DICK EL DEMASIADO
Text by Naoki E-jima / Photo by Shiho Yanagimoto
"トン・ゼーとリー・ペリーがチャネリング""デジタル・クンビアのゴッドファーザー"というキャッチ・フレーズ、いい加減なのか計算づくなのか分からないチープで怪しげなヴィジュアルで謎が深まるばかりのディック・エル・デマシアドが初来日。彼はいったいどんな男なのか?
2008年のアルゼンチンはZZK Recordsを発信源に世界へ伝播、ここ日本でも辺境系のリスナーやDJだけでなくレゲエのセレクター達からも注目を集めているデジタル・クンビアは、その名の通り、コロンビアで18世紀に生まれたとされる南米の大衆ダンス音楽をデジタル化した音楽。もっさりとした2ビートとレゲエな裏打ちが生み出すリズムはレゲトンにも通じ、やわなシステムでは再生しきれない強力なサブ・ベースはダブステップ級。飛び交うSEとディレイ。
ラテン音楽ならではの情感溢れるメロディとへヴィなサウンドのコンビネーションが不思議なユーモラスさも生み、多くの雑踏音楽愛好家を虜にしている中、ZZKの連中が"デジタル・クンビアのゴッドファーザー"と讃える奇才にデジタル・クンビアの誕生から現在までの話を聞くことができた。その奇天烈なアートワークやリリックから、どんな人物が現れるかと思いきや、いたって知的な、ユーモアに満ちた紳士だった。
●最初に興味を持った音楽はどういうものでした?
Dick El Demasiado(以下D):最初はガテマラのマリンバ音楽です。マリンバでディズニー演奏するとか、そういう音楽。ただ、純粋に音楽的に興味を持ったのは、なぜかナイジェリア人がやってるカリプソでした。私も幼い頃から世界中を移動しましたが、父はもっと色んな国に行き、その先々からレコードを買ってきたので、世界中の音楽がミックスされて家にありました。
●クンビアとの出会いはいつ頃ですが?
D:アルゼンチンに住んでいた7、8歳の頃、家にいたお手伝いさんの部屋から聞こえてきた音楽でした。クンビアは貧困層が聴く音楽と言われていましたが、彼女はとても優しく、そういう人が聴いている音楽ということで、私はいい印象を持っていました。だから貧困層云々という偏見とは関係なく接することができたのです。
●自分でクンビアを演奏しようとした理由は?
D:かつてアート・プロジェクトをやっていた頃、ある本を書いたのです。それに伴ってCDを作ることにしたのですが、そこに入れる音楽としてクンビア・エクスペリメンターレという架空のジャンルを作り、それを演奏する架空のミュージシャンを生み出しました。本には、それら架空のミュージシャンのインタヴューや、その音楽にまつわる伝説、派生したジャンルなどについて、文化人類学的な体裁で書きました。
●現在、デジタル・クンビアは若者にも広がり大きな支持を集めています。その状況をどう思いますか?
D:ワンダフルです。でも、現在のデジタル・クンビアは、いつの間にかダンスという方向にだけ向かっているように感じるんです。ですからそこからもっと広げて、豊かなものにしなければいけないと思いますね。
●あなたの活動からは、アートワークも含めユーモアのようなものを感じます。ある一面だけではなく、その裏側にもメッセージを込めているような。
D:そうですね。豊かにすることでクリシェ(常套句)を台無しにしたい、ということでしょうか。クリシェはコミュニケーションの為には必要なのですが、それが世界を貧しくしてしまうという逆説的な要素があると思うのです。
●リー・ペリーやプリンス・ファーライが好きだそうですが、最近のレゲエは聴きますか?
D:いいえ。ジャマイカの音楽にアプローチするのには若干の違和感があります。ジャマイカの音楽には貧困層の尊厳というか誇りを表現しているものが多いと思いますし、情報も限られているので、それらを理解できるようになるまではアプローチしにくいですね。スライ&ロビーのダンスホールは好きで、よく聴いていましたが。
●クンビアの起源はコロンビアですが、そのコロンビアではあなたの音楽はどのように受け止められているのでしょうか?
D:とても好意的ですね。少し前にコロンビアの国営ラジオからも"今週のアーティスト"に選んでいただきましたし、今年の元旦には国営ラジオのウェブサイトで私の曲が推薦文とともに紹介されたりもしました。
"Sus Cumbias Lunaticas y Experimentales"
Dick El Demasiado
[Utakata / Tomenota / UTKT-004]