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RING RING RING
 
【有太マンの巻】
 
 有太マン、という変わった名の人物を紹介されたのは、DJ/アーティストの須永辰緒さんによってであった。その頃、有太マンは、まだ有太マンという名前ではなかったと記憶しているが、須永さんのギャグは当然既に鋭く、彼が有太マンを「前科4犯なんだよ」と僕に言ったのをしばらく僕は信じ込んでいたのだった。しかし、今書いていて思ったのだが、これってギャグだろうか?
 
 次に彼に会ったのはNYであった。有太マンと彼の友人でやはりアート学生、ベックみたいな格好していた森内君(現国営放送勤務のはず)とちょっと遊んだりして、たぶん、出来たばかりのApt 行ったりして、面識のあるロンドンの某ラッパーがDJだったりして、でも、選曲今ひとつだったりして、わりとすぐ帰ったりしたりして、いたんだと思う。ほか省略。そのときは有太マンは僕の中では「オールド・スクール好き」みたいな印象で、実際、彼と彼の仲間はそれからしばらく経ってJust Ice日本招聘というこの国の文化史に残る偉大な事業をなしとげた。でも、有太マンの活動がヒップホップから逸脱していくあたりから、僕はその意味があまり理解できなくなった。なぜ彼はメキシコに行ったのだろう? なぜ彼はダライ・ラマに会いに行ったのだろう? そして、そのことはこの本に、彼の仕事上の視覚的なパートナー、グレート・ザ・歌舞伎町氏の写真と記録されている。僕が狭視だっただけなのだ!
 
●ヒップホップにのめり込んだのがジャーナリストになったきっかけだと思いますが?
有太マン(以下Y):上手く説明できるかわからないですが、確かに最近は文章活動のみですが、ジャーナリストの感覚はありません。それこそ自分なりのヒップホップそのものな意識で、今、たまたまそれがMCでもDJでもボミングでもブレイキングでもなく、文章を書くことに落ち着いてる、みたいな。そもそも僕は、それらヒップホップ4要素のどれもまともにできない、というのが大前提ですが(笑)。
 
●それから幅を広げていって、音楽評論家〜ライター、というのとはまた違ったスタンスで活動をしているのはなぜですか?
Y:音楽は間違いなく自分をフレッシュな文化に導いた"きっかけ"、"扉"でしたが、その先で実際見て、触れたもの達に自分が触発され、全く予想外だった現在に至る感覚です。政治経済に宗教、旅と歴史、食、社会を構築する様々なことに、未だ重要度の順番をつけることができないし、新たなものに触れる度に、その新しい魅力に翻弄されることを繰り返しています。
この中にはバンバータさんの肖像もあるし、北島三郎さんの肖像もあります。
 
●両者の違いは個人として違う以外にありますか? また共通している所はどこでしょうか?
Y:今は無き新宿コマ劇場の楽屋で、北島三郎さんにインタヴューさせていただき、今の日本に何が足りない?という文脈で「アフリカの方々の音楽を聴くと土ぼこりを感じる。あれは、裸足で大地を踏みしめているからこそだろうな」というようなことを、おっしゃっていました。それって、バンバータさんの「Death Mix」から最近のDJプレイまでを聴いて感じることと、似ている気がします。他に、サブちゃんの「悔しさを肥やしに」という言葉が、社会の少数派が残してきた強い創造力のルーツ部分で、シンクロするような。
 
●世界各地に足を伸ばしていますね? 今まで行った面白いところはどこでしょうか?
Y:NYには5年住みましたし、中南米にアジア諸国、ヨーロッパやインド、アフリカもエジプトとエチオピアに行って、これは日本も含めてどこも素晴らしく、特にどこがと言うと難しいです。旅の面白さが自分にガーンときたのは、6年前、メキシコでサパティスタの村を訪問した時が最初な気がするし、人と会って何かを聞き出す醍醐味みたいなものは、その翌年、写真家グレート・ザ・歌舞伎町さん(以下歌舞伎さん)のお誘いでインドで会った、ダライ・ラマ法王の時にガーンときました。
 
●この間はチャベスにもう少しで会えるところでしたが?
Y:チャベスさんは間違いなく、異常に興味を掻き立てられる対象です。南米は日本など比にならない格差社会を内包し格闘しながら、遂には北米を跳ね返す程の力を付けようとしていて、ブラジルではワールドカップとオリンピックを控え、新しい時代の胎動を感じます。逆にそれら巨大イヴェントのせいで、それこそ生々しく荒々しい南米の魅力が削がれてしまわないか、心配です。 日本もこれだけ景気が悪いので、もうちょっと先に強烈な才能が現れるか楽しみだし、今回の本が、そういうオモロい未来を手繰り寄せる、小さいきっかけにでもなれば、と思ったりします。
 
●一緒に仕事する者として、歌舞伎さんの写真のどこを気にいってるでしょうか?
Y:そもそも、写真の力を教えてくれたのが、歌舞伎さんです。僕なんかは高校生時代に格好つけて買ったアベドンの写真集と、『Fuck You Heroes』くらいしか持ってなくて、それが例え篠山紀信さんの写真でも何がいいのかよくわからず、まあ、今でもわかっているのか怪しいですが、この世には"心鷲掴まれる写真"というのが存在するんだな、と。しかも、大抵同じ場にいて、僕もデジカメで撮りまくってるわけですから、個人が個人の力で獲得でき得る写真の強さ、みたいなものも、嫌でも体感します。
 
●必ず一緒に同じ場所に向かうのでしょうか?
Y:必ず、でもないですが、極力出来る限り、という感じです。
 
●Sacred Placeとは、有太さんにとって、どういう場所なんでしょうか? 侵されることのない場所を見る、という行為は何を意味するのでしょうか? それは、まず有太さんにとって意味があるのでしょうか? それとも第1義として不特定の読者にとって意味があると思って行くのでしょうか?
Y:少なからず、おこがましいこともわかっていつつ、不特定の読者、もっと言えば、この世の中にとって意味があるもの、という意識はあるかもしれません。それは単純に、例えば何かがタイミングで必要以上の高評価を得ている時に、「みんな忘れてない?」と、真逆の魅力溢れるものや、それをそこまで育て上げた本当の功労者、または、それを本当に支えている核心だったり。そして、そういう大事な場所や人も特別なわけでなく、気をつけてさえいれば、近所のすぐそこにもそういう場所がある、みたいな。それに気がつければ、日常が段違いに面白くなるし、世の中はそもそも面白いことで溢れてる、というようなことです。
  
荏開津広
(DJ / ライター / 翻訳など))
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