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315    ARTISTS    H-MAN

不退転
H-MAN
  
Interview by Hajime Oishi / Photo by Sho Kikuchi
 

 ここ数作、より深みを増したメッセージと孤高とも言えるスタンスを打ち出し、独自路線を突き進むH-Man。ニュー・アルバム『不退転』には、彼だからこそ発することができる言葉が詰まっている。問題作を連発してきたH-Manが紡ぐ次のストーリーとは?
 
 いきなり個人的な話で恐縮だが、どんなジャンルのどんなアルバムであっても、僕はそこに詰め込まれた言葉にカエターノ・ヴェローゾやフェラ・クティを聴く時と同じようにリアリティと説得力を求めてしまう。それはもちろん、レゲエであっても同様。歌い手が日々何を考え、どういった信念と美学を持って自身の人生に立ち向かおうとしているのか。そこを説得力のある言葉で表現された時、僕は初めて鳥肌を立てるのだ。
 
 近作でのH-Manは圧倒的である。07年の『諸法無我』、08年の『ナカナカナイ』というここ2作、そしてライヴでの彼の言葉の磨かれ方は尋常なものではない。時にストイックであり、時に孤高。時にレベルであり、時にユーモラス。彼のようなレゲエ・ディージェイがこの日本に存在することを、同じ日本人として誇らしく思う時すらある。
 
 そこで彼の新作『不退転』だ。これがまた、ひとつひとつの言葉にH-Manの覚悟が透けて見えるようで、その聴き応えは間違いなく過去最高である。
 
●『不退転』っていうのは仏教用語でもあるそうですね。
H-Man(以下H):そう。レゲエ的には"Nah Tek Back"っていう感じでさ。宗教的なことはここ2枚で歌ってるんだけど、なんせウケないしね(笑)。だから今回は(宗教的な曲は)入れないでおこうと思ってたんだけどさ、1曲目の「不退転」には少しだけその要素を入れて。今回、実はね、"ブルース"っていうテーマがあるんだよ。社会に対して何かを言うってことは、オレにとってブルースでもあるわけでさ、愚痴っていうか。ディージェイはブルースマンなんだよな、というのは常々考えてたことなんだけど。どちらも語りでもあるわけだし、神のことと日常のことを歌うっていう意味でも。
 
●H-Manさんは結構ブルースも聴くんですよね。
H:オレは季節によって聴くものが変わるんだけど、冬はブルースを聴くんだよ。あの耐えてる感じが合うんだろうね(笑)。春から夏にかけてはブラジルが良くて、夏はやっぱりレゲエがいいんだよ。このアルバムを作ってた時はカントリー・ブルースばっかり。戦前のヤツとかね。
 
 今回のアルバムには重要なトピックがいくつかある。まず、14曲の収録曲中10曲のトラックメイクを手掛けているナイル・ブラウンの存在。彼はジャマイカの国宝的プロデューサー・チーム、スティーリー&クリーヴィ(今作では4曲のトラックを提供)のクリーヴランド"クリーヴィ"ブラウニーの息子。現在弱冠17歳で、今回初めて彼のトラックが世に出ることになる。偉大な父を持ち、十代からトラックメイクを手掛ける、という意味ではスティーヴン・マクレガーを思い起こさせるが、ナイル・ブラウンのトラックも極めて新世代的。ダークかつハードコアなトラックに乗るH-Manが実に新鮮だ。
 
H:「昔のトラックもいいんだけど、今風のヤツでもやってみる?」って(レーベルの)石井("EC"志津男)さんに提案されて。じゃ、やりますか、と(笑)。今回は言うことを聞こうと思ってさ。自分のアイデアだけじゃ新しいこともできないし。
 
●ナイルのトラックを聴いた時、どう思いました?
H:別に今風のものを追いかけてるわけじゃないんだけどさ、今風だなと思って(笑)。こういうのもやってみてもいいと思ったけど、若作りだなとは思ったかな。だって、U-ロイがやるかといえばやらないわけじゃない?(笑)
 
●普段やらないようなトラックだから、今までとは違うフロウが引き出されるところもあるんじゃないですか。
H:どうっすかね?
 
●僕は引き出されてると思う。
H:じゃ、そういうことだと思う。今回は暗いな、まいっちゃったなとは思ったんだけど(笑)。ただ、それはオレのなかにあるものじゃないってことでさ、ある意味そこを狙ってたわけだから。オレのアイデアじゃないってところがミソなわけでしょ。いい経験だったよ。
 
 
 このあたりの発言は実にH-Man的だ。どんなトラックでも乗る、そこがレゲエ・ディージェイ。それが彼のこだわりでもあり、美学でもある。だが、ナイル・ブラウン製のシリアスなトラックが収録曲の多くを占めていることもあって、その印象は鮮烈。そして、そこに乗ったリリックも社会に対する"怒り"が強く打ち出されているように思えるのだが......。
 
 「(即答して)それはトラックのせいだよね。暗いトラックが多いから、こういうリリックになっちゃう。本当はあんまり怒りたくないんだよ」
 
 そうサラリと答えるH-Man。だが、怒りの対象を決してぼやかすことなく、具体的に狙いを定めている点には毎度のことながらドキリとさせられる。何について、どう歌っているのか。そこに関して本稿で触れるのはヤボというものだろうから、アルバムを聴いて確認してほしい。
 
