Review by TAKASHI FUTATSUGI
1. V.A. / Sky High! -Mizell Bros. Works- Mixed by Muro (EMI)
70年代に一世を風靡したスカイハイ・プロダクションことマイゼル兄弟のプロデュース音源と、それらの曲をサンプリングしたATCQ他のヒップホップ・クラシックをミックスした“ありそうでなかった1枚”。“ブルーノート”のLAシリーズのジャズ・ファンク〜フュージョン目録から厳選された“これってまんまヒップホップ?”なグルーヴが元から1枚のアルバムだったかの様に無理なく、ドラマティックに繋ぎ合わされていく様は実に爽快。それはDJ&クリエイター=Muroの真骨頂と言えるものだ。
2. Jurassic 5 / J5 Deluxw Re-Issue (Decon)
これは予想外の再発!? 残念ながら解散を表明した彼らがインディ時代に残したクラシック盤『Jurassic 5 EP』が11年の時を経てレア・トラック集とのCD2枚組にライヴ映像『Jurassic 5 at Brixton Academy』と初期のドキュメンタリー、「Concrete Schoolyard」のPVというフルボリュームのDVDが付く形で再発。オールドスクール愛に溢れるな鉄壁のマイクリレーとカットケミスト&DJヌマークのサンプリング・センスが爆発したプロダクションは今聴いても“Fresh!”。LAアングラの星は化石になる事なく今後違った形で生き続けるだろう。
3. T-Love / Long Way Up (Introducing!)
自身の“Pickininny Recordings”より、先のジュラシック5の元盤も出していた裏方で、アーバン・ポップ出身のラッパー/シンガー/ポエトリー・アーティストである才女のデビュー・アルバム『Long Way Back』以来となる2nd。その間にもJazzやHocus PocusやLiberatorzといったアーティストの作品に参加し健在ぶりを見せていた彼女の軌跡はミックスCD『No Apologies......The Best Of T-Love』でチェックして貰うとして、 この待望の新作はこれまでのファンを裏切らない彼女の魅力満載の出来栄えとなっている。歌といいラップといい、サウンドといいインテリジェンスとヒューマニティの結晶の様な好作。
4. Jake One / White Van Music (Rhymesayers)
シアトルのアングラ・シーンで古くから活躍し、MFドゥームやデ・ラ・ソウル、そして50セント他、Gユニット関係やE-40らベイエリア勢との仕事で“旬のプロデューサー”の仲間入りを果たしたジ彼が初のリーダー作をドロップ。案の定(?)、ゲストにバスタ、ヤング・バック、フリーウェイ、M.O.P、MFドゥーム、プロディジー、キーク・ダ・スニークら、これまでに絡みのあったアーティストを筆頭に、幅広いゲスト陣がその値千金のビートの上で最高のパフォーマンスを見せる超強力盤に仕上がった。そのドラマティックで音圧の効いたビートの効力は、ボーナスのインスト盤でもしっかり味わえる。
5. 88-Keys / The Death Of Adam (Decon)
あのラージ・プロフェッサーがゴッドファーザーとなる、ロングアイランド出身のプロデューサー=88キーズ噂のリーダー作。これまでにブラックスターからミュージックまでにハッとする様なトラックを提供してきた彼は、コンシークエンスを通じて仲良くなった(?)カニエ・ウェストをエグゼクティヴ・プロデューサーに迎え、ゲストにもそのカニエから、レッドマン、フォンテ、ビラルらを呼び込んだ本作は、ソウルフルでヒップホップ“ならでは”の機知を持ち合わせたサウンドと、ラップで聴かせるコンセプトのハッキリした力作に。オルタナ・バンドとのコラボや、80s感覚を含めサスガの完成度!
