MOOMIN
Text by Norie Okabe / Photo by Ryuji Sue
ここ最近、"Moominにしかない魅力"を突き付けられる機会が多く、改めてMoominという歌い手のスゴさを痛感している。
今年2月にリリースされた橋本徹(Suburbia)選曲のコンピ盤『Free Soul Moomin』。個人的には既に聞いたことのある曲ばかりだったはずなのだが、失礼ながら「こんなにいい曲だったっけ?」と興奮して何度も聞き直してしまうほどで......。「俺、かなりロマンチストですよ(笑)」と本人も語っていたが、この作品で浮き彫りにされていた、Moominならではの甘酸っぱくて、黄昏を思わせるメロウな世界観には改めて惚れ惚れしてしまった次第。
5月。「Greenroom Festival」でのアコースティック・ライヴ。Stoned RockersのYota、Kentaとの3人構成で、Moominはハーモニカやピアニカも演奏するのだが、コレにも興奮した。要所要所で観客のツボを捉える"楽しませ方"を熟知した現場叩き上げのパフォーマンス技と、先述の"メロウな世界観"とが見事にブレンドされていて、ひたすらレゲエを感じるけれど、たとえレゲエに疎い人が聴いたとしても単純に"イイ音楽"として楽しめるだろう実に風通しのいいライヴ。「Greenroom Festival」というジャンルをクロスオーヴァーしたイヴェントで観客に支持されたのは、まさにその"イイ音楽"の証だろうし、Moominは、もっともっと広く知られて然るべき歌い手だと改めて感じた。
「2年前からオアシスでYotaとユニット"コガヤシ"をやり始めて。去年の12月からは3人体制になって、ブルーノートとか大人向けの会場を回ったんですけど、アコースティックはひとつの見せ方として続けていくと思いますね。今、レゲエのフェスは若い世代が多いけど、自分と同じ世代の人にも楽しんでもらえるようなライヴがあってもいいんじゃないかなって。それに『Greenroom Festival』みたいなイヴェントに出ることにしてもアウェイ観は感じなかったし、逆にそこに行かないほうが自然じゃない気がしたんで。アコースティックは冷奴みたいなもの(笑)。バンドはフルコース。豪華に食べるのもいいけど、シンプルだから美味いってこともある。ギターと太鼓だけでもグルーヴを感じさせるとか、素朴だけど染みるとか、そういう音も追求してみたいんですよね」
そんな新たな表現法を磨き中のMoominがレーベル移籍第一弾となる新曲2曲をデジタル・リリース。どちらも"これぞMoomin節"といえる普遍的なメッセージが詰まった珠玉のミディアム・チューンだ。まずは大阪の新鋭プロデューサー/キーボーディスト、ミッチュリーがトラックを手がけた「Home」。ミッチュリーはTatsumi Akira And The LimesやChalisss Crewといったバンドの一員として活躍中で、アール"チナ"スミスに
「お前はジャッキー・ミットゥの次の存在だ。だからお前はこれから"ミッチュリー"と名乗れ」(※編集部註:「Mittoo」の発音が「Mi2」と似ているため、「2の次」ということで「Mi3(ミッチュリー)」とチナに命名されてしまった。つまり駄洒落...)と太鼓判を押されたほどの才気あふれる24歳。Moominいわく彼のトラックは「絵が浮かぶ」そうで、リリックもすぐに書き上げられたようだ。
「人として基本的なもの、帰るべき大切な場所として"Home"っていう言葉が出てきたんですよね。今は暗い話題が多いけど、だからこそ忘れちゃいけないものを気づける時期だと思う。大切な人を想いながら聴いて欲しい曲ですね」
もう1曲はWadadaプロデュース、NG Head、Youngshimをフィーチャーした「Day By Day」。本曲はモバイルサイト"レゲエ・ザイオン"の5周年記念テーマ・ソングで、同サイトが冠のオフィシャル・ミックスCD『Reggae Zion The Best Mix』にもオープニング曲として収録されている。
「伝えたかったのは、1日1日一歩一歩が大切ってこと。世の中、突然いいことが起こるなんてめったにないじゃないですか。積み重ねがいい結果を生み出すだろうし、そのときは無駄だと思ってることでも、やっていけば無駄じゃないよっていう。そこを3人それぞれの視点で歌った曲ですね」
Moominは今年でデビュー13周年。それだけ長い間メジャー・フィールドに立ち続けるのは並大抵のことじゃないだろう。だからこそ「Day By Day」のようなリリックが究極に"染みる"のだ。
「実は10年前、セカンド・アルバム(99年作の『Moments』)を作った時点で"もうこれ以上書けない"って思ったんですよ。俺の泉はこれで枯れたなって(笑)。でも不思議なもので、人間って新たな環境に対応して強くなれるものなんですよ。自分が弱いって言ってるうちは甘えてるだけというか。ただ、やっぱりレゲエだからできてるんだと思いますね。普通の音楽と違って、レゲエはいろんなものを壊したり崩していく楽しさがある分、ひとつの枠とか自分の世界に入り過ぎないでいられたし、ジャマイカのハンパないリリース数とか考えると、自分にも可能性があるって信じられたところもあって。周り見ても弱音吐いてる奴なんていないしね、そこで俺も頑張ろうって思えてきたし。でかいことは言えないし、言うつもりもないんですよ。ただ一歩一歩を大事にして、今だから歌えることを歌い続けていきたい。お金はなくなっちゃうけど、歌は死んでも"生きた証"として残るじゃないですか。すごく特別なもの。だから、これからも1曲1曲大事に歌っていきたいですね」