Review by TAKASHI FUTATSUGI
1. The Adventures Of Bobby Ray / B.o.B (Warner)
ジム・ジョンシンとT.I.の強力バックアップでデビューを飾った、業界期待度No.1新人。一言で言えば、 久々の天才肌で、ラップだけではなく、歌やプロデュースも。注目のブルーノ・マーズ入りの先行カット「Nothin' On You」が全米1位になったのに続き、本作もチャートを制したばかり。彼の新鮮さは、ルーペ・フィアスコのプログレ路線を解り易くしたもので、キッド・カディほど内省的ではなく、むしろ後年のアウトキャストに近い? 本人が意識したというアイデア勝負のB級映画っぽさもヒップホップらしくていい。 ゲストにはそのルーペやエミネム、T.I.、リヴァース・クオモらが参加。日本盤には以前の重要シングル2曲も追加!
2. Uni5: The World's Enemy / Bone Thugs-N-Harmony (Warner)
収監で長年不在だった(契約上はフィーチュアリング扱いだった)オリジナル・メンバーのフレッシュ(先頃再逮捕)と、ハイトーンを操るトンパチ野郎=ビジーの復帰で久々の5人体制となっての新作。その後、多くの歌うラッパーを生んだハーモナイズ・ラップ・スタイルは、やはりこの編成だと更なる説得力を生む。そして強力なフックの構成だけでなく、スキルフルで個性的な各人のパートのリレーも心なしか強力に聴こえる。その点は、タイトルからも明らかな様に本人達も意識的に打ち出していて、ゲスト・シンガーとの絡みを含めて、あくまでも彼等の安定感が味わえる仕掛けに。制作陣は、DJユニークやクレイジー、LTハットン他。
3. Revolutions Per Minute / Reflection Eternal (Warner)
90年代後半のシーンを盛り上げたレーベル=ロウカスをモス・デフらと盛り上げたタリブとDJハイテック。ソロで活躍してきた2人がリユニオン・ライヴを契機に約10年ぶりの2ndアルバムを完成。制作は勿論ハイテックで、マイクを取るのはタリブ以外では、「Just Begun」で盟友のモス・デフに、ジェイ・Zのロックネイションの若頭=J.コール、ジェイ・エレクトロニカが、その他、ミナミの大物バン・B、ビラル、エステル、リースに話題のチェスター・フレンチで、最近のタリブの作風をアップデートさせた印象。それにしてもハイテックは多彩ですな。
4. Amazin / Trina (Slip-N-Slide)
順調にリリースを重ねているマイアミの女王の5th。最近は露出量と共にお下品な路線をやや控えめにセレブっぽいイメージを強めている彼女だが、ディディとケリ・ヒルソンを迎えたシングル曲 「Million Dollar Girl」がその真骨頂か? それでもあの姉御アティテュードは不変で、ヤング・マネーの後輩(?)ニッキー・ミナージと、マイク持ちとしての大先輩、レディ・ソウを迎えた「Dang-A-Lang」といったS向け(?)痛快ダンス・チューンもしっかりと用意。その他、モニカ、トレイ・ソングス、リル・ウェイン、リック・ロス、フロー・ライダーらが参加。
5. Middle Class Blues / XL Middleton (P-Vine)
日本や、ドイツ、イタリアのウェッサイ・シーンとも交流が深いパサデナ出身のアジア系ラッパー兼プロデューサー=XLミドルトン、Rotsからの新作。仲のいいフォーサムらロングビーチのメロディアスでレイドバックした"ゆるモク"なスタイルで知られる彼が、そのキャリアの妨げとなったブルースな日々を通り抜け一皮剥けた事は、「路上生活が常に隣合せ」だという事を忘れない本作を聴けば解る。DJ PMXによる入魂のリミックスを聴きモノだ。
6. 16 Pieces / Hocus Pocus (P-Vine)
「フジロック」への参加も記憶に新しい"DJの存在が活きてる"ライヴ・バンドの『Place 54』から2年ぶりとなる3rd。ツアーと平行して制作された本作は"ステージで試しながら形にしてゆく"というバンドらしさが活きていて、歌も担当するギタリストの参加もあり、幾分ソウルフルになった印象。だが、ヒップホップの原点回帰は強く意識され、先輩のアケナトン、オクスモ・ピッチーノに、盟友プロカッションズのストロとJ.メデイロスらが参加した全16曲は、社会問題を含めた様々なテーマを持つものでこのシンプルなタイトルにも納得。
7. Beauty Or The Beast? / Coma-Chi (Knife Edge)