 また、先のやり取りにもあったように、今回のH-Manはこれまで以上に自由自在なフロウを展開している。個人的に衝撃的だったのは、ナイル・ブラウンがエッジーなトラックを提供した「ハンセンカ」。本人は「ま、ニンジャマンでしょ(笑)」と笑うが、ダブステップにも似たトラックの上で披露される超変則フロウには、真綿で首を締め上げるような迫力がある。
 
 「本当はこういうのを3曲ぐらい入れようと思ってたんだけど、難しいんだよ。これで1曲書くのは度胸もいるしね。ただ、こういう曲はウケないんだよ(笑)。そこは正直ジレンマになってる」
 
 さらには「闇は夜」ではジャマイカのファウンデーション・ディージェイのようなトースティングを聴かせたり、数曲ではキレ味十分な早口フロウを聴かせたり。その進化の度合いもまた、過去最高である。
 
 さらにはもうひとつの重要トピックが、4曲で印象的なコラボレーションが展開されていること。
 
●まず、「マイクジョーズ」でYoyo-Cさんがフィーチャーされてますね。
H:昔からの友達なんだけど、面白かったね。Yoyo-Cはね、"こういうのはどうかな?"って提案してもやってくれないからね(笑)。でも彼なりのヴィジョンがあるから、"ああ、こういうのを作ってくるんだ"っていう面白さがあったよ。
 
●「デバンダ」では若手のApolloが参加していて。
H:若いんだけど、上手くて困りましたよ(笑)。
 
●彼も今回が初レコーディングになるんですよね。
H:オレとしては美味しいよね(笑)。京都のイヴェントで初めて話したんだよね。オレはそういう場所じゃあんまり喋んないんだけど、その時のリハを観て"上手いな"と思ってね。
 
●「Baby Crazy Love」では今野英明さん(元Rocking Time、現在はソロでも活動中)とのコンビネーションが聴けますね。
H:Home Grownとやってた「夢想花」(04年作『Time Is Reggae』収録)を聴いて"いいな"と思っててね。前から一緒にやってみたかったんだけど、今回ようやく出来て。
 
●「闇は夜」に参加しているt-Aceは水戸を拠点に活動するラッパーですね。
H:彼も(レコーディングは)早かったね。話をしたその日の夜にリリックを書いてきたからね。t-Aceは(キャラクター的に)二枚目なんだよね、格好いいんだよ。オレとはキャラクターが違うんだろうね。
 
 僕は一人でも多くの本誌読者にこのアルバムを聴いてもらいたいと思いながら、この原稿を書いている。リリックの内容を知れば、本作がミリオン・セラーを記録するような類いのものじゃないことは一目瞭然だし、H-Manがそこを狙っているわけではないことも分かるだろう。ただ、30数年生きてきた彼が、自身の人生における価値観、美学、信念といったものをレゲエという(あえて言えば)フォーマットを通して極限まで表現し切っていること、これ自体に多くの人は驚かされるはずだし、こういうタイプのレゲエがあってもいいんじゃないかとも思う。僕自身、このアルバムを聴いて以降、なんだか心の奥がザワザワしっぱなしなのだ。
 
H:ブログ(http://ameblo.jp/daddyhman)をやってるんだけどさ、前のアルバムの時に(コメント欄に)「上がってる時は下げてくれて、下がってる時は上げてくれるアルバムですね」って書いてくれた人がいて、それを読んでシビれちゃったんだよ。確かにその中間状態が一番ハッピーなんだと思う。ハイプになってる時って楽しいけど、それは一瞬の話で。本当に幸せなのって、静かなところにあると思うんだよ。そこに自分の気持ちを置くのが一番大変なんだけど。
 
●なるほど。
H:例えばさ、おネエちゃんとセックスするのと家族が幸せなの、どっちが気持ちいいかって言ったら、家族が幸せなほうに決まってるじゃない。でも、ハイプじゃないから、そのハッピーにはなかなか気づかないよね。
 
 今作リリース後には、NanjamanとJr. Deeと共に三者合同のリリース・パーティも開催予定だとか(7/10 原宿アストロ・ホール)。こちらもかなり楽しみだが、何はともあれ、まずは『不退転』。まさに衝撃作となった本作を全身で受け止めてほしい。

 

"不退転"
H-MAN
[Overheat / XQEY-1003


 
 
H-MAN『不退転』(6.17発売)、NANJAMAN『FRONT LINE』(7.8発売)、Jr.Dee『ラバダブマスター式』(7.2発売)
この3人のアルバムの発売を記念したリリースパーティーが開催決定!
 

 
Release Party of 3Albums
『Triple Cross』
2009.7.10(fri) @原宿ASTORO HALL
 
前売り¥2,500
OPEN 19:00 / START 20:00
[ローソンチケット / Lコード: 70898] 0570-084-003 http://l-tike.com
6.1(mon)チケット発売開始!

さらに詳しい詳細はこちら
 

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