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Review by TAKASHI FUTATSUGI
 
 
MIX CD
 
1. Underground Forever / DJ Spinna (Octave)
ご存知「Lost & Found」シリーズのミックスCDタイトルもこれで早3作目。登場したのは、クロスオーヴァーなプロデュース・ワークで依然として人気の高いDJスピナ。ここでは、J-ライヴ「Braggin' Writes」からグレッグ・ナイス「Set It Off」まで自身も関わったトラックを含め、正に90sのNYアンダーグラウンド・クラシックス中心のセレクションで聴かせてくれる。ハウスのセットもイケる彼だが、ここではお約束とばかりに、いやそれ以上の“想い”を込めて2枚使いのお手本の様なシュアなジャグリング&カットを展開。いやはや流石の1枚。
 
ALBUM 
 
2. 808's & Heartbreak / Kanye West (Universal)
先行シングル「Love Lockdown」が公開された時点で、次のアルバムでは“ラップをやらずに歌っているらしい”と噂されていたが、実際届けられた本作は全編オートチューンによる“変声(へんごえ、ではない)”が施された歌モノ、となっている。このアルバムは来日時にも仲の良さを思わせた彼の亡き母に捧げられたもので、その意味でもコンセプチュアルな作品、として捉えられるだろう。決して上手くは無いがラップの時よりも幾分エモーショナルなその歌表現は、ウィージーやジージーにG.O.O.Dの新星キッド・カディらとの絡みでも活きている。ここでも“彼”は本気、だ。
 
3. Universal Mind Control / Common (Universal)
真のアルバム・アーティスト=コモンの8作目。延期&タイトル変更で発表された本作は、前2作のメイン・プロデューサーで所属するG.O.O.Dの代表=カニエの制作関与は一切なく(コーラスで1曲参加)、ネプチューンズが大半の楽曲を手がけた「エレクトロニックなサウンド」にこだわったスーパー・ソニックな1枚となっている。フロア受けも良かった表題曲でも、オールドスクールからの引用を含めたアッパーなラップを見せる彼は、ソウルフルと形容された前2作を踏まえてのこの若干の路線変更は納得のいくもの。やはり彼はクリエイティヴなMCだな、と。
 
4. Theater Of The Mind / Ludacris (Universal)
ラッパー、レーベル・オーナーだけでなく、役者としても成功している彼のメジャー6作目は、そのキャリアの集大成となる、タイトル通り“映画”の様な1枚に仕上がっている。そのコダワリはfeat.表示を“co-starring”に、Produced byを“Scored by”とクレジットしていることからも判るだろう。最高の武器と思われた笑いの要素をそぎ落としたのは前作同様だが、プロデューサーのラインナップ(ドン・キャノンからプレミアまで)、そしてゲスト(クリス・ブラウンからNasまで)の多さはこれまでで1番、かと。スパイク・リーに捧げたコモンとの「Do The Right Thang」の様な解かりやすいトリビュートも。
 
5. The Ball Street Journal / E-40 (Reprise/BME)
ハイフィーというムーヴメントを生み出したベイエリア・シーンのドン=E-40の、リル・ジョンとの共同戦線シリーズ(?)最新作。息子のドゥループ・Eからリル・ジョン、リック・ロック、JRロテム、ボスコ、DJナスティ&L.V.M、T-ペインといった旬なプロデューサー陣を招き、ターフ・トークからショウティー・ロー、エイコン、ゲーム&スヌープ、トゥーショート、バン・B、グッチ・メインといった全方位的なゲスト勢がほぼ全曲に現れる構成も、オリジナリティの高いスキルフルなラップが売りの彼の世界観を歪めるものではない。美麗曲もあれば、アイス・Tとの“あの曲”もアリで楽しめる。
 
6. Yancey Boys / Illa J (P-Vine)
故J・ディラがファーサイドのプロデュースを手がけていた90年代中盤に“デリシャス・ヴァイナル”に残した音源、ビーツは違う形でも公開されていたが、こういった形でのリリースを待ち望んでいたファンも多いのでは? キッド・サブライムとのコラボでも知られるJ・ディラの実弟=イラ・Jのデビュー・アルバムがそれ、だ。兄が同レーベルに残した40曲近い未発表曲群を厳選し、「95年のヴァイブス」でラップした、という本作は、ファーサイドやスラム・ヴィレッジ辺りを彷彿とさせるトラックもあり、グッとくる要素がそこら中に。「R U Listenin?」で引き込まれた人は間違いなし。
 
