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Neville Brody
Interview & Photo by Shizuo "EC" Ishii
 

グラフィック・デザイン界の寵児Neville Brodyとは80年代末からのつきあい。おそらく日本人として最も早く彼の才能に触れたのは僕だろう。骨董通りの路地を入った古いビルにオフィスがあった頃の事だ。突然大日本印刷の海外営業の人が現れ「イギリスからの指示でこれをあなたに届けるようにとのことです」と大きな封筒を渡された。それがその後全世界で12万部を売り上げる彼の初の作品集『Graphic Language Of Neville Brody』の全ページの校正刷りだった。その断裁されていない大きな印刷物を一目見てぶっとんだ。その膨大な作品量に加えてデザイナーとしてのクオリティがハンパではなく高い。しかも作品の中には僕が持っているPunk/New Waveのレコード・ジャケットや『Face』や『Arena』という先鋭的な雑誌のアートディレクションがあり、この男と仕事をするしかないと決断。彼のオリジナルのフォントを駆使したデザインに惹かれて、Men's BIGIやPARCOに紹介して仕事が始まった。
 
それから既に20年以上が経つが、今も世界のデザイン界に影響を与え続けるこの多忙な男が突然今年の春に来日し、久々に楽しいランチタイムのインタヴュー。
 
EC:昨日はあなたの作品集『Neville Brody』の発売記念のトークショウをGGGギャラリー(銀座)まで聞きに行ったよ。そこで話していた自由の定義について聞きます。僕自身は「自由」という事は制約があってこその「自由」と考えています。引き続きもう少し掘り下げて話してくれますか?
Neville Brody(以下N):そうですね。いわゆる「自由」はあっても、私達は本当の意味での自由をどれだけ正しく解釈しているだろうか? もはや私達を取り巻く「自由」は、契約の様なものでしかない気もする。著作権の制約や防犯カメラに監視されながらの生活、戦争さえも「自由」という大義名分の基に行われている今、その言葉自体が形骸化されてしまっている。世界各国を長く旅して回っていると、どこにも同じデザインの店があり、ここ数年あらゆる国の文化が均一化されてきている様に感じる。そんな「自由」が沢山あればあるほど、実は選択の幅が狭められているんだ。
EC:昨日も「世界は以前よりフラットに...」と言っていましたね。
N:中世の時代には、地球は平面状のものであると考えられていた。でも皮肉にもこの滑稽な思想が今は現実のものになってきている。例えばフランスだったら「Freedom(自由)」は「Liberation(解放)」になる。そっちの方が自由の本質に近い感じがしてしっくり来る。日本語だと他にどんな表現がありますか?
EC:そうだね。...「自由」以外にはすぐには思いつかないな。
N:さっき石井が言った様に、制約なしの「自由奔放(アナーキズム)」と「自由」である事は、僕も異なるものであると思っているよ。自由という言葉は定義をしてしまったとたんにその本質を失ってしまう。リスクを伴う個々の責任であり、個人のクリエイティヴィティとも言えるだろう。
 
EC:ではちょっとパーソナルな事を聞きたいんですが、例えばNevilleの性格や特徴に関してです。いつもあまり素の部分を見せずにうまくかわす様な印象があります。シャイなの? 自分をどんな奴だと思ってるんだい?
N:僕は石井ほどシャイじゃないよ(笑)。オープンだとは思っているね。もう年だからかな、色んな意味で固定化しつつあると思ってはいるけどね。
EC:どう? フィル君(同行したアシスタント)はどう思う? 彼はいわゆるティピカルなイングリッシュ・ジェントルマンなのかな?
Phil(以下P):Yes and Noかな(笑)。オープンで親しみ易く、温かみのある人柄は英国紳士そのものだよ。でも世界の人々や文化に触れて蓄積した知識や経験から、あらゆる物事に対して寛容で、幅の広い解釈と価値観を身につけているし、ウィットに富んだユーモアも英国人らしい彼の一面でもあると思います。
N:僕は皮肉屋さんだからね。言葉遊びが好きなだけさ(笑)。
EC:あなたにとって音楽は大きなインスピレイションであり、制作における重要なファクターであるとの話を聞いていますが...。
N:僕を長く知ってる石井は分ってる事だと思うけど、音楽には常に大きく影響されてきたんだ。一昔前のPunkは「Anything Is Possible(成せばなる)」と訴えていた。それはアナーキズムとも違って、可能性を示すエネルギーを強く感じさせた。インダストリアル・ミュージックも大きなインスピレイションだった。前衛的でアーバンな世界観にとても魅力を感じた。ジャズの詩的なサウンドも好きです。もちろんレゲエやDUBはいつだって好きで聴いているよ。もっと若い頃はレコード・カヴァーのアートワークを沢山手がけて、大いに楽しんだのを覚えているよ。
 (Nevilleはアートスクールを卒業するとエルビス・コステロやイアン・デューリーが在籍したStiffレコードを皮切りにFetishレコードのアート・ディレクターを務め沢山のレコード・ジャケットにイラストレーションとロゴタイプの作品を残している。例えばキャバレー・ヴォルテールのジャケットなどはその独創的なデザインで彼の作品集では必ず取り上げられる)
 
