リディム・オフィシャル・ウェブサイト
THE MAZE

LIVIN' FAT
　
　KRS-OneはFat Joeのことを数ある"教え子"のうちで一番だと思っているようだ。「オレが初めてFat Joeに会ったのは、彼がPunと一緒にブロンクスでクラックを売っているときだった」とKRS-Oneは言う。「あれは1990年代だったな。90、91、92年だ。まだあの頃はBig Punは痩せていて、Joeは街の一角を仕切っていた。そこでオレは彼に言ったのさ、『Joe、オマエにはフロウがある。オレについてこないか？』と。Joeは『じゃ、どうやって生活費を稼ぐのさ？』と訊くので、『オマエはすごいMCだから、それで稼げばいいんだ』と答えたのさ。彼はまだ大きな拳銃を腰に提げていた。オレはまるで昨日のことのように思い出すよ。そして彼は『MC？　そんなもんで本当に稼げるのか？』と言ったよ」。当時、Armageddon、Cuban Link、そしてFat Joe、みんなブロンクスに住んでいた。KRS-Oneはこう続けた。「『オマエにはスキルがある。そんなものを売っているヒマなんかないはずだ。音楽をやるんだ！』ってね」。そして、Joe、Macho、Armageddonは３番街と156番街を後にしてスタジオに籠った。その結果生まれたのが「Ya Gotta Flow Joe」だ。「これで彼の才能が目覚めた。そしてオレとJoeは一緒に音楽を創り始めたんだ」。KRS-Oneのおかげで、Fat Joeはやっとまともな人生を歩むようになったのだ。Fat Joeのリリックはますますダークでダーティになっていったが、彼の気持ちはしっかりと前を向いている。

　Fat JoeはKRS-Oneに出会うかなり前からMCになりたかったようだ。「なぜオレがラップを始めたかって？　ブロンクスに生まれ育ったからさ。ここでヒップホップが生まれたのさ。オレはディスコからヒップホップに変わっていく過程をみていた。かつて兄貴がGrandmaster Flashの荷箱を運んでいた。それらにはFlashのレコードが入っていたのさ。兄貴はブロンクス・リヴァーでのジャムを始めどこへでもついていったのさ。そして兄貴はオレにDJバトルやラップ・バトルのカセットを持ってきてくれた。それを聴いてからだな。ラップをやりたくなったのはたしか、６歳か７歳の頃だよ」

　Fat Joe本人はKRS-Oneの思い出話に異を唱えるわけではないが、「KRS-Oneは、オレにいつも音楽のレベルを上げろと言っていたよ」と語る。「彼はオレが尊敬する人だ。今までオレは彼が喜んでくれるような音楽を作ってきた。彼がオレの音楽を好きならばそれで良かった。スタジオに入る時はいつもそれを期待しながらレコーディングしていたよ」。Herc、Flash、KRS-One、そしてFat Joe。ブロンクスは長い間ヒップホップと同義語のようなものだった。しかし、Fat Joeはそのことを否定する。事実、この日、DJ Khaledとビジネスについて話し合うため、彼はブロンクスではなく、陽光降り注ぐマイアミにいたのだ。

　「音楽はかなり変わったよ」とFat Joeは言う。「Kanye Westがシンガーとしてアルバムを作り、Lil Wayneがロック・アルバムを発表している。音楽は多様化しているし、アーティストは音楽の様々な可能性を試しているんだ。まったくクレイジーさ」。もうひとつの大きな変化は、もはやニューヨークがヒップホップの中心地ではなくなっているということだ。「ニューヨークはかつて強大な影響力を持っていた。すべての新しい音楽はニューヨークから発信されていたとも言えるだろう。でも、今は南部や西海岸も流行を生み出し続けている。もちろん、ニューヨークもまだまだ面白いけどな」。昨今の音楽不況を脱出できるのかも訊いてみたが、Joeの意見はかなり悲観的だ。「これは運命みたいなものだな。インターネットで音楽をタダでダウンロードできる以上、この状況は変わらないだろう。究極の海賊盤みたいなものさ。オレらアーティストはただ良質な音楽を作り続けるしかない。そしてライヴで稼ぐ。オレのアドヴァイスとしはこの程度だな」。オレはJoeが正しい道を歩んでいると感じた。ブロンクスもまだまだ捨てたもんじゃないだろう。
　
TEXT BY
ROB KENNER
アメリカの『VIBe』マガジン、VIBE MEDIA GROUPのエディター・アット・ラージとしてREGGAEコラムを執筆中。HIP HOP／REGGAEに深い愛情を持つ。
Website → www.boomshots.com