7. α / Olive Oil (File)
インスト・ファンをKOした『Spring Break』から僅か10ヶ月で届けられたジャンルを越えて評価される鬼才ビートマスターOlive Oilの変則的な最新作。そのリリース後に行なわれた全国ツアー中に生まれた新曲や未発表曲、El Ninoとしてリリースした「Re Revolution」と同ネタ・インスト・ピアノ・ヴァージョンや名曲「Pianity」の続編、また盟友FreezとMSCのTaboo1との初のコラボ曲等のインスト〜ラップ曲を搭載し、不思議なまでの統一感で聴かせる16曲入の本作は移動中に最適(?)な内容。実弟Popy Oilによるアートワークも実に刺激的。
 
8. Live Alternative / Illmatic Hearts Club Band (Ill Dance)
今年の本誌アワードにも挙がったB.I.G Joe率いるMic Jack Productionのメンバーを中心に、B.I.G JoeがMJPの1stで提唱した“地下研究所”というコンセプトの下、レーベル=ill dance music.がその無観客即興ライヴを音源化。07年、MJP、North Smoke Ing、Ciazoo、Kei他、ill dance music.と札幌に関わる、MC、DJ、トラックメイカーらが、ありとあらゆる楽器や機材、音源&初期衝動を持ち寄り自然発生的に生まれたこのバンドの「無限の(しかもRawな)世界」が如何なるものか。それは、自分の耳で是非とも確かめて欲しい。
 
9. Nipps presents Tetrad The Gang Of Four / Tetrad The Gang Of Four (えん突)
“緑の5本指”のレーベル復活? 神出鬼没、だが滅多にリリースしないレジェンド=Nippsと、B.D.(Black Talon)にGhostのVikn、Sperbという何れ劣らぬStreet Famous、4人の黒い忍者集団が初アルバムをドロップ。グループなのに“飛葉飛火がソロの時よりラップしてる!? しかも書き下ろしライム多目だって?”、“Buddha BrandのしかもD.Lのクラシック・ライムをデミさんがキックしてるって?”、その噂は全て……。部屋の中でもダウンを着たくなる様な、NYC産のKen Sport のヒリヒリした疾走感溢れるビートもいちいちグッとくる、何とも奇跡的な1枚。
 
10. 練マザファッカー / 練マザファッカー (D.Office)
東京いや全国各地の“Bなニオイ”のするストリートを「練り歩く」超個性派集団=練マザファッカーが発表したEP群の集大成的初アルバム。その顔役であるご存知オリジナル・ハーコー・メ〜ン!!ことD.Oを中心に、Pit GOb、Jashwon、bay4k、D-Ask、Big Ben=B.D、Shizoo、The LoyaltyのT2KにShy-P.O.P、Luck-EndのBig-Tと寿、というラッパー勢が次々とマイクをリレーする、そのスリリングさが“練マ”の魅力であり、練マのビートメイカー陣=Jashwon、K-Love、NYCのDJ無也らの「ひ練りだす」ストリート鳴り最高のビーツのフィット具合も言わずもがなかと。それにしても、チキン〜ならぬ「シジミソスープ」の味わいは未だ、最高!
 
11. Amida / Evisbeats (Amida Studio)
奇しくも韻踏合組合のHidaddy、Satussyが濃密な初ソロ作をドロップしたタイミングで、元メンバーのEvisbeatsより久々の「Amida堂便り」が届いた。ここ数年はオリジナルのインスト音源や、韻踏関係以外でもKrevaから般若までにトラックを提供したりと、極めてマイペースな活動を展開していたが、このアルバムはそのキャリアの一里塚的な内容となっている。問題作と言われながらも、その実クラシック的な輝きを持つ「般若心経Rap」から、茂千代とのセッションまで、時間軸がぐにゃりと曲がるような極彩色の楽しい音とラップの万華鏡。ハバナイストリップ!
   
12. こころ / 神門 (半袖バイブス)
全曲ラヴ・ラップだった衝撃の1stフル・アルバム『三日月』から約1年。独自の観点で聴衆に語りかける神戸のヤング・ジェネレーションMC=神門の2nd。その心象風景…マイク持つ者としての硬い意志、そして現実との葛藤、疑問と反省、回想と希望などなど、自分のすべてを曝け出したようなこのアルバムは、その痛いくらいの眼差しの強さと、筆致の強いリリックス、小細工とは無縁で感情の赴くままの素直なラップゆえか、最後まで聴く者の心を捉えて離さない。神戸の鬼才DJ Napeyによる全曲プロデュース作。

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