TARRUS RILEY
CONTAGIOUS
Interview by Minako Ikeshiro / Photo by Marvin Bartley
自身の3作目に当たる『Contagious』のプロモでジャマイカ〜USを駆けずり回っているトーラス・ライリーをニューヨークでキャッチ。サイン会の直後、車での移動中でレコーダーを向けたところ、かなりストレートな本音トーク満載と相成った。
「『Contagious』は伝染病でも、ばい菌でも、豚インフルエンザでもないよ」。"伝染性の"という意味を持つタイトルについて、早速、解説してくれるトーラス。「みんなに浸透していくタイプの音楽を指すんだ。『Love Contagious』という曲もあるけれど、歌っている主題が多岐に渡っていて、ラヴァーズ・アルバムではないから"Love"は取った。もちろん、大事な要素だけどね。カルチャーに対する愛、という言い方も出来るし。それがみんなに伝染して行くんだよ」
仕上りは、評価の高かった06年の『Parables』をもしのぐ。ベレス・ハモンドがいなかった今年の「サンフェス」でも、ジャマイカ勢のシンガーで一番良かったとの風評を取った。3年弱で飛躍した理由を自己分析してもらった。
「俺は自分を含めて一切競争しないんだけどね。自分でも、過去2年半でパフォ−マンスとソングライティングはだいぶ良くなったと思う。違うスタイルに挑戦したし、ショウを重ねる度にうまくなるのも事実だ」
トーラスについて最近よく耳にするのは、「オタクに近い音楽通」との評判。
「音楽自体についても詳しいし、きちんと金を稼ぐために音楽ビジネス自体の仕組みも知らないといけないから勉強している。俺自身は、有名になって注目を浴びることよりも、曲を書いたりパフォーマンスすること自体に興味があるけどね」
ジョン・レジェンド「Stay With You」のカヴァーで知名度を広げた彼が、今回選んだのがロビン・シックの「Super Man」。元々ボーナス・トラックで、「Stay With You」より知名度の低いこの曲を選んだ理由を訊ねた。
「『Stay With You』も俺がカヴァーした時は、ジャマイカでは誰も知らない曲だったよ。『Super Man』を選んだのは、メロディが良かったから。R&Bの世界でもいい曲は何万回もカヴァーされるでしょ。グラディス・ナイトがボーイズ・2メンの曲を歌ったり、ブランディがブライアン・アダムスの曲を歌ったり。いい音楽は永遠に生きるんだ。俺も自分の曲が日本語やポルトガル語で歌われたら嬉しいね」
「いい音楽=いいメロディといいメッセージ」という言葉を取材中に何度か口にした。メッセージとして最も強いのは、DVを扱った「Start A New」だ。
「あの曲は、曲のコードの中に最初から物語が宿っていたんだ。 『Start A New』は一つの曲だけれど、今では同じ名前のムーヴメントになっていて、高校を回って自分に自信を持つことの大切さを説いたり、あのヴィデオを見せて問題提起をしたりしている。ディマルコやビューグルも賛同して、参加してくれたよ」
「Soul Mate」では、スタジオ・ワン時代の音がふんだんに使われている。スタワン・シンガーのジミー・ライリーを父に持つトーラスの音楽的なバックグランドをチェックする。
「スタジオ・ワンを含めて、すべての音楽が家でかかっていたよ。ロバータ・フラックやダニー・ハサウェイ、マイケル・ジャクソンから、デルロイ・ウィルソン、アルトン・エリス、ドン・ドラモンドまでね。ジャマイカの音楽はどんな音楽にも劣らずリッチだと思う。デルロイ、ボブ・アンディ、ケン・ブース...みんな好きだよ」
お父さんから受けたアドヴァイスは、「『きちんと金をもらえ』」
「『シンガーになっても、金にはならんぞ』って言われたから、『お金より、俺は歌いたい』って答えたら、『分かった。ちゃんと払ってもらうんだぞ』って」
アルバムのゲストは、エターナ、デュアン・スティーヴンス、ディマルコ、カーテル、コンシェンスと多彩。
「俺はラスタに限らず、誰ともつき合うんだ。大体、ボブ・マーリーの時代から肌や目の色、国籍、食習慣、神で人々を分けるのは下らないって、スラシアイははっきり言っている。俺は人との違いに注目するより、どうやったら一緒に生きていけるかということに興味がある」
タイプとして対極にいるカーテルとも「機会があったら話す仲だよ」とあっさり。
「彼は俺と俺の音楽をリスペクトしている。彼は自分で『Parables』を買ってくれたんだよ。俺が実際にサインしたから、事実だ」
アディ先生、いいとこあります。ソングライターとしてのトーラスは、ルシアーノやエターナ、デュアン・スティーヴンソンに曲を提供しており、「これからも人に曲を提供する機会が増えて行くんじゃないかな」と話す。「ギターとキーボードも弾けるから、アルバムの半分は自分でアレンジを施している。(曲のアレンジは)ピアノの練習をしているうちに出来るようになったんだ」
トーラスと言えば、メンターであるディーン・フレーザーとセットで語られることも多い。話の中で「俺達のキャンプ」という表現が出たので、どれくらい大きいのか確認した。
「いつかのキャンプが合わさっていて、親しいミュージシャン達もカウントするから、かなり大きいよ。シンガーとしては、俺とデュアンがいて、それからイギリスにラヴァーズ・ロックを歌うクリスという新人がいるんだ」
ジャマイカを代表するシンガーになりつつある、トーラス・ライリーに夢を叶えて良かったことと悪かったことを訊ねた。
「シンガーになって悪いことは......まったくプライヴァシーがないこと。まぁ、まだ最悪な事態は直面していないんだろうけど。俺は、音楽を作っていられれば、幸せなんだ。シンガーとして売れなくても、ソングライターか何かほかのやり方で音楽に関わっていたと思うし。音楽が最優先なんだよ」
"Contagious"
Tarrus Riley
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