AK-69 とのコンビネーション「Time 2 Party」や、超前向きなリリックが印象的な「Step Up!」に、そのカップリングのJay'ed とのデュエット曲「Love Symphony」などのここ最近の破竹の勢いを詰め込んだ、メジャー2ndアルバム。ラップと歌を自由自在に使い分け、"自分の言葉と表現"を何よりも大切にしている本物のアーティストの彼女が、女性の持つ2面性 (美女か野獣か)をテーマに様々な角度から照射したカラフルだが芯は太い全10曲。制作陣は、DJ Jin、DJ Mitsu The Beats、今井了介、UTA、Monkey Sequence 19他。
8. No. Six Four Five / Joystickk (P-Vine)
DS455やAK-69の作品に誘われたり、Hyena、Destino、DJ Fillmore、DJ Ryuukiらとの絡みで知られるキャリア10年強のMCが遂にアルバムを完成。Fillmoreの演出(?)でその不在の理由を露にした冒頭曲から引き込まれ、盟友DestinoやEnmakuのKowichi、Emeraldの面々、Hyena、Gipper、O.G43、そしてKalassy Nikoffらと、つんのめり=イレギュラー感が気持ちいい独特なラップを撒き散らす姿が3Dで見えるかの様な力作。歌に込められた生き様をしかと確かめられたし。
9. Loud / JBM (Bang Staystoned)
MuroやTeam 44 Blox作、The SexorcistにZee-bara「Jackin' 4 Beats (RMX)」や『R.O.B-Rapsta On Bootstreet』...そして都市伝説を超えたストリート・アルバム・シリーズ『Bring Da Noize』でお馴染みのJBMことJoky Big Monster待望の初アルバム。その巨体に相応しいラフかつタフでラウドな彼のラップは、ゴールデン・エラを彷彿させる様な硬質なサンプリング・トラックにこそ映える...という訳で、Himuki、Jashwon、黒髭からMuro(あの「Osama King」)らが濃厚ビーツを提供。"剣より切れるペン"の威力にヤラレな。
10. M's Up! / M Fingaz (Mikris & Mars Manie) (Chibaraki Empire)
Chibarakiエリアを根城とする常磐線沿線最強のコンビ=Mikris & Mars Manieが中指立ててStand Up! 03年にAquarius「オボレタ街」での競演で意気投合し、伝説の「Team 44 Blox Japan Tour」で全国を縦断した2人のタッチ・ワークは既に阿吽の呼吸の域にあり、Muro、Jhett a.k.a. Yakko、Macka-Chin、Hassy The WantedにJashwon、Buckfireらの用意したストレートなヒップホップ愛に満ちたトラックをさらに輝かせている。アルファベットで13番目の頭文字Mだけに全13曲を収録。これはユニティという名の戦争か?
11. 三十路の投げKiss / カトマイラ (Ultra-Vybe)
鎮座Dopenessの活躍もあり注目度Up!のKochitola Haguretic Emcee's、そしてグループ=PSGでのアルバムや外仕事の数々で株価急騰中のPumpee。その2人がガップリ4つに組んでいた幻の1stミニ・アルバム(CD-R)がリマスターの上に、1曲目のヴァースや全インストを追加して晴れてCDとしてリリースされることに。PSGのインスト盤が速攻幻と化したように、ここでの5トラックのニーズも高いはず。そのインスト群の後に入る鎮座による1曲もまたいい感じ。なにより、33歳時分の彼=カトマイラのリリカル・センスが面白い! 今年はKochitola作品多数リリース予定とか。
12. 400[甦] / Shing02 (Mary Joy)
ユニーク、ユーモア、ユニヴァーサル、そ の3つのUが高次元で展開されたあの孤高の名作が、マスター音源に大きく手を加え、新たな作品として甦った。ヴォーカル・データは全て02年のセッションで、サンプル要素をくり抜いたトラックは、DJ Kensei、CAV3、edkd、 KK、Eccy、Young-G、TOKiMONSTA、Dawgishtといった彼らしく内外の信頼できるクリエイターに依頼、また「統計 108」には彼がサントラに関わった『ミツバチの羽音と 地球の回転』で知られる鎌仲ひとみ監督のリーディングも...。Heavymannersとの絡みで知った人には、Mute BeatばりのレゲエのM-12がお薦め。