EC:今までの仕事の中で一番好きだったと云えるものはなんでしょうか?
N:全て好きさ。とくに実験的言語とタイポグラフィの出版「FUSE」は印象深い仕事だったね。
EC:では完成度が高かったと自分で評価できる仕事は?
N:完璧なものや完成品などはないよ。結局はその時々の自分が出版物になるだけで、何かが完成して終わったり、満足したりするものではないと思っている。
EC:僕には究極の完成品にしか見えないあなたのタイポグラフィやフォント作りにおいてもですか?
N:もちろん。満足した事などないね。昨日のトークショウでも「一番感慨深かった出来事は?」と聞かれ、「良き父親でありたい」と云う事を伝えたんだ。強いてあげれば、集大成という意味で出版された僕の3冊の本『Graphic Language Of Neville Brody』『Graphic Language Of.. 2』『Neville Brody』かな。
EC:ではあなたにロゴやその他のデザインの依頼をする度に予想以上のアイディアが出てくる事に驚かされる。最初のラフデザインで殆ど完成している。例えばテクニクスのデジタル・ターンテーブルのロゴを頼んだ時だけど、ターンテーブルの周囲についているドットをちゃんとロゴの中に取り入れていた。僕はそういう説明しない部分さえもきちんと把握しているセンスにビックリするんだ。そのディテールに至るまで実に的をえた結果で応えてくれる事にとても感心させられる。しかも、もうOKだよと思っているのにそれから10個も違ったデザインが送られてくるんだから(笑)。そしてその内の90%は捨てるのが惜しい作品なんだ。こうしたクライアントのリクエストを外さないその秘訣は?
N:それは、僕らは兄弟だからじゃないのか(笑)? 気の合う友達だからさ。
EC:ほらね、こうやってはぐらかすのは、やっぱり君はシャイだからじゃないのか?
N:もちろんなかなか要望に応えられないクライアントだっている訳なんだ。
P:石井さんとNevilleが共にクリエイティヴな者同士だから、意志の疎通がスムーズなのは確かだと思う。スタジオに関して云えばクライアントのニーズを徹底的に知る事、それに必要な行動を惜しまない事。それが「Research Studio」の名前の由来でもある。そしてさらに制作の過程でイメージを練り込み、熟成させる期間を設けてニーズやリクエストを具現化します。
EC:デザインのプロセスについてですが、アートディレクションはNevilleがするのですか?
N:僕は何の指示もしません。むろん最終的な決定を下すのは僕ですが、それは縦割の作業の進め方をしたくはないからです。ロンドン、パリ、バルセロナと各国にスタジオがありデザイナーがいるので、必要ならロンドンの仕事でも他のパリのデザイナーがやる事だってあります。場合によってはプロジェクトに必要な外部の人材と共に制作をしたりする事はあるけど、でも殆どは我々が一丸となってやります。一番若い23歳から33歳までがチームとなって取り組むのです。
EC:あなたも僕もコマーシャル・アートを創るという場所にいる訳ですが、それが例えば現在の拝金主義の終末のようなこの経済的なクライシスや政治であるとか、そう云ったものにどんな貢献が出来ると思いますか? つまりデザインで何か変化を訴求する事など...。
N:例えアートで解決が出来るような事はないとしても、それらの間に入って影響をもたらす事は可能だと思う。むしろ経済がアートや音楽、文化にもっと広く介入して、自由な制作の土台作りに貢献してもらいたいと思っているんだ。
EC:あなたの作品の中には「Free Me From Freedom」と云った社会的な意図を含むものも多くありますが、それらについてもう少し語ってくれるかな? そして今後の事ですが、既に現在確固たる存在を確立されているあなたの更なる計画は?
N:先ず作品に関して言えば、ただヴィジュアルで訴求するだけでなく、行動で示されるべきだね。そして今後の僕は新しいアートや文化が根付く土台作りに貢献しないとね。例えばグラフィティ・アーティストと云ったストリート・アーティスト達の居場所が無い。今はコマーシャルとそうでないものの二分化が激しくて本当の意味での「自由」な制作がままならない。そんなバリアを無くし、若手の可能性や活動を支えていくのが僕らの課題だと思っている。I Will Never Stop Doing Art...もちろん石井だってそうだよね(笑)。 [February 2, 2009]

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