BOOM BAP
歴史的傑作『Only Built 4 Cuban Linx』 のリリースから14年後、Raekwon The Chefが、Ghostface Killa、Masta Killa、RZA、GZA、Inspecta Dek、Method Man、Sllick Rick、Jadakiss、Styles P、そしてPhiladelphia 出身のBeanie Siegel(唯一彼だけがNYC出身ではない)と共に再び厨房に帰ってきた。同作はJay-Z待望のアルバム『Blueprint III』と同日に発売されたのだが、『OB4CL2』の方がある意味、出来がいいかもしれない。Raeは現在ラジオで流行っているスタイルに甘んずる事なく、36 Chambersスタジオで培ってきたサウンドを忠実に守り、ソリッドなアルバムに仕上げている。アルバムは1995年にRZAがプロデュースしたシネマティックな「North Star (Jewels)」の続きから始まる。更に厚みを増したトラックを担当したのはMarley Marl、Pete Rock、Dr.Dre、The Alchemist、そして故Jay Dilla。「House Of Flying Daggers」の様な曲から判断すると、Wu-Tangの音楽はまだまだカミソリの様に鋭い。
●このアルバム制作期間はなぜこんなに長かったのかい?
Raekwon The Chef(以下R):オレはこのアルバムを自分が納得するまで練り上げたかった。前作の評価が良かったので、今作はそれを超える様なアルバムにしなければならないと考えていた。だから、どれだけ時間がかかるか分らなかったんだ。一番重要なのはみんなが期待していた『Cuban Linx』サウンドを完全に再現する事だった。それにオレはレーベル移籍問題も同時に抱えていたからな。
●Dr.Dreとの契約は時間の問題だったのか?
R:この件については、色々な情報が飛び交ったと思うが、全て噂話のレヴェルさ。Dreとオレの関係は、彼が忙しかったせいもあって、正直なところあまり良くはなかった時期もあった。オレはヒップホップ史上、重要なアルバムを作っていたのを自負していたので、契約に関しては十分な話し合いが必要だと感じていたのさ。オレは人々が何を言おうと構わないよ。それがイイ噂なら尚更だな(笑)。でも、そんな事があってもDreとオレは友人だよ。彼の音楽は刺激的だからな。
●他には誰が制作に関わっているの?
R:このアルバムには錚々たるメンバーのヒット・プロデューサーが参加している。RZA、故J.Dilla、伝説的なPete Rock(ヒップホップで彼の事を知らない奴はいないさ)、The Juice CrewのMarley Marl、そしてDr.Dre。彼らは僕がこのアルバムという"ロボット"を作る上でのパーツを用意してくれたのさ。
●では、RZAには多少のプレッシャーがあったのではないか?
R:そうかもしれないな(笑)。『Cuban II』では多数のプロデューサーが参加している。まるで、オレが強力なロボットを作った悪い科学者で、RZAに挑戦している様な感じさ。この事が『Cuban II』を面白くしている要因のひとつだな。オレが運転席に座っていて、RZAが後席ドライヴァーの役目を果たしている様な感じだ。
●だが、プロデューサーの数が多いのにサウンドには統一感がある。
R:オレはみんなが好きなカラテ・フリックスの様なWu-Tangサウンドを忠実に表現したかったのさ。このアルバムは今のヒップホップで渇望されている音楽で、コレクターズ・アイテム級の価値がある。
●Wu-Tangのメンバーがこれほど一体になっているのは近年珍しいと思うが。
R:Ghost、Meth、Genius、そしてRZAなど、みんな協力してくれたよ。でも、一番注目すべきなのは、今まで実力の割に評価がついてこなかったInspectah Dekだ。彼の今作での活躍は素晴らしいので、オレはハッピーさ。
●新しいファンがこのサウンドを理解できないと心配はしているか?
R:そんな事はないさ。これは若い世代がどうのこうのという問題じゃない。確かに若いリスナーには理解されない部分もあるかもしれないが、オレにとって重要なのは昔からのファンだ。「いつになったら『Cuban Linx II』を出すんだ?!」とオレに執拗に訊いてくる観客の方が心配だよ(笑)。オレは進化系のMCだからな。コドモがオレのスタイルについてこれないのも分るよ。コレは大人用のアルバムだよ。子守唄じゃないんだ。
●あの時代を生きたアーティストがそのスタイルを変えない事に一徹したポリシーを感じるよ。
R:15年前にオレ達がやっていたリリックは非常にヘヴィだった。当時のMC層は恐らく一番分厚かったと思う。オレらはちょうどBig Daddy KaneやSlick Rickの後にデビューしたんだ。あの時代には才能あるアーティストが真の芸術を創っていた。だからこのアルバムはそれを反映しているんだ。
●あなたは父親なのでドラッグ系のリリックは扱い辛いのでは?
R:このアルバムは子供(未成年)向きではないだろう。やはり分別が分る大人になってから聴いて欲しいから「R」指定だ。もし未成年に聴かせるなら、これは映画みたいなものだとちゃんと説明しなければならない。ストリートに回帰しろというメッセージではないからな。この事はアルバム制作中でもずっと考えていた。コカインや殺人などを曲のテーマにしないとオレの事をリスペクトしない輩がまだいるからな。
●『Cuban II』は正にモンスター・アルバムだね。
R:オレはシェフだからな。オレはターキー・バーガーとフィッシュ・サンドウィッチを両方作れる。今回はみんなターキーを欲しがっていたから、それを作っただけさ。
TEXT BY ROB KENNER
アメリカの『VIBe』マガジン、VIBE MEDIA GROUPのエディター・アット・ラージとしてREGGAEコラムを執筆中。HIP HOP/REGGAEに深い愛情を持つ。
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