BES
PROMINENCE OF ZERO GENERATION
Text by Naohiro Moro / Photo by Bunsaku Tsuji
現在、急激に頭角を顕しつつあるのが、「S58年会」を中心とした20代半ば世代のアーティストたちである。ひょっとすると今年は若手の当たり年か!? その中でも、ひときわ強い力を放つ、BESが、昨年末に勝負アルバムをリリースしている。その注目の内容に迫ってみよう。
常に斬新且つオリジナリティ溢れる活動で、強烈な存在感を示してきたカエル・スタジオ・ミュージックが、Red Spider、Kenty Grossに続く旗手として温めてきた逸材、BES。ギター、ピアノといった音楽的素養に裏打ちされたソング・ライティングのセンス。マイク1本でも現場を湧かせる確かな歌唱力。そして甘いマスクで、西日本を基盤に、既に全国的な人気を得ている若手の筆頭と言っても過言では無い存在である。
そのBESが、メジャー2枚目、インディーズ時代から通算3枚目となるアルバム『BEST I』を昨年末にリリースした。本作は、おそらく彼にとって、より大きなフィールドを目指した本格始動を意味する重要な作品となるだろう。それほど、いろいろな意味で「バランス」の取れた力作なのである。
ほとんどの楽曲をプロデューサーとして紅蜘蛛=ジュニアが手掛け、高いレゲエ濃度を保持しつつ、且つまたジュニアのプロデュース手腕も、いつものドープ一辺倒なダンスホール制作時とは異なり、猛毒をまぶしながらも、楽曲毎にそれに見合う様に、多くの新たな側面をみせている。そこにBESならではのメロディ・センス、世代観が絡み合い、「レゲエであること」と、いい意味で万人に届く「ポップスであること」に、真っ向から挑戦している。メジャー第1弾アルバムが、名刺変わりだったとすれば、今作からが、真の「始まり」なのだろう。
BES。1983年生まれの26歳。今後シーンの中核を担って行くだろう世代のど真ん中である。
中学生の夏休みに、地元の堺で行われていた野外ダンスで、紅蜘蛛のプレイに触れたことが全ての始まりだったという。逆算してみると彼の中学生時分とはおそらく98年頃。正しく紅蜘蛛が頭角を現し始めた頃である。その後、カエル・スタジオ音源などを通してジャパレゲを知り、そのリリックのポジティヴさに感化され、19歳頃から作曲を始めたと言う。
そうしてクラブで週5、6で夢中でマイクを握るうちに、05年、ジュニアの若手プロデュース・プロジェクト『Young Blood』制作時に、ジュニア自身の目に留まり、同コンピに参加。06年の『Young Blood 2』にも参加。同世代アーティストやサウンドとの繋がりは飛躍的に広がり、知名度も上昇。07年にインディーズでの1stアルバム『Music Is My Road』を発表し、全国的な注目を集め、ついに08年8月にアルバム『Come inna de DANCEHALL』でメジャー・デビューを果たす。更に昨年09年は、4月、8月、11月とシングル曲をリリースし、音楽専門チャンネルを中心にアピールを重ね、12月23日の今作のリリースに至る訳である。
そしてその内容であるが、前述した様に、彼の目指すフィールドの大きさを感じさせるスケール感、レゲエへの拘り、ポップスであることへの拘りなどが、絶妙なバランスで成立している。特にキャッチーなメロディ・センスは卓越していて、実際、僕の耳の中では、シングル曲だった「オードリー」のフックが、このところ、ずっとループし続けている。
アルバムは、ラガさ、エロさ、純情さなどを織り交ぜながら、見事な構成力で進んで行くのだが、終盤、それまで以上に等身大の彼の姿が表現され、その生々しさにハッとさせられる。若さや稚拙さも含め、それも世代感覚である。同世代の共感はそうしたところから生まれるのだとも思う。更に、ただの歌い手ではなく、シング・ジェイ的なストーリー・テラーぶりも、楽曲に奥行を与えているのだろう。
「なんかライバルに勝つ事とか、何かに立ち向かう事は、そりゃ大事やと思います。だけど結局、自分の敵は自分の甘えや弱さや今のレベルとかだと、作品を作るにあたって今回強く感じました。だから今は今の自分に負けない。自分に打ち勝つっていうのをモットーに生きてます。そういう気持ちをたっぷり詰め込めました」
最後に添えたのは彼自身の言葉による今作に込めた思いである。BES。2010年、注目のひとりであることは間違いない。
"BEST I"
Bes
初回限定盤 DVD付 [Universal / UMCF-9539]
通常盤 [Universal / UMCF-1030]