスホール・シーンにおいて、コンスタントに曲をチャート・インさせつつ、アルバム単位で成長の跡を示すアーティストは多くない。05年の登場以来、通算3.5作(日本では4作目、それ以外の地域では3作目)に当たる『D.O.B.』を完成させたビジー・シグナルはそれができる数少ないDJだ。今まで以上に新しい切り口が詰まった新作について、本人に話を聞いた。
「新作で一番、今までと違うのは俺が歌っている点だろうね」とビジー。これまでも本名のリアーノ・ゴードン名義で歌っていたが、スマッシュ・ヒットとなった「One More Night」などで、確かにストレートに歌心を見せている。フィル・コリンズの同名クラシックを敷くアイディアを出したのもビジー本人だと話す。
「あの頃のヒット曲を集めたCDを持っていてさ、コモドアーズやモータウン・サウンドとかを聴き込んで、スタジオにエンジニアに"こういうタイプの曲を歌いたい。ただし、レゲエのスタイルで"って伝えたんだ」
この発言通り、ビジーは用意されたトラックにそのまま言葉を載せるだけでなく、自らプロダクションに参加する。
「スタジオの中で、"ダンスホールらしくないから辞めときなよ"と言ってまじめに取ってくれない人もいたんだけど、"だからやりたいんだよ"って言い返して。ミュージシャンとスタジオに入って、元の曲を参考にしながら、自分のヴァースも入れてフルのカヴァー・ソングにしないでレゲエ・スタイルに仕上げた」
無事にヒットに繋がったあとは、反対意見を唱えた人も謝ってくれたそう。そのほかにも、現場で根強い人気を誇る「Picante」ではアフリカン・ミュージックを、「Busy Latino」ではスパニッシュ風の音を取り入れるなど、面白い試みがそこここで聴ける。
「この作品にいろんな要素を取り込もうという気持ちはあったけれど、アイディアそのものは自然に出て来た。どの曲が人気が出て、プラティナム・セールに届く要素になるかは分からないから、いろんなスタイルを入れた。ダンスホールが土台にはなっているけれど、ちょっとバウンシーな曲にしてみたり、ヒップホップ寄りにしてみたり。ほかのジャンルの音楽を注入するのは、ジャマイカの文化にほかの文化を取り込むのと同じことだと思っている。世界中のいろんなファンに届くように、この作品のために多くの作業と努力、クリエイティヴィを込めたんだよ」
参加したプロデューサーは、マネージャーでもあるシェーン・ブラウン、スティーヴン・マクレガー、DJカリームなど。今まで共にビッグ・ヒットを作って来たダセーカやレネサンは不在だ。
「彼らは、今回は参加してないけれど、将来的にはまた組むよ」とビジー。コ・プロデューサーとなっている曲もあるので、どういう形で参加するのか尋ねた。
「楽器はプロみたいには弾けないけれど、ドラム・パターンを組むことはできる。それから、欲しい音があったら、ミュージシャンに伝えてキーを探してもらったりもするね。俺が作りたい曲、歌いたい曲に合わせて作ることもある。『How You Bad So』も俺のア・カペラから始めて、スティーヴンと一緒に組み立てて行った。アフリカン・ドラムを入れたのも俺のアイディアだよ。スタジオで新しいコンピュータ・プログラムのロジックを使いながら一緒に作業していた。俺はその場に立ち会って自分の目で見届けたいタイプなんだ」
「音楽は俺のたった一つの仕事なんだから、それに時間をかけるのは当たり前だと思っている」とも。
アライアンスに所属しているのもあり、「バッドマンDJ」にカテゴライズされることが多いが、当人はデビュー当時から「それだけのアーティストではない」と抵抗していた。今回の取材でも、
「俺は、ポジティヴな例を示したいんだ。中身のある曲を作っていきたい。みんなが飛び跳ねさせて盛り上がるヒット曲を作ることに躍起になっているからね」、「今、音楽を通じていろんなことを伝える立場にいるのが嬉しい。それからインタヴューに応えたり、ショウのブッキングの仕組みを学んだり、アーティストとして勉強したこともいっぱいある」など、前向きな発言が目立った。
バウンティー・キラーをフィーチャーした「Summn' A Guh Gwaan」では、今のジャマイカの社会情勢について言及している。
「今の社会システムがどのように俺達を扱っているかについて曲にした。ジャマイカの腐敗を音楽のせいにしている人達もいるけれど、音楽は原因ではない。政府と政府を取り巻く環境が悪いんだ。ダンスを早く締めたり、いろんな取り締まりをしようとするけれど、本当に悪いのはリーダー達だ、という曲なんだ」
最後に、過去形になったところでマヴァードとタッグを組んで舌鋒を闘わせたヴァイブス・カーテルについて尋ねてみた。
「ダンスホールでは誰でもナンバー1を狙うし、トップ5にいたいよね。アーティストだったら自動的にそこを目指す。みんなベストでありたいから。マヴァードとカーテルは、状況的にサシで闘わないといけなかった。それが音楽的な競争ではなく、文字通り身体を張った闘いになった時点で俺はナンセンスだと思った。才能を競うならいいけれど、ああいう形での競争はファンを置いて行ってしまったし。DJクラッシュ自体が過去のものだから、俺は新しいトレンドを始める方が興味があるね。俺も曲の中で相手をディスったし、スタートがそこだったのは間違いないけれど、もうそれは卒業したんだ。同じことを繰り返すのは一歩進んで二歩下がるようなものだから」
『D.O.B.』で後ろに下がることをよしとしないビジー・シグナルの「今」を確認されたい。
「D.O.B」
Busy Signal
[VP / VPCD1886]