Mavado / A Beter Tomorrow
Text by Minako Ikeshiro / Photo by Peter Dean Rickards
ここ3年半、もっとも現場を盛り上げ、良くも悪くももっとも話題になっているのがマヴァードだ。スティーヴン・マクレガー、ダセーカ、ジョン2にベイビー・Gと、今のダンスホールを代表するプロデューサー達をがっちり揃えた『Mr. Brooks...A Better Tomorrow』リリース直前の、本音インタヴュー。
3月3日、マンハッタン。雛祭りの対極にあるお祭りが、老舗のライヴハウス"SOB's"で行われていた。マヴァードのセカンド・アルバム『Mr. Brooks... A Better Tomorrow』のリリース・パーティー。オープニングはマヴァードのメーン・プロデューサーの一人でもあるセラーニ、そしてスペシャル・ゲストがバウンティ・キラー番長。
主役のマヴァードは体を前に倒してここ最近のヒット(=ダンスホール一般のビッグ・ヒット)を次々に繰り出す。後ろには、アルバムのアートワークを引き延ばしたバックドロップ。言葉とリディムを変えつつ、「殺し方」を延々と歌うマヴァード当人と、祈っている姿を写し出したバックドロップの写真がミス・マッチだが、これが、いまのマヴァードの正直な心境なのである。
「俺の神はジャーだ。だから、彼に祈り、それが原動力になっている」。決して多弁ではないマヴァードが、取材中に力を込めた言葉だ。そう、マヴァードはギャングスターでラスタファリアンなのだ。90年代半ばにギャル・チューンが得意だったブジュ・バンタンがラスタに転向したように、マヴァードもイメージ、音楽性とも変える可能性はあるのか、と尋ねたら、「明日のことは誰も分からない」と否定はしなかったが、「ラスタファリアンらしい服装や、ラスタファリアンらしい立ち振る舞いが一番重要だとは思わない」とも付け加えた。
カサヴァ・ピース出身を標榜し、どのアーティストよりも、ガリー(どぶ、転じてゲット−)をレペゼンする姿勢を強く打ち出して来た人でもある。カサヴァ・ピースがどんな場所なのか、尋ねた。
「ほかのゲットーと一緒だよ。生活は大変だけど、みんなそれなりに楽しみながら暮らしている。俺が育ったところだから、あそこに住んでいる人は俺のファンというより、友達であるというだけで」
売れてから、ジャマイカの政府や警察に目を付けられて様々な目に遭ってきたマヴァードだが、最新作のいくつかの曲で、ダンスとサウンドシステムに対する取り締まりが厳しくなっていることに対する怒りを表明している。
「ジャマイカでは、ダンスホール・アーティストとダンスホールのサポーター達が、政府や上層階級から一番目の敵にされている。俺達の音楽が貧しい人々のためのものだから、彼らは重要だと思ってないわけだ。俺達は音楽を通して闘っているのに、彼らは直接闘ってくる。完全に間違えていると思うよ」
シャバ・ランクス/ニンジャマン/スーパー・キャットが仕切った90年代頭、ビーニ・マンとバウンティ・キラーの一挙一動に大騒ぎした90年代後半から今世紀の初めを経て、マヴァードの時代である。敵のヴァイブス・カーテル、仲間のビジー・シグナルと魅力的な役者が脇を固めているが、海外での人気を加算すると、主役は彼だ。一時代を築いている実感があるか、と尋ねたら「もちろん」と一言。「誰が何と言おうと、2005年以降の俺の功績は否定できない」
「ギャングスタ・フォー・ライフ」のスローガンを必要以上にみんなが信じきったのは、猫背気味のやさぐれた風貌も大いに関係あるだろう。だが、話してみると、粗野でも尊大でもない。「So Special」では、"sing like Beres"(ベレスみたいに歌える)というラインが出て来る。
「ベレス・ハモンドはとてもリスペクトされているし、俺自身もリスペクトしている。彼はすばらしいアーティストだ。だから、曲でビッグ・アップする」と素直にコメントし、サンチェスとのデュエットも「そのうち実現すると思う」と話す。
海外アーティストからの共演のオファーは「ひっきりなしに来ている」そうだ。「でも、タイミングや音楽性が合って、意味がないのであれば、やらない」と至って冷静だ。
ファーストからセカンド・アルバムの間に、「お騒がせ者」としてジャマイカの新聞の見出しを飾りつつ、学校にコンピュータを備える運動も始めた。
「ここ2ヶ月は音楽の仕事が忙しくてちょっと滞っているけれど、目標が達成できるように準備は進めるつもりだ。今年はもっと組織的にやって、ネクスト・レベルの運動を展開したいと思っている。コミュニティーの中でコンピュータのクラスを開催したり、みんながアクセスできる場所にコンピュータを置いたりしたい」
怒りと哀愁を同時に歌声に滲ませられるのが、マヴァード・サウンドの魅力だろう。ディヴィッド・ブルックス本人も、怒りを爆発させる怖い面と自分のコミュニティーを気にかける真っ当な面、ストレスに押しつぶされそうになりながら、とにかく祈る面、すべてを併せ持っている。要は、ダンスホール・ヒーローに不可欠な人間くささを隠さないタイプなのだ。
SOB'sのステージに話を戻そう。エッチな「Ina Di Car Back」で女性客を狂喜させた後、"Anger Management"リディムが鳴った。自分のヒット「Real McKoy」はそこそこに、キラーの「Talk To Dem」につないで、笑顔を見せながら声を重ねた。
新作を「より良い明日へ」と名付けたマヴァード自身の今日も、確実にたくさんの昨日より良くなっている。世界中であまり良いニュースがない昨今、ジャマイカの一番人気が出した結論が「祈り」というのも、何だか筋が通っているように思うのだ。
"Mr.Brooks... A Better Tomorrow"
Mavado
[VP / Victor / VICP-64681]