6. Yo Majesty / Futuristically Speaking...Never Be Afraid (Hostess)
注目を集め続けるフロリダはタンパ出身のラップ・デュオ=ヨー・マジェスティ。いや、ラップもやるがもっとフリーキーな歌や叫びを聴かせてくれる彼女達は、M.I.A.やサントゴールドらと並列で語られる存在で、06年の自主制作EPを経てUKの“ドミノ”と契約したという今っぽい流れのユニット。エレクトロ、マイアミ・ベース、ゲットー・ラップ、ボルチモア・ブレイクス、クロスオーバー、パンク等々の要素を咀嚼したハードフィーリングスUKらによるサウンドに縦横無尽に飛び交う“うた”(早口ラップ含む)は実に魅力的。Neon Neonら、異ジャンルのアーティストがゲストに呼んだのも解せる逸材。
7. T-Pain / Thr33 Ringz (BMG)
全米No.1ヒットの影にこの男アリ。これまでにエイコンの下で制作した2枚のソロ作で結果を出している彼が、“Feat.王子”としてある意味“開き直って”王手を賭けたのがこの最新作。彼の代名詞=オートチューンのVoエフェクト=ロボ声を活かした独特の歌声でゲスト陣と絡みまくる本作は、音楽業界をサーカスに例えたコンセプト・アルバムで、その“出し物”に登場する連中も、リル・ウェイン、T.I.、カニエ、シアラ、メアリー・J.ブライジまでと豪華絢爛(日本盤にはVerbalも)。これまでの作品もそうだったが、音作り面の多彩さでも知られる人物だけに、トータルの作りこみ感も普通じゃない。大作!
8. DJ Revolution / King Of The Decks (Duck Down)
KRSワンを引っ張ってきたりと最近また面白い動きを見せるブート・キャンプの“Duck Down”より、凄腕ターンテーブリスト/トラックメイカーのの2ndが登場。その火を吹く様なスクラッチやジャグリングは勿論のこと、ジャジー・ジェフ、DJプレミア、Q・バート、スピンバットから、KRS、ブーキャン、タッシュ、ギルティ・シンプソンらをフィーチャーした本作は、あらゆる意味でスポットが当っていた前作よりも彼の個性が如実に出た内容。そのブッといブーンバップ・サウンドと切れまくるラップと擦りの見本市。そこには何の垣根もない。
9. S-Word / King Of Zipang (Columbia)
Nitroでの活動、Suikenとのコラボ作等を経ての5年ぶりの3rd。その“赤い彗星”の言葉の刃は増々研ぎ澄まされた印象。元から“コンシャス”な部分があったMCだが、今回は中でもメッセージ色豊かな内容で、なぜJapanではなくZipangなのかはその言葉に耳を傾けていれば自ずと理解できる仕組み。ゲストもHi-D、Bazoo、Lena Fujiiと最小限に抑え、ひたすら“魂のワン・マイク”で綴っていく様は、震えがクルほど。Blast Off、Prestige、DJ Wataraiら日米の精鋭クリエイターによるトラックも、S-Word向きのものばかりで痺れる。
10. "E"qual / TV Crushman & Radio Jacker (Avex)
“名古屋Ballersの顔役”の5作目。ストリート・ドリームスを刷り込ませた熱いリリックスとフロウ、セルフ・プロデュースするトラックのマッシヴさで全国的に支持を得る彼は、こキャリア上最もヴァラエティに富んだアルバムを完成させた。カッコだけじゃないロックスター・ラップから、R&Bシンガー達との絡み、そしてM.O.S.A.D.印のハーコー・ラップまで、どんな部分でも"E"qual節を確立した彼はラジカルなタイトル通り路上だけでなく電波もジャックする勢い。Akira、般若、AK-69、Macchoら78年生まれ組でマイクを回す“革命”の唄もやばい!
11. Michita×haiiro / Soul Session (Libyus)
日本で冬が1番早い大地のサンプリング・クリエイター=Michitaと、神奈川を拠点とする“風の中を歩くMC”haiiroのコラボ作。そのMichitaの『Two』他で注目を集めるに至った22歳の新鋭haiiroの“心の原風景すら見える様な、心に響くリリック”を運ぶ“機敏なフロウ”とメランコリックでフィジカルな力強さもあるMichitaのビート。その融合はアルバム・レベルで展開されて然るべき“相性の良さ”。haiiroを擁するRainy Channel Posseが参加した「革命の雨」や鬼才Olive Oilのリミックスも良い。
12. 田我流 / 作品集—Just— (桃源郷/Ultra-Vybe)
山梨代表Stillichimiyaのエースで4番、田我流の“自主ではない”1stソロ・アルバム。ラップして“生きる”というシンプルにして一番大きな命題をベースに、エモーショナルに、時にユーモアを交えて(“ラーメン”噺もめちゃくちゃHipHop!)言葉を発する彼は、実に現代的でピュアなMCだと思う。そんな主役のMCイングを掻き立てる冴えたトラックを繰り出すのは、仲間のYoung-G、Big BenやZipsies、Flammable等。熱烈推薦しておきます。