(U KNOW)What the deal is
という訳で、新しい年代の始まりだが、世の中の進歩とは違って、全く本国アメリカでは進歩のないヒップホップでした。個人的には、全く好きになれないが、カニエが面白い発言をしていた。「俺は家でヒップホップを聞かない」。つまり、家では自分に刺激を与える音楽のみを聞いているという事。好き嫌いははっきり分かれるが、彼なりに自分の音楽をいつも進化させ、新鮮なものにしようという心がけなんであろう。同じ時期に、フューズというアメリカのケーブル局の音楽チャンネルで珍しいジェイ・Zのインタヴューを見たが、彼も同様な事を言っていた。この数年間、ヒップホップで新しい事なんかなかったと発言していたが、全く同感である。ただ、はっきりしておきたいのだが、アメリカにおいて、という意味である?
●昨年のベスト
私の著書で、20年に渡るアメリカの生活を綴ったものがあるのだが、そこでその年のベスト・アルバムを掲載するという企画で2000年に入ってから選ぶのに苦労したというか、選びたくなくなってきた。昨年も話題になるアルバムや、ヴェテラン・アーティスト達の作品も沢山出たのだが、結局、自分で金を出して買ったのは少ない。ラキムのアルバムを上げたいところだが、サウンド的にはいまいちだった。なぜか、ミックスCD形式のアルバムも多かったが、これは結構楽しい内容のものが多かった。サイゴンやUゴッドも健闘していました。ベストは、苦しいところでゴーストフェイスかレイクワンとしておこうか?
●昨年のベスト・ライヴ
これは間違いなくラキムを上げておこう。閉店したニッティング・ファクトリーでの久々のNYでのライヴは見物だったし、かなりのブランクがあったにしろ、貫禄と、ショウマンシップは半端じゃなかった。レコードなんか作る必要ないんじゃないのかな?
●今月のアートショウ
今や開発が進み、当時の面影を全く残していないダウンタウンはイーストサイドだが、その昔は廃墟と、そこを占拠するアーティスト達と、他のゲトーにもれずヒップホップが存在していたのだが、唯一当時から残るマーズ・バーという店が2アヴェニューに生き残っている。かつてはリーや、バスキア、キース・へイリングなんかが、CBGBの出番待ちのロッカーに混ざって酒を飲んでいた場所でもある。何度か、後から引っ越してきた連中に、「風紀を乱している」と立ち退きを迫られたが、マーズ・バーを守ろうとする古いNYカー達も少なくない。そこで12/20、アートショウが行われた。ジェームス・トップ、ブラント、グリメスなどの最近のライティング・ショウの常連や、ブラジルや、南米からのアーティスト、そして地元でもあり、マーズ・バーの壁画の常連であるジーザスも参加。バーの裏の壁にライヴで描くという企画もあり、相変わらず迷惑そうにしている常連や、ショウに駆けつけた人々、そして新しい物好きな住民達でにぎわった?
●今月の7枚目
1996年に『ワイルド・カウボーイズ』でソロ・デビューを果たしたサダトXのソロ通算7枚目が『ワイルド・カウボーイズ2』として2月に発売される。一作目からの続投プロデューサー陣が同窓会の様に集めたのがコンセプトらしいが、ダイアモンド、バックワイルド、ピートロックが名を連ね、新たに9thワンダーとグラント・パークス、ウィル・テルが参加している。このところ、ろくなニュースが無かった彼だが、新しい年代にどうサウンドが響くのだろうか?
●今月のリリース
兵役を終え、イラクから帰って来ていたカニバスが新しいアルバムをやはり2月に発売予定。ゲストにクールGラップ、チノXL(!)、新人のDZKが参加している。すでに『メラトニック・マジック』とタイトルが決まっていて、エミネムをディスしている「Air Strike (Pop Killer)」がネット上で意図的にリークされ、宣伝もばっちり?
沼田 充司
DJ/プロデューサー。 レーベル<ブダフェスト>主宰。 雑誌『ブラスト』でも執筆中。 ニューヨーク在住。 [Photo by Tiger]