FIRE BALL / DON'T LOOK BACK
Text by Naohiro Moro / Photo by Yoshika Horita
昨年夏頃から出る出ると情報ばかりが先行していたFire Ballの6枚目となるニュー・アルバムが2/18、EMIよりリリースされる。タイトルは『Don't Look Back』と彼ららしいポジティヴなメッセージを込められている。この2年半ぶりとなる彼らの作品にじっくりと耳を傾けてみよう。
仕事場の椅子に腰掛け、ヘッドフォンをして、まずは音の世界への没入を試みる。
再生をクリックする。
冒頭の、いつものサウンド・ロゴを聴き、今から始まる音の物語への期待は高まる。
続いて鳴り出すハイ・ハットと、絞り出す様なサンプリングの声で、不意に、そして瞬時に「はっ」と何かに気付かされる。分かっていたことだったはずなのに。あのチームが帰還したのだった。耳の奥で「ゾクっ」と何かが蠢く。リズムが奔り出し、彼等の重厚なハーモニーが鼓膜を覆った時、頬杖を付きながら聴いていた僕の頭は、自然に上下に動いていた。
Fire Ball、最新のオリジナル・アルバム『Don't Look Back』は、その様にして始まる。自らに“Next Level”という命題を課し、進化を求めて模索を続けた2年半の日々は、“Forward”という結実を得て、“Celebrate”の年の冒頭を飾ることとなった。単刀直入に言えば、素晴らしいアルバムだと思う。
横浜開港150周年であり、横浜レゲエ祭15周年でもある、今年、2009年、Mighty Crownファミリーは「祝い」をテーマに展開して行くのだという。その正に「口火」をFire Ballが切ったのである。
「正直、“Next Level”っていうテーマの重さに悩んでた、っていうのもあったよ。(Mighty)Crownが目に見えて、テーマに沿ってバシバシ成果を挙げているのを見ながら、自分らにとっての“Next Level”をどう表現すべきなのかって…」(Jun 4 Shot)
「すごく時間があった分、逆に、ずうっと気持ち的には追われてる様に感じてた時期もあったし…。今回のアルバムは、やるべきことを、きっちりやり続けたら、自然と結果が伴ったものになった、って感じかな」(Chozen Lee)
揺るぎない「自信」と、「強さ」、同時にメジャー・デビュー当時の様な、音楽をクリエイトすることに対する純粋な喜びと、初期衝動を、僕に感じさせた音の感触とは裏腹に、彼等自身の心情は、意外に謙虚であり、製作期間中の産みの苦しみを伝えて来た。しかし、話しを聞き進める内に、確実に“Next Level”に到達している彼等を感じることが出来た。本人たちはあまりそのことに自覚的では無かったが、妥協無き拘りが、本作のクォリティを高めているのである。
今回、彼等が拘ったことのひとつに、“自分たちでミックス・ダウンまで手掛ける”というのがあった。もちろん、全曲ではないが、ミュージシャンの選択、トラックの発注といった制作の管理まで各人が担当した、それぞれのソロ曲でそれは試されている。
「前から、『ジャマイカでミックスしてばっかりじゃなくて、自分たちでミックスまで出来る様にならなきゃ』って、みんなで話して時期があって、そこまで意識をみんなで持とうっていう第一歩として、アルバム中のソロ曲を自分たちでやってみようってことになって…。やっぱ、こっち(日本)の音でジャマイカ人にも『あ、いいじゃん』って思わせたいしさ。この先ね」(Truthful)
「ジャマイカからStephen(McGregor)のミックスが上がってきたのを聴いて、自分の曲をまたやり直したなんて、しょっちゅうあったよ」(Jun 4 Shot)
結局、製作期間中の後半は、録り直し、ミックスし直しなどに多くの時間を費やしていたと言う。
「正直言って、リリースの時期も2、3回仕切り直してると思う。ここまで来たら、とことんやろうって」(Jun 4 Shot)
「でも、結果、今出すのが一番いいタイミングになったとも思う。2008年中に無理して出してても、何か違う気がする。“その他の1枚”と変わらないものになっちゃったんじゃないかって…。今、ニュー・イヤーで、祝いの年の最初に出すからいいんだと思うよ」(Criss)
今作は、レゲエとして多くのヴァリエーションに富み、そういった意味では、あまり、世界的にも類をみない内容になっているのではないかと思う。
Stephen McGregor制作の最新鋭のダンスホール・トラック。Sly & Robbie制作の80年代中期のPower Houseの様な生音ダンスホールを思わせるナンバー。秀逸なラヴァーズ。Jungle Roots、Home Grownをはじめとする国内最強レゲエ・ミュージシャンとのセッション。美しいアコースティック・バラード。マイナー調ワン・ドロップ。Steel PulseやAswadの様なUKルーツ調。そして強烈なダブ。このクォリティ。2009年、Mighty Crownファミリー「祝いの年」の幕開けに相応しい。もちろん、新たな挑戦を続けなければならない日本レゲエ界、しいてはCD売上低下に悩む音楽業界全体にとっても、だ。この素晴らしい作品が、実際、多くの人の鼓膜に触れることを、切に望むところである。
最後に彼等からのメッセージを残し、この稿を終わろうと思う。
「長々と皆さんお待たせしましたが、Fire B、ニュー・アルバムが出来ました。こいつを引っさげて2009年はガンガン、ライヴをやって、盛り上げて行きたいと思いますんで、皆さんもチェックして下さい。とにかく、今年は横浜開港150周年で、横浜を祝う年だから、オレらも横浜でみんなのことを待ってるから、みんな、横浜に来てくれよ!」(Truthful)
"Don't Look Back"
Fire Ball
[EMI / TOCT-26782]