Riddim | ISLAND EXPRESS from No.326

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"Put It Pon YuTube, Nuh"
Text by Reiko NAGASE SMITH
　
　ボウンティ・キラーが3年つきあった彼女に別れをきりだされ、怒り心頭で暴力をふるってしまい、彼女が警察に通報して逮捕、拘留されるという事件に発展してしまった。その前の週に、ボウンティの米国査証が取り消されるというショッキングな出来事があったばかり。ボウンティの苦難は続く。
　
　エンターテイナーの中でもトラブルの頻度さに抜きんでるキラー様。そもそもボウンティ・キラーというステージ・ネームは、キラーが14歳のときに、政治的抗争の流れ弾に当たってしまい、療養中の病院で考え付いたというから歴史がちがう。女性への暴力事件では過去に何度か逮捕歴があるし、ステージ上での暴力的発言も然り、運転中、７つの信号無視という交通違反で逮捕されたこともある。信号が７つも連続で赤だったってのもかなりな不運だと思うが。
　
　この国は、事件が身近におこる。予期せぬ出来事が、良いも悪いも奇妙すぎるくらい身近におこる。逮捕も例外ではない。「正しい逮捕のされ方」なんてキャンペーンがテレビで流れているくらいだから。
　
　ジャマイカは公共キャンペーンがとても多く、テレビやラジオなどのメディアが効果的に使われる。エイズ関係では「コンドームを使いましょう」キャンペーンから「エイズの正しい知識を得て、保持者を差別しないようにしましょう」、「エイズ保持者を、それを理由に雇用拒否すると罰せられます」まで、これをストーリー仕立てのわかりやすい映像にして、一定の期間中、テレビで頻繁に流している。「外出からもどったら手を洗いましょう」から「赤信号では止まりましょう」などベーシックなものから、「電気泥棒は、フツウの泥棒と同じです」、「電気を盗めば逮捕されます」など外国人が見たらぎょっとするが、ジャマイカではとても身近なトピックを扱ったものも。こちらからも、ぜひキャンペーン仕立てにしていただきたい事柄を申し出たいくらいだ。
　
　「正しい逮捕のされ方」は、その公共キャンペーンの一環だ。逮捕されて警察署に連行されたあと、容疑者には電話をかける権利があります、と、キャンペーンは語りかける。そこで、当然その権利を熟知しているキラー番長、電話をかけるまではよかったのだが、かける相手が正しくない。ほかでもない、通報した彼女に電話をかけちゃったのだ。そして警察官の目の前で、彼女をカスりまくり（注；彼女に悪態をつく、の意）、「殺すぞ」と脅迫してしまったというのだから、筋金入りのバッドマン。ボーン・バッドマーン。
　
　今回アメリカ・ビザが取り消されたのは、ボウンティ・キラーはじめジャマイカのトップ・エンターテイナーたち5人である。ジャマイカ人が米国を訪れるには、査証（ビザ）を事前に申請取得することが必須。現在、ビザ申請料金は約1万2千円、一般ジャマイカ人の週給よりも多いこの金額を払っても取得できないケースも多く、その手続きも困難だ。
　
　ビザ無効処置を通達されたのはボウンティ・キラー、マヴァド、ビーニ・マン、アイドニア、そして人気セレクターのリッキー・チューパーもそのひとり。 'Put It Pon YuTube'「ユーチューブにアップしろよ」と得意げに言うのが流行語化しているが、このフレーズを、おもちゃの銃を振りかざして言い放った当のリッキー・チューパーも今回のビザ無効処置で、Bawling like a baby。「Bawl」は英語で「泣きわめく」を意味するが、「ばーる」とパトワ的に発音してよく使われる言葉。そりゃあ泣きわめきたくもなるよ。法を犯してビザをとりあげられたならいざ知らず、その理由さえ知らされないんだから。セレクターの中には、近年はジャマイカでプレイをほとんどせず、外国でプレイをする大御所が多い。
　
　ビザ取り消し事件は先月、中国系ジャマイカ人の著名ビジネスマンＣ氏が、アメリカ行きのフライトを目の前に、何十年も保持していた自身のビザを、空港で無効と通達されたことからはじまっている。ビジネスマン、政治家など著名人を中心にジャマイカ中を震撼とさせた「著名ビジネスマン・ビザ取り消し事件」。これがちょうど、ジャマイカ政府によるアメリカ政府に対する「デュダス送還拒否宣言」の直後に起こったことから、デュダス事件との関連がまことしやかに囁かれているけど、その真相はわかっていない。そう、ジャマイカ政府は、アメリカでウォンテットの極悪犯、ティバリ・ガーデンのドン、デュダスの送還というアメリカの要求を拒否してるのだ——。