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THE MAZE

"Island Of Music and Murder"
Text by Reiko NAGASE SMITH
　
アル・ジャジーラ制作のドキュメンタリー番組『People & Power』でジャマイカの社会問題がとりあげられ、英国、オランダ、ドイツなどヨーロッパを中心に各国で放送された。ジャマイカ特集番組のタイトルは、邦訳すると「音楽と、殺人の島」。ドキュメンタリーの核となったのは論争中の事件、ケンタッキー・キッドに起こった生々しい実話である。
　
事件の発端は2009年7月、ケンタッキーさんが車を運転中、赤信号で停止していると、うしろから信号無視したパトカーがつっこんできたという交通事故。奇跡的に軽症ですんだけれど、車の破損はひどかった。警察署に事故の被害届をだすどころか、警察署で散々待たされた挙句に有無を言わさず帰される。言われるままに次の日警察署を訪れると、理不尽な対応をされるばかり。この事故はケンタッキーさん本人の主張と映像入りで、ジャマイカのテレビ局TVJのプライムタイム・ニュースで報道され、新聞等でも取り上げられた。
　
ケンタッキーさんは警察の最高権威にも会いにいったが、取り合ってもらえず。人権庇護団体にも相談にいく。その後、私たちは、社会問題を語る視聴者参加のラジオ番組などで、ケンタッキーさんの主張を何度か聞くことになる。同時にケンタッキーさんは、複数の武装警察による不当な強制家宅捜査などの嫌がらせを受けていた。だんだん命の危険を感じるようになったケンタッキーさんは、「もし、自分の身に何かが起こったら、それはジャマイカのポリスのしわざだ」と、「世界に向けて」映像を残す。2度目に起こった強制家宅捜査では、人権庇護団体のアドバイスを受けて自宅に取り付けた監視カメラが、警察による暴力を証明していた。当時妊娠8ヶ月だった彼の日本人の奥さんも、警察による暴力の被害を受けた。
　
そして、接触事故のほんの5ヵ月後に、ケンタッキーさんは警察官によって射殺された。自宅で何者かに電話でよびだされ、自宅アパートの敷地内で殺された。いつもケンタッキーさんが仲間たちとチルアウトしていた、マンゴーの木の下で。ケンタッキーさんは、「38口径Smith & Wessonが所持品より発見された」と報道された。
　
このように、とくにキングストンのインナーシティー地区では、警察による射殺を、「銃を所持していた」という理由で片付けられる事件を日常的に耳にする。ニュースでは、もっともらしく「所持していた」とされる銃がうつしだされ、その地区の女性と子供たちが、「We Want Justice」と書かれたプラカードを掲げてデモをしているシーンがうつしだされる。
　
ビューティフルで愉快なこの島を、「音楽と、殺人の島」とブランドづけされるのは非常に残念だけれど、この事件も現実。不正は不正をよぶ。悪事は悪事をよぶ。ケンタッキーさんの勇気をムダにしないよう、私たちに何ができるか今一度考えたい。無念をはらしたい。ポジティブなチェンジに期待します。
　
アル・ジャジーラは、アラビア語と英語でニュースを24時間放送している衛星テレビ局。公正で政治的圧力を受けない、中東で唯一の報道機関、と謳っている。このドキュメンタリー『Al Jazeera English - PEOPLE AND POWER - Island of music and murder（英語）』はYouTubeで見ることができます。
　
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