HOME > 329 > RING RING RING from No.329

topics

RING RING RING
 
【浜田淳の巻】
 メディアの85%にフィルターがかかっている。この文章も例外ではない。
 本物の手をもった人間として、ダブの創造者を憧れている人はいないか? 本物の手とは、机上の空論ではなく、何かを文字通り創り出す力を持つ人々の持つ手。ビルを建てる人々、無名の陶芸家、家具職人、レザー・バッグ・デザイナー、ジャンクを蘇らせるテック・おたく、楽器修理人......こんなことを書き出したのにはわけがある。筆者が個人的に経験した音楽周辺の仕事は例えばDJで、それは、ひとつにはターン・テーブルを楽器のように扱う人々とされたが、もうひとつには、きわめて概念的に映し出されている音楽的風景を横切り、楽曲やビートを絶え間なく取捨選択していくことにより、目の前のフロアにそこにいる人々と共に具体化していく行為。これを音楽の批評行為とある程度同等と看做す向きもあるが、経験的には、批評的な視点はDJとしての限界を示すにすぎないことが多いように思われる......つまり、僕がダブの創造者に憧れるのは、概念ではなく、行程の主に作業をやりぬき何かを創るからだ。
 
浜田淳の著書『ジョニー・B・グッジョブ〜音楽を仕事にする人々』は「音楽稼業20種25人のインタヴュー集」であり、そこにはDJとしてクボタ・タケシも選ばれている。ここでのインタヴューは、彼がDJとしてどうして生計を立てていられるのか、そのことに比較的焦点が合わせられている。
浜田「作者の意図のないもの、ともかく著者の意見と反対だろうが、道徳に反した言葉であろうが、そういうものを全部載っけられる器を作ろう、と」
 
会見してもらった浜田氏の『ジョニー・B・グッジョブ』についてのメモ書きがここにある。
 「この本は、まったくもって古典的なものです。スタッズ・ターケル『仕事!』リャオ・イウ『中国低層訪談録』などの、差別的な言い方をすれば"市井の人々"の言葉を拾った類いの本に、その形式を擬したもの。極端にいえば、『VICE MAGAZINE』のテキトーなインタビューは、読み物としてはぼくのもっとも理想とするものです。この本のモチベーションは、まずはその"形式"にあります。"仕事"ではない、かもしれません」
 
彼の会見を続けよう。
浜田「体験として、そういうところに自身の読者としての喜びがあるわけ。ただ読んでて楽しい、みたいな。無理矢理つけたような切り口もないやつね。スタッズ・ターケルの『仕事!』は、切り口が"仕事"というものすごく茫漠としたものだからもっとも理想なんだけど、それは40年前だからできた話だよね。だから"音楽"という切り口を設けたんだけど、そうするとあそこまで混沌としたものにはならない 」
 
では、形式としてのターケルの『仕事!』はあとから出て来た、ということだろうか。
浜田「ターケルの『仕事!』は、この本をつくり始めてから検索で知ったの。類似書がないか調べるからさ。だから、ターケルは参考にしてない。さっき言った読書体験としても、ターケルの本はないわけ。そうだな......頭のなかには『白鯨』とかトマス・ウルフがあった。事細かに描写したがる人たちだよね。でも、なんか面白い、みたいな。彼らは起承転結と関係ないところで、ただ読んでて面白いでしょう。あと、テープ起こしのバイトはデカい。モメごとの隠し録りとか、カルト宗教の信者と教祖の質疑応答とか、秘境は日常にあるなあって(笑)。『VICE』が好きなのはそういうことでしょ。で、そういうどうでもいいことについての言葉を集めるにはどうしたらいいだろう? って考えると、"仕事"っていう、誰もが関わってる事象をカマすのがいちばん秘境に近づけると思った」
 
DJは肉体的にはデスク・ワークとはまったく違う仕事である。それは50歳になってもできる仕事か? たぶん、可能。しかし、ハードだろう。そして、クボタ・タケシのインタヴューからは、そうした一切合切を知ってのうえでの、安全牌を用意しないでやっていく(例えば、他の仕事を持ち経済的に安定させながらDJをする)彼の選択の厳しさみたいなものも感じさせる。例えばこうした発言から「......フライヤーに名前を載せるときに、名前のうしろにカッコで所属をたくさん書きたがる人ですね。あれはなんでしょうね。本来なら、肩書きなんてなくて、自分の名前だけで勝負したくなるのが普通じゃないでしょうか......」。だが付け加えるまでもなく、世の中には「本来なら」ということはない。それは個人の選択でしかない。
浜田「実際に本の中に『金は稼ぐさ、仕事だもの』という章もあるぐらいだから、普通に(音楽の仕事で)大儲けしている人たちも入れるつもりだったの。だけど、たまたまおれがたどり着いた大儲けしてる人は、ややイリーガルだった(笑)。だから、読まれ方が違っちゃったんだよね。あくまでも『Raw Life』の浜田がカウンター的なものをつくった、みたいに読む人が出てくるのは、おれの責任というか。そこに突っ込んでくれたのが(ライターの)三田(格)さんの書評。ほめられてばっかりにならなくて良かった 」
 
しかし、こうしたバイアスは、音楽業界の状況を反映しているのではないだろうか?
浜田「それも言い切れない。ほんとうに隅から隅まであたって、こうなりました、というのなら、言えるけど」
 
一般的に言って、音楽業界がものすごく景気がいいわけではない。それでも、音楽もしくは音楽の周辺の仕事をしたい人はいる。なにをしたい? なぜしたい? 一生できるか?途中で仕事を変えられるか? どのぐらいの生活水準か? 『Riddim』を読んでいて、音楽の仕事について興味がある人はこの本を読んでみてもいい。そして、多くの仕事の素晴らしさは、作業と呼ぶしかない何かの連続から成り立っていることも知るだろう。浅はかな知恵、みたいなものとそれゆえに無縁でいられるのだ。
 
そうそう、彼は2000年代初期に数年間続いたパーティ「Raw Life」の主催者でもあります、浜田さんは。当時を振り返る 赤裸々な言葉も本書には収録されております。必見!
  
荏開津広
(ライター/概念行商/翻訳)
最近の数少ないメディアでの仕事は、相棒と雑誌『ART ASIA PACIFIC』へニュージーランドのグラフィティについて短い記事の寄稿。是非読んでみてください。

top
top
magazine

magazine

magazine

magazine

magazine

magazine

columns

GO BACK

ISLAND EXPRESS
UK REPORT
WHAT THE DEAL IS
PLAY IT LOUD
RECORDS & TAPES
RAW SINGLES
CHART
RING RINg RING
BOOM BAP
Day In Da West

columns
columns

columns
columns
columns
columns
page up!
Riddim Nation

"Riddim"がディレクションする
レゲエ番組「Riddim Nation
第19配信中!

Go RiddimNation!

nation