LIKKLE MAI
I&I IS MY MESSAGE
Interview by Norie Okabe / Photo by Atsuko Toyama
2年前、公私共にパートナーであるギタリストThe K.と自主レーベルを設立したLikkle Mai。レーベル第2弾、ソロ3作目となる『mairation』が完成した。The K.は勿論、森俊也、Pataなど彼女のライヴでバックを務めるミュージシャンが全面参加。日本人が生んだルーツ・レゲエの名作として、後世に語り継がれるだろう大傑作の登場だ。
"ジャパレゲ"旋風が吹き荒れたゼロ年代。その最後の最後にして、こんな素晴らしいアルバムに出会えるとは......。9月某日、東京・国立市。Likkle Maiのホームベースであるその街で、本傑作の源泉を探らせてもらった。彼女の行き着けハワイアン・バー「Hana」にて、キリリと冷えたコナ・ビールを飲みつつ。
■"自主レーベルゆえの音"の話
「実はこのアルバム、バンドの音は去年の夏に録り終えてたんです。レーベル設立当初から1年に1枚ペースを目指していたんで、早くから作業にとりかかってたんですけど、なにしろレゲエというものは夏が書き入れ時で。マネージメントも自分でやってるものだから、ライヴの準備やら何やらてんてこまいで、制作を後回しにせざるを得ない状況になったんですね。やっぱり大事に作りたいっていう想いもあったし......。でも、その間のライヴっていうと、ハワイに呼んで頂いたり、地元・岩手で故郷ライヴをやってみたり、初めて経験することも多くて、凄く刺激的でした。Kと2人でアコースティック・ライヴもかなり回りましたけど、それも2人だとごまかしがきかない分、鍛えられたりしてね。で、結果的には、そういうライヴによって作品へのモチベーションを凄くあげられたというか。弱小レーベルゆえの泣き所もあるけど、それさえも作品の力になっていくんですね。金銭的には大変だけど、精神的には凄く健全(笑)。だから自分の好きなことに忠実なモノが作れたし、みんなの耳にも風通しよく響く作品になってると思いますよ」
■"世界に放ちたい国立サウンド"の話
「バンドの音は国立のZap'emというバーで録音しました。年に1度、私が"国立レゲエ祭"と呼んでるイベント『日酒麻夏』をやってる場所。今の一般的なスタジオは音を吸って色気のない音になっちゃうけど、Zap'emは部屋鳴りがよくて音が素敵に響くんです。前作でそれを発見して、今回は全曲ここでやってみる価値があるぞ、と。ミックスは内田(直之)くんと森(俊也)さん、マスタリングはUKのGreensleevesでお馴染みのKevin Metcalfeにお願いしたんだけど、そのKevinに凄く褒められて。「曲もいいし、音もいい! マスタリングできて光栄だ」なんて(笑)。
今はネットがあるから予算が少なくても、そうやって海外と仕事できるでしょ。小さな街で生まれたものを世界へ発信できるチャンスがたくさんある。レゲエはストリートから生まれてる音楽ですからね、私は自分の住んでいる国立のサウンドを大切にしたい。それこそ"シンク・グローバル、アクト・ローカル"。こんな私だってできるんだから、頑張れば誰でもできるよってことを提示していきたいんですよね」
■"なぜ、ここまでルーツ・レゲエなのか"という話
「ルーツ・レゲエ、特に70年代モノはメッセージが普遍的だから、聴く人種も時代も選ばない一生モノの音楽。今の時代なんて、めちゃくちゃ響くんですよ。今こそ聴いてもらいたいし、今こそ必要。そして、今こそ私のルーツ・レゲエへの愛情がマックス(笑)。だから今作が生まれたのは必然だったと思いますね。実はこの10年間、日本語でどう歌えばいいか、ずっと考えてきたんです。いいことを歌おうとすると、どうもこっぱずかしいとか、真面目すぎて寒いとか、そうなりがちで......。
でも、私がレゲエに心を奪われている要因は、体を持っていかれる重厚なリズム、そしてそれに負けないメッセージ。だから、日本語から目をそらしたくなかったし、日本語で書くなら生ぬるい詞なんて書きたくなかった。今回のアルバムでは、そうやって今まで悩んでたこと全てが、うまいことハマった感じがするんですよ。リディムの上で納得して日本語が言えてるというかね。ルーツは自分が大好きで責任持てるからやれるわけだけど、やっと嫌味なくできる年齢になったのかな(笑)。3作目にして、遂に堂々と放てる作品ができたという手応えが凄くあるんですよね」
■"レゲエ=人間道。歌詞が生まれる所以"の話
「人間はみんな偉い。例えば毎朝、満員電車で会社に通ってる人たち。そういう人たちのおかげで、私のようなアーティストという存在が成り立っているんだなってつくづく思います。ソロに転向した当時、ドラヘビ(Dry & Heavy)を辞めたからといって足元を見る人もいたし、色々厳しい現実も突きつけられました。その分、私は周りの人がどれだけ苦労していて、どれだけ凄いのか知ったんですね。知れば知るほど、書くことが増えていく。自分と関わった人の凄さを感じていれば書くことには一生困らないですよ。音楽をやること、会社で働くこと、共通しているのは人間を鍛えてるってこと。私にとってはレゲエをやること自体が人間道なんです。苦労しなくても、いい曲を歌えるって人はそれでいい。人は人。でも私には、色んな人の想いを実感しながら作っていくやり方が合ってる。で、このアルバムは、それが今までで一番うまくいった作品だと思うんです。伝えたいのはI&I。どれだけ失敗しても辛くても、自分には価値があると信じることが大切。そして、自分を大事にするのと同じように、周りの人を大事にしてほしいと願ってます」
この夜、Likkle Maiは「みんなのおかげでできたアルバムなんです」と繰り返し語っていた。そして、最後にほろ酔い加減で「ドラヘビのメンバーもみんな、今の私は幸せそうだって言ってくれる」と笑った。これだけ豊かな心の持ち主から生まれた音楽なら、素晴らしいのはそりゃ当然、といったところか。
"Mairation"
LIKKLE MAI
[MK Starliner / MKD-002]